一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第九章 頂上

第二十七話 優先順位

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(どうする……?)

 アンノウンはブレイドとジニオンの戦いを見て頭を捻っていた。
 ブレイドに声をかけられた時に組んだ魔法陣はワイバーンを召喚する為のものだった。しかし、かの大男が遮ったたので、召喚獣を変更するべきだろうと考えたのだ。

 現在召喚しているウンディーネは竜魔人専用の召喚獣。強化消去魔法の使用を前提に生み出されている為に、ほとんど攻撃力はない。
 ブレイドに限ってやられることはないと思ってはいるが、それはあくまで主観であり、間違いもあり得る。ここは加勢できる強い召喚獣を出すべきだろうか?
 いや、その必要はない。とりあえず魔力消費を抑える名目でもウンディーネを戻して新たに召喚獣を出そう。竜魔人が脅威にならない以上、ウンディーネは邪魔になる。

 大体の思考がまとまり、横目でアルルを見た。ブレイドの戦いから目を逸らさないよう、食い入るようにじっと見ている。アンノウンはアルルの他にも、デュラハン姉妹それぞれの位置やジュリアの様子などを確認し、ようやく彼女に声をかけた。

「アルル、ちょっとごめん」

 アルルは視線を外すことなく首をちょっとだけ動かした。聞く意思が見えたので、そのまま続ける。

「ブレイドの戦いを見てるところ悪いんだけどさ、みんなをここに集めてくれないかな?」

「……えっと、どうしてです?」

「そりゃ戻るからね。要塞に……」

「まさか!そんなこと出来ませんよ!」

 アルルは全力で否定する。
 ここを放棄して逃げるのは簡単だ。それぞれの戦いを中断して、アンノウンの召喚する飛行生物を頼れば良い。デュラハンやジュリアは難なく戦闘を放棄出来るだろうが、ブレイドはどうだろうか?見るからに桁違いの力を持つ大男が道を塞ぎ、ブレイドと互角以上の戦いを見せている。
 息をする間もないような攻防は見るものに恐怖を植え付ける。アルルもこの戦いを固唾を飲んで伺うくらいの衝撃があった。
 完全に追い詰められたブレイドは最終手段に魔族の力を引き出すことが出来、身体能力の底上げが可能。今は体に変化が見られないので、まだある程度の余裕があるのかもしれないが、これからどうなるかは予測不可能だ。そんな状態で自分だけおめおめと要塞に戻ることは出来ない。
 どんなことがあっても二人で乗り越えようと誓い合った仲だ。何と言われても梃子てこでも動かないという強い意志を感じる。

 アンノウンはニコリと笑いながら小さく頷いた。

「大丈夫。みんなで・・・・、だよ」

 アルルの言いたい事はとっくに想定済みだし、アンノウンも当然そのつもりだ。ブレイドに殿しんがりを任せようなどと、そんな事は考えてすらいなかった。

「えぇ……でも……」

「言いたい事はよく分かるよ。その不安、私に任せてくれる?」

 アルルの不安を一身に背負うと豪語するアンノウン。その心意気に流石のアルルもほだされる。それと同時に召喚魔法を発動させた。

「出でよ。召喚獣”ワイバーン”!!」

 魔法陣から召喚された竜は小型で、力強く息巻いて召喚した割には弱そうに見えた。
 しかし、それも当然のこと。元よりこの竜は移動を主軸に生み出されている。戦う為に作っていないのだ。アルルは一先ずジュリアのところに走った。

 そんな周りの様子を気にしていられないブレイドは、ジニオンの付け入る隙を探っていた。どこかに必ずあるはずなのだ。息継ぎの瞬間、瞬きの瞬間等の一瞬の硬直。何でも良い。ただ一つ、どうしようもないほどに見逃してしまう小さな隙を……。

 ブレイドはそう思いながら、自分が如何に愚かなことを考えているのかをハッキリと理解する。その隙があったらどうだと言うのか?その隙を突けば勝てるのか?

 答えは否。

 何故ならブレイドは何度も何度もその隙を突いて攻撃している。最初は見えなかった攻撃も段々と目が慣れてきて、既に対応してきている。拳の形が見え始めた頃、全ての攻撃を剣で往なしながら斬撃を加えている。
 しかし何と言ってもこの男の皮膚が硬すぎる。そして手加減のつもりなのか、最初に斧をチラつかせただけで武器を使用しない。
 今のままなら第十魔王”白絶”の側近である上級魔族、喪服女ことテテュースの方が強いと言えるが、武器を使用していないことを思えばその力は未知数だと言える。

 覚醒して間もない魔族の力。ここで思う存分発揮し、ジニオンが実力を出す前に叩いてしまうのも一つの手だろう。だが、相手を追い詰めればそれこそテテュースのように突如本気を出され、逆に追い詰められるかもしれない。
 ブレイドが有効な攻撃方法を持っていないからこそジニオンも遊んでいるのだ。
 こうなったら前回同様、アンノウンに協力を要請したいところ。でもアンノウンには召喚獣で乗り物を出してもらわなければならず、他は他で忙しいしで助けは期待出来ない。

 冷静になれば冷静になるほどに焦燥感が増す。

(待て……何を躊躇ためらう?)

 今考えるべきは母の無事。ここで出し惜しみをしていては守るべきものを失する。
 ジニオン。この男は強い。ヒューマンとは思えぬほど圧倒的なまでの力を持つ。だが、それが何だと言うのか?この男のせいで要塞への道が閉ざされている。ならばいかなる手段を用いても押し通るべきだ。
 手に力が入る。体が浅黒くなっていくぞわぞわとした感覚を感じながら、力に身を委ねようとしたその時、

「ブレイド、私が変わろう」

 突如聞こえたその声にジニオンは気を取られた。ブレイドはハッとする。声の主が分かった瞬間、ジニオンの脇をすり抜けていた。

「あっ!オメー……!?」

 ブレイドの背中を追って振り返ったが、首筋にひんやりとした金属を当てられた。

「なっ!?」

 バッと背後を取った謎の敵に腕を振るう。かなりの速度で振り払ったつもりだったが、全く触れることなくその敵に間合いを取られた。
 中性的な顔立ち、黒のライダースーツに身を包み、クナイのような武器を手に持っている。この世界の住人とは思えない格好だ。異世界人という空気をふんだんに醸し出しているのも気になったが、もっとも不思議なのは気配が希薄だということだ。背後に立たれてもその存在に全く気づかなかった。

「オメー……忍者か?」

「私が忍者?ははっ違うよ。私は何でもない。この武器もさっきその辺の死体から抜いたんだ。形状から察するにラルフの投擲武器だろうね」

 ヒュンヒュンと手の中で投げナイフを回す。

「しかし……君はどういう肉体をしてるの?私は確かにその首を切った。その感触も確かに感じた。でも何故か傷一つ付いてない。何で?」

 その問いにニヤッと笑みを返した。

「決まってる。俺が強ぇんだ!」

 そう言うとジニオンはジロジロと無遠慮にアンノウンの体を眺めた。

「しっかし貧相な体してやがるぜ。最近のガキはまともな飯を食わねぇのか?」

「……失礼な人だな。ちゃんと食べてるし、これでも筋肉はついてる。ブレイドとそう大差ないと自負してるけど?」

「ヤワなんだよ嬢ちゃん。女が男のふりしたって良いことは一つもねぇぞ?大人しくおしとやかにしてるんだな。俺はブレイドとのお楽しみが……」

 肩越しに後ろを見ると、そこにいるはずのブレイドの姿はどこにもなかった。

「……あれ……?」

 体ごとぐるっと振り返ってもどこにも見当たらない。

「一足遅かったね。もうみんな飛んでったよ?」

 その言葉を受けて、ジニオンは上を向く。懸命に要塞に飛んでいくワイバーンの姿が、もうあんなに小さい。ジニオンの脚力でも届かずに海に落ちてしまうのがハッキリと理解出来た。

「……逃げた?……この俺から?」

 狙った獲物はどんな奴でも即刻叩き潰し、自分の強さに浸っていた。どれほど強いといっても自分以下なので、これほど戦えた男は珍しかったし、もう少し遊べそうだっただけに酷くガッカリした。
 それもこれも突如乱入したアンノウンのせいである。この苛立ちを力の限りぶつけよう。そう思い振り向いた。

「残念だったね。ブレイドは君なんて眼中に無いってことだよ」

「ほう、俺との戦いより大切なことがあると?」

「ああそうさ。いて言うなら……愛の為。かな?」

「……っんだそりゃ?ふざけんじゃねぇぞ。俺のお楽しみを邪魔したんだ……この罪はオメーで贖ってもらうぜ」

「私を殺す気?無理無理、君じゃ私を殺すことなんてとてもとても……」

 アンノウンが一瞬視線を逸らしたその瞬間、大きな影がアンノウンを覆った。間合いは十分空いていたはず、近寄ってくる音にも気をつけていたし、油断したとはいえ、反応出来るだけの気は回していた。この瞬間にアンノウンは悟る。

「ああ、これは前言撤回……一人じゃ手に負えない……」

 ゴキッ

 アンノウンが諦めたセリフを言い終わる前に拳が振り下ろされた。その拳は頭蓋を砕き、アンノウンの首を地面に垂直に叩き落とした。体はその力について行かず、首がもげて頭だけが地面に突き刺さる異様な光景だった。

「手応えのねぇ奴だ……ん?」

 アンノウンの千切れた首の辺りに違和感があった。血も噴き出さなければ、生き物の構造上、筋肉や脂肪などとにかく内側が見えてなければおかしいのだが、この死骸にそれはない。例えるなら陶器。内側が空洞で、中に何も詰まっていなかった。その異様な存在に目を見開いていると、ザァッと灰か砂のように消えて無くなった。

「な……何だったんだ?」

 初めてのことに困惑し、動けなくなるジニオン。そうとは知らずにアバターが倒されたアンノウンはワイバーンの上で意識を取り戻した。

「あー……慣れないなぁ……」

「アンタ大丈夫?」

 ジュリアに抱えられて目が覚めたアンノウンはニコッと笑顔で返した。

「ああ、まぁね。ジニオンか……と言うよりあいつら全員底が知れないな……」

「ウン、面倒ナ奴ラダト直感シタヨ。要塞ニ居ルノモ アイツ ラノ一味カモネ。……気合イ入レテ行クヨ」

 ラルフたち三人を抜いたブレイドたち十三人は、エレノアの安否を確認するためワイバーンを駆り、急ぎ要塞へと戻る。
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