一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
373 / 718
第十章 虚空

第十九話 無理筋な交渉

しおりを挟む
 街灯が点灯し始める薄暗い空の下。ゼアルを乗せた馬車が公爵の別邸に到着した。

「不味いな。かなり待たせてしまったかな?」

 タラップを降りてバクスに話し掛けた。バクスは強張った顔で目を伏せている。その顔を見てゼアルは気付いた。

「……何人か外出したか」

「申し訳ございません!できる限り止めたのですが……」

「無理もない。それで、何人だ?」

「えっと……ソフィー様とアロンツォ様のお二人です」

 ゼアルは少し意外そうな顔で口元に手を置いた。

「アロンツォは分かるとして、ソフィーまで……しかし、半数以上残ったのは上々だ。良くやったバクス」

「はいっ!ありがとうございます!」

 直角になる程深々と頭を下げる。

「時に尾行は……」

 バクスの肩がギクリと上がった。分かりやすい反応を見せたバクスにゼアルの口から苦笑が漏れた。

「……ふむ、中で待つとしよう。ご苦労だった」



──バンッ

「勝手なことを!」

 店主はラルフの突然の訪問とその言い分に遂にキレた。相手が大勢だとか魔族が一緒に居るかなど関係なく、机を叩いて席から立った。

「いや、そこを何とか頼むよおっさん。昔のよしみでさ……」

「出来ん!何が昔のよしみだ!ふざけるな!!」

 さっきまでお茶を飲んでいた湯呑みをぐいっと呷って空にすると、ガンッと割れるような勢いで机に置いた。

「おい店主、いちいち騒がしいぞ。もう少し落ち着いて話ができないのか?」

 ミーシャは耳の穴をグリグリと指で弄る。つんざく様な音が耳にきたのだろう。

「……すいません……」

 店主の怒りは一気に鎮火し、ミーシャを気にしながらそっと座った。前に脅されたことを思い出してか、横柄な態度から一転、こじんまり猫背で縮こまった。

「……で、でもいくら言おうとここで寝泊まりすんのはダメだ。宿を紹介してやるからそこに泊まるんだな」

「頑なだな。店の商品には手を出さないからって、さっきから言ってるのに……」

「だからそういう問題じゃねぇと言った……!ろ。いいから出てってくれよ……」

 律儀に声を落とすたかぶりきれない店主と煽るラルフ。両者どちらも譲らず平行線である。

「あ、あの、店長……ちょっと良いですか?」

 そんな空気に割り込んだのは店員の歩。困り顔でちょっと焦った様子だ。

「ん?おっと、お客さんでも来たか?……もしかしていちゃもんか?」

 ラルフはクレーム客だと思い込み、困ったものだと肩を竦める。

「そりゃお前だ。良いかラルフ、俺が客の相手してるうちに決めろよ。宿で泊まるか、路上で寝るかだ」

 席を立ち、店内に向かおうとすると、カウンターの入り口に付けたカーテンから綺麗な水晶が鋭利な先端を覗かせた。危うく刺さりそうになったのを後ずさりで回避すると、後ずさりに合わせてホーンの女性がバックヤードに入ってきた。

「あ、あの……こ、ここは関係者以外立ち入り禁止で……」

 店主はどもりながらも入ってきた女性に何とか伝える。いつもなら詰まることなく出る注意も、この女性を前に言い淀んだ。
 この女性の美貌に当てられてというわけではなく、ホーンを見たのが最初というわけでもない。
 似ているのだ。ラルフに同行している吸血鬼と。白い肌に真紅の瞳。違うのは牙が生えていないのと水晶の角を持っていることだろう。

「勝手に入って申し訳ありません。先ほどラルフと聞こえたような気がして……確か兇状きょうじょう持ちの懸賞金がそんな名前だったと記憶しておりますが……」

 キョロキョロと辺りを見渡している。突然の訪問者にみんな固まってしまう。
 見た目は如何にもな女魔法使いだ。路地裏の突き当たりにあるこの店に用があるということは冒険者か賞金稼ぎのどちらかだろう。
 ブレイドは警戒からガンブレイドの柄に手を添えた。相手が手練れならこの距離で必殺の魔法を瞬時に唱えることも想定できる。何があっても良いようにとの観点から即座に備えた。

「本当かい?そりゃ変だな……」

 その時、ラルフは相手に背を向けたままで立ち上がる。チラッと肩越しに相手との間合いを測りながらゆっくりと振り向いた。

「ここにラルフなんて野郎はいないぜ?……っと、ひょっとしたら俺の名前がそれっぽく聞こえたかも知れねーな」

 ラルフは手を差し出して握手を誘う。

「俺はアルフレッドってんだ。親しい間柄にはアルフって呼ばれることもあるからそのせいだろ?」

 笑いながら息を吐くような嘘をつく。ホーンの女性は小さな口で「ラルフ……アルフ……」と交互に口に出す。微妙に納得のいってない顔で一つ頷くと差し出した手を握った。ひんやりとした手はまるで氷のようだ。

「私はソフィー。ソフィー=ウィルムと申します」

 その答えに目を丸くする。

「これはこれは。って、ことは貴女が”アンデッドイレイザー”の?いや、今は”魔女”の方が良かったかな?」

「よくご存知ですね。特に前者の方はもうずっと呼ばれてませんよ」

 二人で会話を弾ませていると「くっくっくっ」と笑いをこらえる男の声が聞こえた。アロンツォだ。いつからいたのか、壁にもたれかかって上機嫌にしている。

「アルフレッド?笑わせる……」

 アロンツォはおもむろにラルフとソフィーの近くに寄り、ラルフの腕を掴んで握手した手を離れさせた。捻りあげるようにすると流石のラルフも「痛い痛い!」と喚いた。

「余らは白の騎士団。そなたのような下郎は近づくことすら許されん」

 バッと投げるように手を離すと、あまりの勢いに体勢を崩す。何とか持ちこたえて手をさすりながらアロンツォを見た。

「いきなり何すんだよ……」

 ラルフの周りもその質問に無言で賛同する。武器を握ったり、腰を落としたり、ただただ睨みつけたり……。方法にバラつきはあれど、敵意という面においては一致していた。

「ふん、どうした?怒ったか?悔しければいつでも決闘を申し込むが良い。余は公爵の別邸で暇を潰している。この国にいる間は相手をしてやろう。行くぞソフィー」

 アロンツォはアゴで帰宅を促した。ソフィーはラルフ一行を一瞥した後、深々とお辞儀をする。すぐにアロンツォに追いつけるように小走りで去ってった。

「……行ったか?」

 ラルフは一息つくと、整理し始めた。

「白の騎士団は公爵の別邸とやらに集まっているようだな。しかし、アロンツォにここで会えるとは思いもよらなかったぜ。幸運だったな」

 ニヤリと笑って先の出来事を噛みしめる。それに呼応するようにアンノウンもニヤニヤ笑っていた。

「そうだね、アルフレッド」

 アンノウンは偽名をいじり始めた。ミーシャもにっこり笑って「アルフレッド!」と子供のようにはしゃいだ。

「参ったな……」

 ラルフは恥ずかしそうに頬を掻く。ブレイドとアルルは「まぁ、そのくらいで」と二人を宥めている。店主は舌打ちしながらも感心していた。

「全く……よくも口が回るもんだな」

「そりゃどうも。お褒めの言葉ついでにここに泊めてもらうってのは……」

「出来ん」

「ですよねー……」

 ラルフの思惑は外れ、店主に安宿を紹介されるのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...