一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第七章 誕生

第二十九話 利害の一致

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 北の大陸ガルドルド。
 寒く凍える大地に、ゾロゾロと軍隊が旗を掲げて行進する。赤い布地に白く剣と盾が描かれたこの旗はイルレアン国の旗であり、行軍の中心には重厚な馬車が走る。その中には頬杖をつきながら外を眺めるマクマイン公爵の姿があった。その顔は怒りに燃えているかの様なしかめっ面で、じっと遠くを見つめていた。公爵の向かい側にはフードを被った厚着の女性が杖を握り締めて俯いている。二人は一切会話する事もなく静かに座っていた。

 コンコンッ

 その時、馬車の前方の小さな窓がコンコンと叩かれた。公爵はその小窓をチラリと見る。御者を任された兵士が車内に向かって声を出した。

「公爵、もうすぐ第二拠点に到着します」

「……うむ、ご苦労」

 公爵は労いの言葉を掛けて、また外を見た。

「公爵……少しよろしいですか?」

 向かいで静かに座っていたホーンの女性は、ふと口を開いた。

「ああ、何かな?イザベラ=クーン」

「イザベラで大丈夫です」

 イザベラ=クーン。美しい金髪の髪は目を覆い隠し、飛び出た水晶の角からホーンであると分かる。肌を隠すほどの厚着だが、隠しきれない程に大きな胸の双丘が女性である事を主張し、ねじくれた何らかの金属に嵌められた水晶の玉の杖が彼女を魔法使いであると教えてくれた。白の騎士団が一人”煌杖こうじょう”と呼ばれる人類最高峰の魔法使いであり、響王に仕える最強の兵士だ。彼女は疑問に思っていた事を質問する。

「……突然現れた侵略者。彼等に会ってどうするおつもりです?我らの同胞が一方的に殺され、今ややりたい放題のアレらに……」

「会って話す」

 簡潔に一言だけを述べる。呆気に取られたイザベルに対して、一拍置いて続きを話す。

「彼奴等の今までの動向、目的、欲望を聞く。貴殿らの第二魔法隊の壊滅という被害は聞いた。それほどまでに強いというなら話し合い、双方の納得いく形で話を付け、最終的に利用する」

「なるほど……しかし、そう上手くいきますか?相手は人の形をした怪物ですよ?」

「上手くいかせるんだ。万が一の際は貴殿もゼアルもいる。私が案ずる事など無いさ」

 公爵は微かに笑った。

「……知っているでしょう?同胞の無残な死を……相手は規格外です。話など無駄に終わるでしょう……」

「……ふふ、貴殿は占い師だったのか?まだ起きてもいない事を知った風に言うのはどうかと思うがね。それに、資料から見たあの破壊的な攻撃。私の見立てでは、彼奴等の示威行為。交渉事を円滑にする為のパフォーマンスに過ぎない。現に彼奴等は響王に無理難題を押し付けていると聞く。交渉次第では味方に付けられると私は睨んだ。だからこそ私がこの地に来たのだ」

「……その直感があっている事を願います」

 イザベルは、また俯いて黙った。その意見には公爵も同意する。完璧に決まったと言うわけではない。あくまで仮説なので、経験則に無い行動をとっている可能性すらある。こればかりは運だが、公爵には予感があった。

「どの道このままでは魔族に負けるだろう。悲しい事だ……しかし、新たな力を取り入れられれば勝機は多分にある。まぁ見ているが良い。私は何としてでも成功させよう」

 自信に満ち溢れた公爵を鼻の頭まで伸びた前髪の隙間から見た。イザベルはこれ以上無粋な事を言わないように目を瞑った。そうこうしていると馬車が停止する。馬が一頭いななき到着を知らせた。ガチャリと扉が開く、そこに立っていたのは御者ではなく黒曜騎士団団長ゼアルだった。

「公爵、到着いたしました。どうぞお降りください」



 その男は石の上で寝ていた。足を地面につけ、腕を組んで俯いている。背中には巨大なバトルアックスが背負われ、使われる時を静かに待つ。その人物の馬鹿げたデカさときたら目を見張るものがある。全身筋肉の塊、直立すれば2mを超える身長に、重力を無視して立ち上がった髪は彼をさらに大きく見せた。目を瞑り、うつらうつらしている顔面は傷だらけで、戦いの痕跡を物語る。
 戦士と思われるその男が座るその石は”八大地獄”と呼ばれる不届きな連中が滞在するホーンの街と公爵が到着した拠点の丁度真ん中辺りにあった。ここに滞在する兵士に聞いた話では、相手側も交代で見張りについているらしく、本日の見張りはこの屈強な男だと言う事だった。公爵は少数の兵士と白の騎士団の二人を連れて、男の元へと近付く。最初こそ危険だと止められたが、公爵の変わらない意見に折れて、多くの兵士達は遠くで見守る形になった。

 大男に近付くものの、大男は一向に起きようとしない。本格的に寝ているのか、あと一歩踏み込めば襲いかかってくるのか、行動が予測出来ない故に察しの良いゼアルも測りかねていた。襲って来た所で斬りふせる自信はあるが、今回はこの不届き者達を仲間に引き入れるのが目的。殺す事は即ち公爵の意に反する事になる。注意深く様子を伺いながら徐々に近付いて行く。十分近付いた所で公爵が声をかけた。

「あー、すまない。起きているかね?」

「……フゴッ!」

 その声に反応する形でジュルジュルと音を立てながら涎を啜る。キョロキョロと周りを見渡すような仕草を見せた後、一番近くまで寄っていた公爵一向に目を向けた。

「あぁ?何だお前ぇら。許可も無く俺の間合いに入るとは命知らずも良いとこだな」

 首をゴキゴキ鳴らしながらぬぅっと立ち上がる。上半身は見事な逆三角形。それに比例する様に足も太く地面に根を張る。ちょっとやそっとじゃ突き崩す事の出来ない圧を感じた。しかし、そんな男に対して公爵は冷静に返答する。

「我が名はマクマイン。ジラル=Hヘンリー=マクマイン公爵である。貴殿達がホーンの王に再三に渡って要求してきた無理難題に関して、私から提案があり参上した。戦うつもりは無い。交渉出来る者と話をさせて欲しい」

 男は伸びっぱなしの無精髭をゾリゾリ指で撫で上げながら公爵の顔を見ていた。しばらく沈黙が続いたが、不意に男がニヤリと口角を上げた。

「……良いぜ。着いてきな」

 男は踵を返すとのっしのっしと歩き出した。後ろを特に気にせず歩くので身構えていた兵士達は慌てて着いて行く。街の敷地内には八大地獄が占拠してからというもの誰も立ち入る事が出来なかったが、今回は何事も無くすんなりと通されてしまった。不気味に感じている兵士達を尻目に、公爵はある種当然のように今の状況を受け入れ、男の後に黙って着いて行った。

「……は?何やってんのあんた」

 道中、男の仲間と思わしき女性が立ち塞がる。黒の際どいレザースーツに網タイツとニーハイブーツ。上にジャケットを羽織ったSM嬢を彷彿とさせる奇抜な女性。腰に鞭を下げて、これから嗜みに行くように見える。

「退けティファル。こいつらは交渉に来た客だ。ロングマンが言ってただろ?やっと重い腰を上げたって事だ」

 ティファルと呼ばれた女性はジロッと一向に目を向けた。公爵に目が止まると「ふーん」と納得したように道を開けた。

「どうでも良いけど、あんた少しは先に知らせるとか出来ないわけ?」

「出来ん相談だ。俺は不器用なんでな」

 ティファルのちょっかいを抜け、しばらく歩くと大きな建物の前に着いた。男の「ちょっと待ってな」の一言で待機していると、建物の入り口が大きく開かれた。そこには獅子を彷彿とさせる威厳ある男が和装で公爵達を見下ろしていた。

「遠路遥々よく来たな。我が名はロングマン。マクマイン公爵と言ったな?ジニオンから話は聞いた。待ちわびていた所だ。さぁ、入り給え」

 ロングマンと名乗った男は開け放った扉の端に寄り、中に招き入れるように建物内を手で差した。名をジニオンというらしい大男もロングマンとは逆側の扉に手を掛けて、手招きしている。ゼアルは目を細めて二人を見ていた。公爵に近寄り、そっと耳打ちする。

「……公爵、こいつらは規格外です。中に入れば私でも守りきる自信はありません。本当に行くのですか?」

 ゼアルの危険信号に対して公爵は白い歯を見せる程ニヤリと笑った。

「ああ、当然だ。むしろ貴様のお陰で行かざるを得ない状況となった。感謝する」

 公爵は怖いものなど無い様に堂々と、それ以上に嬉々として建物に入って行った。そこで行われた会談は有意義なもので、ゼアルをして危険だと言わせた連中を仲間に引き入れる事に成功する。どちらかがどちらかの下に着くという事ではなく、利害の一致という極シンプルな理由から互いに手を取り合った。最新の通信機を手渡し、使用方法などを伝えると、無事に街から出る事を許される。和睦は成った。公爵はほくそ笑む。

「……首を洗って待っていろ……ラルフ」
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