一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第九章 頂上

第二話 日常風景

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「おはよ~……」

 大広間に入るなり弱々しい挨拶が聞こえてくる。

「おはようございますミーシャ様」

 真っ先にベルフィアの挨拶から聞こえてきて、まばらに挨拶が返ってくる。
 眠たい目を擦りながら定位置に歩き始めた直後に声を掛けられた。

「あれ?ラルフは?今日一緒じゃないの?」

 アンノウンはキョロキョロと見渡す。
 本来ならここに居るミーシャより早く起きて、寝返りもろくに打てない固まった体をバキバキ言わせながらお茶でも飲んでる時間帯だ。

「……寝てたよ」

「珍しいですね。疲れていたのでしょうか?」

 ブレイドが朝食のパンにベーコンエッグを乗せ、バードから貰った煎った豆を使ったコーヒーなるものと一緒にミーシャの席に置く。真っ黒いコーヒーを見て、頭上に疑問符を浮かべる。その表情を見てすぐに説明に入る。

「これにミルクと砂糖を入れると美味しいんですよ。パンとの相性が最高で……カフェオレ?って言ってましたよね?」

 近くにいた空王の侍女に尋ねるとコクリと頷いた。ミーシャの向かい側に座るアロンツォはさらに追加するように答える。

「最初はやさしい味から試すのが良いぞ。その内ミルクも砂糖もいらなくなるであろう」

 そう言いつつブラックを優雅に飲んで見せた。ミーシャは鼻から抜けるようなテキトーな相槌を打つと、可愛い器に入ったミルクと砂糖を入れて目が冴えるまでかき回した。

「アルルすら起きとルというに軟弱な男ヨ。誰ぞ行って起こしてこい。朝食が片付かん」

 ベルフィアは椅子に体を預けて足を組み、ふてぶてしい態度でデュラハン姉妹に目を向けた。デュラハンたちは「えぇ~……」と言った面倒臭いオーラを漂わせる。せっかくコーヒーに舌鼓を打っていたのに台無しである。

「寝カセテヤッタラ?アレダッタラ朝食ハ誰カガ食べレバ片付クデショ」

 ジュリアがデュラハンの擁護に回る。アンノウンも「そーだね。ウィーが食べるよ」と名指しで残飯処理係を指名する。ウィーは先ほどの美味しいご飯が食べられるのでは無いかとワクテカしながら机に手を置く。
 しかしその期待をぶった切るようにアロンツォの妹、ナタリアが口を開いた。

「いや、とりあえず起こしてくれない?今後の日程について話し合いたいことがある。この中は正直窮屈だからある程度の自由や制限についても話したいのだけれど」

 最初こそ黙っていたが、この要塞で過ごしてみて不憫な部分が露呈してきたようだ。静観を決め込んでいたナタリアも我慢できない部分というものがあるのだろう。それに対してベルフィアは不機嫌な態度をとる。

「なんじゃなんじゃ?まルでラルフが妾達ノ長ノ様な扱いじゃノぅ……唯一王を差し置いてあ奴が上に立てルと思うておルノか?」

「……今更何?ラルフに生意気な口を叩いても結局は彼が言うことにみんなが同調しているじゃない。貴女も含めてね。これだけの状況証拠があって何が違うって言うの?」

 ひんやりした空気が流れる。この要塞内では戦闘禁止だが、それはラルフが決めたルール。ナタリアの煽りからベルフィアが反故にする可能性は十分ある。それを見越してか、ナタリアはいつでも動けるように体は臨戦態勢に入っていた。闘気が溢れ、熱量が噴出する。灼熱の大地に現れると言う蜃気楼が立ち込め、彼女の周りだけ景色が揺らぐ。
 見兼ねたデュラハン姉妹長女のメラが席から立ち上がった。

「わたくしが起こしに行ってまいります」

「いや、行かんで良い。此奴にはしっかりと立場ノ違いを認識させねば……」

「どうやってでしょうか?この要塞は戦闘厳禁ですよ?彼女が話したいのはラルフということですし、穏便に済ませましょう。ミーシャ様、それで宜しいでしょうか?」

 ミーシャは鼻から抜けるようなテキトーな相槌を打つ。これをされたらベルフィアは何も言えない。その様子を側から見ていたエレノアはクスリと笑った。
 勝負あり。メラは一礼して部屋から出て行った。それに便乗する形で十一女のイーファもそそくさと出て行った。空王は目敏くそれを口にする。

「あれはなんで出て行ったのかしら?」

「ああ、イーファはラルフの世話係をやってましたの。ですのでメラ姉様にお任せするのは失礼と判断したのではないでしょうか?」

 五女カイラがそれっぽく答えると、納得したように頬杖をついた。

「あ!これ美味しい!」

 ミーシャは周りのことに一切意を解すことなく目を輝かせながら感動していた。



 コンコンッ

「ラルフ。入りますわよ」

 ラルフの部屋に着いたメラとイーファはノックをした後、ドアノブをひねる。鍵などは掛かっていないので難なく扉は開く。ベッドには下着だけで寝そべるラルフのあられもない姿があった。だらしない様子に一瞬呆れたが、寝るときは開放的な方が寝られるのだろうと考えを改める。

「ミーシャ様ならいざ知らず、わたくしたちが入ってもピクリとも動かないなんて……」

「安全地帯にいたせいで危険察知が和らいでいる可能性もあるのでは?ほら、前回は全く戦いに出ていませんし」

「堕落ですわね……ラルフ、早く起きてください。バードの方々が話したいことがあるとうるさくしていますよ」

 メラはさっさと起こそうとラルフの体をゆらす。だが全く起きない。

「息……してますよね?」

 イーファのセリフにドキッとする。まさか死んでいないだろうか?そう思い口元に手をかざすと息が当たる。ホッとして胸をなでおろすと、何だかイラついてきた。ここまでやっているのに起きないし、死んだかもしれないと一瞬思ってヒューマンの生死を安否するなど屈辱とすら思えた。
 もういい加減に引っ叩いて起こしてやろうかとイーファに確認を取ろうとしたその時、ラルフの口から言葉が漏れた。聞き間違いかとも思ったが、ラルフに目を向けると口がモゴモゴと動いている。

「寝言……?」

 何を言っているのか聞き取れないが延々と喋っている。耳をそばだて、ラルフの口に徐々に近づく。

 バッ

 何が起こったのか理解できなかった。メラの体は宙を舞い、ベッドに押し倒されるように布団に背中から包まれた。ラルフはメラの上に覆いかぶさる形で完全に体を起こしている。しかし目が虚ろでまだ夢の中にいるようだ。

「姉様!」

 イーファも驚き戸惑う。

「……慌てないでイーファ。寝ぼけてるだけよ。ラルフはまだ起きてないみたいね」

 メラは慌てることなくベッドから降りようとするが、ラルフにガッチリ腕を掴まれて動けないことに気づいた。

(あれ?)

 こんなに力が強かっただろうか?ブレイドならともかく、ラルフはヒューマン全体で表記しても中程の実力しかないし、それに比例して力もそこそこ。デュラハンを抑え込めるだけの力など持っていない。
 もぞもぞと抵抗するが、肩や腰が動くくらいで抜け出すことができない。異変を察したイーファがラルフに抱きつく。メラから引き離そうと後ろから引っ張る作戦に出た。
 ビクともしない。

「な……なんで!?」

 おかしい。ラルフはこんなに強くない。
 イーファが後ろに引っ張るのに反比例して、ラルフの体が前のめりに傾き始めた。グググ……と力強く前に倒れ込んでくるのをしたから見ていたメラはあることに気づく。

「あーっ!近い近いっ!!」

 メラの眼前はラルフの顔でいっぱいになった。顔を必死に背けるが、このままでは唇を奪われかねない。

「姉様!取り外して!」

 その言葉にハッとする。そうだ自分はデュラハンだったと改めて気づいた。首が取り外され、コロコロっと横に転がると、ラルフの顔はベッドに突っ伏した。間一髪。イーファがいなければファーストキスはラルフのものになっていただろう。
 顔からベッドに突っ込んだ途端にラルフの体から力が抜ける。これを好機と捉えたメラとイーファが一気にラルフとメラの体を引き離して頭を拾うと壁際まで下がった。息が荒くなった二人。必死に落ち着きを取り戻していると、ラルフがゆっくりと起き上がった。ドキッとして様子を伺っていると、頭をボリボリかきながら大欠伸をした。

「……息しづらいと思ったら……俺こんな寝相悪かったっけ?」

 そこでメラとイーファに目が行く。

「……っておいおい。入るならノックぐらいしろよな……たく」

 寝ぼけていたことは承知している。しかし先のラルフの行動はメラたちには刺激が強すぎた。襲われた事実がある以上、飲み込めないのも無理からぬこと。メラは涙目でラルフにツカツカと近寄ると、腕を振り上げてラルフの顔面めがけて振り抜いた。

 パァンッ

 甲高い音が廊下に響き渡った。
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