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第七章 誕生
第三十五話 長閑な山村
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そこは深い深いジャングル。この近くに住まう小人族からは「命要らずの深淵」として悪名高い洞穴が存在する湿度の高い森。そんな洞穴から鎖まみれの小汚いおじさんが顔を覗かせた。
「ううむ……ここも違ったかぁ……」
頭を掻きながらのそのそと出て来る。後ろには目玉の無い猿の様な怪物がキーキー吠えて囃し立てている。その猿はその辺に落ちていた石を拾い上げると、目にも留まらぬ速さでその男に石を投げつけた。石は背中から胸を貫通し、近くの木にぶち当たる。
男の背中から貫通した穴はまるで逆再生の様に回復していく。元から攻撃などされていなかった様に傷が塞がると振り向いて頭を下げた。
「ああ、もう悪かったってぇ。巣に入ったのは謝る。荒らしたりしてないんだからそろそろ勘弁してくれよぉ」
猿の魔獣「ケイブモンキー」は視覚を必要としない暗闇に特化した進化を遂げている。僅かな音や触覚に頼って生きている為に、巣に入った他種族に粘着質につきまとう。力が強いので、ただの投擲がまるで銃弾の如く敵を襲う。洞穴の中堅レベルの力を持つ彼らに付きまとわれれば、下手な冒険者では即命を落とす。上層でも「デスワーム」や「ヘルリザード」など挙げたらキリが無い程に攻略不可能な場所である。
そんな凶悪極まりない場所から無傷で帰ってこれたのは、彼の体に巻きついた呪いの鎖のお陰だ。
彼の名は藤堂 源之助。この世界に魔族や魔獣をもたらした災厄の男。現在もこの世界の理から脱しようと日夜旅を続けている。
洞窟を後にした藤堂を猿達は入り口で見送った。猿達が外に出る事は無い。巣の中にある鉱物に含まれた栄養を取らなければ長く生きられない性質を持っているからだ。もしこれが無かったらハーフリンクはこの近くに村を置いてはいなかっただろう。
「あの遺跡はもう関係なくなっていたのかぁ……こりゃ益々厳しい事になりそうだなぁ……」
当てにしていた異次元への扉の鍵を失った藤堂は途方に暮れる。一度ハーフリングの村に戻って態勢を立て直すか考えていた所、カサカサと茂みが揺れた。それに気付いて茂みを眺めていると、可愛らしい顔をしたハーフリングが顔を覗かせた。
「おじさんっ!」
「おお、フィンレー。こんな所で何をしとる?」
茂みから飛び出して来たハーフリングを屈んで迎える。
「あの深淵に入ったって聞いたから心配で近くまで来てたんだ。無事みたいで良かったぁ」
心から安堵してくれる心優しい男の子に笑顔を見せた。
「はっはっ!そうかそうか、ありがとうフィンレー。俺ぁこの通りピンピンしとるわ。心配かけてすまねぇ」
フィンレーはまじまじと藤堂を見た。
「……おじさん本当にあそこに入ったの?全然怪我してないよ?」
「おうよ。俺ぁな、傷ついてもたちまち治っちまう凄ぇ力があるからよぉ。真似して入ろうなんて絶対ぇ思わねぇこったな。あっこは本当に死んじまうからよぉ」
「そんなのがあるの?!凄い!見せてよおじさん!」
「好奇心旺盛だねぇ、ハーフリングってのぁよ。いいぜぇ、但し村に戻ってからにしようや。ここは陰気臭くて敵わねぇ……」
ハーフリングはその言葉に快諾し、藤堂の手を引っ張って村まで急いだ。
*
「今日はこちらで寝泊まりして下さい」
長老に案内されたのはハーフリングが使う村の集会場。ハーフリングは常人の半分ほどしか背丈がないので、藤堂ほど小柄な男にとっても少し天井が近く感じていた。フィンレーが自宅に泊めてくれると言ってくれたが、もし壁や天井に穴を開けては申し訳ないと、長老に相談したのだった。
「いやぁ悪いねぇ長老さん。俺の様な流れもんにこんな場所を貸してくれるなんてよぉ」
「どうぞどうぞ好きに使ってください。わしらはこの村から出ません故、旅のお方は歓迎しております。特にトウドウさんのお話は興味深いものが多々ありまして、わしも興奮冷めやらぬ気持ちで聞かせて頂いております。もうしばらく滞在頂ければ嬉しいのですが……」
「そうかい?嬉しい言葉だがすまねぇなぁ、俺ぁそう長くは居られねぇ。次の場所に探してるもんがあるかもだからなぁ」
その言葉にあからさまに肩を落とす。
「……そう、ですよね。申し訳ない。わしらの一方的なわがままを押し付けてしまって……」
「あ、お?そ、そんな事ぁねぇぞ?寧ろこっちがわがまま言っとるくらいだからなぁ。そう落ち込まんでくれ、村から出にくくなっちまぁな……」
身振り手振りで慌ててフォローする。長老は苦笑いで頭を下げた。そんな姿に居た堪れなくなった藤堂はハッと思いついた顔で返答した。
「おっ!そうだそうだ!ここには行商人が来るって噂だったなぁ!」
「え?あ、はい。異国の文化を持ち込んで頂いております。ここには金銭があまり無いので物々交換となっておりますが、名産品を出しておりますので向こうもそれで満足を……それが何か?」
「いや、なに。その行商人に移動を手伝ってもらおうと思ってよぉ。それまではここに居るってのはどうかなぁ?」
それを聞いた途端に長老の変化は著しかった。
「是非っ!!」
それに対して藤堂は苦笑いで長老に頭を下げた。
*
(この村で早一週間とそこいらかぁ……)
情報から閉ざされた世界で生活していると何もかもどうでも良くなってしまうのは、どこに居ようと同じだとハッキリ分かる。特にここの生活は長閑なものだった。人類の安息地と呼ばれる「アルパザ」とは比べ物にならない程に平和でつまらない。情報から途絶されいる為に、ここの村も知られる事がないというだけの話だが。
今日は待ちに待った行商人が村にやってくる日。村のハーフリング達もそわそわして、いつもなら藤堂に話をせびるフィンレー達も家の飾り付けなんかで忙しそうだ。行商人がやって来るこの日は、月に二度あるか無いかのお祭りになる。
「本当にこの世界には色んな種族がいるよなぁ……」
詮無い事を感じていると、ハーフリングの若者が村の入り口ではしゃぎ始めた。
「みんな!来たよ!!」
得意の笛や太鼓を鳴らして行商人を招き入れる。楽しい空気に満ち溢れた自然豊かな村に、軽快な足音を踏み鳴らして馬車を引く馬達の姿はまるで絵本のワンシーン。幌馬車の中には沢山の商品が所狭しと並んでいる事だろう。一列に並んだ馬車の先頭を操る御者の姿はどこかで見た事のある雰囲気を漂わせていた。
「おや?ありゃぁもしや……」
多くのハーフリングに混じって行商人の所に向かう。ワイワイして引っ張りだこの男に声を掛けた。
「なぁあんた、ちょっと良いかい?」
「おや?見慣れない顔だな。こんな場所でヒューマンに会えるとは珍しい事もあったもんだ」
その男の風貌は草臥れたハットにやたらポケットの付いた上着を着ている。ボサボサの白毛混じりの髭を剃らずに放置しただらしない印象を与え、貫禄のあるビールっ腹と顔に刻まれたシワは、この男が老齢である事を知らせてくれた。近くに寄って気付いたが、出会った男とはシルエットが少し違う。
「ああ、いや。俺の知ってる男に似てると思って声を掛けたが人違いの様だ。すまねぇ……」
あの時に出会ってからそんなに月日は流れていないはずだし、こんなに年を食うはずも無い。ハーフリングの商売の邪魔にならない様にすごすごと下がろうとするが、その老人に呼び止められる。
「俺に似てるってーと、息子に会ったって事かい?」
その言葉に足を止める。
「……お尋ねしたいが、ラルフさんってのはもしや……」
「おおっ!そうよ、そう!!俺の息子だ!!」
すぐ後ろに着いて来ていた行商人仲間に商品を任せると、藤堂と話し始めた。
「いやぁキャラバンを飛び出してこっち、一度も顔を出さねぇんだ。もう死んでも会えないと思ってたんだが……そうか、元気にしてんのか……」
「俺ぁあの方々に助けてもらって感謝しているんです。こんなとこでまさか親族に会えるなんて、こりゃぁ何かの縁ですわなぁ」
二人で会話に花を咲かせる。
「トウドウさん、あんた此処から出るのに苦労してんだろ?」
「はは……皆が離してくれんからなぁ……」
「なら丁度良い、俺の馬車に乗りなよ。つか元よりそのつもりだったろう?」
「これは、願っても無いお誘い。どうかよろしくお願いします」
二人手を取り合って親交を深めた。
「時に変な事聞くんだけどよ。最近ラルフが懸賞金を懸けられちまっているんだが、まさか俺の息子じゃねぇよな?」
「ラルフさんが?そりゃ知らんかった。ふぅむ、さてはあれやも知れん。心当たりがあるから馬車で話しましょうか」
「おお、是非にも」
「ううむ……ここも違ったかぁ……」
頭を掻きながらのそのそと出て来る。後ろには目玉の無い猿の様な怪物がキーキー吠えて囃し立てている。その猿はその辺に落ちていた石を拾い上げると、目にも留まらぬ速さでその男に石を投げつけた。石は背中から胸を貫通し、近くの木にぶち当たる。
男の背中から貫通した穴はまるで逆再生の様に回復していく。元から攻撃などされていなかった様に傷が塞がると振り向いて頭を下げた。
「ああ、もう悪かったってぇ。巣に入ったのは謝る。荒らしたりしてないんだからそろそろ勘弁してくれよぉ」
猿の魔獣「ケイブモンキー」は視覚を必要としない暗闇に特化した進化を遂げている。僅かな音や触覚に頼って生きている為に、巣に入った他種族に粘着質につきまとう。力が強いので、ただの投擲がまるで銃弾の如く敵を襲う。洞穴の中堅レベルの力を持つ彼らに付きまとわれれば、下手な冒険者では即命を落とす。上層でも「デスワーム」や「ヘルリザード」など挙げたらキリが無い程に攻略不可能な場所である。
そんな凶悪極まりない場所から無傷で帰ってこれたのは、彼の体に巻きついた呪いの鎖のお陰だ。
彼の名は藤堂 源之助。この世界に魔族や魔獣をもたらした災厄の男。現在もこの世界の理から脱しようと日夜旅を続けている。
洞窟を後にした藤堂を猿達は入り口で見送った。猿達が外に出る事は無い。巣の中にある鉱物に含まれた栄養を取らなければ長く生きられない性質を持っているからだ。もしこれが無かったらハーフリンクはこの近くに村を置いてはいなかっただろう。
「あの遺跡はもう関係なくなっていたのかぁ……こりゃ益々厳しい事になりそうだなぁ……」
当てにしていた異次元への扉の鍵を失った藤堂は途方に暮れる。一度ハーフリングの村に戻って態勢を立て直すか考えていた所、カサカサと茂みが揺れた。それに気付いて茂みを眺めていると、可愛らしい顔をしたハーフリングが顔を覗かせた。
「おじさんっ!」
「おお、フィンレー。こんな所で何をしとる?」
茂みから飛び出して来たハーフリングを屈んで迎える。
「あの深淵に入ったって聞いたから心配で近くまで来てたんだ。無事みたいで良かったぁ」
心から安堵してくれる心優しい男の子に笑顔を見せた。
「はっはっ!そうかそうか、ありがとうフィンレー。俺ぁこの通りピンピンしとるわ。心配かけてすまねぇ」
フィンレーはまじまじと藤堂を見た。
「……おじさん本当にあそこに入ったの?全然怪我してないよ?」
「おうよ。俺ぁな、傷ついてもたちまち治っちまう凄ぇ力があるからよぉ。真似して入ろうなんて絶対ぇ思わねぇこったな。あっこは本当に死んじまうからよぉ」
「そんなのがあるの?!凄い!見せてよおじさん!」
「好奇心旺盛だねぇ、ハーフリングってのぁよ。いいぜぇ、但し村に戻ってからにしようや。ここは陰気臭くて敵わねぇ……」
ハーフリングはその言葉に快諾し、藤堂の手を引っ張って村まで急いだ。
*
「今日はこちらで寝泊まりして下さい」
長老に案内されたのはハーフリングが使う村の集会場。ハーフリングは常人の半分ほどしか背丈がないので、藤堂ほど小柄な男にとっても少し天井が近く感じていた。フィンレーが自宅に泊めてくれると言ってくれたが、もし壁や天井に穴を開けては申し訳ないと、長老に相談したのだった。
「いやぁ悪いねぇ長老さん。俺の様な流れもんにこんな場所を貸してくれるなんてよぉ」
「どうぞどうぞ好きに使ってください。わしらはこの村から出ません故、旅のお方は歓迎しております。特にトウドウさんのお話は興味深いものが多々ありまして、わしも興奮冷めやらぬ気持ちで聞かせて頂いております。もうしばらく滞在頂ければ嬉しいのですが……」
「そうかい?嬉しい言葉だがすまねぇなぁ、俺ぁそう長くは居られねぇ。次の場所に探してるもんがあるかもだからなぁ」
その言葉にあからさまに肩を落とす。
「……そう、ですよね。申し訳ない。わしらの一方的なわがままを押し付けてしまって……」
「あ、お?そ、そんな事ぁねぇぞ?寧ろこっちがわがまま言っとるくらいだからなぁ。そう落ち込まんでくれ、村から出にくくなっちまぁな……」
身振り手振りで慌ててフォローする。長老は苦笑いで頭を下げた。そんな姿に居た堪れなくなった藤堂はハッと思いついた顔で返答した。
「おっ!そうだそうだ!ここには行商人が来るって噂だったなぁ!」
「え?あ、はい。異国の文化を持ち込んで頂いております。ここには金銭があまり無いので物々交換となっておりますが、名産品を出しておりますので向こうもそれで満足を……それが何か?」
「いや、なに。その行商人に移動を手伝ってもらおうと思ってよぉ。それまではここに居るってのはどうかなぁ?」
それを聞いた途端に長老の変化は著しかった。
「是非っ!!」
それに対して藤堂は苦笑いで長老に頭を下げた。
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(この村で早一週間とそこいらかぁ……)
情報から閉ざされた世界で生活していると何もかもどうでも良くなってしまうのは、どこに居ようと同じだとハッキリ分かる。特にここの生活は長閑なものだった。人類の安息地と呼ばれる「アルパザ」とは比べ物にならない程に平和でつまらない。情報から途絶されいる為に、ここの村も知られる事がないというだけの話だが。
今日は待ちに待った行商人が村にやってくる日。村のハーフリング達もそわそわして、いつもなら藤堂に話をせびるフィンレー達も家の飾り付けなんかで忙しそうだ。行商人がやって来るこの日は、月に二度あるか無いかのお祭りになる。
「本当にこの世界には色んな種族がいるよなぁ……」
詮無い事を感じていると、ハーフリングの若者が村の入り口ではしゃぎ始めた。
「みんな!来たよ!!」
得意の笛や太鼓を鳴らして行商人を招き入れる。楽しい空気に満ち溢れた自然豊かな村に、軽快な足音を踏み鳴らして馬車を引く馬達の姿はまるで絵本のワンシーン。幌馬車の中には沢山の商品が所狭しと並んでいる事だろう。一列に並んだ馬車の先頭を操る御者の姿はどこかで見た事のある雰囲気を漂わせていた。
「おや?ありゃぁもしや……」
多くのハーフリングに混じって行商人の所に向かう。ワイワイして引っ張りだこの男に声を掛けた。
「なぁあんた、ちょっと良いかい?」
「おや?見慣れない顔だな。こんな場所でヒューマンに会えるとは珍しい事もあったもんだ」
その男の風貌は草臥れたハットにやたらポケットの付いた上着を着ている。ボサボサの白毛混じりの髭を剃らずに放置しただらしない印象を与え、貫禄のあるビールっ腹と顔に刻まれたシワは、この男が老齢である事を知らせてくれた。近くに寄って気付いたが、出会った男とはシルエットが少し違う。
「ああ、いや。俺の知ってる男に似てると思って声を掛けたが人違いの様だ。すまねぇ……」
あの時に出会ってからそんなに月日は流れていないはずだし、こんなに年を食うはずも無い。ハーフリングの商売の邪魔にならない様にすごすごと下がろうとするが、その老人に呼び止められる。
「俺に似てるってーと、息子に会ったって事かい?」
その言葉に足を止める。
「……お尋ねしたいが、ラルフさんってのはもしや……」
「おおっ!そうよ、そう!!俺の息子だ!!」
すぐ後ろに着いて来ていた行商人仲間に商品を任せると、藤堂と話し始めた。
「いやぁキャラバンを飛び出してこっち、一度も顔を出さねぇんだ。もう死んでも会えないと思ってたんだが……そうか、元気にしてんのか……」
「俺ぁあの方々に助けてもらって感謝しているんです。こんなとこでまさか親族に会えるなんて、こりゃぁ何かの縁ですわなぁ」
二人で会話に花を咲かせる。
「トウドウさん、あんた此処から出るのに苦労してんだろ?」
「はは……皆が離してくれんからなぁ……」
「なら丁度良い、俺の馬車に乗りなよ。つか元よりそのつもりだったろう?」
「これは、願っても無いお誘い。どうかよろしくお願いします」
二人手を取り合って親交を深めた。
「時に変な事聞くんだけどよ。最近ラルフが懸賞金を懸けられちまっているんだが、まさか俺の息子じゃねぇよな?」
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