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第四章 崩壊
第八話 一方そのころ…西の大陸で 中
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ゼアルとガノンを待合室に案内してから10分と経たず戸が叩かれた。
入ってきたのは人に羽が生えた鳥人族と呼ばれる種族。
高い山、豊かな自然に囲まれた高所で生活する彼らはこの付近の出身ではない。南の暖かい島に拠点を持っている。彼らは寒いのが苦手で、寒冷の時期は暖かい場所を求めて飛んでいく。
今回ここにやって来たのは寒さを逃れようと渡り鳥のようにやって来た鳥人族ではない。十中八九、白の騎士団のメンバーである最強に連なる一人だろう。
「ようこそ!お待ちしておりました!!」
また長達がどやどやと集まって歓迎する。
「フッ……余が一番乗りという事か……早いというのは罪であるな……」
キザなセリフと共に顔半分を隠しているサラサラの髪を掻き上げて、端正な顔が良い匂いと共に現れる。紫のアイシャドーをして、唇にはほんのり紅を差している。なめらかでシュッとした顔は中性的ではあるが、整えたキリッとした眉が男らしくハンサムさを醸し出している。
ピチピチの肌着とパンツでその体を強調し、鍛え上げられ、綺麗に割れた胸筋と腹筋が彫刻のようだった。まるでバレリーナの様に完璧な肉体は見ている者を魅了する。背中には彼の身長ほどでかい真っ白い翼が二枚生えていて美しい。
一応上着の様なものを羽織っているが、背中に布があると着るのも脱ぐのも大変だからか、首筋に襟を乗せて袖に手を通し、不思議な裾のあるコート紛いを腰にベルトを巻く事で固定している。
耳には自分の羽根だろうか、白い羽根をピアスに加工して取り付け、耳も着飾る。
腰に手を当ててモデルの様に決めポーズをして格好つけている様はまさにナルシスト。
「……あ、あのぅ、失礼ですがお名前をお聞かせいただいても?」
ここでも一応、議長が率先して質問をする。
「なんと!余を知らぬと!?……いや、仕方あるまい。景色こそ素晴らしいが、こんな田舎では吟遊詩人も寄りつくまいて……」
頭を抱える様に右手の指を添えて、それをゆっくりと振り払う様にまた腰の位置に持って行く。そして、頭を振って見下したような目線を作ると一段階くらい大きい声で自己紹介を始めた。
「余の名はアルォンツォ=マッシムォ!白の騎士団の要、”風神のアルォンツォ”である!」
まるで演劇の様な手ぶりと、もの凄い巻き舌で圧倒する。
彼の名は”アロンツォ=マッシモ”。
”魔断のゼアル””狂戦士ガノン”の人間と同じく、白の騎士団に鳥人族は二人在籍し、その内の一人”風神のアロンツォ”がここにやってきた。
「”風神”!まさか”天空の覇者”と言われたあの……!!」
小太りの商人は目を丸くして驚いている。分からない長達は疑問符を浮かべながら商人を見ている。
「ほう……余を知るものがこの国にいるとは驚きよ…大義である。そなたは余の伝説をこの者たちに語り聞かせるがよい。そなたは醜く余は見ていられないが、特別に語り継ぐ栄誉を与えよう」
傲慢な物言いで在り、この言葉に商人もイラっとするものの、へそを曲げられてせっかくの戦力を逃すのも惜しいので「あ、ありがとうございます……」と低姿勢でその場を収める。
アロンツォは満足げに頷きながら、キョロキョロと辺りを見渡す。
「ところで……今回他のメンバーはどなたが来られるのかな?」
一番乗りだと思っている彼は、余裕の態度でポーズを決めている。
「あ、ゼアル様とガノン様が待合室でお待ちです」
それを聞いて、「ん?」と顎を突き出す間抜けな顔を見せる。
「……余より早いと?あの人間共が?……いや、だがまぁ”魔断”は国に飼われた犬。時に敏感なあ奴なら一番に着くのも理解できるというもの」
「あっいや、確かガノン様が一番早かったかと……」
「Sta 'zitto(黙れ)!!」
アロンツォに突然大声を出され議長はビクッとして黙る。何を言ったか分からなかったが遮るほど苛立ったことが分かったのでそれ以上声が出なかった。アロンツォは細く長く息を吐き自分を落ち着けると、また余裕の顔で微笑を湛えて向き直る。
「……まぁよい。余も遊びで来ているわけではない。こんなことで乱れては評判が下がる一方よ。ほらほら、何をしておる?二人の元に案内するがいい」
手をひらひらさせて傲慢にふるまう。どちらかと言えば顎で使う方の長達が自分たちより格段に若く見える奴に顎で使われている状況が腹立たしい。
しかし目下戦争中である現在、何より力が順守される。いくら頭が良くて、他の国からも求められるような権力者であろうと、知識と経験での成り上がりであり、腕力など皆無。
まだどうなるかは分からないが、オークと頭脳戦をするのかと言えばそれは違うと思われる。腕力が全ての魔族に頭脳戦を仕掛ければ、癇癪を起してひき潰されるのは目に見えている。
だからわざわざ呼んだのだ。
国を守るため、民衆を守るため、自分たちを守るため、彼等には戦ってもらわなければ困る。
「……どうぞ、こちらです」
アロンツォを案内し、待合室にて三人の騎士が揃う。
「おいおい、マジかよ……なんで手前ぇが来るんだよ。普通”天宝”が来るだろ……こんなナルシストと仕事するなんざごめんだぜ……」
「普通?普通とは何であるかな?そなたは相変わらず視野が狭い。余がどれほど素晴らしいか、ここに来てどれだけ助かるか理解できぬのか?余も選べるのであればそなたの様な粗雑な阿呆ではなく”煌杖”の方が良いわ。」
出会い頭にお互いが否定しあう。
「久しぶりだなアロンツォ。貴様は変わらないな。ナタリアは息災か?」
ゼアルはアロンツォに好意的に握手を求める。それに何気なく答える。
「フンッそなたも変わらないな。ナターシャも相変わらず小うるさくて敵わん、余も手を焼いている」
ナタリアの話をする時は少し疲れた顔をして返答する。議長はこの三人の間に入るために機を窺い、頃合いを見計らって声をかけた。
「……それでは役者も揃いましたので、オークとの協議の段取りと、こじれた時の対処を話し合いましょう。会議室までお願いします」
「ようやくか……待ちわびたぜ。この鳥のせいでな……」
「ん?何か言ったかな?ボソボソ喋ってないで口を大きく開いてみてはどうかな?あ、失礼……やはりそのままでいてくれ。そなたは口が臭い」
ガノンは背負った大剣をガッと掴む。その状態でギョロリと擬音が鳴りそうなほど睨みつける。
「手前ぇ……ここで騎士団の席を一つ空けてやろうか?」
「なに?そなたの席を?それは残念、寂しくなるな……」
ミシッという音がなるほど食いしばり、怒りで気が高ぶっているのかガノンの周りが歪んで見えた。
「……ちょちょちょっ!?お待ちください!!魔族との戦いを前に人類で争ってはなりません!!」
議長は慌てて止めに入る。人類間の争い程、無意味なものはない。それにこの建物が壊されるのも勘弁願いたかった。
「何を遊んでいる?早くいくぞ」
ゼアルは全く慌てる事無く、それだけ言ってとっとと部屋から出て行く。
「は?それだけ!?ゼアル様!?」
議長はさらに慌てる。そこにガノンの連れのアリーチェが間に入ってきた。
「はいはーい。バカやってないで仕事仕事」
手を二回パンッパンッと打ってそのまま部屋を出て行った。その途端に徐々に怒りが収まっていく。剣の柄から手を離し「チッ」と舌打ちを打った後、アロンツォから視線を離しアリーチェを追って出て行く。
「おいコラァ!手前ぇに言われたかねぇんだよ!」
アロンツォは呆れ顔で両手を挙げて「お手上げ」をイメージさせると、おもむろに議長に目をやる。
「会議室はどこかな?案内をするがいい」
「……は?ああ、はい」
議長は「どうぞ」と前に出て案内する。正直、ガノンたちの後をついていけば会議室には着けるのだが、それはプライドが許さない。こんな感じで人類側の中でも最強と呼ばれる連中ですら「手を取り合って」という事が出来ない。
強いとは我儘の権化であり、自信とは傲慢の主軸である。
権力や腕力に関わらず、力を持つと言う事は即ち独断専行となり仲間意識が薄くなる。
「頂点は孤独」というのは並び立つものがいないとか、信用におけるものが少ないという他に我儘と傲慢が邪魔をするために起こるのだ。
だからこういった話し合いの席で話がまとまるはずがない。結局、遅延させるのはガノンとアロンツォ。それを制すのがゼアルという立ち位置で、休憩をはさみつつ半日掛かりで話し合いを終えた。
1、オークの主張を精査する。
この協議自体どういった理由で申し出たのか?その主張と内容を精査し、常に有利に立ち回る必要がある。昔からオークとの戦いは頭脳戦。罠にはめて狙いを外させ、完璧なタイミングで横合いから殴りつける。正面から打ち合えば勝ち目がないから、足をすくい続けて敵に不利な状況を作り出す。
舌戦自体は初めてとなるが、歴史が物語っている。オークは頭が悪いと。
2、オークとの協議内容には徹底した人類側の領有権を強く推し進める。
今の港に手出しされない様、進入禁止地帯をお互いに設け、以降、友好関係の構築を望む。あわよくば居住区の拡大も視野に入れた和平を提示する。あちらに譲歩する意思があるのかどうかに関して一切無いと思われるが、今後こういった協議などはそれこそ無いものと考え、譲歩の有無など度外視に伝える。
重要なのは、遜らない事。弱さを見せれば不利な条約を突き付けられる。白の騎士団がいるので強気に出る事が求められる。
3、癇癪を起した場合の対処。
オークとの協議は顔を突き合わせることになるが、あくまで話し合い。武器の持参に関して何も通達がなかったことから、禁止にするつもりはないだろうし、普通に持ち込まれるだろう。こちらから手を出すことの無いよう徹底する。
オークたちとの距離を開けて攻撃の間合いから外れるよう立ち回る。オークへの接近は白の騎士団のみ許され、議長を含めた選抜組三人は接近禁止。とは言え、遠距離攻撃も考えられるのでアリーチェが飛び道具に対する結界を張り、必要に応じて撤退する。その際はゼアルが指令を出し、逃げに徹する。
黒曜騎士団の小隊も同行する為、ゼアルを隊長にするのが望ましいと状況と多数決で決定した。
この大きく分けて三つを守り、協議に臨む。
「フッ今回はそなたに譲るが、次に同じ状況があれば余が司令官となる。覚えておくことだな」
「……だとするなら譲ってばっかだな……常にそれを主張し続けて恥ずかしくないのか?」
「下郎が……」「ガリガリ野郎……」と口喧嘩が絶えない。不安こそ残るが、ゼアルは頼れる男だ。協議も明日に控えているし、これ以上の贅沢は言えない。
「……あー、皆様。お招きに答えていただき感謝しております。最高級の宿泊施設をご用意させていただきましたので、本日はそちらでお休みください」
議長のこの発言の後、解散となった。
入ってきたのは人に羽が生えた鳥人族と呼ばれる種族。
高い山、豊かな自然に囲まれた高所で生活する彼らはこの付近の出身ではない。南の暖かい島に拠点を持っている。彼らは寒いのが苦手で、寒冷の時期は暖かい場所を求めて飛んでいく。
今回ここにやって来たのは寒さを逃れようと渡り鳥のようにやって来た鳥人族ではない。十中八九、白の騎士団のメンバーである最強に連なる一人だろう。
「ようこそ!お待ちしておりました!!」
また長達がどやどやと集まって歓迎する。
「フッ……余が一番乗りという事か……早いというのは罪であるな……」
キザなセリフと共に顔半分を隠しているサラサラの髪を掻き上げて、端正な顔が良い匂いと共に現れる。紫のアイシャドーをして、唇にはほんのり紅を差している。なめらかでシュッとした顔は中性的ではあるが、整えたキリッとした眉が男らしくハンサムさを醸し出している。
ピチピチの肌着とパンツでその体を強調し、鍛え上げられ、綺麗に割れた胸筋と腹筋が彫刻のようだった。まるでバレリーナの様に完璧な肉体は見ている者を魅了する。背中には彼の身長ほどでかい真っ白い翼が二枚生えていて美しい。
一応上着の様なものを羽織っているが、背中に布があると着るのも脱ぐのも大変だからか、首筋に襟を乗せて袖に手を通し、不思議な裾のあるコート紛いを腰にベルトを巻く事で固定している。
耳には自分の羽根だろうか、白い羽根をピアスに加工して取り付け、耳も着飾る。
腰に手を当ててモデルの様に決めポーズをして格好つけている様はまさにナルシスト。
「……あ、あのぅ、失礼ですがお名前をお聞かせいただいても?」
ここでも一応、議長が率先して質問をする。
「なんと!余を知らぬと!?……いや、仕方あるまい。景色こそ素晴らしいが、こんな田舎では吟遊詩人も寄りつくまいて……」
頭を抱える様に右手の指を添えて、それをゆっくりと振り払う様にまた腰の位置に持って行く。そして、頭を振って見下したような目線を作ると一段階くらい大きい声で自己紹介を始めた。
「余の名はアルォンツォ=マッシムォ!白の騎士団の要、”風神のアルォンツォ”である!」
まるで演劇の様な手ぶりと、もの凄い巻き舌で圧倒する。
彼の名は”アロンツォ=マッシモ”。
”魔断のゼアル””狂戦士ガノン”の人間と同じく、白の騎士団に鳥人族は二人在籍し、その内の一人”風神のアロンツォ”がここにやってきた。
「”風神”!まさか”天空の覇者”と言われたあの……!!」
小太りの商人は目を丸くして驚いている。分からない長達は疑問符を浮かべながら商人を見ている。
「ほう……余を知るものがこの国にいるとは驚きよ…大義である。そなたは余の伝説をこの者たちに語り聞かせるがよい。そなたは醜く余は見ていられないが、特別に語り継ぐ栄誉を与えよう」
傲慢な物言いで在り、この言葉に商人もイラっとするものの、へそを曲げられてせっかくの戦力を逃すのも惜しいので「あ、ありがとうございます……」と低姿勢でその場を収める。
アロンツォは満足げに頷きながら、キョロキョロと辺りを見渡す。
「ところで……今回他のメンバーはどなたが来られるのかな?」
一番乗りだと思っている彼は、余裕の態度でポーズを決めている。
「あ、ゼアル様とガノン様が待合室でお待ちです」
それを聞いて、「ん?」と顎を突き出す間抜けな顔を見せる。
「……余より早いと?あの人間共が?……いや、だがまぁ”魔断”は国に飼われた犬。時に敏感なあ奴なら一番に着くのも理解できるというもの」
「あっいや、確かガノン様が一番早かったかと……」
「Sta 'zitto(黙れ)!!」
アロンツォに突然大声を出され議長はビクッとして黙る。何を言ったか分からなかったが遮るほど苛立ったことが分かったのでそれ以上声が出なかった。アロンツォは細く長く息を吐き自分を落ち着けると、また余裕の顔で微笑を湛えて向き直る。
「……まぁよい。余も遊びで来ているわけではない。こんなことで乱れては評判が下がる一方よ。ほらほら、何をしておる?二人の元に案内するがいい」
手をひらひらさせて傲慢にふるまう。どちらかと言えば顎で使う方の長達が自分たちより格段に若く見える奴に顎で使われている状況が腹立たしい。
しかし目下戦争中である現在、何より力が順守される。いくら頭が良くて、他の国からも求められるような権力者であろうと、知識と経験での成り上がりであり、腕力など皆無。
まだどうなるかは分からないが、オークと頭脳戦をするのかと言えばそれは違うと思われる。腕力が全ての魔族に頭脳戦を仕掛ければ、癇癪を起してひき潰されるのは目に見えている。
だからわざわざ呼んだのだ。
国を守るため、民衆を守るため、自分たちを守るため、彼等には戦ってもらわなければ困る。
「……どうぞ、こちらです」
アロンツォを案内し、待合室にて三人の騎士が揃う。
「おいおい、マジかよ……なんで手前ぇが来るんだよ。普通”天宝”が来るだろ……こんなナルシストと仕事するなんざごめんだぜ……」
「普通?普通とは何であるかな?そなたは相変わらず視野が狭い。余がどれほど素晴らしいか、ここに来てどれだけ助かるか理解できぬのか?余も選べるのであればそなたの様な粗雑な阿呆ではなく”煌杖”の方が良いわ。」
出会い頭にお互いが否定しあう。
「久しぶりだなアロンツォ。貴様は変わらないな。ナタリアは息災か?」
ゼアルはアロンツォに好意的に握手を求める。それに何気なく答える。
「フンッそなたも変わらないな。ナターシャも相変わらず小うるさくて敵わん、余も手を焼いている」
ナタリアの話をする時は少し疲れた顔をして返答する。議長はこの三人の間に入るために機を窺い、頃合いを見計らって声をかけた。
「……それでは役者も揃いましたので、オークとの協議の段取りと、こじれた時の対処を話し合いましょう。会議室までお願いします」
「ようやくか……待ちわびたぜ。この鳥のせいでな……」
「ん?何か言ったかな?ボソボソ喋ってないで口を大きく開いてみてはどうかな?あ、失礼……やはりそのままでいてくれ。そなたは口が臭い」
ガノンは背負った大剣をガッと掴む。その状態でギョロリと擬音が鳴りそうなほど睨みつける。
「手前ぇ……ここで騎士団の席を一つ空けてやろうか?」
「なに?そなたの席を?それは残念、寂しくなるな……」
ミシッという音がなるほど食いしばり、怒りで気が高ぶっているのかガノンの周りが歪んで見えた。
「……ちょちょちょっ!?お待ちください!!魔族との戦いを前に人類で争ってはなりません!!」
議長は慌てて止めに入る。人類間の争い程、無意味なものはない。それにこの建物が壊されるのも勘弁願いたかった。
「何を遊んでいる?早くいくぞ」
ゼアルは全く慌てる事無く、それだけ言ってとっとと部屋から出て行く。
「は?それだけ!?ゼアル様!?」
議長はさらに慌てる。そこにガノンの連れのアリーチェが間に入ってきた。
「はいはーい。バカやってないで仕事仕事」
手を二回パンッパンッと打ってそのまま部屋を出て行った。その途端に徐々に怒りが収まっていく。剣の柄から手を離し「チッ」と舌打ちを打った後、アロンツォから視線を離しアリーチェを追って出て行く。
「おいコラァ!手前ぇに言われたかねぇんだよ!」
アロンツォは呆れ顔で両手を挙げて「お手上げ」をイメージさせると、おもむろに議長に目をやる。
「会議室はどこかな?案内をするがいい」
「……は?ああ、はい」
議長は「どうぞ」と前に出て案内する。正直、ガノンたちの後をついていけば会議室には着けるのだが、それはプライドが許さない。こんな感じで人類側の中でも最強と呼ばれる連中ですら「手を取り合って」という事が出来ない。
強いとは我儘の権化であり、自信とは傲慢の主軸である。
権力や腕力に関わらず、力を持つと言う事は即ち独断専行となり仲間意識が薄くなる。
「頂点は孤独」というのは並び立つものがいないとか、信用におけるものが少ないという他に我儘と傲慢が邪魔をするために起こるのだ。
だからこういった話し合いの席で話がまとまるはずがない。結局、遅延させるのはガノンとアロンツォ。それを制すのがゼアルという立ち位置で、休憩をはさみつつ半日掛かりで話し合いを終えた。
1、オークの主張を精査する。
この協議自体どういった理由で申し出たのか?その主張と内容を精査し、常に有利に立ち回る必要がある。昔からオークとの戦いは頭脳戦。罠にはめて狙いを外させ、完璧なタイミングで横合いから殴りつける。正面から打ち合えば勝ち目がないから、足をすくい続けて敵に不利な状況を作り出す。
舌戦自体は初めてとなるが、歴史が物語っている。オークは頭が悪いと。
2、オークとの協議内容には徹底した人類側の領有権を強く推し進める。
今の港に手出しされない様、進入禁止地帯をお互いに設け、以降、友好関係の構築を望む。あわよくば居住区の拡大も視野に入れた和平を提示する。あちらに譲歩する意思があるのかどうかに関して一切無いと思われるが、今後こういった協議などはそれこそ無いものと考え、譲歩の有無など度外視に伝える。
重要なのは、遜らない事。弱さを見せれば不利な条約を突き付けられる。白の騎士団がいるので強気に出る事が求められる。
3、癇癪を起した場合の対処。
オークとの協議は顔を突き合わせることになるが、あくまで話し合い。武器の持参に関して何も通達がなかったことから、禁止にするつもりはないだろうし、普通に持ち込まれるだろう。こちらから手を出すことの無いよう徹底する。
オークたちとの距離を開けて攻撃の間合いから外れるよう立ち回る。オークへの接近は白の騎士団のみ許され、議長を含めた選抜組三人は接近禁止。とは言え、遠距離攻撃も考えられるのでアリーチェが飛び道具に対する結界を張り、必要に応じて撤退する。その際はゼアルが指令を出し、逃げに徹する。
黒曜騎士団の小隊も同行する為、ゼアルを隊長にするのが望ましいと状況と多数決で決定した。
この大きく分けて三つを守り、協議に臨む。
「フッ今回はそなたに譲るが、次に同じ状況があれば余が司令官となる。覚えておくことだな」
「……だとするなら譲ってばっかだな……常にそれを主張し続けて恥ずかしくないのか?」
「下郎が……」「ガリガリ野郎……」と口喧嘩が絶えない。不安こそ残るが、ゼアルは頼れる男だ。協議も明日に控えているし、これ以上の贅沢は言えない。
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