一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
265 / 718
第七章 誕生

第三十三話 訪問者

しおりを挟む
 エルフェニアを後にしたラルフ達は、第二候補を目指して空を進んでいた。この間に特にやる事のないラルフはベランダから顔を出し、風に当たりながら一人で外を眺めていた。ふと、空を飛ぶ多くの影を目撃する。

「……ありゃなんだ?」

 目を凝らすと羽が生えた人型の生物だと認識出来た。この情報だけで考えられるのは魔鳥人かデーモンか翼人族バード。魔鳥人はつい最近かなり数を減らしている。カサブリアの件を踏まえれば、今移動するのは考えられない。

「アスロンさん」

 虚空に話しかけるとすぐに反応があった。側に魔力が収束してその姿を現す。

「どうした?ラルフさん」

「あの影が見えるか?」

 アスロンは伸びきった眉毛を上げて目を見開く。良く分からないのか唸ってばかりで要領を得ない。

「望遠レンズで見てみるわい。少し待ってくれい」

 そう言うと棒立ちのまま黙ってしまった。今きっとこの要塞の機能を操作しているに違いない。この瞬間にも飛んでいるモノの姿が確認出来ないか目を見張る。その時、ある違和感に気が付いた。

「あれ?なんかこっちに近付いてる?」

 本来それはあり得ない。この要塞の機能の一つに”隠蔽”が存在する。それもかなり優秀なもので、この要塞が灰燼の物だった頃、ミーシャと共に目の前まで行ったのに発見出来なかった。エルフが所有する”天樹”で見つけてもらえなければどうしようもなかった程だ。だからもしこちらに来ているというなら、向こうはこちらの存在に気付いていないと考えるのが普通だ。

「……見えた。あれはバードじゃな」

 アスロンが冥想状態から帰ってくる。

「回避は可能か?」

「ううむ、やってはみるが期待せん方が良いのぅ」

 ラルフの肉眼で飛ぶ影が見えたという事はかなり近い。それもこちらに近付いて来る事を思えば、魔障壁との接触は免れない。別に無理に避ける必要も無い。ぶつかった所でこちらには何の支障も無いのだ。しかし、当たらないのであればそれに越した事は無い。こちらの情報は変わらず隠せるし、あちらも何も気にする事無く通り過ぎる事が出来る。

「あ、こりゃいかん、予想以上に向こうが早い。やはりちと難しいわい」

「じゃ、しょうがない。そのまま回避行動をとりつつ移動。当たっても無視で」

「了解じゃ」

 ゆっくりと進路を外れて要塞は回避行動を取る。

「ん?」

 アスロンはその時妙な事に気付いた。

「……ラルフさん。どうやら狙いは儂らじゃ」

「は?」

「回避行動に合わせて向こうも進路を少し変えた。元よりこの要塞を目指しておる様じゃぞ」

 ラルフは考える。肉眼では見つけられない要塞だが、エルフご自慢の巨大樹の力を使えば見つける事が出来た。となれば当然、肉眼以外なら見つける方法はあるという事。

「……魔力か?この要塞の魔力を辿って来たのか?それともエルフが天樹を使用して探索を掛けたか……」

 だとしたら拠点を置く事を許してくれたのに飛んだ裏切り行為だ。元より味方でも何でも無いと言われてしまったらそれまでだが。

「仕方ない、移動を停止して待機。ミーシャ達を招集してくれ」

「……まだミーシャさんは寝てる様じゃが……」

「……じゃ、ミーシャは良いや」

 そういう話をしていると、不意に大声が響き渡った。

「そこな透明の物体!!居るのは分かっている!すぐに姿を現せぃ!!」

 やたら偉そうにしているバードが、他のバード達より少し前に出て踏ん反り返っている。スラッとした体躯に見事な槍を携えたその男をラルフは知っている。

「おいおい……もしかしなくてもあれって……」

 ラルフは自分の記憶の中にある男と照らし合わせる。間違いない。その男の名が頭にぎった時に、男がまた声を張り上げた。

「余の名はアルォンツォ=マッシムォ!白の騎士団の要、”風神のアルォンツォ”である!」

 アロンツォ=マッシモ。白の騎士団で一、二を争うくらいに有名な戦士。彼の功績もさる事ながら、この主張の激しさとイケメンである事も手伝って、若者からアイドル的な人気を博しているらしい。

「……どうするんじゃ?」

「面倒だな。今すぐお帰り願いたいが、あの様子だと何か目的があるな……隠蔽効果だけを解除してくれ。目的を聞いてみよう」

 その言葉にアスロンは頷いて手を上にかざす。それと同時にバードは驚いた様に慌て始める。ここからでは良く分からないが、きっと隠蔽が解けて目の前に要塞が現れたのだろう。あまりの大きさに驚いたのかも知れない。

「狼狽えるなぁ!!」

 アロンツォは部下に喝を入れてラルフを見据えた。

「話がある!魔障壁を開き、余らを中に入れよ!!」

「魔障壁はちょっと……そこで話せない事なのかぁ?!」

「全て大声で語れと言うのか?!襲撃に来たのでは無い!煩わしい真似は止そう!!」

 一言二言では終わらない事らしい。どうするか決めあぐねていると後ろから声を掛けられた。

「開けてやれ」

 ベルフィアがニヤニヤしながら立っていた。

「えぇ……入れんのか?なんか面倒臭そうだぜ?」

「無視して行っても良いが、目的地まで付いて来られル方が面倒ではないかノぅ?迎撃もありじゃと思っタが、元よりそノつもりは無い様じゃし、あル種ノ暇つぶしに使ってやろうではないか」

 確かにベルフィアの言う通りだ。こちらから攻撃するつもりは無いし、やり過ごせるならそれがベストだと考えていた。しかし、どうやったか相手はこちらを認識し、必要なら延々と付いて来そうな空気を持っている。中に引き入れて話を聞き、お引き取り願う他に平和的解決は無い。そこにブレイド達が走ってやって来た。

「ラルフさん!襲撃ですか!?」

「いや、一応話に来たと言ってる。話聞かないと帰らなそうだから招き入れる事にしたよ」

「えーっ?大丈夫なんですか?そんなホイホイ入れちゃって……」

「分からん」

 ラルフのテキトーな感じに駆け付けたジュリアや長女のメラが不快感を示す。

「無用心 過ギルデショ。中ニ入ッテ暴レラレタラドウスンノ?」

「そうですわ。せっかくわたくし達が丹念にお掃除したのにまた滅茶苦茶にする気ですの?」

「……んー、もしそういう事になったら戦闘はお前らに任すよ」

 招き入れる事に変わりない様だ。こうなったら覚悟を決めるしかない。

「誰かミーシャを起こしに行ってくれ。あ、ミーシャの自室じゃなくて俺の方な」

 その声にエレノアが手を挙げた。

「私が行こう」

「よろしく。んじゃアスロンさん、魔障壁の解除頼むわ」

「了解した」

 ラルフは外に顔を向けて大声を出した。

「よーし、風神さん!今から魔障壁を解除する!俺と話し合おう!!」

 それを聞いてアロンツォは笑う。

「そう来なくては面白く無い!さっさと解除せよラルフ!!」

 程なく魔障壁は解除された。バード達は一斉に羽ばたいてラルフが顔を出していた場所までやってくる。バードがわざわざ死地に飛び込んでまで話し合う事とは痛い何なのか。ラルフは興味半分、面倒臭さ半分でアロンツォと対面した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...