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第十二章 協議
第二十八話 巨獣、墜つ
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ミーシャは難しい戦いを強いられる。
ケルベロスが麒麟を引き受けている間に鳳凰を始末するつもりだったが当てが外れた。
(何だあいつ……戦うのかと思ったのに逃げ出したぞ)
鳳凰の物理攻撃の反射を鬱陶しいと思い始めてのことだったので苛立ちも一入だ。何故なら手持ち無沙汰になった麒麟は、ミーシャにやられたのを根に持って鳳凰との戦いに乱入して来た。
古代種にも個体差があり、簡単には仕留められない。一番弱かったのはオロチだが、試作型であり原点でもある旧世代の代物に戦闘能力を期待するほうがどうかしている。
二匹の巨獣を相手に戦い方を模索していると、ティアマトを鉄に任せたエレノアがミーシャの元へと加勢しにやってきた。
「私があの馬をやろうかぁ?」
エレノアは雷魔法を得意とする魔族。麒麟も雷を使うことから、鳳凰よりは戦いになるかもしれない。時間稼ぎという点においては。
エレノアは強いと言ってもたかが知れている。古代種を相手にして単騎で勝つことが出来る存在はミーシャをおいて他に居ない。
「任せる。こっちブッ飛ばしたらそっち手伝う」
「ん、了解~」
「あ、エレノア」
迷いなく行こうとするエレノアをミーシャは呼び止める。
「なぁに?」
「無理はしちゃ駄目だぞ。ブレイドが悲しむから」
「大丈夫大丈夫ぅ。そっちだって気をつけなきゃラルフが悲しむよ~」
ふたりは微笑み合い、それぞれの獣と対峙した。
鳳凰と睨み合うミーシャは目を閉じて鼻から息を多量に吸い込んだ。全身に新鮮な空気を送り込んで心を切り替える。
ここに来た当初、鉄が叫んでまで教えてくれた物理攻撃の反射。それを聞いてなければ真っ先に殴りに行ってダメージを負っていたかもしれない。
一応魔法は効くらしく、無敵というわけではないらしいが、ティアマトの高出力のレーザーを用いてようやくダメージが入るという怪物っぷり。
その代わりというのか攻撃手段が極めて少なく、ミーシャがティアマトたちと交代した後も、突進くらいしか攻撃されていない。そこでミーシャは行き着く。
(反射狙いの突進か。魔法以外で攻撃を仕掛ければ反射して自分は無傷って寸法……)
バリエーションは乏しいがより確実性のある攻撃方法だ。カウンター狙いのタフな鳥。
しかし不思議なのは何故一体一体を無敵にしなかったのかと言うこと。
物理反射、魔法無効、何ものも穿ち、砕く攻撃手段。一度動けば島が消滅してしまうようなそんな怪物を作れば、ミーシャに煩わされることもなかっただろう。
それぞれが無敵なように見えて必ず弱点があるのは造物主の遊びか、それとも作れないのか、はたまた……。
どれかが正解のようでどれもハズレのような答えの見えない迷宮に背を向けて、ミーシャは拳に魔力を貯める。
「物理攻撃を反射?その上で突進が主体とは舐めてるな、陰険な怪物め。そんなお前はこの矛盾に耐えられるか?……魔力で殴る」
ミーシャは普段、魔力を皮膜のように纏わせて殴っている。こうすれば拳は痛まないし、それなりに威力が出るから多用していた。魔力砲を撃つよりも魔力の消費量を抑えられるので、出来ればこれで終わらせるのが理想だった。
そんな魔力の皮膜を、ボクシンググローブのように太く大きく膨れ上がらせる。いや、もっとだ。ボクシンググローブの十倍以上の輝きがミーシャの華奢な手を包む。
魔力で殴るとは即ち、物理の元となる拳を触れさせないこと。魔力をグローブ兼クッション代わりとし、バカみたいな殺傷力を可能にした。
正直、魔力砲を撃っている方が簡単なこの芸当は、鳳凰の造物主に対する挑戦でもあった。
「ピィィィィッ!!」
甲高く、騒々しい鳴き声は見た目の美しさの割に耳障りだ。鳳凰は羽ばたいていた自慢の羽を止めて滑空する。その速度は尋常ではない。今の今まで空中で留まるために羽ばたいていたくせに、いざ突進に切り替えた途端、巨体からは考えられない速度を持ってミーシャに迫る。まるでジェットエンジンを噴射したような切り替わりにミーシャも驚く。
ズッ……ゴバァッ
驚いたのに偽りはない。しかし対応出来ないわけではない。
迫り来る鳳凰の嘴を下から上にかちあげた見事な右アッパーカット。魔力グローブは敵に接触した途端に弾けて吹き飛ばす、爆弾のような仕組みで鳳凰を怯ませる。打ち上がった顔に合わせてミーシャも高速で移動し、左手で鳳凰の右側面に強烈なフックを決める。まるでハンマーで殴られたかのような二撃に目を回した。
ミーシャの造物主に対する挑戦が功をなしたと言えるだろう。手応えを感じたミーシャは魔力のグローブをすぐさま纏わせる。言うなれば爆弾を手につけて殴って起爆させる感じだ。爆弾より便利なのは、起爆のタイミングを完全にミーシャ本人がコントロール出来ることだ。唯一の短所は魔力の消費量が心なしか魔力砲よりも多いことか。
それでもミーシャは辞めない。倒れ骸と化すまで徹底的に殴り潰す。
ゴッ……ボンッ……ボワッ……
次から次へと攻撃の手を緩めることなく殴り、爆ぜて、肉を抉る。ミーシャの攻撃は全てが必殺の威力を供えている。それを目にも留まらぬ速さで鳳凰の全身を殴り、確実にダメージを負わせている。
鳳凰も何とか現状を変えようと模索するが、全ては水泡に帰す。考える間も無くそこらかしこに大ダメージを喰らい、滑空することもホバリングすることも許されずに地面に落下した。
ズゥゥンッ
初めての体験だった。延々としつこいくらいに飛び回ることの出来る鳳凰は、地面に寝転がるようなことはしない。無様な姿を見せないように力を誇示してきたが、ミーシャの前では全てが無意味。自分がやろうとすることを先回りして全て潰す女。
そして、鳳凰が寝転がった瞬間、ミーシャの魔力砲が満を持して放たれる。狙いは羽。鉄が一生懸命狙ってダメにしようとした羽。結局物理攻撃では傷すらつかないとイキっていた羽は、ミーシャの高出力の魔力砲にいとも簡単に貫通させられた。
「はい、もう一回。どーんっ!」
遊んでいるような口調だが、その威力は半端ではない。魔力砲は鳳凰の無事だった羽も傷物にしてついでに地面も抉る。仰向けで、しかも羽を貫通させられた鳳凰は起き上がろうと足をバタつかせた。
ボンッ
だが、それを見計らっていたかのように魔力で顔面を殴る。起き上がろうとすると殴る。この一連の行動は鳳凰が事切れるまで続いた。
ミーシャは宣言通りに鳳凰をブッ飛ばした。
頭が消滅し、血抜きをされた鶏ような哀れな鳳凰に用は無しと踵を返してエレノアに加勢する。
麒麟。電撃を操るこの世で最も美しいとされる獣。金属のように硬い肉体に、魔法、物理に関わらずダメージを半減させる翡翠の鱗。蹄には飛翔魔法が備え付けられているので比較的自由に飛び回れる。
空が飛べて、電撃と強靭な足に加えて強固な体での多種多様な攻撃、ダメージを半減または無効化すら出来る。これらを総合すると単純な戦闘能力は鳳凰を凌駕する。
そんな麒麟だったが、エレノアとミーシャのコンボに敵うはずもなく。鳳凰と同じく、頭が消滅させられた見るも無残な亡骸だけがこの地に残ることになる。それもあと数分で……。
ケルベロスが麒麟を引き受けている間に鳳凰を始末するつもりだったが当てが外れた。
(何だあいつ……戦うのかと思ったのに逃げ出したぞ)
鳳凰の物理攻撃の反射を鬱陶しいと思い始めてのことだったので苛立ちも一入だ。何故なら手持ち無沙汰になった麒麟は、ミーシャにやられたのを根に持って鳳凰との戦いに乱入して来た。
古代種にも個体差があり、簡単には仕留められない。一番弱かったのはオロチだが、試作型であり原点でもある旧世代の代物に戦闘能力を期待するほうがどうかしている。
二匹の巨獣を相手に戦い方を模索していると、ティアマトを鉄に任せたエレノアがミーシャの元へと加勢しにやってきた。
「私があの馬をやろうかぁ?」
エレノアは雷魔法を得意とする魔族。麒麟も雷を使うことから、鳳凰よりは戦いになるかもしれない。時間稼ぎという点においては。
エレノアは強いと言ってもたかが知れている。古代種を相手にして単騎で勝つことが出来る存在はミーシャをおいて他に居ない。
「任せる。こっちブッ飛ばしたらそっち手伝う」
「ん、了解~」
「あ、エレノア」
迷いなく行こうとするエレノアをミーシャは呼び止める。
「なぁに?」
「無理はしちゃ駄目だぞ。ブレイドが悲しむから」
「大丈夫大丈夫ぅ。そっちだって気をつけなきゃラルフが悲しむよ~」
ふたりは微笑み合い、それぞれの獣と対峙した。
鳳凰と睨み合うミーシャは目を閉じて鼻から息を多量に吸い込んだ。全身に新鮮な空気を送り込んで心を切り替える。
ここに来た当初、鉄が叫んでまで教えてくれた物理攻撃の反射。それを聞いてなければ真っ先に殴りに行ってダメージを負っていたかもしれない。
一応魔法は効くらしく、無敵というわけではないらしいが、ティアマトの高出力のレーザーを用いてようやくダメージが入るという怪物っぷり。
その代わりというのか攻撃手段が極めて少なく、ミーシャがティアマトたちと交代した後も、突進くらいしか攻撃されていない。そこでミーシャは行き着く。
(反射狙いの突進か。魔法以外で攻撃を仕掛ければ反射して自分は無傷って寸法……)
バリエーションは乏しいがより確実性のある攻撃方法だ。カウンター狙いのタフな鳥。
しかし不思議なのは何故一体一体を無敵にしなかったのかと言うこと。
物理反射、魔法無効、何ものも穿ち、砕く攻撃手段。一度動けば島が消滅してしまうようなそんな怪物を作れば、ミーシャに煩わされることもなかっただろう。
それぞれが無敵なように見えて必ず弱点があるのは造物主の遊びか、それとも作れないのか、はたまた……。
どれかが正解のようでどれもハズレのような答えの見えない迷宮に背を向けて、ミーシャは拳に魔力を貯める。
「物理攻撃を反射?その上で突進が主体とは舐めてるな、陰険な怪物め。そんなお前はこの矛盾に耐えられるか?……魔力で殴る」
ミーシャは普段、魔力を皮膜のように纏わせて殴っている。こうすれば拳は痛まないし、それなりに威力が出るから多用していた。魔力砲を撃つよりも魔力の消費量を抑えられるので、出来ればこれで終わらせるのが理想だった。
そんな魔力の皮膜を、ボクシンググローブのように太く大きく膨れ上がらせる。いや、もっとだ。ボクシンググローブの十倍以上の輝きがミーシャの華奢な手を包む。
魔力で殴るとは即ち、物理の元となる拳を触れさせないこと。魔力をグローブ兼クッション代わりとし、バカみたいな殺傷力を可能にした。
正直、魔力砲を撃っている方が簡単なこの芸当は、鳳凰の造物主に対する挑戦でもあった。
「ピィィィィッ!!」
甲高く、騒々しい鳴き声は見た目の美しさの割に耳障りだ。鳳凰は羽ばたいていた自慢の羽を止めて滑空する。その速度は尋常ではない。今の今まで空中で留まるために羽ばたいていたくせに、いざ突進に切り替えた途端、巨体からは考えられない速度を持ってミーシャに迫る。まるでジェットエンジンを噴射したような切り替わりにミーシャも驚く。
ズッ……ゴバァッ
驚いたのに偽りはない。しかし対応出来ないわけではない。
迫り来る鳳凰の嘴を下から上にかちあげた見事な右アッパーカット。魔力グローブは敵に接触した途端に弾けて吹き飛ばす、爆弾のような仕組みで鳳凰を怯ませる。打ち上がった顔に合わせてミーシャも高速で移動し、左手で鳳凰の右側面に強烈なフックを決める。まるでハンマーで殴られたかのような二撃に目を回した。
ミーシャの造物主に対する挑戦が功をなしたと言えるだろう。手応えを感じたミーシャは魔力のグローブをすぐさま纏わせる。言うなれば爆弾を手につけて殴って起爆させる感じだ。爆弾より便利なのは、起爆のタイミングを完全にミーシャ本人がコントロール出来ることだ。唯一の短所は魔力の消費量が心なしか魔力砲よりも多いことか。
それでもミーシャは辞めない。倒れ骸と化すまで徹底的に殴り潰す。
ゴッ……ボンッ……ボワッ……
次から次へと攻撃の手を緩めることなく殴り、爆ぜて、肉を抉る。ミーシャの攻撃は全てが必殺の威力を供えている。それを目にも留まらぬ速さで鳳凰の全身を殴り、確実にダメージを負わせている。
鳳凰も何とか現状を変えようと模索するが、全ては水泡に帰す。考える間も無くそこらかしこに大ダメージを喰らい、滑空することもホバリングすることも許されずに地面に落下した。
ズゥゥンッ
初めての体験だった。延々としつこいくらいに飛び回ることの出来る鳳凰は、地面に寝転がるようなことはしない。無様な姿を見せないように力を誇示してきたが、ミーシャの前では全てが無意味。自分がやろうとすることを先回りして全て潰す女。
そして、鳳凰が寝転がった瞬間、ミーシャの魔力砲が満を持して放たれる。狙いは羽。鉄が一生懸命狙ってダメにしようとした羽。結局物理攻撃では傷すらつかないとイキっていた羽は、ミーシャの高出力の魔力砲にいとも簡単に貫通させられた。
「はい、もう一回。どーんっ!」
遊んでいるような口調だが、その威力は半端ではない。魔力砲は鳳凰の無事だった羽も傷物にしてついでに地面も抉る。仰向けで、しかも羽を貫通させられた鳳凰は起き上がろうと足をバタつかせた。
ボンッ
だが、それを見計らっていたかのように魔力で顔面を殴る。起き上がろうとすると殴る。この一連の行動は鳳凰が事切れるまで続いた。
ミーシャは宣言通りに鳳凰をブッ飛ばした。
頭が消滅し、血抜きをされた鶏ような哀れな鳳凰に用は無しと踵を返してエレノアに加勢する。
麒麟。電撃を操るこの世で最も美しいとされる獣。金属のように硬い肉体に、魔法、物理に関わらずダメージを半減させる翡翠の鱗。蹄には飛翔魔法が備え付けられているので比較的自由に飛び回れる。
空が飛べて、電撃と強靭な足に加えて強固な体での多種多様な攻撃、ダメージを半減または無効化すら出来る。これらを総合すると単純な戦闘能力は鳳凰を凌駕する。
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