一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
169 / 718
第五章 戦争

第十九話 奪還作戦

しおりを挟む
 ラルフ達は落ちた場所から回り込んで祭壇に立つアトムの後ろを取った。鞄にあった鉤付きの投げ縄を投てきし、上手い事引っ掻けるとラルフが偵察の為、先にするすると登っていく。そっと顔を覗かせるとアトムを除いたエルフ達は皆耳を塞いで蹲っていた。

「……何してんだ?」

 ラルフ達はダークビーストの咆哮の余波を水の中に居た事で奇跡的に回避していた。水の中にも一応響いてはいたが、うるさい程度でしかなく恐慌に陥る程でもなかった為、エルフの行動はアトムがまた馬鹿な命令をしたように見えた。
 ラルフは登りきると下のブレイド達に手招きをする。登ってこいという合図だ。その合図でブレイドが先に登り、続いて森王が続いた。アルルとウィーはアルルの浮遊魔法で浮き上がり、縄の回収も合わせて祭壇に登る。

ダークビーストとミーシャの戦いが気になるのか、不意に振り向く気配もない。しかしアトムに気付かれたら今蹲っているエルフ達は皆すぐさま敵となって襲って来る。

――数分前――

「……どう思う?」

「どうもこうもないだろう……?奴が命令すれば全ての者が付き従う。国民も臣下も血縁ですらこの私が王である事を忘れ襲いかかる。最悪貴殿の仲間も敵になりうる。何せ奴の言葉を跳ね除ける事が出来なかったのだからな……」

 何をしても無駄である事を身を以て経験済みの森王は悲観に暮れる。だがこれが事実である以上どうしようもない。確かに最悪の場合ミーシャを除く最高戦力のブレイドが敵になる恐れがある。

「……なぁ質問なんだが、耳栓したらセーフだったりしないのか?」

 言葉が届かないなら操られる事もない。そう思ったが……。

「いや無理だ。考えないわけがないだろう?そのくらいの事を」

 半笑いで馬鹿にするように質問に答える。

「つまり試したのか?」

「ああ、そうだ。奴の言葉さえ聞かなければ何とかなると思っていた。魔法で聴覚をカットしたが、奴の言葉は聴覚ではなく頭に直接言葉を送る。その言葉が届く範囲内という制限こそあるが範囲内なら操られる。発声自体は喉を通して行われている。言い換えれば口さえ塞げばどうにかなるという事だ。それが出来れば苦労はしないが……」

 森王は頭を抱える。話を聞く限りでは元巫女や侍女たち、そしてエルフの騎士たちは信仰心が厚く、操るまでもなくアトムの為に動くらしい。唯一の便りはグリーンケープの面々でエルフェニア奪還作戦を計画していたが、ラルフ達がやって来て御破算となった。
 今回の件で色々思うところはあったものの、アトムに手をかざしただけで内臓を掴めるというサイコキネシスの様な新たな力があると判明したので結果的にやらなくて良かったと心から思った。ラルフは大体分かったといった顔で頷く。

「なるほど。そっと近付いて素早く口を覆う事が出来れば完封出来るわけか……」

「それだけでは不十分だ。奴は遠くからでも生き物を殺す術を持っている。我々では手をかざされただけで動けなくなってしまう……貴殿を除いて、な」

 ラルフを見る。その目には猜疑心と怒りと悲しみ、そして僅かな希望の輝きがあった。

「……俺がしくじれば?」

 その言葉に森王は前のめりにラルフを覗き込む。

「……その時は我々の……いや、エルフェニアの最期となるだろう」



 祭壇に上がったラルフは水底での会話を思い出して久しく感じていなかった緊張を感じる。

(国の最期だって?縁起でも無い事言いやがる……いやまぁ、事実だろうけどな。古代種エンシェンツが来た事を思えば有り得ない事なんて無いか……)

 古代種エンシェンツが巣を離れないのは子供でも知っている。人類の歴史が始まってから一度も持ち場を離れた記録が存在しないのだ。神を名乗る存在が自分の手下同然に扱っていることからも本来有り得ない事ばかりなので今更もすぎる。国の命運を賭けた作戦をここにいる五人でする事になるのだ。十分有り得ない。

「……それじゃエルフェニア奪還作戦。始めっか?」

 それが合図だった。アルルは槍を掲げて詠唱を開始する。

「……光に照らされし漆黒の囚われしひとよ。今この時この場所にその姿を現し、我が願いを聞き届けよ……」

 アルルの持つ槍に魔力が集中し、刃先に埋め込まれた水晶が光輝いた時、スッと地面に刃先を向ける。

「捕らえよ"影縛りシャドーバインド"」

 静かに、それでいて強い語気でその名を発する。するとアトムを抜いたエルフ達の影がニュッと伸びてアルルの言葉以上に静かに、迅速に部下を捕らえた。それと同時にラルフは走り出す。アトムに向かって一直線に。幸い完全に気を取られていたアトムは後ろから来るラルフに直前まで気付かなかった。

『……むっ?』

 振り向いた時にはすぐ目の前まで来ていた。本来なら手をかざすだけで相手は吹き飛ぶ。しかし、相手はラルフ。手をかざしても体を押すくらいしか出来ない。ラルフは布巾を巫女の口に当てる。

『むぐっ!?』

 手も抱え込むようにガッと掴むとラルフとアトムの距離はキスでもしそうなほど至近距離となる。

「ようアトム。少し話をしないか?」

 アトムは目を右往左往させて現状の打開を図ろうとする。後ろからやって来るブレイド達に手を向けようともがく。その手が仲間に向けば森王が言ったように手で触れてなくても殺す事が出来る。だが、焦る事はない。それも計算の内だ。ラルフは華奢な体をグッと抱え上げると祭壇の端っこまで持っていく。

「誰にも迷惑のかからない……水底でな!!」

 そういうとダッと祭壇から飛ぶ。そのまま自由落下で落ちていく。

(心中するつもりか!?)

 思ってもみなかった。ここで自分を犠牲にするような奴だとは夢にも思わなかった。相手を操ったり殺したりする力は持っていても、こんな状況を打開する手立ては持っていない。

(糞がっ……!!)

 ザブンッ

 二人が水面に消えた直後、元巫女が騒ぎ出す。

「アトム様ぁ!!」

 懸命にもがくも、囚われた影から逃げる事は出来ない。

「アルル殿!グリーンケープを解放してくれ!」

 森王は大声で伝える。アルルもそれに応じて弓兵だけは解放した。

「し……森王!これは一体……!?」

 グリーンケープの副長は森王に真っ先に反応する。

「今すぐこの場から退避する。騎士と侍女達を連れて移動を開始しろ」

「し、しかし……巫女は……」

 落ちた巫女の方が気になって仕方ないが、ガランッという音がして意識が音の方に向く。ブレイドは騎士達の鎧の留め具を外して後方に投げていた。

「話は後にしろ。今は私の言う事に従え」

 ブレイドも最後の騎士の留め金を外した所で声を出す。

「持ち物を身軽にして速く移動するんだ!ダークビーストは敵も味方もなく攻撃を仕掛けてくるぞ!すぐに安全な所に逃げるんだ」

「グリーンケープは騎士達を抑えて一緒に退避せよ!侍女達よ。貴殿らも死にたくなければグリーンケープに続け!」

 その言葉と同時に魔法を解く。体が解放され、影に縛られていた面々は手を地面に付ける。

「魔法は解除しました。もう動けますよ」

 アルルはウィーを引き連れてブレイドに合流する。

「貴殿達も退避するか?安全地帯を用意しているんだが……」

「いえ、結構です。俺達はここで戦います」

 ブレイドの目を見て森王も一つ頷くと元巫女に近寄る。

「……貴殿はどうする?ここで死ぬか?」

「森王様……」

 元巫女は森王の顔を覗き込むように確認する。その目は冷たく、自分がどうあがいても助からない事を知る。ここで死ぬか、反逆者として裁かれるか二つに一つ。
 元巫女は力なく項垂れて放心する。その様子を見ていた森王は侍女を見る。眉間に皺を寄せた怖い顔にビクッとして顔を伏せる。

「……連れていけ。一人も殺してはならん」

 それだけ言うと元巫女から離れて階段に向かって歩き出す。侍女は森王が離れたのを見計らってサッと近寄り、肩を貸すと立ち上がらせた。アトムと部下達の反乱は以外にも簡単に制圧出来た。それもこれもラルフがいたからである。水の中でゴボゴボともがきながら水底に落ちていく。ラルフはその頑張りを無視してドンドン潜る。意識が遠退いていく中で唐突に空気のある場所に出た。

「「ぷはっ!」」

 空気ポケットに着くと二人で息を吸う。気管に水が入ったのか「ゲホッゲホッ」と咳き込んでいる。

「……ハァッハァッ……よーしアトム。俺とお前だけだ。サシだぜ?」

 水底にその華奢な体を投げるとドカッと座る。

「ここは大体5分くらいで沈んじまう。それまでに決着をつけるぞ」

 息が落ち着いてきてラルフを見やる。目をパチクリさせて不思議そうに顔を見ていた。

「……あの……貴方は……一体、誰でしょうか……?」

 その声は上で聞いたような男の声ではない。その体に見合った可愛くも透き通った声に変わっていた。

「……ん?あれ?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...