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第十三章 再生
第五話 人魔同盟
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蒼玉からの書状に黄泉は焦って通信機を取った。
しばらく呼び出しのコールが鳴り響き、受話器が取られた。それと同時にホログラムが作動し、蒼玉の顔が映し出される。
『これは黄泉様。そろそろご連絡いただけると待っておりました』
「察しが良いな……推察の通り、この書状についての話だ」
蒼玉は黄泉の手に掲げられた書状をチラリと確認し、手を組んで椅子にもたれかかった。
『ご不明な点でも?』
「不明な点などない、むしろ分かりやすいくらいだ。それに群青の時と比べて人族への気遣いすら感じたよ……同盟を結ぶ理由の一つ目にある魔族減少と領地確保の難解さについては同じ意見だ。現在、俺の預かるヲルト大陸に魔族が集結しつつある。生活圏を追われた者たちだ。土地が広いから今の所はどうとでもなるが、全魔族となれば流石に許容しきれなくなるだろう。ここぞとばかりの同盟には見事という他ない」
『お褒めに預かり光栄でございます。少し痒くなりそうな褒め殺しではございますが……そこまで仰られるということはそれ相応の不満点もお持ちということで?』
「ああ、二つ目の理由”暴徒”だ。この書き方は魔族に対する冒涜ではないかと思うのだが?生き物は生き残るためなら衣食住は当然必要なもの。生活圏を追われたのなら、どこかに拠点を作るのは至極当然の動きではないか?それに人間たちからの攻撃もある程度考える必要がある。それなのに必死に生きようとする仲間を暴徒として殺そうなど言語道断。理由の一つ目に反しているではないか」
黄泉はヲルト大陸を任された時から第一魔王”黒雲”の成果を蔑ろにしないよう、魔族の平穏を願うようになった。少しでも数を減らすことは避けて守るよう立ち回るべきだと考える黄泉にとって、この内容は許されざる暴挙と言える。
『偏に”安心”ですよ』
「……何?」
『人類の大半は魔族一体に対して十人は居ないと戦いになりません。人類には数の上ではとっくに負けていますが、腕力や魔力に該当する純粋な力はこちらが圧倒的。いくら同盟があるからと我が物顔で土地を奪うようなことがあってはなりません。下賎な輩には死を。良い魔族と悪い魔族という印象操作です。こうすることで人間に安心感を与え、同時にこちらの土地を取ろうと画策するなら容赦しないと釘を刺すのに使えます』
「なるほど、一理ある。しかし、その約束事のせいで魔族の総数が減れば益々図に乗るのではないか?譲歩しすぎるとろくな目に合わないぞ?」
『甘く見て攻めてくるのならば、こちらも我慢する必要はございません。徹底的にひき潰すのみです』
「覚悟の上での同盟だと?しかしこれでは襲ってくださいと背中を見せているようにしか……まさか」
『ええ、その通り。大っぴらに正当防衛の理由を作り、問題を大きく取り上げ、内部分裂を図ります。ゆくゆくは人類を淘汰させようと思っておりますから』
表の顔で良い奴ぶって裏の顔で手ぐすねを引いて待ってるような陰険さを感じる。結局蒼玉も群青と同じで人類を殺そうとしている。同盟などやはり形だけだったと浮き彫りになった。
しかし黄泉は安心していた。蒼玉も例に漏れず魔族なのだと実感出来たからだ。そこでハッと気づく。
(俺好みの返答で誤魔化しているのでは?)
それは疑心暗鬼と呼ばれる厄介な心の傷。他者を信じきることの出来ない心の病。蒼玉の顔をまじまじと見てみるが、全く顔には表れない。
『……満足でしょうか?』
「ああ……いや、一つだけ聞かせろ。ミーシャがこちらに寝返ったという情報があるが、本当なのか?」
『本当です。なんなら彼女をお呼びいたしましょうか?』
「良ければそうしてくれ」
蒼玉はニヤリと笑うと通信機を動かす。すぐそばにミーシャは居た。
『バラン!久しぶりだな!』
「だから俺の本名は出すなとあれほど言ったはずだ!黄泉と呼べ!黄泉と!!」
憤りを感じて騒ぎ散らしたが、冷静な思考が待ったをかける。ミーシャの反応が初々しい。ラルフを葬ったことと関係があるのかもしれない。魅了や精神操作の類など疑えばきりがない。しかし黄泉は全ての事柄に目を瞑った。
蒼玉が何をしたのか定かではないが、ミーシャが魔族側についてくれたのは重畳。魔族繁栄を考えれば、下手を打って機嫌を悪くさせるのは避けたい。
『ほう?』
蒼玉はその葛藤に気づく。探りを入れたり、混乱させるようなことを言えば敵認定すらしていたかもしれない状況で、黄泉は沈黙を選択した。その殊勝さに気を良くした。
『貴方が生き延びてくれていて幸いでした。これからも良き仲間であってくださいませ』
小賢しいのは嫌いだが、意に沿ってくれるなら邪険にはしない。ヲルト大陸での避難民増加の惨状を聞いて惜しみ無い支援を約束した。これからも裏切らないように”仲間”を強調し、通信を切られた。
「……あの男が死んだか……」
別に感慨に浸るわけではない。どちらかというと煮え湯を飲まされた側だ。死んでいるのはむしろありがたい。
問題はミーシャの行方だ。彼女は魔族最強。この世界は魔族が強い。そしてその中での一番は世界最強の名を欲しいままにする。
もう分かっただろう。彼女は抑止力なのだ。この女を獲得したものが頂点に立つ。この場合、頂点は蒼玉になる。
「それが狙いではない……と思う。が、確証などはない……頂点になりたいのであれば、最初からヲルトの支配者に立候補していたろう。蒼玉よ……一体お前はどこに行こうと言うのだ?」
黄泉は通信機の前でうな垂れるように呟いた。
しばらく呼び出しのコールが鳴り響き、受話器が取られた。それと同時にホログラムが作動し、蒼玉の顔が映し出される。
『これは黄泉様。そろそろご連絡いただけると待っておりました』
「察しが良いな……推察の通り、この書状についての話だ」
蒼玉は黄泉の手に掲げられた書状をチラリと確認し、手を組んで椅子にもたれかかった。
『ご不明な点でも?』
「不明な点などない、むしろ分かりやすいくらいだ。それに群青の時と比べて人族への気遣いすら感じたよ……同盟を結ぶ理由の一つ目にある魔族減少と領地確保の難解さについては同じ意見だ。現在、俺の預かるヲルト大陸に魔族が集結しつつある。生活圏を追われた者たちだ。土地が広いから今の所はどうとでもなるが、全魔族となれば流石に許容しきれなくなるだろう。ここぞとばかりの同盟には見事という他ない」
『お褒めに預かり光栄でございます。少し痒くなりそうな褒め殺しではございますが……そこまで仰られるということはそれ相応の不満点もお持ちということで?』
「ああ、二つ目の理由”暴徒”だ。この書き方は魔族に対する冒涜ではないかと思うのだが?生き物は生き残るためなら衣食住は当然必要なもの。生活圏を追われたのなら、どこかに拠点を作るのは至極当然の動きではないか?それに人間たちからの攻撃もある程度考える必要がある。それなのに必死に生きようとする仲間を暴徒として殺そうなど言語道断。理由の一つ目に反しているではないか」
黄泉はヲルト大陸を任された時から第一魔王”黒雲”の成果を蔑ろにしないよう、魔族の平穏を願うようになった。少しでも数を減らすことは避けて守るよう立ち回るべきだと考える黄泉にとって、この内容は許されざる暴挙と言える。
『偏に”安心”ですよ』
「……何?」
『人類の大半は魔族一体に対して十人は居ないと戦いになりません。人類には数の上ではとっくに負けていますが、腕力や魔力に該当する純粋な力はこちらが圧倒的。いくら同盟があるからと我が物顔で土地を奪うようなことがあってはなりません。下賎な輩には死を。良い魔族と悪い魔族という印象操作です。こうすることで人間に安心感を与え、同時にこちらの土地を取ろうと画策するなら容赦しないと釘を刺すのに使えます』
「なるほど、一理ある。しかし、その約束事のせいで魔族の総数が減れば益々図に乗るのではないか?譲歩しすぎるとろくな目に合わないぞ?」
『甘く見て攻めてくるのならば、こちらも我慢する必要はございません。徹底的にひき潰すのみです』
「覚悟の上での同盟だと?しかしこれでは襲ってくださいと背中を見せているようにしか……まさか」
『ええ、その通り。大っぴらに正当防衛の理由を作り、問題を大きく取り上げ、内部分裂を図ります。ゆくゆくは人類を淘汰させようと思っておりますから』
表の顔で良い奴ぶって裏の顔で手ぐすねを引いて待ってるような陰険さを感じる。結局蒼玉も群青と同じで人類を殺そうとしている。同盟などやはり形だけだったと浮き彫りになった。
しかし黄泉は安心していた。蒼玉も例に漏れず魔族なのだと実感出来たからだ。そこでハッと気づく。
(俺好みの返答で誤魔化しているのでは?)
それは疑心暗鬼と呼ばれる厄介な心の傷。他者を信じきることの出来ない心の病。蒼玉の顔をまじまじと見てみるが、全く顔には表れない。
『……満足でしょうか?』
「ああ……いや、一つだけ聞かせろ。ミーシャがこちらに寝返ったという情報があるが、本当なのか?」
『本当です。なんなら彼女をお呼びいたしましょうか?』
「良ければそうしてくれ」
蒼玉はニヤリと笑うと通信機を動かす。すぐそばにミーシャは居た。
『バラン!久しぶりだな!』
「だから俺の本名は出すなとあれほど言ったはずだ!黄泉と呼べ!黄泉と!!」
憤りを感じて騒ぎ散らしたが、冷静な思考が待ったをかける。ミーシャの反応が初々しい。ラルフを葬ったことと関係があるのかもしれない。魅了や精神操作の類など疑えばきりがない。しかし黄泉は全ての事柄に目を瞑った。
蒼玉が何をしたのか定かではないが、ミーシャが魔族側についてくれたのは重畳。魔族繁栄を考えれば、下手を打って機嫌を悪くさせるのは避けたい。
『ほう?』
蒼玉はその葛藤に気づく。探りを入れたり、混乱させるようなことを言えば敵認定すらしていたかもしれない状況で、黄泉は沈黙を選択した。その殊勝さに気を良くした。
『貴方が生き延びてくれていて幸いでした。これからも良き仲間であってくださいませ』
小賢しいのは嫌いだが、意に沿ってくれるなら邪険にはしない。ヲルト大陸での避難民増加の惨状を聞いて惜しみ無い支援を約束した。これからも裏切らないように”仲間”を強調し、通信を切られた。
「……あの男が死んだか……」
別に感慨に浸るわけではない。どちらかというと煮え湯を飲まされた側だ。死んでいるのはむしろありがたい。
問題はミーシャの行方だ。彼女は魔族最強。この世界は魔族が強い。そしてその中での一番は世界最強の名を欲しいままにする。
もう分かっただろう。彼女は抑止力なのだ。この女を獲得したものが頂点に立つ。この場合、頂点は蒼玉になる。
「それが狙いではない……と思う。が、確証などはない……頂点になりたいのであれば、最初からヲルトの支配者に立候補していたろう。蒼玉よ……一体お前はどこに行こうと言うのだ?」
黄泉は通信機の前でうな垂れるように呟いた。
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