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第十三章 再生
第四話 腑抜け共
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「……なめやがって……!」
ガノンはイライラしていた。
ペルタルク丘陵での人知を超えた戦いをくぐり抜け、八大地獄を退けた白の騎士団は、ゼアルの部下である黒曜騎士団の用意した野営用のテントで数日過ごしていた。マクマイン公爵が蒼玉との今後の擦り合わせのために護衛として待機を命じられたせいである。
何をモタついているのか、二日も掛からないだろうにもう一週間は経った。流石に我慢の限界だ。
少し高めの丘から滑るように天幕に向かって降りて行く。昼夜交代制で見張る兵士の会釈を無視してゼアルを探す。探し始めてすぐに隊長と思わしき鎧を身に纏った優男を見つけた。
「……ゼアル!」
「ん?ガノンか。どうした?」
殺そうかというような剣幕でズンズン歩いてくるガノン。常人からすれば近づかれただけで失禁しそうなオーラにゼアルは何でもない顔で返答する。
「……どうしたもこうしたもあるか!いつまでこんなところで足止め食らわすつもりだ!」
「公爵の交渉が終わるまでだ」
「……交渉?」
「これを機に戦争に幕を下ろそうとの判断だ。蒼玉がどういう決断をするのか不明な以上、こうして警戒に当たる必要がある。最高戦力たる我々が席を外すわけにもいかん。何かあればすぐに伝える。もう少しの辛抱だ」
「……手前ぇマジで言ってんのか?魔族とはどちらかが死ぬまでぶっ殺し合ってきた歴史があんだぞ?今更恨みを忘れてお手手繋ごうってのか?冗談じゃねぇ。公爵の野郎がどんな交渉をしてんのか知らねぇが、俺は従う気はねぇぞ……」
ガノンはギザギザの歯を剥き出しに威嚇する。しかしゼアルは意に介さない。
「とにかく、与えられた天幕でじっとしていろ。これは命令だ」
ビキビキと血管が浮き出る音が聞こえてくる。右手でゼアルの顔を鷲掴もうとして寸前で止める。避けようとすらしないゼアルの姿勢が気に食わなかった。握り拳をプルプルと震わせながらゼアルから離れた。ゼアルは腕を組んでプイッと顔をそらした。
黒曜騎士団の兵士に用意させた天幕に乱暴に入る。かなり広めに取っている天幕は作戦会議などで使われる特別大きなものだった。そこにはアリーチェと正孝、ハンターと美咲の四人が座っていた。端っこにはハンターの部下のエルフ達が何人か立っている。
「……ルカとアロンツォは?」
「気晴らしに出て行かれましたよ?」
「……自由気ままな野郎共だ……」
「それあんたが言う?」
アリーチェはさっきまで天幕に居なかったガノンを指差してツッこむ。チッと舌打ちして空いている席に座った。
「……クソが……何が交渉だよ。ふざけやがって……」
「あーあ、つまんねー」
正孝は手を頭に組んで椅子にもたれかかる。
「一週間もこんなとこに缶詰なんざやってらんねーって。どっか街に行って女でも買おうぜ」
「おやおや、暇つぶしにしては随分饐えた趣味ですね」
「あ?何か文句でもあんのかよ?」
「いえいえ、特にはありませんよ」
正孝はハンターに食ってかかる。それを美咲は許さない。
「やめてよマーくん。……これ以上は私もやっちゃうけど良い?」
体からパリッと電気が走る。数の上で不利だと分かると正孝は鼻を鳴らして目を逸らす。
「……見ろよ。血気盛んな連中を閉じ込めると喧嘩が始まる。どっかで発散させねぇとおっぱじまっちまうぜ?」
ガノンは脅すように呟いたが、全員が白けた目を向けてきたのでガノンも鼻を鳴らした。
「……こんな状況になったのも公爵の野郎が魔族と交渉なんぞ始めたからだ。ゼアルの野郎も腑抜けてやがる。何が戦争を止める、だ。魔族なんぞ百害あって一利なしだろうが……」
「ま、確かにゼアルさんのあの落ち込みようは気になりますね」
先の戦闘後、明らかに態度が違う。仲間が死んだことによる悲しみか、マクマイン公爵に何か吹き込まれたか、それとも燃え尽き症候群か。ゼアルの様子がおかしいことに気づいたのは何もガノンだけではなかったようだ。
「僕が思うにラルフさんの死が関係しているのではないでしょうか?」
「……あ?なんで?あの野郎には煮え湯を飲まされたと自分で言ってたんだぞ?死んで清々したってんなら分からんでもないが、それで落ち込むなんざ……自分の手で殺したかったとかそういう奴か?」
「わー、陰険だー」
ガノンの推測にアリーチェが同意する。
「それもあるとは思いますが、何より張り合いが無くなったとかそういう感情の問題ではないかなーっと、僕は思いますね。僕もラルフさんにはお世話になりましたし、ゼアルさんの気持ちは分かるつもりです」
グレースと共に旅をした時を思い出し、感慨に浸る。
「んだよ。ゼアルってのはゲイなのか?せめて女で落ちこめよな。キモいわ」
「ちょっ、マーくん言い過ぎ~」
正孝は半笑いでこの場に居ないゼアルをいじる。面白がって美咲も半笑いでツッこんだが、ガノンの訝しげな視線に二人はバツが悪くなって徐々に声を落とした。
「……戦いの中で芽生える友情ってのもある。マサタカ。手前ぇにも現れると良いな、そんな友人がよぉ」
「あ、ああ……そうだな」
場内が静寂に包まれる。正孝的にはウケを狙って発言したつもりだったが、どうも完璧に外してしまったようだ。
しばらくの沈黙の後、天幕にアロンツォとルカが戻ってきた。アロンツォは座ることなく端に立ち、ルカは迷うことなくガノンの隣に座った。さっきのこともあって口に出せなかったが、ルカは本物だとこの場のみんなが認識している。
「全員集まっているようだな」
そこにゼアルが満を持してやってきた。手には書類が握られている。
「……あ?手前ぇまさかそれは……」
「ああ、推察の通りだ」
ゼアルはここに揃う全員をぐるっと見渡して勿体ぶったように口を開いた。
「人類と魔族の同盟を約束した。我らの敵はこれよりラルフ一行の残党と八大地獄に移行する」
成ってしまった人類と魔族の共闘。数千年の歴史がようやく塗り替えられた瞬間である。
ガノンはイライラしていた。
ペルタルク丘陵での人知を超えた戦いをくぐり抜け、八大地獄を退けた白の騎士団は、ゼアルの部下である黒曜騎士団の用意した野営用のテントで数日過ごしていた。マクマイン公爵が蒼玉との今後の擦り合わせのために護衛として待機を命じられたせいである。
何をモタついているのか、二日も掛からないだろうにもう一週間は経った。流石に我慢の限界だ。
少し高めの丘から滑るように天幕に向かって降りて行く。昼夜交代制で見張る兵士の会釈を無視してゼアルを探す。探し始めてすぐに隊長と思わしき鎧を身に纏った優男を見つけた。
「……ゼアル!」
「ん?ガノンか。どうした?」
殺そうかというような剣幕でズンズン歩いてくるガノン。常人からすれば近づかれただけで失禁しそうなオーラにゼアルは何でもない顔で返答する。
「……どうしたもこうしたもあるか!いつまでこんなところで足止め食らわすつもりだ!」
「公爵の交渉が終わるまでだ」
「……交渉?」
「これを機に戦争に幕を下ろそうとの判断だ。蒼玉がどういう決断をするのか不明な以上、こうして警戒に当たる必要がある。最高戦力たる我々が席を外すわけにもいかん。何かあればすぐに伝える。もう少しの辛抱だ」
「……手前ぇマジで言ってんのか?魔族とはどちらかが死ぬまでぶっ殺し合ってきた歴史があんだぞ?今更恨みを忘れてお手手繋ごうってのか?冗談じゃねぇ。公爵の野郎がどんな交渉をしてんのか知らねぇが、俺は従う気はねぇぞ……」
ガノンはギザギザの歯を剥き出しに威嚇する。しかしゼアルは意に介さない。
「とにかく、与えられた天幕でじっとしていろ。これは命令だ」
ビキビキと血管が浮き出る音が聞こえてくる。右手でゼアルの顔を鷲掴もうとして寸前で止める。避けようとすらしないゼアルの姿勢が気に食わなかった。握り拳をプルプルと震わせながらゼアルから離れた。ゼアルは腕を組んでプイッと顔をそらした。
黒曜騎士団の兵士に用意させた天幕に乱暴に入る。かなり広めに取っている天幕は作戦会議などで使われる特別大きなものだった。そこにはアリーチェと正孝、ハンターと美咲の四人が座っていた。端っこにはハンターの部下のエルフ達が何人か立っている。
「……ルカとアロンツォは?」
「気晴らしに出て行かれましたよ?」
「……自由気ままな野郎共だ……」
「それあんたが言う?」
アリーチェはさっきまで天幕に居なかったガノンを指差してツッこむ。チッと舌打ちして空いている席に座った。
「……クソが……何が交渉だよ。ふざけやがって……」
「あーあ、つまんねー」
正孝は手を頭に組んで椅子にもたれかかる。
「一週間もこんなとこに缶詰なんざやってらんねーって。どっか街に行って女でも買おうぜ」
「おやおや、暇つぶしにしては随分饐えた趣味ですね」
「あ?何か文句でもあんのかよ?」
「いえいえ、特にはありませんよ」
正孝はハンターに食ってかかる。それを美咲は許さない。
「やめてよマーくん。……これ以上は私もやっちゃうけど良い?」
体からパリッと電気が走る。数の上で不利だと分かると正孝は鼻を鳴らして目を逸らす。
「……見ろよ。血気盛んな連中を閉じ込めると喧嘩が始まる。どっかで発散させねぇとおっぱじまっちまうぜ?」
ガノンは脅すように呟いたが、全員が白けた目を向けてきたのでガノンも鼻を鳴らした。
「……こんな状況になったのも公爵の野郎が魔族と交渉なんぞ始めたからだ。ゼアルの野郎も腑抜けてやがる。何が戦争を止める、だ。魔族なんぞ百害あって一利なしだろうが……」
「ま、確かにゼアルさんのあの落ち込みようは気になりますね」
先の戦闘後、明らかに態度が違う。仲間が死んだことによる悲しみか、マクマイン公爵に何か吹き込まれたか、それとも燃え尽き症候群か。ゼアルの様子がおかしいことに気づいたのは何もガノンだけではなかったようだ。
「僕が思うにラルフさんの死が関係しているのではないでしょうか?」
「……あ?なんで?あの野郎には煮え湯を飲まされたと自分で言ってたんだぞ?死んで清々したってんなら分からんでもないが、それで落ち込むなんざ……自分の手で殺したかったとかそういう奴か?」
「わー、陰険だー」
ガノンの推測にアリーチェが同意する。
「それもあるとは思いますが、何より張り合いが無くなったとかそういう感情の問題ではないかなーっと、僕は思いますね。僕もラルフさんにはお世話になりましたし、ゼアルさんの気持ちは分かるつもりです」
グレースと共に旅をした時を思い出し、感慨に浸る。
「んだよ。ゼアルってのはゲイなのか?せめて女で落ちこめよな。キモいわ」
「ちょっ、マーくん言い過ぎ~」
正孝は半笑いでこの場に居ないゼアルをいじる。面白がって美咲も半笑いでツッこんだが、ガノンの訝しげな視線に二人はバツが悪くなって徐々に声を落とした。
「……戦いの中で芽生える友情ってのもある。マサタカ。手前ぇにも現れると良いな、そんな友人がよぉ」
「あ、ああ……そうだな」
場内が静寂に包まれる。正孝的にはウケを狙って発言したつもりだったが、どうも完璧に外してしまったようだ。
しばらくの沈黙の後、天幕にアロンツォとルカが戻ってきた。アロンツォは座ることなく端に立ち、ルカは迷うことなくガノンの隣に座った。さっきのこともあって口に出せなかったが、ルカは本物だとこの場のみんなが認識している。
「全員集まっているようだな」
そこにゼアルが満を持してやってきた。手には書類が握られている。
「……あ?手前ぇまさかそれは……」
「ああ、推察の通りだ」
ゼアルはここに揃う全員をぐるっと見渡して勿体ぶったように口を開いた。
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