一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
266 / 718
第七章 誕生

第三十四話 招待

しおりを挟む
 この要塞には応接間の様な場所はない。空き室を改造すれば用意出来ない事も無いのだろうが、急に来られた客に対応するには用意に時間がかかりすぎる。現在一番片付いている食卓に通すのがこの場合の最適解である。大きく長いテーブルにバード側とラルフ側で対立する様に座る。

「ほう、良く出来た建物であるな」

アロンツォは周りを一瞥しながら椅子に腰掛けた。

「外観を確認した時はどんな建物かと思ったが、中は意外にちゃんとしていて驚いたよ」

 端正な顔に紫のアイシャドーが際立つ。顔面偏差値の差を肌で感じながらラルフとベルフィアが席に着いた。他は遠慮して立っている。壁際にはメイド服を着たデュラハンがズラッと並んでいた。未だ来ないミーシャとエレノアを差し置いてラルフは会話を開始した。

「……それで……風神ともあろうお方がわざわざ来た理由を聞いても良いかな?」

 ラルフは肘をつきながら質問する。アロンツォも机に身を乗り出してそれに答えた。

「……余の陛下からの書状と伝言を伝えに参った」

「陛下じゃと?」

「バードの王ってのは空王の事だ。人族の王の中で唯一の女王。そんな陛下からのお達しとは一体……」

 ラルフがアロンツォを見据えると、アロンツォは鼻を鳴らして背後に控える部下を見た。部下は腰に下げていた書状を手に取ると、アロンツォに手渡した。アロンツォは丸められた羊皮紙を二、三度振りながら告げる。

「これがそなた宛に書かれた書状だ」

「え?俺宛に?」

 ラルフはベルフィアやここに居ないミーシャを目に浮かべつつ疑問を呈す。自分など言わば仲介人程度にしか過ぎず、名指しされる様な存在では決して無い。
 つい先日の王の集いでの存在アピールが効いたのかもしれないと密かに思いながら、羊皮紙を受け取った。開いて見ると確かにラルフの名が刻まれている。その内容を咀嚼しながら自分なりに答えを出す。

「なるほど。つまり俺とサシで話したいと?」

 チラリとアロンツォを確認すると肩を竦めた。

「内容は知らんよ。余に書状を拝見する権利があるとでも?そう書いてあるのではそう言う事なのだろう」

「え?なんて書いてあるんです?」

 後ろでブレイドが口を挟む。それに対してアロンツォは鼻で笑った。

「大人の会話に口を出すものじゃ無いぞ坊や。ここに居られるだけでも有難いと思い、静かに控えているが良い」

「……何?」

 ブレイドは眉間にしわを寄せる。
 アロンツォはそんな目にも涼しい顔で対応する。

「ふふ、中々の面構えよ。カサブリアでの戦いを共に分かち合っただけはある。しかしながらそれとこれとは話は別。余はこの男と会話している。余の部下が待機しているのを見て何も思わんのか?」

 ブレイドはアロンツォの部下を見て黙る。自分が間違った事をしているのだと感じさせられて言い返せなかったからだ。そんなブレイドの空気を敏感に感じ取ったラルフは頭を横に振りながら不敵に笑った。

「おいおい、勇者の倅に対して随分な言い様だな。気にすんなブレイド、ここは俺達の城だ。好きに喋りな」

 それはアロンツォに対する宣戦布告でもあるのだが、ここはバード達にとっては敵地。少しでも優位に立つ為に行った牽制は無駄に終わった。アロンツォは面白く無さそうな顔で静かに息を吐いた。ラルフは書状に目を落としながら全員に聞こえる様に咳払いで喉の調子を整えた。

「ここに書いてある事は要するに、空王生誕祭の式典に関する招待状だ。そんなめでたい行事に俺の為に席を用意すると書いてある」

「ん?なんじゃ、そちだけか?」

「そうだな。見返して見てもこれには仲間の事は触れてない」

 書状ではラルフの名前と生誕祭に関する要項、その他催し物に関してが記載され、最後に日時が記載されている。

「当然であろう?そこの少年と少女ならいざ知らず、他は魔族ではないか。人族の国に魔族を入れるなどあり得ぬ。と言うよりこの式典に参加出来る他種族など居ないのだぞ?光栄に思い、二つ返事で受けるが良い」

 かなり上から目線だ。元からナルシストだと言う情報があるので驚きもないが、言われているこちら側からすれば不快そのもの。ラルフは書状を机に置いて手を組む。

「いや、応じられないなぁ」

「断るだと?そんな事は許さん。何が不満だ?そうか怖いのだな?案ずる事は無い。余が直々に警護についてやろうではないか。どうだこれで?」

 アロンツォは胸を張って踏ん反り返る。しかしラルフは手を横に振りながらそれを否定した。

「はは、違う違う。……いやごめん、言う程違う事は無いや。一人で行くのが怖いってのは確かだし、完全に否定はしないさ。ただ仲間が居ないんじゃ辞退するしか無いな」

「そなた仮にも成人男性であろう?仲間が居らんと来れんとはどう言う事だ?余が警護すると言うに、何が不満なんだ?」

「そのまんまだよ。俺達はチームであり、家族であり、一心同体。どんな時であれ共に行動する。もしこれを脅かすなら参加する事は決して無い。あんたらの陛下にそう伝えてくれ」

 明確な拒絶。普段のアロンツォなら槍を掲げて攻撃に移るが、そういう訳にはいかない。ラルフを殺すのは容易いが、地上最強の魔王として名の知れたミーシャが居るこの要塞から逃げ切れるとは思えないし、何より敬愛する陛下に何としてでも参加させる様に言われた身としては引き下がれない。部下がそっと耳打ちする。

「アロンツォ様。ここは一度引いて陛下にご意見を仰ぐのがよろしいのでは?」

 一度大きく息を吸って心を落ち着けると、部下に後ろに下がる様に手を振った。

「……よかろう。今回に限り特別に入国を許可する」

 その言葉に部下達がざわつく。

「そんな馬鹿な!」「それは越権行為ですぞ!」など、口々に騒ぎ立てるも、アロンツォの指一本で部下達は口を閉じた。

「失礼した。こちらも人の事は言えないな」

 先のブレイドへの暴言を謝罪する形となった。ラルフはアロンツォの発言を拾って質問する。

「入国に関する事柄だけど、本当に入って平気なのか?後ろの反応を見るに駄目っぽそうなんだけど……」

「部下が何と言おうと、この風神が許可を出している。案ずる事は無い」

「急に素直じゃな。怪しさ満点じゃが信用出来ルかノぅ?」

 ベルフィアはいやらしい笑みを浮かべながらアロンツォを挑発する。そんなベルフィアに笑い返すと席をたった。

「余に二言は無い」

 アロンツォはそれだけ言うと踵を返した。最初に入ってきたベランダに向かう気だろう。ラルフも席を立つとバード達を呼び止めた。

「待てよ。今から帰って決める事とかあるだろ?そう言うのは追って連絡してくれたりすんのか?」

「その必要はない。その書状に書いてある事が全てだ。……いや、陛下から伝言を賜っていた」

 アロンツォは振り返ってラルフを見据えた。

「楽しみに待っている。素敵な祭典となる様に準備をしているので、ドレスアップして来るようにとの事だ。日時に変更はない。遅刻しない様に頼むぞ」

 アロンツォはそれだけ言って歩き去る。その後ろをデュラハンがベランダまで付き添っていった。ラルフは机に広げた書状を手に取ると何度か読み返す。

「……どうします?」

 アルルが声をかけた。

「とりあえず期間はまだあるし、第二候補に行った後でバードの王国に行ってみるか」

 この話し合いの最中、ずっと黙っていたアンノウンは肩を竦めて口を開く。

「なんて言うか、鼻持ちならない奴だね。行っても平気かな?」

「まぁ全員でいけるなら、そう怖い事も無い。てか、ドレスコードあるのか……どっかで見繕わなきゃ駄目だな……」

「祭典ダカラ当然。デモ アタシノハ良イヨ。参加スル気無イカラ」

「え?なんで?一緒に行こうよ。私が寂しい事になるよ?」

 アンノウンとジュリアは仲が良い。同時期に入ったからか、親近感があるのだろう。ラルフはそんな微笑ましい空気をよそに一人思案に暮れていると、おもむろに扉が開いた。

「……おはよ~、何かあった~」

 そこには欠伸をしながら入って来るミーシャの姿があった。

「のんきなもんだよな、全く……」

 ラルフは呆れた様に肩を竦ませながらも、ミーシャの寝惚け眼に和むのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...