374 / 718
第十章 虚空
第二十話 ラルフの行方
しおりを挟む
館に戻ってきたアロンツォとソフィー。玄関ホールに入った時、真っ先に迎え入れたのはゼアルだった。
「戻ったか。すまない二人共、待たせたな」
「ゼアルさん、お久しぶりです。お変わり無いようで良かったです」
「ソフィーも息災のようで安心した。アロンツォもよく来てくれた。さ、奥で少し話そう。座ってな」
優しい微笑みで食堂の方に誘うが「少しよろしいですか?」とソフィーが質問した。
「何かな?」
「貴方はラルフという男をご存知ですか?」
その名を聞いた途端、先程までの優しい笑みは消える。どころか眉間にシワを寄せて一気に不機嫌となった。あまりの感情の変化に二人は瞠目する。普段感情を表に出さない男が、名前を聞いただけで顔を強張らせたのだ。
その驚いた顔を見たゼアルは目を瞑って気を落ち着けると、何とか無表情にまで落とし込んで改めて口を開いた。
「……なぜ今奴の名前が出たのかは定かではないが、何か気になることでも?」
「先ほどラルフと思しき人物に会いまして……」
「何処だ」
ソフィーの言葉に被せるように場所を聞いてきた。彼女の口からあの男の名前が出てきた時点でこの答えは想定済みのようだ。
「まぁ待て。他人の空似かもしれんぞ?何せ奴は自分のことをアルフレッドと言っておったし」
アロンツォの茶々に対して大袈裟と言えるくらい鋭くキッと睨みつける。
「偽名を用いるのは奴の常套手段だ。間違いなく奴だ」
今にも飛び出して行きそうな雰囲気だが、せっかく集まった白の騎士団の手前、出て行くことなど出来ない。恨み辛みをぐっと堪えて懐からネックレス型の通信機を取り出した。
「ん?それは奴も持ってた……」
アロンツォはゼアルの通信機を指を差す。そこまでやってハッとした。ラルフが通信機を持っていることを自分が何故知り得ようか?この小さな失敗を見逃すような男ではない。ソフィーも怪訝な顔でアロンツォを見る。
「そうだ。カサブリアで使用していただろう。あれは元はと言えば私の通信機でな、奴に掠め取られた物だ。とっくに売ったかと思っていたが、しぶとく持っていたな」
そうだ。カサブリアで別れ際に見ていた。急に記憶が蘇ってきて余裕も戻る。ゼアルという後ろ盾もあって、ソフィーも納得した。
しかしそうなると疑問が残る。カサブリアの戦争はつい最近あったものだし、使用していたのを覚えていたくらい記憶が鮮明なら、先の男の顔、声を聞いて知らばっくれるのはどうもおかしい。とはいえ、ゼアルの様に勘の良い男がそこをスルーしている以上、啄くのは野暮に思えた。
ゼアルはすぐさま通信機を起動させ、部下に知らせる。途中までスラスラと命令を下していたが「場所は……」と言ったところで言葉に詰まった。
「……それでソフィー。奴はどこに居た?」
*
ガノンは大欠伸しながら食堂に集まったみんなの前に立っていた。仮眠から起こされ、お世辞にも機嫌が良いとはいえないガノンは、睨みつける様に席に着いたみんなを一瞥する。
「……俺の召集に応じてくれた手前ぇらに感謝する。……勿体ぶった挨拶なんぞは抜きにして本題に移っても良いか?」
「良い」「お願いします」「良イガラ早グ話セ」「そういう言い方が勿体ぶったというのでは?」など、各々の返事の仕方でガノンに続きを促す。ガノンはイラっとしたが、話が進まなくなるので反感の言葉をぐっと飲み込んだ。
「……もちろん弔い合戦だ。アウル爺さんのな」
「それはここに来る前から予想できてます。問題は誰を相手にするのか、それが最も聞きたいことでしょう」
イザベルはため息をつきながら指摘する。司会進行に慣れていないガノンは、どうも前に立って話すこの空気に慣れず、難しい顔をしてしまう。
「……敵は八大地獄だ」
*
バクス副団長は焦っていた。
ゼアル団長から下った突然の命令「ラルフの生け捕り」作戦。ここに最も懸賞金の高い男が潜伏しているのだと思えば緊張も一入だ。
制圧のために、強者たちだけで脇を固めていた。中には休暇だったものもいるが、敵がイルレアンに侵入しているとあっては話は別。休みを返上してでも「国は守る」と意気込んでのことだった。
ドアノブに鍵がかかっていないことをそっと確認し、部下の一人がバクスに頷いた。
「良し……作戦開始」
バクスは蹴り破る様に扉を開けた途端、店内に侵入する。
「……えっ!?ちょっ……何だ何だ?!」
部下を引き連れ、ゾロゾロと入る。中にはこの店の店主だけが居て、カウンターで一日の売り上げを算出しているところだった。
「店主。ラルフはどこだ?隠し立てすると為にならんぞ!」
抜刀していないものの、金属でガチガチの鎧を着ている姿はこれから戦争にも行きそうな出で立ちだ。大声にビクビクしながら伝える。
「……ラルフならとっくに退店している。ここにあいつは居ない」
「居ない?嘘っぽいな……奥を調べろ!何かを隠しているかもしれん!!」
騎士たちは許可もなしにズンズン入っていく。その様子を見た店主は焦って引き留めようとするが、それが返って怪しいと言われる始末。
結局信じてもらえたのは、そこから一時間くらい後だった。
「戻ったか。すまない二人共、待たせたな」
「ゼアルさん、お久しぶりです。お変わり無いようで良かったです」
「ソフィーも息災のようで安心した。アロンツォもよく来てくれた。さ、奥で少し話そう。座ってな」
優しい微笑みで食堂の方に誘うが「少しよろしいですか?」とソフィーが質問した。
「何かな?」
「貴方はラルフという男をご存知ですか?」
その名を聞いた途端、先程までの優しい笑みは消える。どころか眉間にシワを寄せて一気に不機嫌となった。あまりの感情の変化に二人は瞠目する。普段感情を表に出さない男が、名前を聞いただけで顔を強張らせたのだ。
その驚いた顔を見たゼアルは目を瞑って気を落ち着けると、何とか無表情にまで落とし込んで改めて口を開いた。
「……なぜ今奴の名前が出たのかは定かではないが、何か気になることでも?」
「先ほどラルフと思しき人物に会いまして……」
「何処だ」
ソフィーの言葉に被せるように場所を聞いてきた。彼女の口からあの男の名前が出てきた時点でこの答えは想定済みのようだ。
「まぁ待て。他人の空似かもしれんぞ?何せ奴は自分のことをアルフレッドと言っておったし」
アロンツォの茶々に対して大袈裟と言えるくらい鋭くキッと睨みつける。
「偽名を用いるのは奴の常套手段だ。間違いなく奴だ」
今にも飛び出して行きそうな雰囲気だが、せっかく集まった白の騎士団の手前、出て行くことなど出来ない。恨み辛みをぐっと堪えて懐からネックレス型の通信機を取り出した。
「ん?それは奴も持ってた……」
アロンツォはゼアルの通信機を指を差す。そこまでやってハッとした。ラルフが通信機を持っていることを自分が何故知り得ようか?この小さな失敗を見逃すような男ではない。ソフィーも怪訝な顔でアロンツォを見る。
「そうだ。カサブリアで使用していただろう。あれは元はと言えば私の通信機でな、奴に掠め取られた物だ。とっくに売ったかと思っていたが、しぶとく持っていたな」
そうだ。カサブリアで別れ際に見ていた。急に記憶が蘇ってきて余裕も戻る。ゼアルという後ろ盾もあって、ソフィーも納得した。
しかしそうなると疑問が残る。カサブリアの戦争はつい最近あったものだし、使用していたのを覚えていたくらい記憶が鮮明なら、先の男の顔、声を聞いて知らばっくれるのはどうもおかしい。とはいえ、ゼアルの様に勘の良い男がそこをスルーしている以上、啄くのは野暮に思えた。
ゼアルはすぐさま通信機を起動させ、部下に知らせる。途中までスラスラと命令を下していたが「場所は……」と言ったところで言葉に詰まった。
「……それでソフィー。奴はどこに居た?」
*
ガノンは大欠伸しながら食堂に集まったみんなの前に立っていた。仮眠から起こされ、お世辞にも機嫌が良いとはいえないガノンは、睨みつける様に席に着いたみんなを一瞥する。
「……俺の召集に応じてくれた手前ぇらに感謝する。……勿体ぶった挨拶なんぞは抜きにして本題に移っても良いか?」
「良い」「お願いします」「良イガラ早グ話セ」「そういう言い方が勿体ぶったというのでは?」など、各々の返事の仕方でガノンに続きを促す。ガノンはイラっとしたが、話が進まなくなるので反感の言葉をぐっと飲み込んだ。
「……もちろん弔い合戦だ。アウル爺さんのな」
「それはここに来る前から予想できてます。問題は誰を相手にするのか、それが最も聞きたいことでしょう」
イザベルはため息をつきながら指摘する。司会進行に慣れていないガノンは、どうも前に立って話すこの空気に慣れず、難しい顔をしてしまう。
「……敵は八大地獄だ」
*
バクス副団長は焦っていた。
ゼアル団長から下った突然の命令「ラルフの生け捕り」作戦。ここに最も懸賞金の高い男が潜伏しているのだと思えば緊張も一入だ。
制圧のために、強者たちだけで脇を固めていた。中には休暇だったものもいるが、敵がイルレアンに侵入しているとあっては話は別。休みを返上してでも「国は守る」と意気込んでのことだった。
ドアノブに鍵がかかっていないことをそっと確認し、部下の一人がバクスに頷いた。
「良し……作戦開始」
バクスは蹴り破る様に扉を開けた途端、店内に侵入する。
「……えっ!?ちょっ……何だ何だ?!」
部下を引き連れ、ゾロゾロと入る。中にはこの店の店主だけが居て、カウンターで一日の売り上げを算出しているところだった。
「店主。ラルフはどこだ?隠し立てすると為にならんぞ!」
抜刀していないものの、金属でガチガチの鎧を着ている姿はこれから戦争にも行きそうな出で立ちだ。大声にビクビクしながら伝える。
「……ラルフならとっくに退店している。ここにあいつは居ない」
「居ない?嘘っぽいな……奥を調べろ!何かを隠しているかもしれん!!」
騎士たちは許可もなしにズンズン入っていく。その様子を見た店主は焦って引き留めようとするが、それが返って怪しいと言われる始末。
結局信じてもらえたのは、そこから一時間くらい後だった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~
テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。
しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。
ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。
「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」
彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ――
目が覚めると未知の洞窟にいた。
貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。
その中から現れたモノは……
「えっ? 女の子???」
これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる