337 / 718
第九章 頂上
第二十七話 優先順位
しおりを挟む
(どうする……?)
アンノウンはブレイドとジニオンの戦いを見て頭を捻っていた。
ブレイドに声をかけられた時に組んだ魔法陣はワイバーンを召喚する為のものだった。しかし、かの大男が遮ったたので、召喚獣を変更するべきだろうと考えたのだ。
現在召喚しているウンディーネは竜魔人専用の召喚獣。強化消去魔法の使用を前提に生み出されている為に、ほとんど攻撃力はない。
ブレイドに限ってやられることはないと思ってはいるが、それはあくまで主観であり、間違いもあり得る。ここは加勢できる強い召喚獣を出すべきだろうか?
いや、その必要はない。とりあえず魔力消費を抑える名目でもウンディーネを戻して新たに召喚獣を出そう。竜魔人が脅威にならない以上、ウンディーネは邪魔になる。
大体の思考がまとまり、横目でアルルを見た。ブレイドの戦いから目を逸らさないよう、食い入るようにじっと見ている。アンノウンはアルルの他にも、デュラハン姉妹それぞれの位置やジュリアの様子などを確認し、ようやく彼女に声をかけた。
「アルル、ちょっとごめん」
アルルは視線を外すことなく首をちょっとだけ動かした。聞く意思が見えたので、そのまま続ける。
「ブレイドの戦いを見てるところ悪いんだけどさ、みんなをここに集めてくれないかな?」
「……えっと、どうしてです?」
「そりゃ戻るからね。要塞に……」
「まさか!そんなこと出来ませんよ!」
アルルは全力で否定する。
ここを放棄して逃げるのは簡単だ。それぞれの戦いを中断して、アンノウンの召喚する飛行生物を頼れば良い。デュラハンやジュリアは難なく戦闘を放棄出来るだろうが、ブレイドはどうだろうか?見るからに桁違いの力を持つ大男が道を塞ぎ、ブレイドと互角以上の戦いを見せている。
息をする間もないような攻防は見るものに恐怖を植え付ける。アルルもこの戦いを固唾を飲んで伺うくらいの衝撃があった。
完全に追い詰められたブレイドは最終手段に魔族の力を引き出すことが出来、身体能力の底上げが可能。今は体に変化が見られないので、まだある程度の余裕があるのかもしれないが、これからどうなるかは予測不可能だ。そんな状態で自分だけおめおめと要塞に戻ることは出来ない。
どんなことがあっても二人で乗り越えようと誓い合った仲だ。何と言われても梃子でも動かないという強い意志を感じる。
アンノウンはニコリと笑いながら小さく頷いた。
「大丈夫。みんなで、だよ」
アルルの言いたい事はとっくに想定済みだし、アンノウンも当然そのつもりだ。ブレイドに殿を任せようなどと、そんな事は考えてすらいなかった。
「えぇ……でも……」
「言いたい事はよく分かるよ。その不安、私に任せてくれる?」
アルルの不安を一身に背負うと豪語するアンノウン。その心意気に流石のアルルも絆される。それと同時に召喚魔法を発動させた。
「出でよ。召喚獣”ワイバーン”!!」
魔法陣から召喚された竜は小型で、力強く息巻いて召喚した割には弱そうに見えた。
しかし、それも当然のこと。元よりこの竜は移動を主軸に生み出されている。戦う為に作っていないのだ。アルルは一先ずジュリアのところに走った。
そんな周りの様子を気にしていられないブレイドは、ジニオンの付け入る隙を探っていた。どこかに必ずあるはずなのだ。息継ぎの瞬間、瞬きの瞬間等の一瞬の硬直。何でも良い。ただ一つ、どうしようもないほどに見逃してしまう小さな隙を……。
ブレイドはそう思いながら、自分が如何に愚かなことを考えているのかをハッキリと理解する。その隙があったらどうだと言うのか?その隙を突けば勝てるのか?
答えは否。
何故ならブレイドは何度も何度もその隙を突いて攻撃している。最初は見えなかった攻撃も段々と目が慣れてきて、既に対応してきている。拳の形が見え始めた頃、全ての攻撃を剣で往なしながら斬撃を加えている。
しかし何と言ってもこの男の皮膚が硬すぎる。そして手加減のつもりなのか、最初に斧をチラつかせただけで武器を使用しない。
今のままなら第十魔王”白絶”の側近である上級魔族、喪服女ことテテュースの方が強いと言えるが、武器を使用していないことを思えばその力は未知数だと言える。
覚醒して間もない魔族の力。ここで思う存分発揮し、ジニオンが実力を出す前に叩いてしまうのも一つの手だろう。だが、相手を追い詰めればそれこそテテュースのように突如本気を出され、逆に追い詰められるかもしれない。
ブレイドが有効な攻撃方法を持っていないからこそジニオンも遊んでいるのだ。
こうなったら前回同様、アンノウンに協力を要請したいところ。でもアンノウンには召喚獣で乗り物を出してもらわなければならず、他は他で忙しいしで助けは期待出来ない。
冷静になれば冷静になるほどに焦燥感が増す。
(待て……何を躊躇う?)
今考えるべきは母の無事。ここで出し惜しみをしていては守るべきものを失する。
ジニオン。この男は強い。ヒューマンとは思えぬほど圧倒的なまでの力を持つ。だが、それが何だと言うのか?この男のせいで要塞への道が閉ざされている。ならばいかなる手段を用いても押し通るべきだ。
手に力が入る。体が浅黒くなっていくぞわぞわとした感覚を感じながら、力に身を委ねようとしたその時、
「ブレイド、私が変わろう」
突如聞こえたその声にジニオンは気を取られた。ブレイドはハッとする。声の主が分かった瞬間、ジニオンの脇をすり抜けていた。
「あっ!オメー……!?」
ブレイドの背中を追って振り返ったが、首筋にひんやりとした金属を当てられた。
「なっ!?」
バッと背後を取った謎の敵に腕を振るう。かなりの速度で振り払ったつもりだったが、全く触れることなくその敵に間合いを取られた。
中性的な顔立ち、黒のライダースーツに身を包み、クナイのような武器を手に持っている。この世界の住人とは思えない格好だ。異世界人という空気をふんだんに醸し出しているのも気になったが、もっとも不思議なのは気配が希薄だということだ。背後に立たれてもその存在に全く気づかなかった。
「オメー……忍者か?」
「私が忍者?ははっ違うよ。私は何でもない。この武器もさっきその辺の死体から抜いたんだ。形状から察するにラルフの投擲武器だろうね」
ヒュンヒュンと手の中で投げナイフを回す。
「しかし……君はどういう肉体をしてるの?私は確かにその首を切った。その感触も確かに感じた。でも何故か傷一つ付いてない。何で?」
その問いにニヤッと笑みを返した。
「決まってる。俺が強ぇんだ!」
そう言うとジニオンはジロジロと無遠慮にアンノウンの体を眺めた。
「しっかし貧相な体してやがるぜ。最近のガキはまともな飯を食わねぇのか?」
「……失礼な人だな。ちゃんと食べてるし、これでも筋肉はついてる。ブレイドとそう大差ないと自負してるけど?」
「ヤワなんだよ嬢ちゃん。女が男のふりしたって良いことは一つもねぇぞ?大人しくお淑やかにしてるんだな。俺はブレイドとのお楽しみが……」
肩越しに後ろを見ると、そこにいるはずのブレイドの姿はどこにもなかった。
「……あれ……?」
体ごとぐるっと振り返ってもどこにも見当たらない。
「一足遅かったね。もうみんな飛んでったよ?」
その言葉を受けて、ジニオンは上を向く。懸命に要塞に飛んでいくワイバーンの姿が、もうあんなに小さい。ジニオンの脚力でも届かずに海に落ちてしまうのがハッキリと理解出来た。
「……逃げた?……この俺から?」
狙った獲物はどんな奴でも即刻叩き潰し、自分の強さに浸っていた。どれほど強いといっても自分以下なので、これほど戦えた男は珍しかったし、もう少し遊べそうだっただけに酷くガッカリした。
それもこれも突如乱入したアンノウンのせいである。この苛立ちを力の限りぶつけよう。そう思い振り向いた。
「残念だったね。ブレイドは君なんて眼中に無いってことだよ」
「ほう、俺との戦いより大切なことがあると?」
「ああそうさ。強いて言うなら……愛の為。かな?」
「……っんだそりゃ?ふざけんじゃねぇぞ。俺のお楽しみを邪魔したんだ……この罪はオメーで贖ってもらうぜ」
「私を殺す気?無理無理、君じゃ私を殺すことなんてとてもとても……」
アンノウンが一瞬視線を逸らしたその瞬間、大きな影がアンノウンを覆った。間合いは十分空いていたはず、近寄ってくる音にも気をつけていたし、油断したとはいえ、反応出来るだけの気は回していた。この瞬間にアンノウンは悟る。
「ああ、これは前言撤回……一人じゃ手に負えない……」
ゴキッ
アンノウンが諦めたセリフを言い終わる前に拳が振り下ろされた。その拳は頭蓋を砕き、アンノウンの首を地面に垂直に叩き落とした。体はその力について行かず、首がもげて頭だけが地面に突き刺さる異様な光景だった。
「手応えのねぇ奴だ……ん?」
アンノウンの千切れた首の辺りに違和感があった。血も噴き出さなければ、生き物の構造上、筋肉や脂肪などとにかく内側が見えてなければおかしいのだが、この死骸にそれはない。例えるなら陶器。内側が空洞で、中に何も詰まっていなかった。その異様な存在に目を見開いていると、ザァッと灰か砂のように消えて無くなった。
「な……何だったんだ?」
初めてのことに困惑し、動けなくなるジニオン。そうとは知らずにアバターが倒されたアンノウンはワイバーンの上で意識を取り戻した。
「あー……慣れないなぁ……」
「アンタ大丈夫?」
ジュリアに抱えられて目が覚めたアンノウンはニコッと笑顔で返した。
「ああ、まぁね。ジニオンか……と言うよりあいつら全員底が知れないな……」
「ウン、面倒ナ奴ラダト直感シタヨ。要塞ニ居ルノモ アイツ ラノ一味カモネ。……気合イ入レテ行クヨ」
ラルフたち三人を抜いたブレイドたち十三人は、エレノアの安否を確認するためワイバーンを駆り、急ぎ要塞へと戻る。
アンノウンはブレイドとジニオンの戦いを見て頭を捻っていた。
ブレイドに声をかけられた時に組んだ魔法陣はワイバーンを召喚する為のものだった。しかし、かの大男が遮ったたので、召喚獣を変更するべきだろうと考えたのだ。
現在召喚しているウンディーネは竜魔人専用の召喚獣。強化消去魔法の使用を前提に生み出されている為に、ほとんど攻撃力はない。
ブレイドに限ってやられることはないと思ってはいるが、それはあくまで主観であり、間違いもあり得る。ここは加勢できる強い召喚獣を出すべきだろうか?
いや、その必要はない。とりあえず魔力消費を抑える名目でもウンディーネを戻して新たに召喚獣を出そう。竜魔人が脅威にならない以上、ウンディーネは邪魔になる。
大体の思考がまとまり、横目でアルルを見た。ブレイドの戦いから目を逸らさないよう、食い入るようにじっと見ている。アンノウンはアルルの他にも、デュラハン姉妹それぞれの位置やジュリアの様子などを確認し、ようやく彼女に声をかけた。
「アルル、ちょっとごめん」
アルルは視線を外すことなく首をちょっとだけ動かした。聞く意思が見えたので、そのまま続ける。
「ブレイドの戦いを見てるところ悪いんだけどさ、みんなをここに集めてくれないかな?」
「……えっと、どうしてです?」
「そりゃ戻るからね。要塞に……」
「まさか!そんなこと出来ませんよ!」
アルルは全力で否定する。
ここを放棄して逃げるのは簡単だ。それぞれの戦いを中断して、アンノウンの召喚する飛行生物を頼れば良い。デュラハンやジュリアは難なく戦闘を放棄出来るだろうが、ブレイドはどうだろうか?見るからに桁違いの力を持つ大男が道を塞ぎ、ブレイドと互角以上の戦いを見せている。
息をする間もないような攻防は見るものに恐怖を植え付ける。アルルもこの戦いを固唾を飲んで伺うくらいの衝撃があった。
完全に追い詰められたブレイドは最終手段に魔族の力を引き出すことが出来、身体能力の底上げが可能。今は体に変化が見られないので、まだある程度の余裕があるのかもしれないが、これからどうなるかは予測不可能だ。そんな状態で自分だけおめおめと要塞に戻ることは出来ない。
どんなことがあっても二人で乗り越えようと誓い合った仲だ。何と言われても梃子でも動かないという強い意志を感じる。
アンノウンはニコリと笑いながら小さく頷いた。
「大丈夫。みんなで、だよ」
アルルの言いたい事はとっくに想定済みだし、アンノウンも当然そのつもりだ。ブレイドに殿を任せようなどと、そんな事は考えてすらいなかった。
「えぇ……でも……」
「言いたい事はよく分かるよ。その不安、私に任せてくれる?」
アルルの不安を一身に背負うと豪語するアンノウン。その心意気に流石のアルルも絆される。それと同時に召喚魔法を発動させた。
「出でよ。召喚獣”ワイバーン”!!」
魔法陣から召喚された竜は小型で、力強く息巻いて召喚した割には弱そうに見えた。
しかし、それも当然のこと。元よりこの竜は移動を主軸に生み出されている。戦う為に作っていないのだ。アルルは一先ずジュリアのところに走った。
そんな周りの様子を気にしていられないブレイドは、ジニオンの付け入る隙を探っていた。どこかに必ずあるはずなのだ。息継ぎの瞬間、瞬きの瞬間等の一瞬の硬直。何でも良い。ただ一つ、どうしようもないほどに見逃してしまう小さな隙を……。
ブレイドはそう思いながら、自分が如何に愚かなことを考えているのかをハッキリと理解する。その隙があったらどうだと言うのか?その隙を突けば勝てるのか?
答えは否。
何故ならブレイドは何度も何度もその隙を突いて攻撃している。最初は見えなかった攻撃も段々と目が慣れてきて、既に対応してきている。拳の形が見え始めた頃、全ての攻撃を剣で往なしながら斬撃を加えている。
しかし何と言ってもこの男の皮膚が硬すぎる。そして手加減のつもりなのか、最初に斧をチラつかせただけで武器を使用しない。
今のままなら第十魔王”白絶”の側近である上級魔族、喪服女ことテテュースの方が強いと言えるが、武器を使用していないことを思えばその力は未知数だと言える。
覚醒して間もない魔族の力。ここで思う存分発揮し、ジニオンが実力を出す前に叩いてしまうのも一つの手だろう。だが、相手を追い詰めればそれこそテテュースのように突如本気を出され、逆に追い詰められるかもしれない。
ブレイドが有効な攻撃方法を持っていないからこそジニオンも遊んでいるのだ。
こうなったら前回同様、アンノウンに協力を要請したいところ。でもアンノウンには召喚獣で乗り物を出してもらわなければならず、他は他で忙しいしで助けは期待出来ない。
冷静になれば冷静になるほどに焦燥感が増す。
(待て……何を躊躇う?)
今考えるべきは母の無事。ここで出し惜しみをしていては守るべきものを失する。
ジニオン。この男は強い。ヒューマンとは思えぬほど圧倒的なまでの力を持つ。だが、それが何だと言うのか?この男のせいで要塞への道が閉ざされている。ならばいかなる手段を用いても押し通るべきだ。
手に力が入る。体が浅黒くなっていくぞわぞわとした感覚を感じながら、力に身を委ねようとしたその時、
「ブレイド、私が変わろう」
突如聞こえたその声にジニオンは気を取られた。ブレイドはハッとする。声の主が分かった瞬間、ジニオンの脇をすり抜けていた。
「あっ!オメー……!?」
ブレイドの背中を追って振り返ったが、首筋にひんやりとした金属を当てられた。
「なっ!?」
バッと背後を取った謎の敵に腕を振るう。かなりの速度で振り払ったつもりだったが、全く触れることなくその敵に間合いを取られた。
中性的な顔立ち、黒のライダースーツに身を包み、クナイのような武器を手に持っている。この世界の住人とは思えない格好だ。異世界人という空気をふんだんに醸し出しているのも気になったが、もっとも不思議なのは気配が希薄だということだ。背後に立たれてもその存在に全く気づかなかった。
「オメー……忍者か?」
「私が忍者?ははっ違うよ。私は何でもない。この武器もさっきその辺の死体から抜いたんだ。形状から察するにラルフの投擲武器だろうね」
ヒュンヒュンと手の中で投げナイフを回す。
「しかし……君はどういう肉体をしてるの?私は確かにその首を切った。その感触も確かに感じた。でも何故か傷一つ付いてない。何で?」
その問いにニヤッと笑みを返した。
「決まってる。俺が強ぇんだ!」
そう言うとジニオンはジロジロと無遠慮にアンノウンの体を眺めた。
「しっかし貧相な体してやがるぜ。最近のガキはまともな飯を食わねぇのか?」
「……失礼な人だな。ちゃんと食べてるし、これでも筋肉はついてる。ブレイドとそう大差ないと自負してるけど?」
「ヤワなんだよ嬢ちゃん。女が男のふりしたって良いことは一つもねぇぞ?大人しくお淑やかにしてるんだな。俺はブレイドとのお楽しみが……」
肩越しに後ろを見ると、そこにいるはずのブレイドの姿はどこにもなかった。
「……あれ……?」
体ごとぐるっと振り返ってもどこにも見当たらない。
「一足遅かったね。もうみんな飛んでったよ?」
その言葉を受けて、ジニオンは上を向く。懸命に要塞に飛んでいくワイバーンの姿が、もうあんなに小さい。ジニオンの脚力でも届かずに海に落ちてしまうのがハッキリと理解出来た。
「……逃げた?……この俺から?」
狙った獲物はどんな奴でも即刻叩き潰し、自分の強さに浸っていた。どれほど強いといっても自分以下なので、これほど戦えた男は珍しかったし、もう少し遊べそうだっただけに酷くガッカリした。
それもこれも突如乱入したアンノウンのせいである。この苛立ちを力の限りぶつけよう。そう思い振り向いた。
「残念だったね。ブレイドは君なんて眼中に無いってことだよ」
「ほう、俺との戦いより大切なことがあると?」
「ああそうさ。強いて言うなら……愛の為。かな?」
「……っんだそりゃ?ふざけんじゃねぇぞ。俺のお楽しみを邪魔したんだ……この罪はオメーで贖ってもらうぜ」
「私を殺す気?無理無理、君じゃ私を殺すことなんてとてもとても……」
アンノウンが一瞬視線を逸らしたその瞬間、大きな影がアンノウンを覆った。間合いは十分空いていたはず、近寄ってくる音にも気をつけていたし、油断したとはいえ、反応出来るだけの気は回していた。この瞬間にアンノウンは悟る。
「ああ、これは前言撤回……一人じゃ手に負えない……」
ゴキッ
アンノウンが諦めたセリフを言い終わる前に拳が振り下ろされた。その拳は頭蓋を砕き、アンノウンの首を地面に垂直に叩き落とした。体はその力について行かず、首がもげて頭だけが地面に突き刺さる異様な光景だった。
「手応えのねぇ奴だ……ん?」
アンノウンの千切れた首の辺りに違和感があった。血も噴き出さなければ、生き物の構造上、筋肉や脂肪などとにかく内側が見えてなければおかしいのだが、この死骸にそれはない。例えるなら陶器。内側が空洞で、中に何も詰まっていなかった。その異様な存在に目を見開いていると、ザァッと灰か砂のように消えて無くなった。
「な……何だったんだ?」
初めてのことに困惑し、動けなくなるジニオン。そうとは知らずにアバターが倒されたアンノウンはワイバーンの上で意識を取り戻した。
「あー……慣れないなぁ……」
「アンタ大丈夫?」
ジュリアに抱えられて目が覚めたアンノウンはニコッと笑顔で返した。
「ああ、まぁね。ジニオンか……と言うよりあいつら全員底が知れないな……」
「ウン、面倒ナ奴ラダト直感シタヨ。要塞ニ居ルノモ アイツ ラノ一味カモネ。……気合イ入レテ行クヨ」
ラルフたち三人を抜いたブレイドたち十三人は、エレノアの安否を確認するためワイバーンを駆り、急ぎ要塞へと戻る。
0
あなたにおすすめの小説
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~
テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。
しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。
ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。
「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」
彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ――
目が覚めると未知の洞窟にいた。
貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。
その中から現れたモノは……
「えっ? 女の子???」
これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる