一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第十二章 協議

第二十七話 ”マジ”になる

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「あ、また来た」

 ノーンはケルベロス来襲に何でも無いように呟く。
 来たと言ってもケルベロスが突進している場所とは距離がある。運の良いことにノーンは攻撃範囲外で戦っていたのでそこまで危険はなかった。第三者視点から「あそこには行きたくないなぁ」くらいの気持ちになった。
 そんな詮無いことを思いつつ遠目で眺めていると、ケルベロスが勢いのまま突っ込んだ場所から人影が飛んだ。気の毒なことに、避けることが出来なかったようだ。

「……ん?あれティファルじゃん。ちょっ、え?何やってんの?」

 半笑いで引き気味にティファルを目で追う。人形のように吹き飛ぶ姿は、事故動画で見た猛スピードの車に撥ねられた哀れな被害者の姿と重なった。

 ビュンッ

 その時、唐突に首を狙った切り払いがノーンを襲った。デュラハン姉妹の長女メラが仕掛けてきた。一刀のもとに断首しようとしたのか、踏み込みが深い。

「!」

 いきなりのこと過ぎて驚いたが、持ち前の動体視力は全てを捉えていた。
 ちょっと下がる程度では避けられないと判断したノーンは海老反って躱す。そのまま地面に手を付いてブリッジをすると、足を跳ね上げて攻撃を仕掛けてきたメラに蹴りを放つ。追撃を考えていたメラはノーンの身体能力に舌を巻いて飛び退く。
 スッと何事も無かったように立ったノーンはニヤニヤと笑った。

「凄いっしょ?ここに飛ばされる前は新体操の強化選手だったんだぁ……ってかさぁ、いきなり斬りつけんのは無しにしない?怖いから」

「よそ見をする方が悪いとは思いませんこと?それに、わたくしたちが束になっても傷一つ負わないあなたに勝つにはこれくらいして当然でしょう」

 メラはさりげなくノーンの背後を確認する。背後に回り込んだエールー。そしてイーファとルールーが真横よりちょっと後ろよりの死角に立ち、囲いを作ってにじり寄る。その視線の動きをノーンが見逃すはずはない。

「ははーん、今度は四方に散らばったわけ?芸がないなぁ……そんなことよりあの獣があんたらの仲間を殺しちゃうかもだけど、良いの?ここで私の相手なんかしてて……」

「ふっ、わたくしたちが向かっても無駄に命を散らすだけ……それよりも出来ることを優先してやれとあの男なら……ラルフなら言うでしょう」



 当のラルフはケルベロスの業火から背中をチリチリ焼きながら何とか逃げる。
 パルスもベルフィアも、一旦戦闘は辞めて後退する。パルスはそこでジョーカーと合流。ベルフィアはブレイドたちと合流することが出来たが、ラルフは逃げる方向を誤ったために近くにいても合流出来ない危ない状況に身を置かれた。
 このままでは先に吹き飛んだティファルのように悲惨なことになる。
 いつもならミーシャが飛んでくるが、今回ばかりはそうはいかない。何せ他の古代種エンシェンツで手一杯だ。
 もし今の状況をチラリとでも見ていれば、戦闘を放棄して迷わず飛んできたかもしれないが、こちらに意識を割く余裕はなかったようだ。

 久々に命に王手をかけられたような気になり、生きている心地がしない。
 誰でも良い。助けてくれるなら敵だろうが味方だろうが、神だろうが悪魔だろうが関係ない。万感を込めた想いは口を突いて出た。

「助けてぇ!!」



「……ええ、きっとそう言うでしょう。あの生意気なヒューマンですもの。口惜しいですがその通りですわ」

 メラはひとりで納得している。それには古代種エンシェンツに相対したくないという気持ちも混ざっていたのかもしれない。その思いも口から滑り落ちる。

「それに古代種エンシェンツには到底敵いませんが、あなたにならまだ勝てそうですもの」

 ボッ

 ノーンは目にも留まらぬ速さで槍を回転させて風を起こした。衝撃波のように吹きすさぶ風が囲った四人全員の髪を揺らす。

「……うん、遊びは終わりにしよっか」

 先ほどのにやけ面が消え、鋼の如き冷徹な目がメラに刺さる。背筋に冷たいものを感じながらも剣を構える。

「上等ですわっ!」

 メラの合図で一斉に掛かって行く。全員が身構え、その時を待つ。意気込んで合図を出そうとしたその時、突如として言い知れぬ不安がメラを襲った。
 恐怖。さっきまで無かったノーンに対する恐怖が訳も分からず湧き上がる。体が石像のように固まって動けない。
 合図もなく、ただ急ブレーキをかけたメラが小刻みに震えながら立っているだけ。

(姉様?)

 エールーとイーファは姉の不思議な硬直に疑問を持つ。
 どれほど凄まじい身体能力を持っていても、逃げ場をなくせば擦り傷の一つくらい余裕で付く。
 とりあえず進展が欲しかった四人は、この強引とも取れるメラの策に乗って攻勢に出ようとしたが、肝心要の発案者が尻込みする異常事態。

 バッ

 そんなメラに痺れを切らしたルールーが自慢の双剣を振りかざして死角を突いた攻撃に出る。
 しかし先のメラとの攻防を見ていれば分かるだろう。よそ見をしていても完璧に回避できるノーンに、死角とはいえ一方向からの攻撃を仕掛けるのは先の二の前になることは想像に難くない。

「バーカ」

 ノーンはメラに向けていた視線をルールーに移す。ルールーはその目を見た途端、ビクッと体が跳ねて立ち止まった。今まで感じたことのない恐怖が襲う。

「はい、これでお終い」

 立ち止まったルールーに対して槍を突き出す。迷いなく太ももに突き刺さった。
 瞬間、ルールーの体にさらなる異変が起こる。言い知れぬ不安感や恐怖が激痛に全てを持っていかれた。
 ルールーの可愛らしい顔には無数の血管が浮き出て、目は血走り、てんかん発作のような痙攣をし始める。

「……カヒュッ……!」

 息を詰まらせ、前のめりに倒れこんだ。白目を剥いて口からは泡を吹いている。擦り傷で死を選ぶほどの激痛を深々と刺されてはルールーの先は長くない。メラを刺さなかったのは単純に間合いに入っていなかったから。部下の仇と意気込んだのが裏目に出た形だ。
 イーファは横から「特異能力っ!」と叫んだ。

「へ~、知ってるんだ。ま、知ったところでどうしようもないでしょ?私って超強いから」

 ふふんっと踏ん反り返る。ただでさえ身体能力で負けているのに、特異能力まで出されたとあってはいよいよ勝負にならない。
 使われたら何故か硬直して動けなくなる不思議な能力。そして第五地獄"大叫"。全滅は時間の問題だった。

「ねぇ、これでも勝てるって言える?ねぇねぇ?……言ってみろよ」
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