一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第三章 勇者

第二十八話 アンノウン

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アンノウンはエルフェニアの地で目を覚ました。

ベッドから起き上がると辺りを見渡す。
昼の陽気に当てられてか外は賑やかだ。

五人の”守護者ガーディアン”たちはそれぞれの部屋を与えられそこを拠点とする様、森王から指示があった。

エルフたちは扉の代わりにカーテンのような布をかけて仕切っている。本来なら守護者ガーディアンたちも同じ様な部屋になるはずだが、外からの来訪者を野放しに出来ないと、扉を急遽取り付けた。

なので、内装は豪華なコテージという印象だ。
普段、住むことの無い空間は目新しさが一杯で召喚されたという境遇を忘れさせる。海外旅行に似た興奮も若干ながらあった。

これに対し何故か不満を持ったのは、他ならぬイキり野郎。「気に入らない」と文句をつける。

とにかく警戒されていることに噛み付いていたが、奥手が「プライベートが欲しい」とボソッと主張しそれにギャルが賛同したことで振り上げた拳を下ろした。

イキりは何かにつけて文句ばかりで、エルフたちも辟易しているが、自らの意思で来たわけではない守護者ガーディアンたちのご機嫌取りの為、言うことを聞いている。

守護者ガーディアン
他の世界からこの世界にいない強者を呼び、世界平和の為に貢献させるという、他力本願で身勝手な召喚の犠牲者。

これだけなら可哀想というだけで話が終わるが、それは間違いだとアンノウンは思う。

元の世界では何もないただの人間だが、この世界では肉体と他ステータス上昇が著しい。

筋力、魔力、そして特異能力。
どれをとっても一流の力である。
やって来たその日に素手で大木を一撃のもと粉砕すれば誰だって調子に乗る。

但し、守護者ガーディアン全員が一律で能力が向上しているので一人だけが強いわけではない。優劣は特異能力と、精神的自信があるかどうかで決まっていた。

四人はほとんど固まって動いているが、アンノウンは他の奴等との協調性が皆無であり、常に単独行動をしている。

何か言いたげな奴はいるものの、肉体能力はほぼ一緒なので、腕力でねじ伏せられないと見るや、周りで吠えるばかり…。

(…どうせ飛ばされるなら、もっとマシな奴らと来たかったよ…)

考えたところでどうにもならない。
帰る方法が今のところないなら、奥手の言う通り、ゲームのクリアを目的とした行動に移る他ない。

「”みなごろし”か…」

当て馬を出して、実力の程を測ろうとしたが、予想に反して周りが強かった。あれらより、頭一つ分くらい違う事を考えたらかなり強い。

(だが、そこまで警戒することはない。実際、今回の竜は制限を掛けていた。制限を解除すれば、周りの奴ら程度なら一匹で殲滅できる。後、二匹追加すれば、どうということもない…)

ベッドから降りて、窓際に向かう。
外にはイキりと腰巾着が騒いでいた。

(あいつら二人はいつも一緒だな…)

あの二人が結託して、エルフたちが困っているのをよく見かけた。奥手とギャルは時折、この二人に付いていけなくて単独行動をする様になった。奥手は巫女に御執心。ギャルは男漁り。

外に出なくてもそれなりに楽しんでいるようで、みんなこの生活にも慣れてきたようだ。

「反吐が出る…」

確かに安全地帯を確保するために「味方は多い方が良い」とは言ったが、気を緩めろとは言ってない。

力を使用して分かったが、これは病みつきになる。
”使うな”という方が無理というもの。
黒い笑いが出る。自分にはどれ程の事が出来るのか試したくて仕方がない。未成年が成人となり、酒やたばこに手を出す感覚と似ている。

最初こそ、この世界で得た強すぎる肉体能力を怖いとも思ったが、この世界がどうなろうが元居た世界になんら影響がないなら、どれだけぶっ壊れようが関係がない。

純粋な力とは権力と同じ。どれ程、国から制限をかけられても国と喧嘩できるクラスの力があれば、自重など考えるわけがない。
みなごろし”の力も大体わかった。ならば、ここでジッとしているよりは世界に飛び出し、元の世界への帰還を考えるのが有益というもの。

帰還に関しては、ここに呼びだされたのだから、目的が達成されたら帰してもらえる可能性が高い。

一方通行と言う事はないだろうが、彼等も必死で禁呪に手を染めた可能性も否定できない。
となれば、自ら帰る方法を得るのは間違いではないはずだ。それに、元の世界と異世界を往来できる事が出来れば純粋な暇つぶしにもなる。

だが、今はまだエルフの指示に従う。
何故なら、まだ分からない事が多いからだ。
自分の強さを過信し、所かまわず喧嘩を売れば、この力を封印、若しくは削がれる危険性もあった。

試運転を兼ねて力を発動させてみたが、今考えれば軽率だったと自戒する。

あの四人は関係のないゴブリンと相対したが、アンノウンは最終目標のチームにちょっかいをかけた。どちらが有用かは見れば分かるが、万が一の事態もあり得た事を思えばやりすぎだ。

ここだけは彼等四人の方が正しい。経験を積むだけのお手頃の雑魚を相手にしたのだから…。

四人の言動を総合し、整理すれば大体の力が分かる。絶対ではないが、まず間違いなく、イキりは火力。威力重視の攻撃特化。

ギャルも攻撃に傾倒している。それも広範囲の攻撃に近いだろう。
森王との会話の後、特異能力の言及があった。
あれはつまり自分とイキりなら殲滅ができる事を示唆している。

腰巾着は単一個体に対する強化または弱体化付与。イキりの威を借りつつ、ふんぞり返っている所と、時に、うざく感じる程、下手なゴマすりを受けているというのに、イキりの信用が妙に厚い。イキりがただの馬鹿という事で話が終わりそうだが過剰な持ち上げや蔑みには常に噛みついている。

召喚された当初から、古い友人なら分からなくないが、当初は全員が初対面。となれば、あのイキりの腰巾着への対応は異常と言えた。つまり、攻撃特化ではない。自分に対し、攻撃を加える相手ではない上に、強化ならおつりがくる。

イキりやギャルは単純明快だが、腰巾着は陰湿だ。自分の情報は出さず、強者に忖度し、力を使わせる典型的な永遠の二番手。美味しい所だけを啜る蛭。

最後に奥手だが、四人のヒエラルキー最下層でウジウジし”過信”や”慢心”という言葉が出てくるあたり索敵特化だろう。
ステータスだけを見れば、バランス型の良いパーティーだと思える。奥手は性格上、誰にも信用を置いていないが、三人に対して力だけは信用していると、一挙手一投足が物語っている。

その上で「力を合わせて…」という事を暗に伝えてくる。一人ではどうする事も出来ないと完全に諦めている雰囲気を常に纏っているからまず間違いなくサポート型だ。

周りを警戒する性格からこの力を得た可能性がある事を思えば、性格が能力獲得の大きなしるべとなっている事は想像に難くない。数が少ない為、ジャンル分けも難しいが、おおよそ攻撃型、サポート型に分類されるのだろう。

(不十分だ…)

だとするなら自分の特異能力が異端も過ぎる。
大きく分けたし、全ては推測に過ぎないので、他の四人も大まかな力以外まだ隠し持っている可能性は十分あり得る。

彼等の持つ力に関しても今更ながら興味が出た。
今後、制限が解除されればともに行動するのも悪くない。

その時、部屋にコンコンとノックの音が鳴り響いた。外にいるイキりと腰巾着ではない。だとするならギャルか奥手。ギャルにノックというマナーの概念があるか甚だ疑問だが偏見だと捨ておく。

「…どうぞ」

ギャルや奥手なら能力に関する疑問が少しは晴れる様な気がして少し期待したが、予想に反して部屋に入ってきたのは巫女だった。

相も変わらず煽情的な装いは男を誘っているとしか思えない。エルフの男たちは神聖なものとして祀り上げているが、欲情しないのだろうか?

「失礼いたします。お食事の準備が整いましたのでご連絡させていただきます」

一礼して、甲斐甲斐しく伝える。

「ありがとう。でも君が自ら来るような事かな?外の兵士、若しくは供回りにでも頼めば良くないかと私は思うんだが…」

巫女の体から視線を外し、極力見ない様に努める。巫女はクスリと笑うと光の無い目でアンノウンを見据える。

「ふふふ…それでは僭越ながら…。存分に力を使われた気分はいかがでしたか?」

ドキッと胸が高鳴る。動揺を悟られない様、普段通り振舞う。

「なんの事かな?」

「あぁ、勘違いなさらないで下さい。わたくしはあなた様がようやく力を使われて嬉しいのです。攻めるつもりなど御座いません」

表情を変えず、声の抑揚が変わるのは気味が悪い。奥手は「女神」と題して巫女を崇めるが、この女はただの狂信者だ。出来れば相対したくもない。

「ならば聞こう。どうして分かった?私はここから一歩たりとも出ていないし、直接戦っていない。もしかして力を感じる何かを有しているのか?」

巫女はそれに答えるつもりなど最初ハナからない。ただニコニコ笑う。それが返答だ。巫女が何らかの能力を保有し、監視している事は理解が出来た。その上で、自分がその場にいなくても戦えることがバレてしまった。

情報戦においてこれほど不味い状況はない。
それ以前の問題として、巫女は厄介な存在であり、戦略や能力が全部バレる可能性が高い。いつまでも味方でいてほしいが裏返った時が怖い。

「そう警戒しないで下さい。わたくしはあなた方の中であなたを特に信用しています。力も然ることながら、懸命で柔軟な発想をお持ちのようですし、わたくしとしてもいつまでも仲良くいさせて頂きたいのです」

アンノウンに警戒もなく近寄る。
光の灯らない目は暗闇を覗き込むかのようだ。
いつ何時、害されるか分からない恐怖は、見ていて気持ちの良いものではない。

「ふんっ…私に何を期待する?籠絡しようなど考えない事だ。私はあいつとは違う」

奥手を引き合いに出して、言葉で突き放す。

「知ってます。むしろそれでいいのです。期待しておりますよ。アンノウン様」

(会話も聞かれている?)冷汗が出る。

その事実は逃げられない事を意味していた。”みなごろし”以上に警戒すべきはこの女だ。

(こいつは生きていてはいけない奴だ。その時が来たら…あるいはその時が来る前に…)

アンノウンは心に難く誓った。
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