一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
295 / 718
第八章 地獄

第二十五話 兆し

しおりを挟む
「ちょっと何なのよ!ここまで歩かせといてそれは無いんじゃないの!?」

 黒曜騎士団の団員を前にヒステリックに叫ぶのはSM嬢のような奇抜な格好で相手を威嚇するティファル。ようやく辿り着いたアルパザでとりあえず通された高級宿「綿雲の上」で報告を聞いていた。
 ラルフ一行と思われる連中を取り逃がしたこと、それ以降一切動向を掴めていないこと、関係者と思われる骨董品店「アルパザの底」の店主と服飾店「ローパ」の女性店員の計二名から情報提供を求め、話を多少なりとも聞いてはいたが、決定的な何かを掴む前に二名とも姿を消したということ。
 この呆れ返るほど無能な行動に八大地獄の面々は心の底からため息を吐き、わざわざここまで来たことに後悔していた。

「ふむ……完全な無駄足だったようだな」

「申し訳ございません!まさかこれほど迅速に逃げに転ずるとは思いもよらず……事情を知っていた二名もあっという間にこの町を出て行ったようでして……」

「何故じゃ?この町には簡易的ではあるが検問を敷いているはずじゃろ?出て行こうとする二人を止めるのは容易であろうに。それともそこまで黒曜騎士団とやらは情報伝達に難があるのかのぅ?」

 グサッと刺さるようなトドット爺さんの言い草に小さな苛立ちが芽生える。だがそれを覆い隠して首を振る。

「いえ、それが骨董品店の店主は密かに隠し通路を設けておりまして、町から大荷物を引っさげてこっそり出て行ったようです。自分たちに疑いの目がかかるのを懸念して抜け出したものと思われます」

「なるほどのぅ、関係者に協力を仰げないほど信頼されておらんわけか。この町の警備関連を担っているとは思えん体たらくよ」

「……お言葉ですが、この町の警備に入ったのはつい最近のことでして、信頼関係を構築中の出来事でした。もちろん我々の不甲斐なさは重々承知しておりますが、今回の件に関してはラルフ一行並びにその関係者二名の異常な警戒心が災いしたものと考えております。とはいえ取り逃がしたことは事実。せっかくご足労いただいたのに無駄足を踏ませてしまったことには大変申し訳なく……」

 騎士が言い終わる前にバンッと机が叩かれた。ドキッとして机を見ると、十代の少年テノスが机に手を置いて睨みつけていた。

「うだうだ言いやがって……言い訳なんざせずに謝罪してりゃ良いんだよ。恥ずかしい連中だぜ」

「なっ……!?」

 そろそろ我慢出来なくなって身じろぎが多くなる。ミスしたことは確かだが、そこまで言われることに納得がいかない騎士はテノスを睨む。テノスはニヤリと笑いながら立ち上がった。

「何だよ?やる気か?」

「よせテノス。相手は一応友好国の騎士。せっかくの同盟を無駄にしては勿体ない」

 八大地獄のリーダーであるロングマンは手をかざして好戦的なテノスを止めた。

「そこな騎士。ラルフ一行とやらの動向を掴めていないそうだが、この町に其奴はまだ居ると思うか?」

「……それは……」

 騎士は目を泳がせながら考える。それというのもラルフ一行と思われる二組はいずれも逃げ方が独特だった為だ。一組は忽然と消え、もう一組は竜の背中に乗って彼方に飛んで消えた。もしかしたら既にこの町を去り、居ない可能性の方が高いのだが、そうと言い切れない事柄が一つあった。

「先ほど報告の中にあった服飾店「ローパ」にてオーダーメイドのドレスを注文したようです。どうやら注文は未だ生きてるようでして、頃合いを見計らって取りに現れるのではと昼夜交代で店で張り込みを続けています。この町に隠れ潜んでいる可能性も考慮して厳戒態勢を敷いています」

「なるほど。ならば取り敢えず町民ごと潰してしまうか……」

 突然何を言い出すのか?目を瞬かせながらさっきのセリフの意味を考える。

「ちょ……町民ごと……?」

「うむ。虱潰しというのも面倒であるからな。後は我らに任せ、騎士の全員を退避させよ。退避完了後に焼くか、絞め殺すか、磨り潰すか……我らの技に対抗出来る能力を持っているなら其奴らを炙り出せるし、何もなければイルレアンの……いや、マクマインの悲願は達成されるであろう」

「いや待ってください!町民ごとなどあり得ません!人道に反しています!!」

「あはは!人道ってマジ?!私たちのチーム名を知ってそのセリフを言ってるんなら超お笑いなんですけど!」

 それまで黙って見ていた今時女子のノーンはケラケラ笑いながら騎士を馬鹿にする。騎士はその笑いに戦慄しながらロングマンに助けを求めるような視線を送る。

「我らは冥府の番人。生きるも死ぬも魂に変わりはない。むしろ地獄が繁盛して暇つぶしに丁度良い」

 ロングマンは至って冷静に伝える。そのどうしようもないほど薄気味悪い空気に騎士は後ずさりした。

「く、狂っているのか……?そんなことに我々は手を貸せない!」

「?……貸す必要などない。言ったろう、退避すれば良いと。この町から一時退避することも出来ないのなら、共に死んでもらっても構わないが……マクマインにはどう言い訳をしたものか……」

「必要ないだろ。文句があるなら説得する、それでも駄目なら殺せば良い。今やっていることと何が違うんだよ」

「ふむ、一理ある」

 彼らは騎士の常識から逸脱し、勝手に話を広げる。騎士に残された選択肢は二つ、生きるために町民に黙って退避を選択するか、それとも抵抗して一緒に死ぬか。人道を説くなら後者だが、自分を取るなら前者となる。町民皆殺しで話がまとまりつつある中、八大地獄で一番体の大きいジニオンが慌ただしく部屋に入ってきた。

「おいテメーら!壁の外を見ろ!凄ぇことになるぞ!!」

 何が何だか分からないが、嬉々として伝えてきた。疑問符を浮かべながらも皆それに従って外に出る。特に何ともない町の風景にさらに疑問を持つ。

「何も無いではないか?」

「違ぇよ!壁の外だっつったろ!パルスの奴が感知したんだ。すぐにデケェ何かが起こるってよ!!」

 興奮冷めやらぬジニオン。彼自身も何かを感じ取ったと思える行動に一同表情を硬くした。ロングマンは一緒に出てきた騎士に視線を送る。

「すぐに壁の上に案内せよ」

「馬鹿そんな暇ねぇよ!足があんだろうが!とっとと壁の上に行くぞ!!」

 案内を断るとはどういうことか?騎士は不思議に大男を見たが、その答えはすぐに分かった。

 ダンッ

 地面が抉れるほどの脚力から放たれた衝撃は大男の体を宙に浮かせて、瞬く間に建物の屋上へと登らせた。それを繰り返せば確かに案内するよりも早く壁の上には行けるだろうが、そんなもの常識では考えられない。

「何よあいつ。強引すぎでしょ」

 だが、八大地獄は常識では測れない。次々にジニオンを追って空へと飛んでいく。見た目はヒューマンだが、その身体能力は人間ではない。あっという間に壁の上に立つと、既にそこで待機していたパルスと妖精のオリビアがくるっと振り向いた。

「パルスよ、何があった?」

 少女は前を向くと、遠い雲の先を指差す。その指で示された場所を追って目を凝らしていると奇妙な現象を目にすることになった。

『ひ、光の柱……』

 オリビアは体を震わせながら空を照らす灯りを見る。破滅の前兆、厄災の兆候、死の予兆。良からぬことの前触れに現れる光の柱はオリビアにとってのトラウマ的象徴であった。

「あれは目覚める直前に夢に見た光……なるほど、彼奴を解き放ったのは彼奴自身ではない。あれを発生させた何かということだな?」

「ゾクゾクするぜ……こんなことは久しぶりだなぁおい!」

 狂喜乱舞する戦闘狂。光の柱が消えて尚、しばらくその場所から目を離せない八大地獄のところに、息を切らせながら騎士がようやく追いついた。

「はぁ……はぁ……!い、一体……何があったんです!?」

「そうだな。アルパザには例の連中が居ないことが判明した」

「は?そ、それは本当ですか?!」

「うむ、我らは急ぎ南の方角に下る。もうついてこなくて良いぞ、彼奴等を逃したくは無いのでな」

 暗に遅いと言われているが、これほどの身体能力を見せつけられれば納得出来る。

「ではな……」

「あ!ちょっ……!!」

 騎士は止めようとしたが、お構いなしに八人は壁から外側へと飛んで森に消えた。
 暴風の如く危険な連中は、その光に向かって南下する。噂の怪物と相見える為に……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...