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第五章 戦争
第十五話 夢か現か
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森王の下に急ぐ白の騎士団の一人、光弓のアイザックとエルフ最強の部隊グリーンケープの面々。その向かう足が空気を振るわせる咆哮にピタッと止まる。
やって来る何かに気を取られていると、魔法の壁を突き抜けたのは歪で巨大な魔獣。
「何だあれは……?」
アイザックは巨大な怪物に釘付けになる。その怪物の異様さもさる事ながら魔法障壁を突き破るほどの力と、何よりこの場所を把握してやって来たようなあり得なさに驚愕していた。この場所は魔法の障壁により不可侵領域となっていて、エルフの助けがなければ入る事も発見する事も出来ないからだ。
あの鏖ですらハンターの助け失くして入る事は叶わなかったのだ。今までどれほど強固だったのかうかがい知れる。
「「ゴルォォォォォ!!!」」
障壁の外で鳴いていた時とは全く違う。その咆哮は聞く者の心胆を震わせ、弱き者の心を挫く。数々の戦場を潜り抜けてきた歴戦の勇士であるグリーンケープの部下たちも震え上がって動けなくなっている。
そういうアイザックも足が震えている。自他ともに認めるエルフ最強の男がこのザマだ。部下に知られれば面目丸潰れである。アイザックは下唇を噛み締め、痛みで恐怖に耐える。
「た、隊長……」
不安がよぎる部下たちはアイザックを見る。アイザックはその視線を感じて魔獣から目を離し、部下を見渡す。
「狼狽えるな!今我らがやることは三つ!国民の避難誘導、魔獣への牽制、森王様たちの安全確保だ!部隊を別けるぞ!!」
国民の避難に十五人、魔獣への牽制に十人とアイザックを合わせた十一人、森王以下上層部の安全確保に十人。アイザックが魔獣に行くのは、本来誰も行きたがらない戦いであるからだ。
部下を信頼していないわけではなく、あの魔獣を前にただ戦いに赴かせるのは死ねと言っている事と同義。自分が参加すれば士気向上にもつながり、総合戦闘能力も格段に上がる。これが意味する事は生き残れる確率も飛躍的に上がるという事だ。
「奴を倒すことは我々では不可能だ!だが牽制と誘導なら出来る!少数精鋭で距離を保ちつつ冷静に対処するんだ!お前たちも避難誘導を任せたぞ!国民を一人残らず避難させろ!!散っ!!」
その号令と共に三方向にそれぞれ散る。近付くにつれてその全容が明らかになる。黒い毛は金属のように光沢を帯び、大鹿の角は鋼の刃のように鋭い。獅子の牙もゴリラの腕も尻尾の蛇も、どれも侮れない。戦わない方が良い事は明白。
アイザックと部下たちは弓に矢を番え、セオリー通り定位置に散らばり、周りを囲んで包囲する。しかし決してこちらから撃つことはない。戦端を開くのはあの巨大魔獣からだ。下手に刺激して周りを破壊し始めたら困る。
魔獣も何故かあの咆哮を以降、辺りを見回すくらいで動く気配もない。何が目的かと考え始めた時、何かがふわぁっと飛んできた。先程逃したラルフの取り巻きの一人。見た目はダークエルフにそっくりだが、その実強大な魔力を所有すると言われる最強の魔王”鏖”。侵入者の情報を森王の口から聞いた時は腰が抜けそうな程驚いたが、会ってみれば拍子抜けするほど普通の女の子に見えた。
羽もないのに飛んでいる所を見ると魔法か魔道具か。いずれにしても魔力とは便利なものだと感心する。エルフにも魔法はあるがどれも自然由来のものであり、特に草木に関する魔法を得意とする。空を飛ぶ魔法に関しては目下研究中といった所で、この魔法を使えるエルフはいない。
ミーシャが飛んでくると、ダークビーストの目はミーシャに照準を合わせる。他の物には目もくれず、三つの頭は全てミーシャを睨みつけた。
(……狙いは鏖か?だとするならはた迷惑な事だが……)
アイザックは弓をどちらに向けるべきか迷う。この巨大魔獣に向けてもダメージはなさそうだ。その点鏖は非力に見えるが最強と言われた魔王に果たして弓矢が通るのかどうか分からない。
そこで物理的な被害が大きそうなダークビーストの味方をする事にした。鏖を殺す事であの巨大な怪物がこの国から出て行ってくれるならそれに越した事は無い。
知性すらない魔獣であるなら鏖を殺したところで帰ってくれない可能性もあるが、これは賭けだ。他の部下たちが避難誘導をしているはずなので、万が一暴れ出しても大丈夫なはずである。
アイザックは弓矢から手を離し、口に指を咥えると軽い音で指笛を吹き始める。小鳥のさえずりにも聞こえる音にミーシャもダークビーストも一瞬気を取られたが、鳴りやむと何事もなかったように睨み合った。
分かるわけもない。この指笛はグリーンケープの仲間でしか解けない暗号となっている。要約すれば魔獣から鏖に矛先を変更すると言う事だ。きっと驚いている事だろう。何故?この魔獣の方が遥かに危険そうだし少しでもダメージを与えるならこの魔獣だろう?と。しかし部下たちはこの決定に文句も言わず鏖に照準を合わせる。気持ちではなく訓練がそうさせる。
準備は整った。後はどちらかが動くだけだ。
「さぁ、開戦の狼煙を上げろ……」
弓矢をいつでも撃てると構えて待つ。そして、数秒待たず動き出した。真っ先に動き出したのはミーシャだ。動き出しと同時に撃ちたかったが、それが出来れば生き物を辞めていると言えただろう。その姿は一瞬にして視界から消え、部下はおろかアイザックすら見失った。
思わず弓矢を下ろして探してしまう。直後、ガイィンッという金属音が辺りに響き、ダークビーストが吠えた。
「「グルァァ!!」」
デカい手を振るう。ただ振るっただけでも突風が巻き起こる。
「ぐっ……!なんてパワーだ!!」
この風の中では弓矢を飛ばす事は出来ない。自分たちが一瞬で無力になってしまった事を悟る。そんな中で金属音は幾度も鳴り響く。
ガイィンッ
ギャリッ
ギィンッ
「「グウォォ!?」」
ダークビーストの目が丸くなる。自分がダメージを受けている初めての出来事に驚き戸惑っているようだ。
「「ガアァァァァ!!」」
ドンッと地面を叩けば大地が揺れる。木の枝にいた部下も何人か予期せぬ地震で木から落ちる。こうなると地面に降りて木にしがみついている方が安全だ。殴った地面は強すぎる攻撃に耐えられずクレーターを作る。
「そこじゃない」
ミーシャは空中で転回しながらダークビーストの獅子の方の顔をぶん殴った。
ゴオォォンッ
デカい鐘のような音を鳴り響かせ獅子と大鹿の頭が玉突き事故を起こした。傍から見ていたアイザックはこの世の戦いと思えない現実を目の当たりにして木にしがみつきながら呟いた。
「……私は……夢でも見てるのか?」
やって来る何かに気を取られていると、魔法の壁を突き抜けたのは歪で巨大な魔獣。
「何だあれは……?」
アイザックは巨大な怪物に釘付けになる。その怪物の異様さもさる事ながら魔法障壁を突き破るほどの力と、何よりこの場所を把握してやって来たようなあり得なさに驚愕していた。この場所は魔法の障壁により不可侵領域となっていて、エルフの助けがなければ入る事も発見する事も出来ないからだ。
あの鏖ですらハンターの助け失くして入る事は叶わなかったのだ。今までどれほど強固だったのかうかがい知れる。
「「ゴルォォォォォ!!!」」
障壁の外で鳴いていた時とは全く違う。その咆哮は聞く者の心胆を震わせ、弱き者の心を挫く。数々の戦場を潜り抜けてきた歴戦の勇士であるグリーンケープの部下たちも震え上がって動けなくなっている。
そういうアイザックも足が震えている。自他ともに認めるエルフ最強の男がこのザマだ。部下に知られれば面目丸潰れである。アイザックは下唇を噛み締め、痛みで恐怖に耐える。
「た、隊長……」
不安がよぎる部下たちはアイザックを見る。アイザックはその視線を感じて魔獣から目を離し、部下を見渡す。
「狼狽えるな!今我らがやることは三つ!国民の避難誘導、魔獣への牽制、森王様たちの安全確保だ!部隊を別けるぞ!!」
国民の避難に十五人、魔獣への牽制に十人とアイザックを合わせた十一人、森王以下上層部の安全確保に十人。アイザックが魔獣に行くのは、本来誰も行きたがらない戦いであるからだ。
部下を信頼していないわけではなく、あの魔獣を前にただ戦いに赴かせるのは死ねと言っている事と同義。自分が参加すれば士気向上にもつながり、総合戦闘能力も格段に上がる。これが意味する事は生き残れる確率も飛躍的に上がるという事だ。
「奴を倒すことは我々では不可能だ!だが牽制と誘導なら出来る!少数精鋭で距離を保ちつつ冷静に対処するんだ!お前たちも避難誘導を任せたぞ!国民を一人残らず避難させろ!!散っ!!」
その号令と共に三方向にそれぞれ散る。近付くにつれてその全容が明らかになる。黒い毛は金属のように光沢を帯び、大鹿の角は鋼の刃のように鋭い。獅子の牙もゴリラの腕も尻尾の蛇も、どれも侮れない。戦わない方が良い事は明白。
アイザックと部下たちは弓に矢を番え、セオリー通り定位置に散らばり、周りを囲んで包囲する。しかし決してこちらから撃つことはない。戦端を開くのはあの巨大魔獣からだ。下手に刺激して周りを破壊し始めたら困る。
魔獣も何故かあの咆哮を以降、辺りを見回すくらいで動く気配もない。何が目的かと考え始めた時、何かがふわぁっと飛んできた。先程逃したラルフの取り巻きの一人。見た目はダークエルフにそっくりだが、その実強大な魔力を所有すると言われる最強の魔王”鏖”。侵入者の情報を森王の口から聞いた時は腰が抜けそうな程驚いたが、会ってみれば拍子抜けするほど普通の女の子に見えた。
羽もないのに飛んでいる所を見ると魔法か魔道具か。いずれにしても魔力とは便利なものだと感心する。エルフにも魔法はあるがどれも自然由来のものであり、特に草木に関する魔法を得意とする。空を飛ぶ魔法に関しては目下研究中といった所で、この魔法を使えるエルフはいない。
ミーシャが飛んでくると、ダークビーストの目はミーシャに照準を合わせる。他の物には目もくれず、三つの頭は全てミーシャを睨みつけた。
(……狙いは鏖か?だとするならはた迷惑な事だが……)
アイザックは弓をどちらに向けるべきか迷う。この巨大魔獣に向けてもダメージはなさそうだ。その点鏖は非力に見えるが最強と言われた魔王に果たして弓矢が通るのかどうか分からない。
そこで物理的な被害が大きそうなダークビーストの味方をする事にした。鏖を殺す事であの巨大な怪物がこの国から出て行ってくれるならそれに越した事は無い。
知性すらない魔獣であるなら鏖を殺したところで帰ってくれない可能性もあるが、これは賭けだ。他の部下たちが避難誘導をしているはずなので、万が一暴れ出しても大丈夫なはずである。
アイザックは弓矢から手を離し、口に指を咥えると軽い音で指笛を吹き始める。小鳥のさえずりにも聞こえる音にミーシャもダークビーストも一瞬気を取られたが、鳴りやむと何事もなかったように睨み合った。
分かるわけもない。この指笛はグリーンケープの仲間でしか解けない暗号となっている。要約すれば魔獣から鏖に矛先を変更すると言う事だ。きっと驚いている事だろう。何故?この魔獣の方が遥かに危険そうだし少しでもダメージを与えるならこの魔獣だろう?と。しかし部下たちはこの決定に文句も言わず鏖に照準を合わせる。気持ちではなく訓練がそうさせる。
準備は整った。後はどちらかが動くだけだ。
「さぁ、開戦の狼煙を上げろ……」
弓矢をいつでも撃てると構えて待つ。そして、数秒待たず動き出した。真っ先に動き出したのはミーシャだ。動き出しと同時に撃ちたかったが、それが出来れば生き物を辞めていると言えただろう。その姿は一瞬にして視界から消え、部下はおろかアイザックすら見失った。
思わず弓矢を下ろして探してしまう。直後、ガイィンッという金属音が辺りに響き、ダークビーストが吠えた。
「「グルァァ!!」」
デカい手を振るう。ただ振るっただけでも突風が巻き起こる。
「ぐっ……!なんてパワーだ!!」
この風の中では弓矢を飛ばす事は出来ない。自分たちが一瞬で無力になってしまった事を悟る。そんな中で金属音は幾度も鳴り響く。
ガイィンッ
ギャリッ
ギィンッ
「「グウォォ!?」」
ダークビーストの目が丸くなる。自分がダメージを受けている初めての出来事に驚き戸惑っているようだ。
「「ガアァァァァ!!」」
ドンッと地面を叩けば大地が揺れる。木の枝にいた部下も何人か予期せぬ地震で木から落ちる。こうなると地面に降りて木にしがみついている方が安全だ。殴った地面は強すぎる攻撃に耐えられずクレーターを作る。
「そこじゃない」
ミーシャは空中で転回しながらダークビーストの獅子の方の顔をぶん殴った。
ゴオォォンッ
デカい鐘のような音を鳴り響かせ獅子と大鹿の頭が玉突き事故を起こした。傍から見ていたアイザックはこの世の戦いと思えない現実を目の当たりにして木にしがみつきながら呟いた。
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