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第三章 勇者
第二十三話 人類の敵
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この日、”王の集い”の緊急召集があった。
急な召集にも関わらず、全会員が集まる。
召集をかけたドワーフ族の王、”鋼王”は厳しい顔の下に満足な心を隠し、一同を見渡す。
「皆、よくぞ集まってくれた!疑問もなく集まってくれた事、心より感謝する」
胸に手を当て、軽く会釈する。
『我らは云わば一つの集合体。感謝なんぞ不要』
妖精種の王、”四大王”は鋼王を一瞥すると、それだけ言って黙ってしまう。フェアリーは世界の四元素を司り、魔力により崩れてしまった世界の均衡を戻すべく人類に加担した。エルフとの繋がりが一番強い種である。
『左様。一丸となる事こそ”集い”の本懐。誠心誠意、民の為に尽くすまでよ…』
一角人の王、”刃王”はこれに賛同する。ホーンは人に水晶の角が生えた種族だ。
大体のホーンは額から角が生え、その角は魔力を蓄積する特別な器官であり、死した後でも魔力を発生させ続ける。その為、魔法使いが多い。下手な金属よりよっぽど硬いので角を武器としても使用している。
海王や国王は椅子にもたれかかり、この空気を敬遠している。森王も鋼王の様子を窺う姿勢で声も出さない。
公爵は何かの資料を食い入るように読み、”集い”に参加しているかも怪しい。獣王は公爵の態度を気に入らず睨みつけている。
『まぁまぁ、慰め合いはその辺にして、本題に入ってくれないかしら?』
翼人族の女王、”空王”は長い爪を机に立てる。勢いよく指を振り下ろしたため、コツンッと甲高い音がこの場を制した。
バードは魔鳥人に近いが、アニマンと同じく別の進化を遂げた個体であり、人の背中に羽根があるのが特徴とされる。
魔鳥人と似ていて、目が非常に良く空域の偵察などで効果を発揮する。制空権を魔力消費なしで取れる事から、重宝されている。
「…空王の意見、もっともである…。既に聞いていると思うが、ゴブリンの丘の襲撃事件について儂から話がある」
『ゴブリンの丘と言えば、ゴブリン印の武器ですな…彼の有名な武器の産地が襲われたとあって、心苦しい想いに身を馳せておりましたよ…』
国王は口をはさむ。
今回の襲撃事件はヒューマンにとっても痛手だった。それを知る鋼王は顔を怒りで紅潮させる。
「…黙れ国王。貴公には一度、物申したいことがあったのじゃ…海王の件も公爵の件もそうじゃが、ヒューマンは図に乗っとりはせんか?」
現在、ヒューマンがゴブリン印の剣に対し多額の投資を行い、輸出入に関して独占状態にあった。
流通する際はヒューマンの里からじゃないと、購入できない。市場に出回る際は、それなりの相場となっており購入も難しい。そして、技術流出を防ぐ政策を行っているので、ドワーフの介入はおろか、施策を行ったヒューマンも介入していない。
結果、技術はゴブリンの独占となっているのだが、最近キングにこの事で鋼王が書状を送った際は「丘に全てを任せている」との返事が返ってきた。
当のゴブリンたちですら、この素晴らしい技術を軽視している事に失望した。
技術の衰退を危惧した鋼王は何とか吸い上げようと努力したのだが、結果は見ての通り…。
ヒューマンがやってきた罪は重い。
『…何をおっしゃりたいか、よく分かりませぬな』
「儂に全てを言わせるつもりか?欲の皮が突っ張った金狂いの銭ゲバ王」
それは明確な悪口だった。
ドワーフは器用だが、頭の中で一度精査するというかそう言う事が出来ない種族だ。感情的になれば突如何を言い出すか分かったものではない。
長らく国交をしてこなかったが故のいわばコミュニケーション不足と言う奴だ。
しかし外交の場でそんな事が許されるわけではない。ピリッとした空気が流れる。
ここでいつもなら森王の叱責が挟まれるが、声が出ない。ドワーフとの関係をこじらせることを恐れてか、はたまた別の理由か。
この空気を換えたのは言われた当人だった。
『いやはや、手厳しいですなぁ…鋼王は私が嫌いと見える。しかし、勘違いなさらんで欲しいですな。これは単に予期せぬ出来事が重なったいわば不運。嫌っていただいて大いに結構ですが…私は、敵ではありませんよ?』
国王は笑顔を崩さず、あくまで冷静に対応する。
この態度は鋼王の気持ちを逆撫でするが”待った”をかけたのは獣王だった。
『チッ…残念ダガ、ソノ通リダ。鋼王ヨ、貴公ノ意見ニハ全面的ニ賛成スルガ、議題トハ関係ナイ。緊急招集ノ本題ヲ続ケテクレ』
『随分と嫌われてるなぁ…』と軽口をたたく国王を尻目に鋼王は咳ばらいを一つして、冷静さを取り戻す。
「失礼した。それで本題じゃが、儂はこの件を広く公に情報提供する。鏖の…いや、ラルフ一行を全国的に指名手配し、生死を問わず懸賞金をかける。勿論、懸賞金は儂らドワーフ国が持つ。逃げ道を塞ぎ、小動物一匹這い出る隙を与えぬ!」
その名を聞いた公爵は資料から目を外し、ようやく顔を上げる。彼の目には喜色と憎悪の混じった何とも言えない感情がにじみ出ている。
『賛成いたします鋼王。その際は是非、私からも資金を回させていただきます。必ず彼奴等を亡き者にしてやりましょうぞ』
公爵は一も二もなく賛成の意志を見せる。
「おおっ!」と鋼王も喜ぶ。
『馬鹿な…相手は鏖と言う事をお忘れか?幾ら犬を放っても、戻ってくるのは死臭のみ。まさか公爵が忘れたなどと言う事はないでしょう』
国王はこの提案を馬鹿げたものと見ている。
『それはどうでしょうか国王。疲弊も立派な戦略。とにかく、いついかなる時もお前たちに休息はないと、知らしめてやる事も手ではありませんか?』
海王はそう言うと『私も賛成です』と公爵に続く。
獣王はこれに首を振る。
『俺ハ反対ダ。追イ詰メラレタ獲物ハ何ヲシデカスカ分カラネェ…機ヲ待ツベキダ』
ダンッと鋼王は机を叩く。
「違う!機を待ったからこうなったんじゃ!機会ならここにある!今ここなんじゃ!!国が落とされてからでは遅いじゃろうが!!」
言ってる事は正論だが、それは強さに比例しない。戦争ではこの名が出るだけで撤退を余儀なくされる上、エルフ族の調査からその力が真実であると立証されてしまっている。感情だけではこの決定に対して賛同出来ない。
賛成の二人は頷きで鋼王を肯定する。
公爵は別にして、海王は最初から被害がない事を加味しての賛成だから、厳密に言えば「陸の事は陸にお任せします」という関係が薄いスタンスで頷いている。会議を無視はしないが、海王こそ本題に参加しているかどうか怪しい。
『森王。アンタハ、ドウ思ウ?』
埒が明かなくなった空気を換えるべく、獣王は最終手段として森王に答えを求めた。こうなると森王に注目が集まる。
元々この意見には反対という考えが森王にはある。それというのも国王と同意見だからだ。賞金稼ぎを放ったところで勝ち目はないし、獣王の言葉通り、わざわざ隠れているものをつついて出すなど愚の骨頂。
魔族同士で同士討ちするなら待つ事こそ寛容だ。
しかし、事はそう単純ではない。
『…私も鋼王に賛成する』
一同に動揺が走る。森王はこの意見を否定すると思っていたからだ。長らく秩序を保ってきたのは危険な橋に手をかけなかったのが要因だからであり一旦、見に回るのと思われていた。
しかし、そうではなかった。森王は鏖に対し、宣戦布告する事を良しとしたのだ。
こうなると、四大王は森王に続く。
『我も賛成しよう』それを皮切りに、刃王、空王と続き、渋りに渋って獣王が賛成する。最後まで賛成しなかったのは国王だけだ。
だが、過半数を大きく上回ったこの意見は通り、ラルフ一行は…特にラルフは一介のヒューマンでありながら、金貨千枚という破格の懸賞金を懸けられた。
金はほとんどの場合、大商人の間でしか取引がないあまり流通していない上、相場的に見れば、銀貨十枚分で金貨一枚と等価であり銅貨に至っては百枚分と等価である。さらに、世界で広く使われているのは銅と亜鉛を混ぜた真鍮。俗に黄貨と呼ばれる一番下の硬貨があり、これなら千枚と等価だ。
以上を踏まえれば、金貨千枚というお金の価値がいかに破格か理解できる。人類史上、最も高い懸賞金である事は言うまでもない。
これが世界に流れるのはこの会議から三日後。
本日より三日の後、ラルフは世界を股にかける大犯罪者となる。
急な召集にも関わらず、全会員が集まる。
召集をかけたドワーフ族の王、”鋼王”は厳しい顔の下に満足な心を隠し、一同を見渡す。
「皆、よくぞ集まってくれた!疑問もなく集まってくれた事、心より感謝する」
胸に手を当て、軽く会釈する。
『我らは云わば一つの集合体。感謝なんぞ不要』
妖精種の王、”四大王”は鋼王を一瞥すると、それだけ言って黙ってしまう。フェアリーは世界の四元素を司り、魔力により崩れてしまった世界の均衡を戻すべく人類に加担した。エルフとの繋がりが一番強い種である。
『左様。一丸となる事こそ”集い”の本懐。誠心誠意、民の為に尽くすまでよ…』
一角人の王、”刃王”はこれに賛同する。ホーンは人に水晶の角が生えた種族だ。
大体のホーンは額から角が生え、その角は魔力を蓄積する特別な器官であり、死した後でも魔力を発生させ続ける。その為、魔法使いが多い。下手な金属よりよっぽど硬いので角を武器としても使用している。
海王や国王は椅子にもたれかかり、この空気を敬遠している。森王も鋼王の様子を窺う姿勢で声も出さない。
公爵は何かの資料を食い入るように読み、”集い”に参加しているかも怪しい。獣王は公爵の態度を気に入らず睨みつけている。
『まぁまぁ、慰め合いはその辺にして、本題に入ってくれないかしら?』
翼人族の女王、”空王”は長い爪を机に立てる。勢いよく指を振り下ろしたため、コツンッと甲高い音がこの場を制した。
バードは魔鳥人に近いが、アニマンと同じく別の進化を遂げた個体であり、人の背中に羽根があるのが特徴とされる。
魔鳥人と似ていて、目が非常に良く空域の偵察などで効果を発揮する。制空権を魔力消費なしで取れる事から、重宝されている。
「…空王の意見、もっともである…。既に聞いていると思うが、ゴブリンの丘の襲撃事件について儂から話がある」
『ゴブリンの丘と言えば、ゴブリン印の武器ですな…彼の有名な武器の産地が襲われたとあって、心苦しい想いに身を馳せておりましたよ…』
国王は口をはさむ。
今回の襲撃事件はヒューマンにとっても痛手だった。それを知る鋼王は顔を怒りで紅潮させる。
「…黙れ国王。貴公には一度、物申したいことがあったのじゃ…海王の件も公爵の件もそうじゃが、ヒューマンは図に乗っとりはせんか?」
現在、ヒューマンがゴブリン印の剣に対し多額の投資を行い、輸出入に関して独占状態にあった。
流通する際はヒューマンの里からじゃないと、購入できない。市場に出回る際は、それなりの相場となっており購入も難しい。そして、技術流出を防ぐ政策を行っているので、ドワーフの介入はおろか、施策を行ったヒューマンも介入していない。
結果、技術はゴブリンの独占となっているのだが、最近キングにこの事で鋼王が書状を送った際は「丘に全てを任せている」との返事が返ってきた。
当のゴブリンたちですら、この素晴らしい技術を軽視している事に失望した。
技術の衰退を危惧した鋼王は何とか吸い上げようと努力したのだが、結果は見ての通り…。
ヒューマンがやってきた罪は重い。
『…何をおっしゃりたいか、よく分かりませぬな』
「儂に全てを言わせるつもりか?欲の皮が突っ張った金狂いの銭ゲバ王」
それは明確な悪口だった。
ドワーフは器用だが、頭の中で一度精査するというかそう言う事が出来ない種族だ。感情的になれば突如何を言い出すか分かったものではない。
長らく国交をしてこなかったが故のいわばコミュニケーション不足と言う奴だ。
しかし外交の場でそんな事が許されるわけではない。ピリッとした空気が流れる。
ここでいつもなら森王の叱責が挟まれるが、声が出ない。ドワーフとの関係をこじらせることを恐れてか、はたまた別の理由か。
この空気を換えたのは言われた当人だった。
『いやはや、手厳しいですなぁ…鋼王は私が嫌いと見える。しかし、勘違いなさらんで欲しいですな。これは単に予期せぬ出来事が重なったいわば不運。嫌っていただいて大いに結構ですが…私は、敵ではありませんよ?』
国王は笑顔を崩さず、あくまで冷静に対応する。
この態度は鋼王の気持ちを逆撫でするが”待った”をかけたのは獣王だった。
『チッ…残念ダガ、ソノ通リダ。鋼王ヨ、貴公ノ意見ニハ全面的ニ賛成スルガ、議題トハ関係ナイ。緊急招集ノ本題ヲ続ケテクレ』
『随分と嫌われてるなぁ…』と軽口をたたく国王を尻目に鋼王は咳ばらいを一つして、冷静さを取り戻す。
「失礼した。それで本題じゃが、儂はこの件を広く公に情報提供する。鏖の…いや、ラルフ一行を全国的に指名手配し、生死を問わず懸賞金をかける。勿論、懸賞金は儂らドワーフ国が持つ。逃げ道を塞ぎ、小動物一匹這い出る隙を与えぬ!」
その名を聞いた公爵は資料から目を外し、ようやく顔を上げる。彼の目には喜色と憎悪の混じった何とも言えない感情がにじみ出ている。
『賛成いたします鋼王。その際は是非、私からも資金を回させていただきます。必ず彼奴等を亡き者にしてやりましょうぞ』
公爵は一も二もなく賛成の意志を見せる。
「おおっ!」と鋼王も喜ぶ。
『馬鹿な…相手は鏖と言う事をお忘れか?幾ら犬を放っても、戻ってくるのは死臭のみ。まさか公爵が忘れたなどと言う事はないでしょう』
国王はこの提案を馬鹿げたものと見ている。
『それはどうでしょうか国王。疲弊も立派な戦略。とにかく、いついかなる時もお前たちに休息はないと、知らしめてやる事も手ではありませんか?』
海王はそう言うと『私も賛成です』と公爵に続く。
獣王はこれに首を振る。
『俺ハ反対ダ。追イ詰メラレタ獲物ハ何ヲシデカスカ分カラネェ…機ヲ待ツベキダ』
ダンッと鋼王は机を叩く。
「違う!機を待ったからこうなったんじゃ!機会ならここにある!今ここなんじゃ!!国が落とされてからでは遅いじゃろうが!!」
言ってる事は正論だが、それは強さに比例しない。戦争ではこの名が出るだけで撤退を余儀なくされる上、エルフ族の調査からその力が真実であると立証されてしまっている。感情だけではこの決定に対して賛同出来ない。
賛成の二人は頷きで鋼王を肯定する。
公爵は別にして、海王は最初から被害がない事を加味しての賛成だから、厳密に言えば「陸の事は陸にお任せします」という関係が薄いスタンスで頷いている。会議を無視はしないが、海王こそ本題に参加しているかどうか怪しい。
『森王。アンタハ、ドウ思ウ?』
埒が明かなくなった空気を換えるべく、獣王は最終手段として森王に答えを求めた。こうなると森王に注目が集まる。
元々この意見には反対という考えが森王にはある。それというのも国王と同意見だからだ。賞金稼ぎを放ったところで勝ち目はないし、獣王の言葉通り、わざわざ隠れているものをつついて出すなど愚の骨頂。
魔族同士で同士討ちするなら待つ事こそ寛容だ。
しかし、事はそう単純ではない。
『…私も鋼王に賛成する』
一同に動揺が走る。森王はこの意見を否定すると思っていたからだ。長らく秩序を保ってきたのは危険な橋に手をかけなかったのが要因だからであり一旦、見に回るのと思われていた。
しかし、そうではなかった。森王は鏖に対し、宣戦布告する事を良しとしたのだ。
こうなると、四大王は森王に続く。
『我も賛成しよう』それを皮切りに、刃王、空王と続き、渋りに渋って獣王が賛成する。最後まで賛成しなかったのは国王だけだ。
だが、過半数を大きく上回ったこの意見は通り、ラルフ一行は…特にラルフは一介のヒューマンでありながら、金貨千枚という破格の懸賞金を懸けられた。
金はほとんどの場合、大商人の間でしか取引がないあまり流通していない上、相場的に見れば、銀貨十枚分で金貨一枚と等価であり銅貨に至っては百枚分と等価である。さらに、世界で広く使われているのは銅と亜鉛を混ぜた真鍮。俗に黄貨と呼ばれる一番下の硬貨があり、これなら千枚と等価だ。
以上を踏まえれば、金貨千枚というお金の価値がいかに破格か理解できる。人類史上、最も高い懸賞金である事は言うまでもない。
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