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第十三章 再生
第六話 灼熱の国
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人類と魔族の数千年に及ぶ戦争に決着がつきそうな今日、灼赤大陸と呼ばれる赤の大地では激動の時代が到来していた。
第十一魔王”橙将”と第四魔王”竜胆”の不在。それが新たな頂点を決める戦国時代の幕開けとなっていたのだ。力のあるものだけがのし上がれる最強決定戦。そこにずらっと並んだ面子はいずれも橙将を凌ぐ猛者ばかり。
と言っても橙将に腕力は然程必要ない。特異能力が卑怯すぎたと言える一例である。橙将は体内であらゆる毒を生成し、それを液体、気体、固形と様々な形で分泌、放出して近付くことすら容易ではなかった。ある時は味方の増強を、またある時は敵味方関係なく力の抑制を、他にも弱体、窒息、腐食など、その効果は一つに止まらない。毒は薄めれば薬に、強めれば強毒に早変わりする。こういった特異能力の有無は腕力以上に物を言うのだ。
しかしそれも過去の話。橙将は死んだ。現実は非情である。物理的に存在しない魔王と、監禁から軟禁を経て無理やりラルフ一行の仲間にさせられ、帰国していない魔王のせいで国は分断した。
「今こそ橙将の呪縛を解き、某こそが王となる!!」
元は橙将の軍門に下っていた炎の魔人”フレイムデーモン”のバレットは部下の鬨の声を背に、橙将の城がある灼赤大陸最大の都市”ヒートアイランド”に攻め入っていた。”疾風のバレット”といえば、この辺りで知らない者は居ない。橙将からも信頼され、軍の一翼を担っていた。
そんな武将の突然の謀反。橙将の訃報が噂されて間もない進撃に上層部は慌てる。次代の魔王を選別中の出来事だったために権力者たちが城に集まっていたのだ。
「なんと言うことだ!このままでは皆奴に殺されてしまうぞ!」
そう叫んだのは財政管理を任されていた武将だ。他にも治安維持、治水管理、災害対策などの部門担当があり、それを担う名のある武将たちが机を囲んでいた。
この国は魔王を中心とした封建制である。それぞれが領土をいただき、上にいてはどうしても目の届かない領土ごとの問題を個々で解決させていた。管理と監視。それぞれが目を光らせることで血の気の多い者たちを牽制し合って保っていた秩序。それが噂程度で脆くも崩れ去る。
「落ち着け、今こそ治安維持部隊の出番ではないか?」
「既に規制線を敷いて対応に当たっている。しかしながら我が部隊だけではバレット部隊の猛攻に耐える術はない。貴殿らの兵も動員するよう要請したい」
「当然だ!ここで死ぬわけにはいかん!」
「とはいえ最小の兵力でここまで来ているんだ。過度な期待はしないでくれよ?」
一致団結して反乱軍を掃討するよう試みる。しかし思わぬ事態が舞い込んだ。
「し、失礼いたします!!別の勢力がこの都市に向けて侵攻を開始したとの報告が入りました!!」
場内がどよめく。
「何ぃ!?一体どこのどいつだ!!」
「火山の魔女の集団です!!炎の妖魔を引き連れて南から進軍しています!!」
「チッ!あの売女どもめ!ここぞとばかりに這い出てきたな!」
その昔、ボルケーノウィッチはかなり力のある派閥で、灼赤大陸の頂点に近い種族として名を馳せた。だがある日、頭角を現した橙将の特異能力を恐れたボルケーノウィッチたちは、直接の戦闘を避けて地底に身を隠した。そのはずだったのに、やはり彼女らも橙将の死を予感して動いてきたに違いない。
「噂……噂程度で動きおって!!……ど、どうして漏れたんだ?橙将様の……いや、ヤヒコ様の死は時期が来るまで秘匿されるはずだったのに!」
「直感ということか……余程この大陸を自分の物にしたいらしいな。そんなことをしても第二、第三の野心家が邪魔するだろうに……」
「今さえ良ければどうでも良いのだ。そういう連中の考えを理解する必要はない。我らは粛々とそのような連中を排除し、守るべき秩序を回復させるのだ」
橙将が統治してから数百年、ヒートアイランドはかつてない危機に陥っていた。現政権が守りきるのか、政権が転覆し、バレットまたはボルケーノウィッチが奪取するのか。あるいは……。
「何という為体……このまま見ていては橙将の保っていた大陸全土の理性が決壊する」
灼赤大陸の中で最も標高の高い山”サラマンド”から竜魔人が数体降りてきていた。竜魔人はこの大陸で最強の種族。だが元より大陸の統治などに興味のなかった彼らは天下分け目の戦争から離れて静かに暮らすことを選んだ。橙将は竜魔人のもしもの介入を避けたい一心で彼らへの不可侵を約束し、天下を手に入れた後も竜魔人を尊重し尊敬し続けた。
そんな殊勝な魔王が死んだとあっては万が一を考えて然りである。惜しむらくは竜胆の不在であろう。彼女が戻ってきていれば別の道もあったかもしれないというのに、それも期待することが出来ない。彼らは選択を迫られていた。
「……次代に繋ぐ千年の平穏のためにはここで戦う他ないぞ。竜胆様は必ず戻られる。その時までに我らがやるしかない」
「……取るか?」
「ああ、少数での戦いとなるがそれが一番手っ取り早い」
バレットとボルケーノウィッチによって眩まされたお陰もあって、竜魔人は漁夫の利を狙える美味しい立場となっていた。平和維持の戦い、夢のための戦い、悲願の戦い、存続の戦い。それぞれの思惑が錯綜する。誰が天下を取ってもおかしくない現状。数百年ぶりの天下分け目の戦争は何の兆候もなく唐突に始まった。
そんな中、全然関係ない者たちが赤い大地を踏みしめた。
「ここが灼赤大陸か。少々暑いな」
「仕方なかろう。気候の安定した地にありがちな暑さというものじゃよ」
「……暑い……嫌い……」
「俺はそんなでもないぜ?鍛え方が足んねぇぞ、おい」
「……」
場違いな老若男女五人。見た目はヒューマンだが、その身に纏うオーラは異彩を放っていた。
「三人のためだ、我慢しようではないか。差し当たってこの地の生き物を探すとしよう」
八大地獄。それがこの者たちの総称である。
第十一魔王”橙将”と第四魔王”竜胆”の不在。それが新たな頂点を決める戦国時代の幕開けとなっていたのだ。力のあるものだけがのし上がれる最強決定戦。そこにずらっと並んだ面子はいずれも橙将を凌ぐ猛者ばかり。
と言っても橙将に腕力は然程必要ない。特異能力が卑怯すぎたと言える一例である。橙将は体内であらゆる毒を生成し、それを液体、気体、固形と様々な形で分泌、放出して近付くことすら容易ではなかった。ある時は味方の増強を、またある時は敵味方関係なく力の抑制を、他にも弱体、窒息、腐食など、その効果は一つに止まらない。毒は薄めれば薬に、強めれば強毒に早変わりする。こういった特異能力の有無は腕力以上に物を言うのだ。
しかしそれも過去の話。橙将は死んだ。現実は非情である。物理的に存在しない魔王と、監禁から軟禁を経て無理やりラルフ一行の仲間にさせられ、帰国していない魔王のせいで国は分断した。
「今こそ橙将の呪縛を解き、某こそが王となる!!」
元は橙将の軍門に下っていた炎の魔人”フレイムデーモン”のバレットは部下の鬨の声を背に、橙将の城がある灼赤大陸最大の都市”ヒートアイランド”に攻め入っていた。”疾風のバレット”といえば、この辺りで知らない者は居ない。橙将からも信頼され、軍の一翼を担っていた。
そんな武将の突然の謀反。橙将の訃報が噂されて間もない進撃に上層部は慌てる。次代の魔王を選別中の出来事だったために権力者たちが城に集まっていたのだ。
「なんと言うことだ!このままでは皆奴に殺されてしまうぞ!」
そう叫んだのは財政管理を任されていた武将だ。他にも治安維持、治水管理、災害対策などの部門担当があり、それを担う名のある武将たちが机を囲んでいた。
この国は魔王を中心とした封建制である。それぞれが領土をいただき、上にいてはどうしても目の届かない領土ごとの問題を個々で解決させていた。管理と監視。それぞれが目を光らせることで血の気の多い者たちを牽制し合って保っていた秩序。それが噂程度で脆くも崩れ去る。
「落ち着け、今こそ治安維持部隊の出番ではないか?」
「既に規制線を敷いて対応に当たっている。しかしながら我が部隊だけではバレット部隊の猛攻に耐える術はない。貴殿らの兵も動員するよう要請したい」
「当然だ!ここで死ぬわけにはいかん!」
「とはいえ最小の兵力でここまで来ているんだ。過度な期待はしないでくれよ?」
一致団結して反乱軍を掃討するよう試みる。しかし思わぬ事態が舞い込んだ。
「し、失礼いたします!!別の勢力がこの都市に向けて侵攻を開始したとの報告が入りました!!」
場内がどよめく。
「何ぃ!?一体どこのどいつだ!!」
「火山の魔女の集団です!!炎の妖魔を引き連れて南から進軍しています!!」
「チッ!あの売女どもめ!ここぞとばかりに這い出てきたな!」
その昔、ボルケーノウィッチはかなり力のある派閥で、灼赤大陸の頂点に近い種族として名を馳せた。だがある日、頭角を現した橙将の特異能力を恐れたボルケーノウィッチたちは、直接の戦闘を避けて地底に身を隠した。そのはずだったのに、やはり彼女らも橙将の死を予感して動いてきたに違いない。
「噂……噂程度で動きおって!!……ど、どうして漏れたんだ?橙将様の……いや、ヤヒコ様の死は時期が来るまで秘匿されるはずだったのに!」
「直感ということか……余程この大陸を自分の物にしたいらしいな。そんなことをしても第二、第三の野心家が邪魔するだろうに……」
「今さえ良ければどうでも良いのだ。そういう連中の考えを理解する必要はない。我らは粛々とそのような連中を排除し、守るべき秩序を回復させるのだ」
橙将が統治してから数百年、ヒートアイランドはかつてない危機に陥っていた。現政権が守りきるのか、政権が転覆し、バレットまたはボルケーノウィッチが奪取するのか。あるいは……。
「何という為体……このまま見ていては橙将の保っていた大陸全土の理性が決壊する」
灼赤大陸の中で最も標高の高い山”サラマンド”から竜魔人が数体降りてきていた。竜魔人はこの大陸で最強の種族。だが元より大陸の統治などに興味のなかった彼らは天下分け目の戦争から離れて静かに暮らすことを選んだ。橙将は竜魔人のもしもの介入を避けたい一心で彼らへの不可侵を約束し、天下を手に入れた後も竜魔人を尊重し尊敬し続けた。
そんな殊勝な魔王が死んだとあっては万が一を考えて然りである。惜しむらくは竜胆の不在であろう。彼女が戻ってきていれば別の道もあったかもしれないというのに、それも期待することが出来ない。彼らは選択を迫られていた。
「……次代に繋ぐ千年の平穏のためにはここで戦う他ないぞ。竜胆様は必ず戻られる。その時までに我らがやるしかない」
「……取るか?」
「ああ、少数での戦いとなるがそれが一番手っ取り早い」
バレットとボルケーノウィッチによって眩まされたお陰もあって、竜魔人は漁夫の利を狙える美味しい立場となっていた。平和維持の戦い、夢のための戦い、悲願の戦い、存続の戦い。それぞれの思惑が錯綜する。誰が天下を取ってもおかしくない現状。数百年ぶりの天下分け目の戦争は何の兆候もなく唐突に始まった。
そんな中、全然関係ない者たちが赤い大地を踏みしめた。
「ここが灼赤大陸か。少々暑いな」
「仕方なかろう。気候の安定した地にありがちな暑さというものじゃよ」
「……暑い……嫌い……」
「俺はそんなでもないぜ?鍛え方が足んねぇぞ、おい」
「……」
場違いな老若男女五人。見た目はヒューマンだが、その身に纏うオーラは異彩を放っていた。
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