一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第三章 勇者

第三十一話 得た物

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「何よこれ…なんにもないじゃない…」

ハンターとグレースは城の前に立っていた。朝早くに町を出立し、ドラキュラ城についた彼女らの調査は、既に正午を回っていた。

グレースが失望したのは言葉にある通り、めぼしい情報が何もないという一点のみ。

噂通り食糧にされたであろう人の死骸と争った形跡のある大広間の惨状だけが目についたくらいで予想以下の無駄足だった。

気になったのは入ってすぐの天井が抜けた石の上の血溜まり。

何故天井が抜けているのか?
誰の血なのか?

血は渇いていたが、これと大広間の光景が真新しい事は明白だ。最近できたものであると見ている。血で汚れたのが丁度、吸血鬼騒動の真っ只中であることが予想できる。

「ここが発端なんだろうけど、意味がわからない。天井の崩落、瓦礫の上の血溜まり、大広間の争い…謎が謎を呼んでいるね」

「この城の居住区域に安物の缶詰があったからしばらく生活していた。でも、理由がわからない。何故ラルフはみなごろしに殺されず、更には吸血鬼と共に行動できてるの?彼の有用性が全く分からない…」

自分で纏めた資料を引っ張りだし、城内で見た事と照らし合わせる。しばらくにらめっこするが、必ず振り出しに戻ってしまう。それもこれもラルフというイレギュラーのせいだ。彼の存在はノイズであり、追い払えない影だ。

「彼はトレジャーハンターと宣う虚言癖を持ち、ここぞって時に、”人に迷惑をかける天才”だと店主から教わったよね、正にその通りの人物だね」

まるで一本道に突如、壁が出て来て通せんぼしてくるような邪魔な存在だ。

しかも、森王との連絡の際、ゴブリンの丘の壊滅までラルフの仕業だとハンターから報告を受けた。

ただのヒューマンが、魔王を操る特別な魔道具を手に入れてはしゃいでいるような、出来の悪い作り話が頭に浮かぶ。

それくらい荒唐無稽の方がまだ信じられる展開だ。

「…もしかして本当にそんな魔道具が?」

だとするならこれまでの経緯がより鮮明となるが常識を逸脱しすぎだし、歴史の中で魔王級の強さを誇る最強を操った伝承はない。

催眠や洗脳に関する魔道具が無いこともないが、どれも効力が弱く、トラウマを消すための自己催眠や、寝不足に聞く催眠療法など、医療に使われることが多々ある。

洗脳も変わらず、小虫や刺激で生きている生き物に適用できるものの、少し知能がつけば、洗脳が聞かない。もし効いても、すぐに抵抗されるので日常で、まして戦闘で使うのは厳しい。

つまり人類が創造できる魔道具で脳に直に作用する魔道具は、そこまでの進化を遂げていない。

秘匿されてきたのかもしれないが、もしそんな規格外の魔道具があれば国宝級であり、持ち出された時点でどこかの国が騒いでいる。

完全に秘匿され、国は既に追っ手を出していて、ラルフは追われる身の中で、奇跡的に魔王を手中におさめた。そんな神から与えられたような奇跡が、連続して続いた結果が今なのではないか。

だが、これは完全に考察泣かせの暴論でしかない。
何故ならたまたま手にした魔道具が、魔王をも操ることのできる凄い魔道具だなんて…。

この世界に住む全住人達の種族が一晩であべこべに入れ替わるような、そんなあり得なさだ。

そんな考えをグレースは頭を振って追い出す。
所詮、絵空事だ。ただの空想に浸るのは夢だけで十分である。

もう本人に聞くしか答えなど出ない。
何にせよ、魔王とラルフは組んでいる。

ここに住むのをやめたのは、入り口付近にある人狼ワーウルフと思われる死体のせいだろう。

既に腐っている上、所々虫に食われていてぼろ雑巾のようだが、頭蓋骨の丸い穴は普通ではない。そして、少し離れた異様な場所に目が行く。

「この城を襲撃されたことで、逃げようと考えた。この森の抉れ具合から察するに、この程度の敵は瞬殺で間違いない。物凄い強さだよ…」

ハンターは長年の戦闘経験から、魔王の実力を推し量るとその強さに身震いする。

「これってやっぱり魔王の仕業なの?削り取られた感じだけど…どうやったのかしら?」

「分からないね。ただこれが魔力によるものなのは、間違いないよ。というより、魔力以外でこんなことが出来るなら、是非教えてほしいよ」

綺麗な丸のクレーターがその威力を物語る。

「…もしかして、本当にあるのかしら…魔王を操れる神器のようなものが…」

「聞いたこともないから否定したいけど、この惨状を見れば…そう思うのも無理ないかな」

魔王を襲った人狼ワーウルフたちは返り討ちにあった。あのクレーターを作った理由は不明だが、これだけ強いなら逃げる必要がない。

ここを拠点に勢力を伸ばすことも可能だし、彼の竜はみなごろしによって倒されたと聞く。ならば彼の竜を懐柔し、戦力に加えられたら、無敵である。

そういうことは考えなかったのか?
離れなければならない理由とは?

もちろんアルパザの存在だ。

あの町に魔族が攻めて来ないように逃げたのだろうもしくは、ヒューマンであるラルフにこれ以上の危害が加わらぬよう逃げたか、いずれにせよ魔王と吸血鬼以外の何かが関係している。

「アルパザの人たちは、”ダークエルフの子が可哀想”と言っていたわね。ラルフなんかに連れていかれて”少女に何をするつもりか”と…。つまりその少女がみなごろしである可能性が高いわ」

吸血鬼の姿が伝説と解釈が一緒だと聞いたので、ダークエルフの見た目ではない。

概ね悪い印象が無かった事を思えば演技のできる魔王か、認識改変の出来る魔法か、はたまたこれもラルフの為した業か。

アルパザの宿に戻ったグレースはハンターの食事の誘いを断り、今日手にした情報をもとにレポートをまとめていく。

―調査資料―

みなごろしは脅威ではあるが、自分に危害を加えられない限り、危害を加える事はなく、魔王の被害で負った人々の死はその多くが騎士の者であり、町の死者は守衛である。
また、見た目はダークエルフに近い見た目をしており、演技も可能である事がアルパザの取材で判明。
愛くるしいとの見方も出ていたので人の町に紛れ込める。ダークエルフに注意が必要。
また、何の為なのかは定かではないが、人や町に迷惑が掛からない様に町から離れた位置で戦った事もあり、魔族と人の垣根を越えて守った可能性も否定できない。話し合いも可能か?

吸血鬼は資料通りの存在であり、非常に好戦的で、血に飢えた危ない存在である事は間違いない。町の守衛と騎士たち、彼の”魔断”が直接戦い、本物である事が確認された。
しかしながら、今回の騒動で町の人間に、直接血を吸われた者はおらず、騎士の遺体に噛み跡が存在している程度だ。魔王の意向と合致している。これは魔王の部下である事は間違いない。
人狼ワーウルフと戦っていたと証言する者がいるので、吸血鬼も町を守るために戦っていた可能性がある。ちなみに証言者は元冒険者の守衛隊長である。

最後になったが、ヒューマンのラルフ。
人でありながら、魔族と共に旅をする異端。
町民の印象は安定した職の無い風来坊。”金なし””虚言癖””騙り””汚い””手癖が悪い”など、噂はひどい物ばかりだと言わざる負えない。いてもいなくても同じ、という声がある。フラッと現れて、いつのまにかいなくなる。
彼を良く知る某店舗の店主は「何をしでかしてもおかしくない」という印象を持っている。みなごろし、そして吸血鬼、この二つの危険因子に比べ、腕力は並、魔力は皆無の存在である限り、危険度は低いと見て間違いない。
何故一緒に行動できているのか?
不明な点が多いので随時調査していく―。

そこまで書いたところで、一息つく。

丁度いいタイミングでコンコンというノック音が鳴った。ここまで良い匂いが漂っている事からハンターがご飯を持ってきたのだろう。

そういえばお腹もすいた。
今日の資料作成はこの辺りにしてご飯にしよう。

椅子にもたれていたグレースは体を起こし扉を開ける。

そこに立っていたのは食事を持参した騎士の一人だった。なんでハンターではなく騎士なのか?不思議に思っていると、

「ハンターさんが今は忙しいので代わりにお持ちいたしました。どうぞ」

といって手渡し、礼をして扉を閉める。

ハンターもハンターで忙しいのだろう。最近、彼を独り占めしていた。訓練をしている可能性もある。

「…大変ね~」と他人事だと食事を始める。

食事を食べ終わった頃には何故だか急激な眠気が襲い、鍵をかける事も無くベッドに身を投げ出す。瞼が重く、どうしようもない。こんな経験は初めてというわけではないが、今日はそんなに疲れていない。まだまだ起きていられるし、徹夜も可能であると思っていた。睡眠薬という言葉が頭をめぐる。

(いや…まさか…)騎士が何故そんなことをする必要があるのか?エルフを敵に回すはずもない。そう思えば安心もできた。抗う事も出来ずそのまま眠りに落ちる。

それから数分も絶たず、扉を開けて騎士が入る。

「ふっ…鍵が無駄だったな…」

彼女の睡眠を確かめると、資料に目を通す。

ベッドにうつぶせで寝るグレースを一瞥した後、通信機を取り出した。

『…それで?』

「資料を拝見しましたが、それらしいことは書かれていません。内容も補足程度です」

『なるほど…しばらくは泳がせる。町から出る事があれば今日の様に随時報告しろ。私が不在の際はゼアルに報告をするんだ』

「了解いたしました」

『それから、気付いている可能性も考慮して、文脈を読み解くんだ。隠された暗号があればそれも報告しろ。分かったな』

「はい。…気付かれた際はいかがいたしましょう?監視を付けて見張らせますか?」

『…有事の際は拘束しろ。ハンターはお前らでは勝てん。グレースを盾にして、必要な場合は…二人とも殺せ』

「…了解いたしました」

通信が切れると、資料をもとの位置に置いて、グレースに歩み寄る。女とは思えない起伏の無い体を見て、騎士は籠手を外し素手でグレースの腰に手を当てる。

「処分命令が出るなら、最後くらいは楽しませて貰うかな。…エルフか…どんな具合だろうな…。あぁ、待ち遠しい」

その手を放し、籠手を着けると退出する。

何が起こったのか、これから先何が起ころうとしているのか分からないまま深い眠りにつく。そのグレースの表情はすやすや穏やかだった。
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