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第十章 虚空
第八話 戦いの幕引き
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人類で最上に数えられる強者の二人。
この二人の攻防は、せっかく綺麗に均してあった地面を抉り、踏み抜き、掘り返してボコボコの地面へと変えた。その上、辺り一帯の建物も被害を受けて、壁がボロボロになっている。浮遊する建造物が視認された時点で避難が開始されたので国民の犠牲者がいなかったのが不幸中の幸いか。
こうなるとすぐ側で観戦していたラルフたちにも多大な影響を及ぼしていそうだが、何の事は無い全くの無傷。というのもアルルがいつもの魔法”円盾”でみんなの身を守っていたお陰である。
当の二人は擦り傷や多少の打撲程度は散見されるが、いずれも軽傷。被害は見事に周りだけという国民たちにとって迷惑極まりない形で膠着状態となっていた。
「面白イ……ココマデヤレルトハ。キチント世代交代ガ出来テイル事実ニ直面シ、俺ハ感動シテイル」
「……私は困惑しているわ。老境の身で私と渡り合うなんて、全盛期はどれくらい強かったのか見当もつかないもの……」
「フンッ、吐カセ。魔法モ使ワズ、技スラ温存シテイルクセニ……」
「それは……お互い様でしょ」
ベリアは腕を組み、ナタリアは構えを解いた。これ以上は不毛と判断したようだ。お互いがお互いを認め合う、まさに「戦えば相手のことが分かる」という武芸者特有の観念を見せられていた。
戦った者同士、または練り上げられた戦士でしか分からない感覚であり、戦いの終了を宣言したのはアロンツォだった。
「ふむ、終わったな」
澄ました顔で空王の方を見た。構えを解いた時点で一応収束したと推察は出来るが、戦士ではない空王には正直なんで決着も無しに止めるに至ったのか分からず混乱していた。
しかし尋ねたら格好が付かないので、アロンツォの目を見てコクリと一つ頷いた。
「……この空気が分かる連中の暗黙の約束事とか、ちょっと面倒臭いんだよなぁ……」
ラルフはポツリと呟く。ちょっと前まで戦いから極力逃げて来た男が、熱き漢たちの精神をすぐさま理解できるはずもなく。
だが小競り合いが終わったことは歓迎できる。ラルフはホッと一息つき、ポケットからアクセサリー型の通信機をそっと取り出した。要塞で待つミーシャたちに一応報告をする為だ。映像を観ているから既に承知のことだろうが、伝えないという選択肢はラルフの中にはなかった。
通信機を起動させようとしたその時、突然通信機が起動した。
『ラルフさん!すまない!止めようとしたんじゃが……!!』
何を?そんなことを聞かなくても何が止まらなかったのはよく分かる。まだ交渉の一つも出来ていないこの状況で、ミーシャたちが降り立とうとしている。現在ナタリアとベリアの二人が戦い、二人だけが傷ついた状態で済んでいるのは人間同士だからだ。ここに魔族が降り立ったらどうなる?
(そりゃ決まってる。戦争だ!!)
焦ってバッと上を見る。降りてくるのを視認しようとしていたが、すぐ側で声をかけられる。
「何か忘れ物?」
ミーシャたちだ。顔を見なくてもよく分かる。ラルフは「あちゃ~……」と片手で顔を隠しながらミーシャの顔を見た。何で飛んで降りてくると思ったのか?ベルフィアの転移の魔法で一瞬の内に降りて来たに決まっている。
そして分かっていたことだが、大人数で降りて来ている。ミーシャ、ベルフィア、エレノア、ジュリア、デュラハン姉妹三体、後ティアマトもついでについて来ている。上が相当暇だったのか、体をグッと伸ばしてポキポキ骨を鳴らしていた。
「あのさぁ……まだ交渉中だよ?俺が呼ぶまでは上で大人しくしてろって言わなかったっけ?」
「言ってないよ」「言っとらん」「言ッテ無イナ」「言ってませんわ」
口々にラルフの言葉を否定する。エレノアは首を振り「すぐ降りられるとは言ってたよぉ」と訂正した。ティアマトは聞いてすらいない。
「そっか、言ってなかったか……」
ガクッと肩を落とした。
「チョッ……オイオイ、本気カ?ヤッパ居ルジャネェカ、魔族ガヨ……」
ベリアも困惑する。何故さっきナタリアと戦ったのか、自分でも分からなくなってきた。
「全く……そなたは何でこうカリスマが無いのか」
アロンツォはため息交じりにラルフを見る。同時に多方面から非難の目を向けられた。
「えぇ……俺ぇ?」
ラルフの苦労を知るブレイドとアルル、アンノウンも同情の目を向けたが、擁護の声はない。「カリスマ」が無いのは事実だから。
「……仲間割レ……カ?」
変な空気が漂う奇妙な現場に、ベリアは一人取り残されたよな孤独感を感じた。
「ベリア殿ォー!!」
後ろから甲高い声が聞こえる。ぞろぞろと足音を鳴らして精鋭部隊を引き連れた犬の将軍がやって来た。
「パウチ ジャネェカ」
ベリアは将軍をも呼び捨てにしながら正面を向いた。すぐ後ろまで足音が近づき「全体止まれ!」と号令が掛かる。ザッと足並みを揃えて精鋭部隊が停止したと同時に、将軍だけがベリアに近づく。
「……オ前ラ何シニ来ヤガッタ。ココハ俺ノ戦場ダゼ?」
「ベリア殿!ソンナ事言ットル場合カ!ア、アレハ魔族デハ無イカ!?」
「見リャ分カンダロ。マダ交戦中ダ。退ガレ退ガレ」
「ソウハイカン!アソコニ在ワスノハ空王様ゾ!キット人質ニ取ラレテイルニ違イナイ!スグニ救出イタソウゾ!!」
将軍は息巻いて、腰に提げた長剣を抜く。それを機に精鋭部隊の面々も各々の武器を取る。
「お?やる気見たいね。ま、私ならこの程度の人数チョチョイのチョイで……」
「待ちなさいよ、あなただけ独り占めするつもり?ここのところ動けてないのだから、私にも分けなさい」
ミーシャに突っかかるティアマト。
「おどれ……殺されんからと調子こくな。ここで躾けてやろうか?ん?」
そのティアマトに突っかかるベルフィア。段々と話がこんがらがって来た時、ベリアが声を上げた。
「……止メダ止メ!オ前ラ武器ヲ降ロセ!」
「!……シ、シカシ……」
「聞コエナカッタカ?スグニ武器ヲ降ロセト言ッタンダ!」
ベリアの剣幕に押された将軍は精鋭部隊にジェスチャーを送り、武器を降ろさせた。それを確認した後、ラルフを見た。
「オ前ラノ事ハ良ク知ラン。シカシ、ブレイブノ息子ノ事ト、ソコニ居ル魔族ノ強サハ良ク分カル」
ベリアはずいっとラルフに近づいた。
「聞コウジャネェカ。ココニ来タ理由ッテ奴ヲヨ……」
「……最初から聞いとけばこんな……あ、いや何でも無いです」
こうしてようやくベリアと交渉の席に着くことが出来たのだった。
この二人の攻防は、せっかく綺麗に均してあった地面を抉り、踏み抜き、掘り返してボコボコの地面へと変えた。その上、辺り一帯の建物も被害を受けて、壁がボロボロになっている。浮遊する建造物が視認された時点で避難が開始されたので国民の犠牲者がいなかったのが不幸中の幸いか。
こうなるとすぐ側で観戦していたラルフたちにも多大な影響を及ぼしていそうだが、何の事は無い全くの無傷。というのもアルルがいつもの魔法”円盾”でみんなの身を守っていたお陰である。
当の二人は擦り傷や多少の打撲程度は散見されるが、いずれも軽傷。被害は見事に周りだけという国民たちにとって迷惑極まりない形で膠着状態となっていた。
「面白イ……ココマデヤレルトハ。キチント世代交代ガ出来テイル事実ニ直面シ、俺ハ感動シテイル」
「……私は困惑しているわ。老境の身で私と渡り合うなんて、全盛期はどれくらい強かったのか見当もつかないもの……」
「フンッ、吐カセ。魔法モ使ワズ、技スラ温存シテイルクセニ……」
「それは……お互い様でしょ」
ベリアは腕を組み、ナタリアは構えを解いた。これ以上は不毛と判断したようだ。お互いがお互いを認め合う、まさに「戦えば相手のことが分かる」という武芸者特有の観念を見せられていた。
戦った者同士、または練り上げられた戦士でしか分からない感覚であり、戦いの終了を宣言したのはアロンツォだった。
「ふむ、終わったな」
澄ました顔で空王の方を見た。構えを解いた時点で一応収束したと推察は出来るが、戦士ではない空王には正直なんで決着も無しに止めるに至ったのか分からず混乱していた。
しかし尋ねたら格好が付かないので、アロンツォの目を見てコクリと一つ頷いた。
「……この空気が分かる連中の暗黙の約束事とか、ちょっと面倒臭いんだよなぁ……」
ラルフはポツリと呟く。ちょっと前まで戦いから極力逃げて来た男が、熱き漢たちの精神をすぐさま理解できるはずもなく。
だが小競り合いが終わったことは歓迎できる。ラルフはホッと一息つき、ポケットからアクセサリー型の通信機をそっと取り出した。要塞で待つミーシャたちに一応報告をする為だ。映像を観ているから既に承知のことだろうが、伝えないという選択肢はラルフの中にはなかった。
通信機を起動させようとしたその時、突然通信機が起動した。
『ラルフさん!すまない!止めようとしたんじゃが……!!』
何を?そんなことを聞かなくても何が止まらなかったのはよく分かる。まだ交渉の一つも出来ていないこの状況で、ミーシャたちが降り立とうとしている。現在ナタリアとベリアの二人が戦い、二人だけが傷ついた状態で済んでいるのは人間同士だからだ。ここに魔族が降り立ったらどうなる?
(そりゃ決まってる。戦争だ!!)
焦ってバッと上を見る。降りてくるのを視認しようとしていたが、すぐ側で声をかけられる。
「何か忘れ物?」
ミーシャたちだ。顔を見なくてもよく分かる。ラルフは「あちゃ~……」と片手で顔を隠しながらミーシャの顔を見た。何で飛んで降りてくると思ったのか?ベルフィアの転移の魔法で一瞬の内に降りて来たに決まっている。
そして分かっていたことだが、大人数で降りて来ている。ミーシャ、ベルフィア、エレノア、ジュリア、デュラハン姉妹三体、後ティアマトもついでについて来ている。上が相当暇だったのか、体をグッと伸ばしてポキポキ骨を鳴らしていた。
「あのさぁ……まだ交渉中だよ?俺が呼ぶまでは上で大人しくしてろって言わなかったっけ?」
「言ってないよ」「言っとらん」「言ッテ無イナ」「言ってませんわ」
口々にラルフの言葉を否定する。エレノアは首を振り「すぐ降りられるとは言ってたよぉ」と訂正した。ティアマトは聞いてすらいない。
「そっか、言ってなかったか……」
ガクッと肩を落とした。
「チョッ……オイオイ、本気カ?ヤッパ居ルジャネェカ、魔族ガヨ……」
ベリアも困惑する。何故さっきナタリアと戦ったのか、自分でも分からなくなってきた。
「全く……そなたは何でこうカリスマが無いのか」
アロンツォはため息交じりにラルフを見る。同時に多方面から非難の目を向けられた。
「えぇ……俺ぇ?」
ラルフの苦労を知るブレイドとアルル、アンノウンも同情の目を向けたが、擁護の声はない。「カリスマ」が無いのは事実だから。
「……仲間割レ……カ?」
変な空気が漂う奇妙な現場に、ベリアは一人取り残されたよな孤独感を感じた。
「ベリア殿ォー!!」
後ろから甲高い声が聞こえる。ぞろぞろと足音を鳴らして精鋭部隊を引き連れた犬の将軍がやって来た。
「パウチ ジャネェカ」
ベリアは将軍をも呼び捨てにしながら正面を向いた。すぐ後ろまで足音が近づき「全体止まれ!」と号令が掛かる。ザッと足並みを揃えて精鋭部隊が停止したと同時に、将軍だけがベリアに近づく。
「……オ前ラ何シニ来ヤガッタ。ココハ俺ノ戦場ダゼ?」
「ベリア殿!ソンナ事言ットル場合カ!ア、アレハ魔族デハ無イカ!?」
「見リャ分カンダロ。マダ交戦中ダ。退ガレ退ガレ」
「ソウハイカン!アソコニ在ワスノハ空王様ゾ!キット人質ニ取ラレテイルニ違イナイ!スグニ救出イタソウゾ!!」
将軍は息巻いて、腰に提げた長剣を抜く。それを機に精鋭部隊の面々も各々の武器を取る。
「お?やる気見たいね。ま、私ならこの程度の人数チョチョイのチョイで……」
「待ちなさいよ、あなただけ独り占めするつもり?ここのところ動けてないのだから、私にも分けなさい」
ミーシャに突っかかるティアマト。
「おどれ……殺されんからと調子こくな。ここで躾けてやろうか?ん?」
そのティアマトに突っかかるベルフィア。段々と話がこんがらがって来た時、ベリアが声を上げた。
「……止メダ止メ!オ前ラ武器ヲ降ロセ!」
「!……シ、シカシ……」
「聞コエナカッタカ?スグニ武器ヲ降ロセト言ッタンダ!」
ベリアの剣幕に押された将軍は精鋭部隊にジェスチャーを送り、武器を降ろさせた。それを確認した後、ラルフを見た。
「オ前ラノ事ハ良ク知ラン。シカシ、ブレイブノ息子ノ事ト、ソコニ居ル魔族ノ強サハ良ク分カル」
ベリアはずいっとラルフに近づいた。
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