一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第九章 頂上

第二十八話 専守防衛

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 バチィッ……

 要塞の暗闇に稲妻が走った。
 その稲妻を紙一重で躱しながら姿勢を低く、飛んでくる方向に武器を構える。ノーンとトドットはエレノアとの戦いに苦戦を強いられていた。

「あー……面倒臭っ!」

 要塞の通路は直線的で遮蔽物が無い。その結果真っ向から攻撃を避ける必要があり、さらにテノスが顔面に直撃を受けて倒されている。まともに当たれば無事には済まない。

「ノーンよ、ここは儂が引き受けよう。おぬしは回り込んでテノスの様子を見てやってくれ」

「アレを引きつける?確実におじいさんより強いんだけど大丈夫なの?」

 エレノアの実力を完璧に見定めたわけでは無いが、感じる絶対的強者の風格は隠せるものでは無い。稲妻を操るというのもその強さに拍車をかけている。

「なぁに?どぉしたのぉ?調子に乗って乗り込んできた割にはぁ、随分と消極的なのねぇ。もっと骨のある敵だと思ったのにぃ」

「……あ?」

 ノーンは眉間にシワを寄せながらこめかみに血管を浮かせる。苛立ちを隠しきれずに立ち上がった。トドットは焦って屈むようにジェスチャーするが全く見ていない。

「馬鹿者っ……!挑発に乗るんじゃ無い!」

「黙って。あの女は私が殺す」

 ノーンは槍を構えて突撃した。いきなり過ぎる行動に止めることも出来ずにトドットはかぶりを振った。

「若い……」

 それだけ呟いてトドットは暗闇に消えた。
 間合いを一気に詰めに行ったノーンは、エレノアの姿を認めると槍を前方に構えた。エレノアもすかさず稲妻を飛ばす。稲妻は空気を走り、光の速さで飛んでくる。それゆえに来る場所さえ分かれば避けることは然程さほど難しいことではない。理論上、射線に居なければ当たることはないのだから。
 ノーンは即座にそれを実行する。先ほどは後退しながら魔力の流れを読み取り、稲妻を躱していたが、今度は前に攻めながらこれをやってのけた。

「!……へぇ……」

 エレノアはニヤリと笑う。器用なことをしながら近づいてくるノーンに興味をそそられた。

「じゃぁこれならどぉ?」

 両手をかざして通路を塞ぐように放電した。これを避けることは物理的に不可能だ。しかし彼女はこの攻撃が来ることは想定済みだったようで、その電撃の嵐に槍を投げた。槍は避雷針のようにその電撃を一挙に引き受けた。

「あれ?」

 エレノアは飛んでくる槍を半身で避けながら手で掴むと、後ろに放り投げた。ガランッと大きな音が鳴る。ノーンはヒューマンとは思えない速度で迫り、一気に間合いを詰めてエレノアの顔に向かって手を振るった。研いであるくらい鋭い爪は頬の肉を抉ろうと迫るが、その攻撃を難なく避ける。
 ノーンは接近の勢いのままエレノアの後方に回り込み、投げ捨てられた槍を拾う。

「わぁ。曲芸師みたぁい」

 エレノアの印象の通り、彼女は曲芸師のような身軽さで後転やバク転を決めた後、着地と同時に槍を構えた。細く長い息を吐きながら猛獣のような獰猛どうもうな殺意をエレノアに向ける。

「……さっきのアレはぁ、どうやったのぉ?私の魔力が一箇所に集まったやつぅ」

「は?教えない」

「だってだってぇ、私の稲妻はぁ自然発生する稲妻とは違うんだよぉ?あんな風にぃ一箇所に集まるなんてぇ、おかしいって誰でも思うよねぇ」

「だから教えないって……ってかアンタのその喋り方マジウザいんだけど。普通に喋れないわけ?」

 初めてエレノアから笑顔が消える。目を細めてノーンに不快感を示す。

「……生意気ぃ。これが私の普通なんだけどぉ?小娘のくせにぃ、私に意見するわけぇ?」

「ウザ……アンタいくつよ。ぶりっ子とか流行んないから……」

「いくつぅ?う~ん、百年超えたところから数えてなぁい。でもぉこれだけは言えるよぉ。一児の母でぇす」

「はっ!ババァじゃん。もう若くないんだから落ち着きなよ」

 エレノアの体からバチバチと放電し始める。

「あーあ、怒らせちゃったねぇ。手加減やぁめたぁ」

 パリッ……

 その動きは常人では目で追えない。何せ光の速さで動くのだ。ノーンの目に残像だけを残してエレノアは背後に回った。目にほとんど頼ることなく気配だけを追って背後の敵に槍を突き出すが、エレノアの裏拳が既にノーンの頬を叩いていた。あまりの威力に真横に吹っ飛び、頭から壁にぶつかった。
 ゴンッという鈍い音が鳴り、ノーンは壁にもたれかかりながら崩れ落ちた。

「まだ死んでないよねぇ?中々動けるからぁ割と本気で殴っちゃったぁ。でもぉ頭吹っ飛んでないしぃ、生きてるよねぇ?」

 目的は要塞の乗っ取りだったようだが、肝心のこいつらが誰なのかは分かっていない。この女の子も最初の少年も殺したかも知れないが、まだ老人がいるので情報収集には事欠かないだろう。
 ノーンをほっといてトドットが逃げたと思われる通路に目を向けた。暗闇で見えない通路に稲妻で照らそうと魔力を貯め始めたその時、背後から光が迫ってくるのが分かった。貯めた魔力を振り返りざまに光に当てると、爆発が起こり、エレノアは吹っ飛ばされた。
 地面に転がらないように手をつき、空中で体を反転させながら着地する。魔力球の飛んできた方向に目を向けると、顔が焼けて黒ずんでいるテノスが立っていた。

「このクソが……」

 皮膚の薄皮が剥がれて痛々しい顔になっている。稲妻を顔面に受けたのに、こんなに早く起きてきたことに驚きを隠せない。

「え、すごぉい。ちゃんと生きてたんだぁ」

「……っざけんじゃねぇぞ。ゼッテー殺す」

 テノスは魔道具を取り外した。乱暴に床に落としたので、ガラァンッと派手な音が鳴る。
 その行動にエレノアは違和感を覚えた。

「何してるのぉ?それで攻撃しなきゃダメなんじゃなぁい?」

「頭キたから殴り殺してやるんだよ」

 ビキビキッ……

 少年の体から嫌な音が鳴る。全身に血管が浮き出て、筋肉が隆起する。体からオーラが出始め、先ほどのただの少年から一転、怪物のような雰囲気を醸し出す。

「何……?この子」

 ただのヒューマンかと思っていたが、どうもおかしい。それは人間の皮を被った鬼。力を出して赤黒く変色していく姿はまるで半人半魔ハーフのようだ。その姿にブレイドを重ねた。

(この子も同じ……)

 そんな風に呆けて見ていたが、テノスが踏み込んだ瞬間に気を張り直す。
 その速度はエレノアとほぼ同じ。稲妻を纏う自分について来れるとすれば、テノスは光の速度で動いていることになる。ノーンとの攻防とは次元が違う。
 エレノアは観察に入った。テノスの動き、癖、パターンを見極めるべく防御に徹する。速い。速いが、動きはまるで単調だ。速さと腕力に物を言わせて相手を叩き潰してきたのだろう、動きに対応できる強者に出会ったことがないと見えた。
 年の頃もブレイドより若く、まだまだ発展途上。これほどの逸材が経験不足であることに感謝しかない。
 エレノアは本気でテノスを殺そうと考える。ここでやらなければ、成長した少年とブレイドがやり合うことになるかも知れない。親の贔屓目に見ても、ブレイドではテノスに勝ち目はない。エレノアの拳が手刀に変わり、一点集中で腹部を貫くことを決意した時、エレノアの足に何かが絡みついた。

 ギシッ

 完全に足を固定され、一瞬硬直してしまう。その正体は床から生えた無数の手だった。それも光速で動き回る足を固定できるほどの強さを持った手達。

「今じゃ。やれテノス」

 それが聞こえたわけではない。トドットが独り言のようにボソッと呟いていただけ。しかし、エレノアにはハッキリと聞こえていた。この手を出現させ、見事敵の隙を作った老人の声を。

 ドボッ

 単調で、愚直で、怒りのままに放った拳がエレノアの腹を貫いた。

「あがっ……!」

 まさかの返り討ち。尋常ではない強さに、流石のエレノアも無傷ではいられない。どころか完全な致命傷。腹を貫いた拳を引き抜き、テノスは背後に飛んだ。

「余計なことすんじゃねぇよジジイ!!」

 全部自分の力でやろうとしていたのだが、トドットに寄りそれは叶わぬ夢となった。エレノアは穴の開いたお腹を押さえながら自身の魔力で治癒を行う。しかし、痛みのせいで中々上手に魔力を練られず、血が溢れてしまう。徐々に回復が出来ているが、ここでまた攻撃されれば今度こそ死ぬかも知れない。

「すまんすまん。だがテノス、儂が加勢しとらんかったらおぬしがこうなっとったかもしらんぞ?さぁトドメを刺すのじゃ」

「命令すんじゃねぇ!言われなくてもここで殺す。見てな」

 エレノアの腹部に刺し、血で濡れた右手を掲げる。この右手でエレノアの息の根を止めるようだ。足を掴まれて身動きが取れず、痛みから顔をあげるくらいしか出来ないエレノアは死を予感していた。

(ああ、ブレイブ……今から私も……)

 ドンッ

 無残に消し飛んだ。

 テノスの血で濡れた右手が。

「ぐああああぁぁっ!!?」

 何が起こったか分からず、手を抱えてうずくまる。トドットもテノスの手先が丸ごと消し飛んだのに目を見開き驚きを隠せない。
 エレノアがハッとして目を凝らすと、テノスの背後にブレイドの姿が見えた。ガンブレイドを構えたブレイドは血管を浮かせながら睨みつける。

「……お前ら、覚悟は出来てんだろうな?」
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