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第十一章 復讐
第三十六話 天秤の行方
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「ほぅ?それは本当か。実に素晴らしい!」
マクマインはゼアルの報告にパンッと手を一つ叩いた。
『はい。神の御業を目の当たりにし、私の世界が一変しました。誰にも負ける気がしません。八大地獄はもちろん、古代種にも匹敵すると自負しています。あの女にも勝てましょう』
マクマインにとって世界で一番嬉しい言葉だ。
ラルフに虚仮にされてから数日、妻のアイナと共に自身のあり方を見つめ直す機会に恵まれた。内政、戦争、外交など何もかもに手をつけて来たマクマインは、代理を立てて休暇を取った。家族との時間を作り、ゆっくりと静養に励む。手塩に掛けて平和にした都市だっただけに、二、三日の不在は痛手にはならなかった。
国の中枢で見る景色と、少し離れて見る景色はほんの少しだけ違って見え、もっと俯瞰から状況を見渡すことが出来るようにもなった。
(ゼアルにアシュタロトの力を授けるのは成功だったな)
ゼアルの言う”神の御業”を全て自分に付与させることで、無敵の力を手に入れるのも考えた。だがそうしなかったのは、ラルフがわざわざイルレアン国に侵入し、わざわざ自分に会うという選択をしたお陰だ。
どれほど自分が優れていても自分一人ではどうしようもなかった。ラルフの周りにはラルフ以上に出来るもの達ばかりが集まり、全てを補っていた。
これは能力による差でもあるが、なまじ何でも出来るが故に人に頼ると言うことに重きを置けなかった。アルパザでゼアルが失敗して以降、最強の手足であったはずの彼を信頼しきれなくなっていたためだ。だからこそ最も追い詰められたあの瞬間に渇望した。自分にも鏖のような最強の存在がいてくれたらと。
『しかし……良かったのでしょうか?八大地獄は公爵、貴方が自ら仲間に引き入れた連中。これは明確な裏切り行為ではないでしょうか?』
「そう考えるのも無理はない。だがこちらは約束を守った。いや、約束は守った。裏切りを盾に取るなら、こちらは詭弁で対抗する。案ずることはない」
『ですが、あちらは怪物です。こちらの言葉が通じるかどうか……』
「ふふっ、言うではないか。我々の関係は敵の敵は味方、つまり利害の一致で手を組んでいるのだ。奴らが最初にやったことを考えれば、自分達だけが痛みを受けないと思うのは間違いであろう?押さえつけるのもまた必要なことよ。それに奴らはそのことに気づいている。まるっきりケダモノというわけではないのだ」
マクマインはゼアルから視線を外し、アシュタロトに目を向ける。アシュタロトはニヤリと笑って一つ頷いた。
『なるほど。アシュタロト様も同意見であるならばこれ以上は申しません』
ゼアルはスッと会釈する。誰より強く、誰より賢いのに裏切ることなど爪の先ほども考えていない忠臣。この世界が魔族による脅威に曝されているからこそ力を存分に奮えるが、人間同士の戦場であったなら間違いなく誰からも疎まれていたであろう存在。もしそんな世界なら、間違いなく先に潰していただろう。
だが現実は魔族が跋扈する世界。これこそが斯くあるべき姿であるならば、ゼアルという存在が自分の下に居てくれる事実に感謝するだけだ。
「……それでだ。貴様にはその足で次なる場所に行ってもらいたい」
『はっ、何なりとお申し付けを……それでどちらに?』
*
『良いな~マクマインは。僕にもあんなのが欲しいよ』
アシュタロトはいつものように足をプラプラさせながらブー垂れる。
「ん?貴様仮にも神であろう?作れば良いじゃないか」
『僕らにもルールってものがあるさ。それに自然にあんなのが居るから良いんじゃん?作っちゃったら凄くも何ともないってものだよ』
「良く言う。貴様らが鏖などという魔族を作ったのであろう?一方に肩入れしておきながら今更均衡を保とうなど虫の良い話よ。それともこれも一つの絵図か?」
『勘違いしてもらっては困るなぁ。サトリの一存で生まれた化け物だよ?あまりにあんまりな力を与えすぎてるから、僕も責任を感じてこうして君に力を貸しているのさ。それと君たちが最も何とか出来る立ち位置にいるからこその選択さ。……何も考えてないと思ったかい?』
「……気になることがある」
マクマインは椅子に深く座りなおし、ジロッと鋭い視線を送る。
「貴様ら”神”を名乗るもの達は何体いるのだ?その内何体がここに降りて来ている?」
『神はたくさんいるよ。降りて来てるのは僕を含めて三つ。サトリ、アトム、僕。あとは……寝てるんじゃない?』
「寝る……?休息など必要なのか?」
『暇つぶしさ。君たちにとっては永劫の時を生きる僕らの退屈しのぎ。だからこそ箱庭を作った。この世界は僕らが時間を忘れることの出来る遊び場なのさ』
「それにしては干渉が少ないと感じるが……」
『だね。昔は……それこそ作った当初は干渉しまくってたけど、そんなことをすればどうなるか反省したってところさ。守護獣の危機がアトムや僕を駆り立てたのが今回の騒動のきっかけではあるけど、余程この世界に執着がなければ静観を決め込むさ』
「それだ。そのきっかけという奴。私はそれが心配でな。もし他の連中も何らかのきっかけでこの世界への干渉を決め込むなら、それだけ敵が増えるということ。神の気まぐれがないことを祈りたいが……貴様のような神が寝ているだけだというなら、目覚めた折に仕掛けてくる可能性があるということで間違いなかろう」
マクマインは腕を組んで考え込む。アシュタロトは唇を尖らせて黙った。思い当たる節があるのだろう。
「これが我らだけなら収集もつこう。しかし他にも降りてくるなら……」
『それを止めることも咎めることも僕には出来ない。もし降りてくるというなら受け入れるだけさ』
ぴょんっとソファから飛び降りる。
「どこに行く?」
『聞いてこようと思ってさ。君の杞憂だと思うけど、確信は出来ないからね』
「気をつけてな。なるべく早く帰ってくれると嬉しいが……」
『ふふっ、僕が恋しい?』
「ああ。絶対に戻って来てくれよ」
アシュタロトはニコッと嬉しそうに笑って消えた。その後、二度と戻らなかったということは全く無く、割とすぐに戻って来た。嫌な話を引っさげて……。
*
蒼玉は起動していた通信機を切った。
ラルフに提案された協議の件、その開催日を参加者に随時送るという作業が終了し、ようやくホッと一息ついたところだった。
「……それで?あなたは一体どなたでしょうか?」
『案ずることはないにゃ~。うちはアルテミス。俗に言う神様って奴にゃ~』
マクマインはゼアルの報告にパンッと手を一つ叩いた。
『はい。神の御業を目の当たりにし、私の世界が一変しました。誰にも負ける気がしません。八大地獄はもちろん、古代種にも匹敵すると自負しています。あの女にも勝てましょう』
マクマインにとって世界で一番嬉しい言葉だ。
ラルフに虚仮にされてから数日、妻のアイナと共に自身のあり方を見つめ直す機会に恵まれた。内政、戦争、外交など何もかもに手をつけて来たマクマインは、代理を立てて休暇を取った。家族との時間を作り、ゆっくりと静養に励む。手塩に掛けて平和にした都市だっただけに、二、三日の不在は痛手にはならなかった。
国の中枢で見る景色と、少し離れて見る景色はほんの少しだけ違って見え、もっと俯瞰から状況を見渡すことが出来るようにもなった。
(ゼアルにアシュタロトの力を授けるのは成功だったな)
ゼアルの言う”神の御業”を全て自分に付与させることで、無敵の力を手に入れるのも考えた。だがそうしなかったのは、ラルフがわざわざイルレアン国に侵入し、わざわざ自分に会うという選択をしたお陰だ。
どれほど自分が優れていても自分一人ではどうしようもなかった。ラルフの周りにはラルフ以上に出来るもの達ばかりが集まり、全てを補っていた。
これは能力による差でもあるが、なまじ何でも出来るが故に人に頼ると言うことに重きを置けなかった。アルパザでゼアルが失敗して以降、最強の手足であったはずの彼を信頼しきれなくなっていたためだ。だからこそ最も追い詰められたあの瞬間に渇望した。自分にも鏖のような最強の存在がいてくれたらと。
『しかし……良かったのでしょうか?八大地獄は公爵、貴方が自ら仲間に引き入れた連中。これは明確な裏切り行為ではないでしょうか?』
「そう考えるのも無理はない。だがこちらは約束を守った。いや、約束は守った。裏切りを盾に取るなら、こちらは詭弁で対抗する。案ずることはない」
『ですが、あちらは怪物です。こちらの言葉が通じるかどうか……』
「ふふっ、言うではないか。我々の関係は敵の敵は味方、つまり利害の一致で手を組んでいるのだ。奴らが最初にやったことを考えれば、自分達だけが痛みを受けないと思うのは間違いであろう?押さえつけるのもまた必要なことよ。それに奴らはそのことに気づいている。まるっきりケダモノというわけではないのだ」
マクマインはゼアルから視線を外し、アシュタロトに目を向ける。アシュタロトはニヤリと笑って一つ頷いた。
『なるほど。アシュタロト様も同意見であるならばこれ以上は申しません』
ゼアルはスッと会釈する。誰より強く、誰より賢いのに裏切ることなど爪の先ほども考えていない忠臣。この世界が魔族による脅威に曝されているからこそ力を存分に奮えるが、人間同士の戦場であったなら間違いなく誰からも疎まれていたであろう存在。もしそんな世界なら、間違いなく先に潰していただろう。
だが現実は魔族が跋扈する世界。これこそが斯くあるべき姿であるならば、ゼアルという存在が自分の下に居てくれる事実に感謝するだけだ。
「……それでだ。貴様にはその足で次なる場所に行ってもらいたい」
『はっ、何なりとお申し付けを……それでどちらに?』
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『良いな~マクマインは。僕にもあんなのが欲しいよ』
アシュタロトはいつものように足をプラプラさせながらブー垂れる。
「ん?貴様仮にも神であろう?作れば良いじゃないか」
『僕らにもルールってものがあるさ。それに自然にあんなのが居るから良いんじゃん?作っちゃったら凄くも何ともないってものだよ』
「良く言う。貴様らが鏖などという魔族を作ったのであろう?一方に肩入れしておきながら今更均衡を保とうなど虫の良い話よ。それともこれも一つの絵図か?」
『勘違いしてもらっては困るなぁ。サトリの一存で生まれた化け物だよ?あまりにあんまりな力を与えすぎてるから、僕も責任を感じてこうして君に力を貸しているのさ。それと君たちが最も何とか出来る立ち位置にいるからこその選択さ。……何も考えてないと思ったかい?』
「……気になることがある」
マクマインは椅子に深く座りなおし、ジロッと鋭い視線を送る。
「貴様ら”神”を名乗るもの達は何体いるのだ?その内何体がここに降りて来ている?」
『神はたくさんいるよ。降りて来てるのは僕を含めて三つ。サトリ、アトム、僕。あとは……寝てるんじゃない?』
「寝る……?休息など必要なのか?」
『暇つぶしさ。君たちにとっては永劫の時を生きる僕らの退屈しのぎ。だからこそ箱庭を作った。この世界は僕らが時間を忘れることの出来る遊び場なのさ』
「それにしては干渉が少ないと感じるが……」
『だね。昔は……それこそ作った当初は干渉しまくってたけど、そんなことをすればどうなるか反省したってところさ。守護獣の危機がアトムや僕を駆り立てたのが今回の騒動のきっかけではあるけど、余程この世界に執着がなければ静観を決め込むさ』
「それだ。そのきっかけという奴。私はそれが心配でな。もし他の連中も何らかのきっかけでこの世界への干渉を決め込むなら、それだけ敵が増えるということ。神の気まぐれがないことを祈りたいが……貴様のような神が寝ているだけだというなら、目覚めた折に仕掛けてくる可能性があるということで間違いなかろう」
マクマインは腕を組んで考え込む。アシュタロトは唇を尖らせて黙った。思い当たる節があるのだろう。
「これが我らだけなら収集もつこう。しかし他にも降りてくるなら……」
『それを止めることも咎めることも僕には出来ない。もし降りてくるというなら受け入れるだけさ』
ぴょんっとソファから飛び降りる。
「どこに行く?」
『聞いてこようと思ってさ。君の杞憂だと思うけど、確信は出来ないからね』
「気をつけてな。なるべく早く帰ってくれると嬉しいが……」
『ふふっ、僕が恋しい?』
「ああ。絶対に戻って来てくれよ」
アシュタロトはニコッと嬉しそうに笑って消えた。その後、二度と戻らなかったということは全く無く、割とすぐに戻って来た。嫌な話を引っさげて……。
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