一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第九章 頂上

第五話 試し合い

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 ラルフは食事を済ませた後、さっさと自分の部屋へと戻った。
 サトリから手に入れた何らかの力、試さずにいられなかったからだ。誰も入ってこられないように、というよりミーシャが入ってこられないように鍵を掛け、いそいそとベッドに座る。両手を開いてじっと見つめ、わきわきと開いたり閉じたりを繰り返す。

「……んー……んー?」

 どうすればいいのか?何せ力というものなど一度も持った試しがない。腕力も並、戦いの技術も持ち合わせていないし、当然魔力もない。そう、今までは。

「スゥー……サトリの奴は何て言ってたかな?」

 彼女がラルフに力を与えたのだ。彼女の言っていたことを思い出せば何かのヒントになるかもしれない。目を瞑って彼女のことを考える。ふと、瞼の裏にぼんやりと彼女の姿が目に浮かぶ。こちらに背を向けていた彼女はくるっと翻ってラルフを見た。

『ふふっ……簡単ですよ。体の奥底に眠る力の核に手を伸ばすんです』

(いや、核なんて言われても分かんねーよ……)

『イメージですよ。生き物には魂と呼ばれる手で触ることの出来ないエネルギー体があるように、力が眠る場所に手を伸ばすイメージをするのです。そうすればあなた様の求めるものに触れる事が出来ます』

「へー……って待て。こんな事話した記憶がないぞ?お前今俺に話しかけてるな?」

 瞼の裏のサトリはクスクスと陽気に笑って消えて行った。目を開いてキョロキョロ周りを見渡し、気配が消えたことを悟ると大きくため息をつく。

「……ま、物は試しって奴だよな……」



「え?なんですって?」

 ブレイドは洗い物をしながらラルフの言葉に耳を傾けていた。

「いや、だからさ……なんか俺、唐突に強くなっちゃったみたいなんだけどさ。なんか変わったかなって……」

「はぁ……」

 気の抜けたような声で返答する。洗い物が終わって水切り台にお皿を置きながらラルフの方に目を向ける。布巾で手を拭きながらラルフのことを上から下、下から上に見ていった。

「……特に変わったところはないですけどね」

「なるほど、見た目は何も変わってないか。まぁ当然か、なんか変わってたらみんな気付くよなぁ……」

 壁にもたれながら何も持っていない手を見つめる。その手に何気なくブレイドも目を向けた。

「どうして強くなったと?」

「ああ、それがよぉ……」

 ふと自分が説明しようとしていることを考える。夢枕に立った死神”サトリ”から、何やら凄い力を下賜されたなんて戯言を信じてくれるはずがない。

「……あっ、いや、なんでもない。多分なんか強くなったような気がしたってだけだ。悪かったな困らせて……」

 ラルフは手を振りながら台所から出ていく。その後ろ姿を追いながらブレイドは声をかける。

「あのっ!」

 その言葉に足を止めた。

「何だったら試してみます?」

「え?試すって……どうやって?」

「そのままの意味ですよ。要は俺と試合してみませんかってことです」

「えぇ……ブレイドとか?それはちょっと怖いな」

「安心してください。俺はこう見えて頑丈なんで、ちょっとやそっとじゃ怪我しませんから」

「それに関しては毛ほども心配しちゃいねぇが……でもまぁ、うだうだ考えても仕方ねぇよな。じゃ、ちょっと付き合ってくれよ」

「了解しました!」

 ブレイドは満面の笑みで返答する。ラルフの戯言を完全に信じたわけではない。変な奴だと放っておくのは簡単だが、悩んでいる風だったので「少しでも何かの力になれたら」というのが本音だった。
 二人はウィーの作業場である鍛治の部屋に向かう。その二人に興味津々と言った感じで突然アスロンが出現した。

「おやおや、二人してどこへ行くんじゃ?」

 しょぼくれたおじいさんと言った雰囲気の彼は、この船の動力源に巣食う精神体ゆえ、気になった場所にいつでも出現可能。移動の手間がないのは羨ましくもあるのだが、肉体を捨ててまで欲しいかと問われれば断固拒否する。何にでも長所短所はある。

「ああ、ちょっと鍛冶場に……あっそうだ。アルルを呼んでいただけますか?一応念のために」

 ブレイドの発言に一瞬ドキッとする。万が一のことがあっては不味いと言う考えはよく分かるが、ラルフは不安でいっぱいになってきた。

「ほう?何をする気かは知らんが、無茶はせんようにな。ラルフさん、ミーシャさんたちも呼ぶかの?」

「えっと、そうだな……いや、いいよいいよ。アルルだけで十分だ。あんまり観客がいてもやりにくいしな」

 アスロンは「承知した」と言ってスッと消える。アルルを探しに言ったに違いない。
 そうこうしている間にラルフたちは鍛冶場に到着した。中ではウィーが時折暇つぶしに武器を製造している。今も中から金属を叩く甲高い音が鳴り響いている。扉をあけて中に入ると、案の定ウィーが一生懸命に武器を製造している様が見て取れた。
 突然の来訪だったが、ウィーは一切気にせず打ち込んでいる。集中しすぎて気づいていないのか、はたまた気づいて無視しているのか。
 邪魔をする気はない二人は、話しかけることなく古い武器が立てかけられている部屋の隅に歩く。

「武器保管庫がウィーの作った武器でいっぱいになるのも案外あっという間かもな」

「古い武器を元手に新しい武器を作り出す。お陰でよく切れる包丁も出来ましたし、ウィー様様ですよ」

 ブレイドは古い武器の、特に殺傷能力の低そうな安っぽい剣を探し出す。とはいえ、刃引きされていないものばかりで、試合形式で使うには危ない。
 丁度良い長さの剣を二本手に取ると、研磨機に向かう。ウィーはトンカチ片手に武器の形成を行なっているので、今なら研磨機は使いたい放題だ。刃を丸く削って刃引きを完了させると、試合用の剣の出来上がり。
 その工程を側から見ていて思ったのは、器用この上ないということだ。ブレイドは何をやらせてもそつなくこなしてしまう天才なんだと改めて感じる。
 それはさておき、ブレイドの用意してくれた試合専用の剣を受け取ると首を傾げた。本来、剣は重くて、とてもじゃないが長時間振り回せる自信がない。
 しかしこの剣は違った。刃引きをしたお陰なのか、はたまた最初から軽かったのか、いつまでも振っていられそうなほど軽い。いつも使っていたダガーナイフより下手すれば軽いかもしれない、などと呆けているとブレイドが部屋の中央に歩いて行った。

「ここはかなり広いので試合にも使えますね。アルルもすぐに来るでしょうし、ちゃっちゃとやっちゃいましょうか」

「おぅ、お手柔らかに頼むぜ?」



 アルルはアスロンに連れられて静かな廊下を歩く。
 みんな各々のやりたいことに終始していて、特別な用事でもなければ集まって何かをすることもない。唯一デュラハン姉妹が交代制で空王を見張っているだけで、他は自由そのもの。アルルも呼び出されたから渋々出てきたが、何も用事の無かった今日は食以外寝ている気でいた。
 大きな欠伸をしながらも、遅れないようにアスロンの後ろについていく。と、鍛冶場に歩く二人の前にキョロキョロ何かを探すミーシャの姿があった。

「あれ?ミーシャさん。何か探しもの?」

「ああ、二人とも。ラルフを見なかった?」

「ラルフさんなら鍛冶場におるぞい。今からアルルと行くところじゃったんじゃ。一緒に行こうぞ」

「ほんと?じゃあ行く」

 鍛冶場までの道のり、暇つぶしにミーシャと会話をし始める。

「ラルフさんを探してたって、何か用事だったんです?」

「うん。一緒に寝ようと思って」

 淀みない返答にアルルは口を閉ざす。「へー」くらいの感想が出ると思っていたミーシャは疑問符を浮かべながらアルルを見た。アルルは何かを考えるように視線を斜め上に向かせつつ顔を赤らめている。

「どうしたの?」

「……あの……こういうのは聞いていいか分かんないんですけど、お二人はもう……何というか……」

 言い淀んでいるアルルの言いたいことを察したアスロンは、わたわたと慌てながら口を開く。

「こ、これこれアルル!そんな事を聞くでない!」

「そんなこと?」

 ミーシャは首を傾げる。アルルの聞きたいことに思い至っていないミーシャを見て、ほっとして良いんだか悪いんだか分からないままに話を逸らす。

「いやいや、まぁまぁ……それよりもう鍛冶場はすぐそこですじゃ。ほら、耳を澄ませてみなされ。小気味良い金属の音色がここまで聞こえてきますじゃろう?」

 どうにも腑に落ちないが、目的のラルフが近くにいるならと耳を澄ませる。確かに金属の音が聞こえてはくるが、小気味良いとは到底言えない。連続して金属同士がぶつかり合う音が聞こえたかと思えば一瞬止まり、また再開する。金属加工の音というより鍔迫り合いの音であることに気付く。

「まさか……!」

 ミーシャは二人を置いてけぼりに一瞬で鍛冶場まで急ぐ。この音は十中八九戦闘の音。この要塞内でラルフに対して戦いを挑むのはバードだけだ。ラルフは仲間内で下から二番目という雑魚。となればバードの誰に襲われても大怪我は免れない。
 この戦闘を止めるべくミーシャは扉を勢いよく開いた。

 ガキィンッ

 と同時に剣を打ち合い離れる二つの影。

「……え?あれ?」

 距離を取った二つの影はラルフとブレイド。この場にバードの姿は無い。何で二人が戦っているのか全く分からないまま混乱する。

「ん?あれ?ミーシャじゃん。ここで何してるんだ?」

 ミーシャの来訪に二人の手が止まる。奥の方でウィーがハラハラしながら困惑の表情でじっとしていた。見たところ二人に怪我はない。ミーシャは腰に手を当てて訝しみながら鼻を鳴らした。

「それはこっちのセリフ……ってラルフ、その剣……」

「これか?訓練用にブレイドが作ってくれたんだ。おーいブレイド、おしまいにしよう」

「は、はい。分かりました」

 ブレイドが走り寄る。ミーシャは困惑しながらブレイドを見る。彼の顔も困惑の表情をしており、彼女の欲しい答えを出せそうにないと感じた。この場で唯一晴れ晴れとした表情のラルフ以外に説明出来そうにない。

「……納得のいく説明をお願い出来る?」

 ラルフに向き直りながら腕を組んで質問する。ラルフはニヤッとしたり顔で笑った。

「ああ、いいぜ。……ただし、信じるかどうかは任せるぜ?」
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