一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
316 / 718
第九章 頂上

第六話 グレートロック

しおりを挟む
 グレートロックの監視所からドワーフが双眼鏡を覗いていた。敵の接近をいち早く発見しようと目を皿にして忙しなく見ている。
 そこに様子を見に来た仲間のドワーフが温かいスープを持って無骨に質問する。

「おぅ、どんな感じじゃ?」

「ふーむ……今のところ敵影は無いのぅ……」

 双眼鏡から目を離してスープを受け取る。湯気の立つスープを啜りながらホッと息をつくと、外に目を向ける。

「本当に来るんかのぅ。何十年か前に同じ様なことがあった時は魔族の進行が早かったように記憶しとるが……今は見る影もない」

「知らん。敵も忙しいのか、または前回の襲撃失敗を見越してタイミングをズラしているのか。いずれにせよ儂らの住むべきこの山を守らねば……」

 その返答を聞き、スープをぐいっと呷って近くの手すりに置くと双眼鏡に手を伸ばす。一息ついてやる気が出たのか、すぐさま監視に戻る。

「……時に、儂にスープを持って来たっちゅーことは、対空砲の準備はもう出来とるのか?」

「ああ、問題ない。空からの敵は打ち落とせるわい」

「おおっ!はっはっ!前回の反省を活かしとるのは向こうだけではないということよな!」

 快活に笑いながら双眼鏡を下に向けた。

「……ん?」

 その目に映ったのは地上で蠢く影。何百、何千といる何かがまっすぐこちらに向かって進んできている。

「来おった!!」

「何っ!?」

 ザッと立ち上がって食い入るように見る。即座に手元にあったライトを手にし、別の場所で監視していた同僚に伝達しようと試みる。目を向けた先には既にこちらに光を灯していた。

「みんなもう気づいておる!始まるぞ!戦争がっ!!」

 その言葉と同時にスープの入っていたコップを投げ捨てる。重い体を忙しなく動かして走り出したドワーフは鋼王の元へと急ぐ。



 巨大ガレオン船から降り立った第十一魔王”橙将”は聳え立つ山を仰ぎ見る。次々と降り立ち、整列していく部下を尻目に歩き出す。その後ろを付き従うように第四魔王”竜胆”がついていく。その目は虚ろで覇気がない。

「ふむ……面倒な地形だな。相手がドワーフとはいえ、厄介なことだ。貴様はどう思う?」

「……知ら……ない。ここは……初めて……だ」

 無表情で抑揚無く返答する。橙将は眉間に皺を寄せて竜胆を見た。

「素直すぎる……搦め手に弱いだろうと踏んでいたが、ここまで簡単だとつまらんな……」

 大陸までの道のりで竜胆を素直にさせる為に薬漬けにした。竜魔人は生物的に完成された存在であるがゆえに、身体能力は他の比ではない。魔法能力、治癒能力ともに隙がないので上級魔族に指定されている。一匹は部下に欲しいとは思っていたが、こんなに薬に弱いとは思いもよらなかった。
 これなら竜魔人最強と謳われた元第四魔王”紫炎”も難なく陥せていたかもしれないと思うと惜しい気持ちになる。

「まぁ良い、このメスは紫炎の力の源を手にして自らを強化したと言っていた。擬似的に紫炎を部下にしたと言って過言ではないだろう……」

 橙将は鼻を鳴らして最終目的地であるグレートロックを見据える。

「ふっ、まずは小手調べか……全軍!進撃!」

 大声で指示すると多くの軍艦から降りては軍に合流し、雲霞うんかの如く進軍する。地響きを鳴らしながら進軍する様は恐怖そのもの。
 魔族は強い。本来一捻りで押しつぶされる人族が、今現在も生きてこられたのは幸運であったことが大きい。魔族同士が勝手に仲間割れを始めたり、そもそも殺すのが面倒臭いという理由で放って置かれたりと理由は様々。
 今ここに死の川が大挙してやってくる。統率のとれた人類抹殺を目論むうねりが命を飲み込む為に……。

「……?」

 橙将は違和感を感じて手を横に出した。その合図は停止の合図。各将がその合図に自軍の部下の停止を呼びかけると、進軍が止まるのと同時に地響きも止んだ。
 彼の違和感はドワーフ軍の展開の仕方にあった。先遣隊も何もない。壁も築いてなければ偵察隊の影も気配すら感じなかった。つまり何もしていないのだ。人っ子一人その場に居らず、ゴツゴツとした岩肌が広がるばかりだった。
 グレートロックは切り立った鉱山で侵入自体は厳しいが、入られてはドワーフ達が苦しい戦いを強いられる。食い止める為の何かがあっても良いと思ったが、見た感じでは隙だらけだ。
 無論、見えない罠を張っていたりするのだろうが、こちらの戦意を削ぐようなものが無いというのは如何なものか?切り立った天然の防壁でどうにかしようという魂胆なのか?

「……第二、三軍は回り込め。第四、第五で正面を。他は待機だ」

「御意」

 伝達を受けた部下が早駆けで橙将の元を離れ、各将に知らせに行く。指示を受けた第二から第五の軍隊はそれぞれ動き出す。橙将は後ろを振り向き、竜胆を見た。

「相手の動きが無さすぎて不気味だ。竜魔人の数体で空から奇襲をかけろ。突っついた反応が見たい」

 万が一既に鉱山を放棄しているのなら行くだけ無駄だ。歴史上何度かドワーフにちょっかいを掛けている戦争があるが、彼らはどの戦争も踏み留まって国を守っている。今回は自分を含めた魔王が二柱も出張ってきているので、逃げた可能性は大いにありうる。
 それとも鉱山に入れてしまった方が奴らに有利なのかもしれない。とりあえずは偵察隊を出して、まず居るのか居ないのかだけでも精査したい。竜魔人は簡単には死なないし、傷を負うことも稀だ。真っ裸でも重戦士と呼ばれる鱗による装甲は伊達では無い。

「……行け……」

 竜胆は後ろに控えていた部下に顎をしゃくる。二体が地面を踏みしめて飛び上がり、浮遊魔法で勢いそのままに飛んでいく。その様子を眺めて「便利なものだ」と感心していると、突如山の頂上付近からドンッという音と共に勢いよく砲弾が飛び出した。一体は難なく回避に成功したが、もう一体が直撃し、真っ逆さまに落ちていくのが見えた。
 魔法のエネルギー的な砲撃ではなく、重さと大きさを備えた単純な物質の砲撃。潤沢な鉱石があるからこそ可能な強度を兼ね備えた球体は竜魔人一体を半死に追い込んだ。

「対空砲撃か。面倒な……いや、あれをこのままこちらに向けたら地上も危ないな」

 ともあれドワーフがまだ鉱山に居たことを知らせてくれた。第四、第五の軍隊が着実に正面を進んでいく。罠の類はなさそうなので、対空特化と自然の障壁で籠城戦をやるつもりらしい。

「ふざけた連中だ。どうやって今日こんにちまで生き残ったのか教えてほしいものだな」

 そこにまたドンッという音が空気を震わせる。もう一体の竜魔人も撃墜された。

「チッ、薬害か……普段の力が使えていないようだな……」

 本来なら避けられたかも知れない砲弾に敢え無くやられている。収集するだけなら問題ないが、戦闘で起用するとなるとどうも真価を発揮しない。やはり御しやすくするのはその分リスクも伴う。

「ふんっ、まぁ良い。竜魔人は切り札にとっておくとしよう。吾の部下だけでもどうにかなろうよ……」

 橙将は鼻を鳴らしながら、正面を向く。その時——

 ゴオォッ

 凄まじい火力が軍の正面を覆った。罠が発動したのか、いきなりの状態に目を丸くする。

「ほう……」

 やはり用意していた。こうでなくては面白くない。

「オラっ!!クソ野郎ども!!」

 怒号が聞こえてきた。その方向に目を向けるとドワーフとはかけ離れた身長の人影が立っていた。

「やっと来やがったかお前ら!!待ちわびたぜ!!」

「……ん?ドワーフでは無い?」

 そこに立っていたのは獅子谷 正孝。強さにおいては白の騎士団に匹敵する力を保有するグレートロックの最高戦力の一人。その存在を皮切りに正孝の背後からゾロゾロとドワーフが出てきた。全員ハンマーや斧を装備して戦闘に備えている。

「この国で命を落とすつもりは微塵もねぇがよ!お前らは気に入らねぇ!!全員燃えカスにしてやるよぉ!!」

 先程放った火を掌で操りながら脅しかける。そんな正孝を見ながら橙将はニヤリと笑った。

「くくくっ……灼熱の大陸で生まれた吾らに火をチラつかせるとは笑止。返り討ちにしてくれる」

 バッと手を広げ、大声で部下に指示した。

「蹴散らせ!!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...