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第八章 地獄
第二十六話 雲の上の蔓草”ジャック”戦
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強烈な一撃で度肝を抜いたミーシャはエレノアを引き連れて浮遊する巨大蔓草に飛ぶ。共に戦うべく参陣したはずのバード達は、強大な力を前に唖然として見守るしかない。
そんな中、蔓草の表面に突如大きな花が咲き誇った。目に飛び込んできた鮮やかな色彩に一瞬目を奪われるも構わず進む。
「うーん、あの花はぁ何だと思う?」
「見たこともないから分かんないけど、もしかしたら花粉に何らかの効能があるかもしれないから注意して……」
エレノアの質問にミーシャが一瞬目を離したその時、花の中央からドッという音を立てて何かが射出された。一足先に気づいたエレノアが魔力を雷撃に変換させて射出された何かを撃ち落とす。パァンッと風船が破裂したような音と共に花粉が霧散した。
ミーシャが睨んだ通り、何らかの効能があると見て間違いない。差し詰め睡眠作用か麻痺の効果か。とにかく身体にさえ取り込まなければ問題ないと踏んだミーシャとエレノアは、魔障壁を展開しながら花粉に突っ込む。
その考えが甘かった。花粉が魔障壁に触れると、ビキッと亀裂を生じさせたのだ。ミーシャは訝しみながら魔力を高めて魔障壁を修復させる。だが程なくピキッピシッと家鳴りのように魔障壁が軋み始める。
「何だこれは?」
ミーシャは困惑気味に周りを見渡す。エレノアはポーッとその様子を眺めて一つの仮定に行き着く。
「多分……魔力の流れを狂わされている?と思う。早くこの花粉の霧から出ないとぉ面倒なことになりそうよぉ」
「魔力の流れ?何で花粉にそんな芸当が……」
ミーシャ達は知らないが、この花粉を生成している花の名前は”ニクトリクサ”。高速で射出した花粉弾を生物に当てることでダメージを与え、直接肌に触れれば神経系統を狂わせる毒素で動けなくする。毒素が仮になくても、当たれば致命傷となる一撃で空を飛ぶ獲物だろうと簡単に撃ち落としてきた。
より多くの養分を取り入れんとする花の性質が、養分となる生物の感覚器官を破壊する方法へと長い年月を掛けて進化させた賜物だ。これは神経系統だけでなく魔力にも通じるものがあり、一度に大量に花粉を被ると魔力をも侵してしまう。これは単なる副産物だったのだが、貪欲に食べることだけに特化してきたこの花は、そのお陰もあって撫子に重宝されている。
「考えるのは後、すぐに出るよぉ」
エレノアは言うが早いか、前方に加速して花粉の霧から抜け出る。それを追うようにミーシャも動いた。黄色く濁った空間から抜け、視界が開けるも、すぐさまその視界を覆うようにイービルシードが飛びかかってくる。魔障壁に阻まれて本体に傷一つ付けることは出来なかったが、花粉のせいで弱っていたのか魔障壁は簡単に砕け散った。
「チッ」
エレノアは空中で回転しながらイービルシードの攻撃を掻い潜り、ニクトリクサの射線から外れる。ミーシャはそんな器用なことが出来なかったので花粉を魔障壁ごと振り落として新しく張り直した。髪の毛一本ほども隙なく張られた魔障壁にイービルシードの牙が虚しく削れる。
飛んでいては面倒だと認識したエレノアは蔓草に降り立とうと試みるが、そこに邪魔が入る。着地の瞬間を狙ってウツボドラゴンと呼ばれる自立移動型植物がエレノアを足から飲み込んだのだ。体内に強力な酸を溜め込み、飲み込むものを瞬時に溶かしてしまう植物系魔獣の中でも最強の一角に数えられる。
ジィ……ジジ……バリバリッ
万事休すかと思われたエレノアは身体中から放電し、ウツボドラゴンを体内から感電させた。あまりの電流に耐えきることの出来なかったウツボドラゴンはその体を焦げさせながら力なく倒れた。ヤツメウナギのような丸い凶悪な口から酸と共に出てきた。酸のせいで衣服が溶けて下着のような格好となっている。
ベトベトの粘液を振り払っていると、空でイービルシードと花粉の相手をしていたミーシャが魔障壁を纏ったまま、隕石のようにニクトリクサの花粉の射出口に飛び込んだ。その勢いは凄まじく、飛び込んだと同時にニクトリクサの茎から根までを押し潰してしまった。その音は丸々太った木を四、五本一気に折ったような凄まじい音だった。
ニクトリクサの体内からミーシャの手刀がズバッと飛び出る。まるでカーテンでも開けるように手を払ってその姿を現した。二人して目だけで現状を確認し合い、頷き合う。バードなら百体以上の死者を出していただろう今の攻防をエレノアの服だけで凌ぎ切った。
「私もぉまだまだってことかぁ……何かしょげるなぁ……」
ミーシャよりも経験豊富で母でもある自分が、あられもない姿で立っているのがちょっと恥ずかしかった。そんなことを考えていると、近くからメキメキという音を立てて人型植物がそこらかしこに顔を出した。
彼らはツリーマン。人の形を形成し、成人並みに思考出来る厄介な植物。体は夥しい植物の集合体で、その体を駆使して戦うが、彼らの最も得意とするのは武器や罠を使用して戦うゲリラ戦である。多くのツリーマンを生み出して物量で押す人海戦術もよく見られる手法で、多くの生き物を苦しめてきた。ツリーマンには本体があり、その多くは一本の大木で構成されている。その為、本体が壊されるまでは兵士を輩出し続けられる。この場合の本体は蔓草。つまりこの蔓草の核を破壊しない限り無限に湧いて出る。
それは他の植物系魔獣にも同じことが言える。先ほど倒したウツボドラゴン。二百種類以上いると言われるニクトリクサ種、中でも凶悪な五種類が首をもたげて蔓草から這い出てきた。
「もー、キリがない!この蔓草がある以上、無限増殖すると言うのは本当のようね……」
カラフルな植物たちを前に眉を顰める。面倒なので全てを消してしまいたいところだが、ミーシャの魔力をちょっとでも検知すると、例の花粉が飛んでくる。発煙筒が焚かれているようにミーシャを覆い、得意の魔力砲を遮断させられる。ミーシャはその花粉から逃れる目的も込みでボフッと一気に飛び出た。さらに、勢いを保ったままニクトリクサに接近し、思いっきり拳を叩き込んだ。
メゴォッ
時空が歪むような一撃に、ニクトリクサの茎はとても耐えられずに宙を舞う。ミーシャは他のニクトリクサを見ながら拳を握りしめた。
「……接近戦も得意だから。魔力砲が使えなくったってお前を殺せるんだぞ」
エレノアもミーシャに負けじと攻撃に転ずる。稲妻を体に宿して身体能力を底上げした。エレノアの父、イシュクルが用いた雷神の如き攻撃。バリッと空気中で稲光が跳ねたかと思うと、数体のツリーマンの体はあちらこちらに爆散していた。
「ふふっ……私もぉ、負けてらんないからぁ。命乞いするなら今の内よぉ?撫子」
そんな中、蔓草の表面に突如大きな花が咲き誇った。目に飛び込んできた鮮やかな色彩に一瞬目を奪われるも構わず進む。
「うーん、あの花はぁ何だと思う?」
「見たこともないから分かんないけど、もしかしたら花粉に何らかの効能があるかもしれないから注意して……」
エレノアの質問にミーシャが一瞬目を離したその時、花の中央からドッという音を立てて何かが射出された。一足先に気づいたエレノアが魔力を雷撃に変換させて射出された何かを撃ち落とす。パァンッと風船が破裂したような音と共に花粉が霧散した。
ミーシャが睨んだ通り、何らかの効能があると見て間違いない。差し詰め睡眠作用か麻痺の効果か。とにかく身体にさえ取り込まなければ問題ないと踏んだミーシャとエレノアは、魔障壁を展開しながら花粉に突っ込む。
その考えが甘かった。花粉が魔障壁に触れると、ビキッと亀裂を生じさせたのだ。ミーシャは訝しみながら魔力を高めて魔障壁を修復させる。だが程なくピキッピシッと家鳴りのように魔障壁が軋み始める。
「何だこれは?」
ミーシャは困惑気味に周りを見渡す。エレノアはポーッとその様子を眺めて一つの仮定に行き着く。
「多分……魔力の流れを狂わされている?と思う。早くこの花粉の霧から出ないとぉ面倒なことになりそうよぉ」
「魔力の流れ?何で花粉にそんな芸当が……」
ミーシャ達は知らないが、この花粉を生成している花の名前は”ニクトリクサ”。高速で射出した花粉弾を生物に当てることでダメージを与え、直接肌に触れれば神経系統を狂わせる毒素で動けなくする。毒素が仮になくても、当たれば致命傷となる一撃で空を飛ぶ獲物だろうと簡単に撃ち落としてきた。
より多くの養分を取り入れんとする花の性質が、養分となる生物の感覚器官を破壊する方法へと長い年月を掛けて進化させた賜物だ。これは神経系統だけでなく魔力にも通じるものがあり、一度に大量に花粉を被ると魔力をも侵してしまう。これは単なる副産物だったのだが、貪欲に食べることだけに特化してきたこの花は、そのお陰もあって撫子に重宝されている。
「考えるのは後、すぐに出るよぉ」
エレノアは言うが早いか、前方に加速して花粉の霧から抜け出る。それを追うようにミーシャも動いた。黄色く濁った空間から抜け、視界が開けるも、すぐさまその視界を覆うようにイービルシードが飛びかかってくる。魔障壁に阻まれて本体に傷一つ付けることは出来なかったが、花粉のせいで弱っていたのか魔障壁は簡単に砕け散った。
「チッ」
エレノアは空中で回転しながらイービルシードの攻撃を掻い潜り、ニクトリクサの射線から外れる。ミーシャはそんな器用なことが出来なかったので花粉を魔障壁ごと振り落として新しく張り直した。髪の毛一本ほども隙なく張られた魔障壁にイービルシードの牙が虚しく削れる。
飛んでいては面倒だと認識したエレノアは蔓草に降り立とうと試みるが、そこに邪魔が入る。着地の瞬間を狙ってウツボドラゴンと呼ばれる自立移動型植物がエレノアを足から飲み込んだのだ。体内に強力な酸を溜め込み、飲み込むものを瞬時に溶かしてしまう植物系魔獣の中でも最強の一角に数えられる。
ジィ……ジジ……バリバリッ
万事休すかと思われたエレノアは身体中から放電し、ウツボドラゴンを体内から感電させた。あまりの電流に耐えきることの出来なかったウツボドラゴンはその体を焦げさせながら力なく倒れた。ヤツメウナギのような丸い凶悪な口から酸と共に出てきた。酸のせいで衣服が溶けて下着のような格好となっている。
ベトベトの粘液を振り払っていると、空でイービルシードと花粉の相手をしていたミーシャが魔障壁を纏ったまま、隕石のようにニクトリクサの花粉の射出口に飛び込んだ。その勢いは凄まじく、飛び込んだと同時にニクトリクサの茎から根までを押し潰してしまった。その音は丸々太った木を四、五本一気に折ったような凄まじい音だった。
ニクトリクサの体内からミーシャの手刀がズバッと飛び出る。まるでカーテンでも開けるように手を払ってその姿を現した。二人して目だけで現状を確認し合い、頷き合う。バードなら百体以上の死者を出していただろう今の攻防をエレノアの服だけで凌ぎ切った。
「私もぉまだまだってことかぁ……何かしょげるなぁ……」
ミーシャよりも経験豊富で母でもある自分が、あられもない姿で立っているのがちょっと恥ずかしかった。そんなことを考えていると、近くからメキメキという音を立てて人型植物がそこらかしこに顔を出した。
彼らはツリーマン。人の形を形成し、成人並みに思考出来る厄介な植物。体は夥しい植物の集合体で、その体を駆使して戦うが、彼らの最も得意とするのは武器や罠を使用して戦うゲリラ戦である。多くのツリーマンを生み出して物量で押す人海戦術もよく見られる手法で、多くの生き物を苦しめてきた。ツリーマンには本体があり、その多くは一本の大木で構成されている。その為、本体が壊されるまでは兵士を輩出し続けられる。この場合の本体は蔓草。つまりこの蔓草の核を破壊しない限り無限に湧いて出る。
それは他の植物系魔獣にも同じことが言える。先ほど倒したウツボドラゴン。二百種類以上いると言われるニクトリクサ種、中でも凶悪な五種類が首をもたげて蔓草から這い出てきた。
「もー、キリがない!この蔓草がある以上、無限増殖すると言うのは本当のようね……」
カラフルな植物たちを前に眉を顰める。面倒なので全てを消してしまいたいところだが、ミーシャの魔力をちょっとでも検知すると、例の花粉が飛んでくる。発煙筒が焚かれているようにミーシャを覆い、得意の魔力砲を遮断させられる。ミーシャはその花粉から逃れる目的も込みでボフッと一気に飛び出た。さらに、勢いを保ったままニクトリクサに接近し、思いっきり拳を叩き込んだ。
メゴォッ
時空が歪むような一撃に、ニクトリクサの茎はとても耐えられずに宙を舞う。ミーシャは他のニクトリクサを見ながら拳を握りしめた。
「……接近戦も得意だから。魔力砲が使えなくったってお前を殺せるんだぞ」
エレノアもミーシャに負けじと攻撃に転ずる。稲妻を体に宿して身体能力を底上げした。エレノアの父、イシュクルが用いた雷神の如き攻撃。バリッと空気中で稲光が跳ねたかと思うと、数体のツリーマンの体はあちらこちらに爆散していた。
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