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第十三章 再生
第二十話 最終チェック
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アルパザ周辺では大規模な戦争が勃発していた。
一斉に雪崩れ込む黒曜騎士団と魔族たち。この戦争の指揮を取るのは不甲斐ないマクマインと蒼玉の代わりを務めるイミーナ。そしてゼアルである。
「怯むな!奴らを倒せば真の平和が訪れる!ここが……こここそが正念場だ!」
ゼアルの檄が飛ぶ。
「人間如きに遅れを取るのは許しません!魔族の力を見せつけなさい!」
イミーナも負けじと声を張り上げる。
蒼玉が地団駄を踏む中間地点を越えて黒曜騎士団の仲間が作成した防壁へと突撃する。
「まさか私が人殺しになるなんてね……元の世界じゃ考えられなかったけど……」
戦争とは国を守り、家族を守り、自分自身を守る戦い。そこに綺麗事を挟む余地など存在しない。してはいけない。
生きるための戦い。ならば相手が魔族だろうが人間だろうがそこに違いはない。
アンノウンはラルフが異次元に引っ込むや否や召喚術を使用し、そこから現れた召喚獣に度肝を抜かれた。
藍色の毛を纏い、鋭い牙と眼光で相手の敵意を削ぐ。伸びた爪は鉤状になっていて、どんなところでも登れそうだが、そんなことのために使わないことは誰の目にも明らかだ。発達した耳と鼻からは何者も逃れる術はない。
アンノウン曰く、召喚獣”フェンリル”。巨大な体躯は古代種のケルベロスにも比肩しうる。
深緑の鱗は金属の光沢を放つ。街をぐるりと囲むほど巨大な蛇。防壁からぬぅっと鎌首をもたげた姿は夢に出てきそうなほどの恐怖を与える。赤い目に一度睨まれれば、まるで石にでもされたかのように動けなくなってしまう。
召喚獣”ヨルムンガンド”。名前の割に少し小さいが、アンノウンが管理出来る大きさを考えればそれでも巨大だ。
深紅の長髪は風にたな引き、巨大な二本の大剣が両手を塞ぐ。見た目はかなり鍛え上げらえれた女性アスリートのものだが、目を見張るのは彼女が3mの巨人であること。両手に持った大剣も身長と同じ長さであり、尋常でない力だということは想像に難くない。全身を包むタイツのようなアーマーは並みの攻撃ではビクともしない。
召喚獣”ヘル”。こちらも少々小さいが、その力は折り紙つきである。
北峰神話の怪物をアンノウンの想像で補完して生み出した。
この凄まじい怪物たちに猛者たちも歩みを止める。イミーナもゼアルも目を見張る。これには流石の二人も部下を咎めることは出来ない。
「この召喚パーティーを”神々の黄昏”と名付けるのはどうかな?……直球すぎ?」
「ラ、ラグラロク?良ク分カラナイケド、強ケレバ何モ言ウ事無イカナ」
防壁の上でジュリアは防壁の外に躍り出たフェンリルを見る。
「コノ子ノ背中ヲ借リルヨ」
バッと躊躇もなく飛ぶ。アンノウンの答えを聞く間も無く飛んだジュリアの背中を見て肩を竦める。
「どうぞお好きなように」
その様子を黙って観察していた歩が驚きのあまり腰を抜かしそうになっていた。大軍勢に負けることのない大怪物たち。古代種に引けを取らない存在感にポツリと感想を漏らす。
「良いなぁ……」
自分にもあんな力があったらと思う。身体能力の強化、特異能力の覚醒。付与されたボーナスは同じなのに、能力に雲泥の差がある。片や”索敵”で片や”召喚魔法”。歩の持つ”索敵”ではいくら相手の情報を仕入れても相手は倒れない。アンノウンを斜め後ろから恨めしい羨望の眼差しで見つめる。
防壁の外で待機していたベルフィアとデュラハン9シスターズは前を見据えて構える。
「食いごタえがありそうじゃ。最近めっきり食っとらんかっタから楽しみで仕方ない」
舌舐めずりをしながら品定めしているように見えるが、その実誰でも良いと目が爛々と光る。涎を垂らしているベルフィアを無視してデュラハン姉妹の長女メラが真剣な顔つきで語る。
「……個々の実力はそれほどでもありませんわ。しかし束になって来られると面倒ですわね」
メラの言葉に姉妹たちの間で緊張が走る。
「ならば個々の実力が突き抜けている我々が束になれば怖いものはない。そういうことか?」
そこには魔王”鉄”がいつの間にか立っていた。ティアマトも鉄の後ろに付いてきた。
「束になる必要ある?個々の力が強いなら雑魚どもが何体で来ようと知れたこと。問題は蒼玉とイミーナよ」
「ふーん、そっかぁ。じゃぁ、あなたはどっちをやるのぉ?どっちも面倒臭そうだけどねぇ」
さらにエレノアもやってきた。後ろにはブレイドとアルルを引き連れている。
「これから殺し合いだというのに息子とお散歩?いい気なものねエレノア。息子は逃げていた方が良くない?」
「甘く見ないでください。これでも俺は戦えます」
「私も!」
ブレイドもアルルも覚悟完了といったところだ。ティアマトは「ふんっ」と顔を背ける。そんなやり取りを見たメラは二人の妹、イーファとアイリーンを呼んだ。
「……用意してた秘書のウェイブと血の騎士を呼び出す準備を進めなさい。いざという時は盾として使いますわ」
「分かりました」
そそくさと離れる二人を尻目にベルフィアが吠える。
「行くぞ!皆殺しじゃっ!!」
ドンッ
大地を踏みしめ平行に飛ぶ。後に続くデュラハン姉妹。遅れるように飛び出したのはフェンリルとその背中に乗ったジュリア。全てをなぎ倒そうとヘルも続く。
怪物の召喚に虚を突かれ、立ち止まってしまった兵士たちはこのロケットダッシュに慌てふためき、本来の行動が出来ずにいた。そんな不甲斐ない兵士を置いて一つの影が飛び出した。ベルフィアに向かって飛ぶ。
「!……おどれは!?」
後方に陣取っていた魔断のゼアル。イビルスレイヤーのスキル”速度超過”の効果で時間短縮を図った。ベルフィアは咄嗟に魔力の刃を飛ばす。薄く引き伸ばした魔力の板は何者をも切断する。
だが今のゼアルには効かない。神から授かった力を存分に発揮し、全てを見切ったゼアルは魔力の刃を打ち砕く。
「チッ……こ奴は妾がやル!他を潰せ!」
ベルフィアの命令に逆らうことなくデュラハン姉妹はゼアルの攻撃範囲に入らぬよう遠回りしながら背後の部下に攻撃を仕掛ける。もとよりゼアルに興味のなかったフェンリルとジュリア、そしてヘルも接敵した。
「おどれもしつこいノぅ。何度負ければ気が済むノじゃ?」
ベルフィアの問いにゼアルは苦笑する。そして構える。剣を倒した状態で右側に掲げて左手を下から添えるように握り、突きの構えをとる。左足を前に出し右足で踏ん張る。ゼアルの信じる無双の構え。
「何度でも、何度でも……無論、勝つまで」
一斉に雪崩れ込む黒曜騎士団と魔族たち。この戦争の指揮を取るのは不甲斐ないマクマインと蒼玉の代わりを務めるイミーナ。そしてゼアルである。
「怯むな!奴らを倒せば真の平和が訪れる!ここが……こここそが正念場だ!」
ゼアルの檄が飛ぶ。
「人間如きに遅れを取るのは許しません!魔族の力を見せつけなさい!」
イミーナも負けじと声を張り上げる。
蒼玉が地団駄を踏む中間地点を越えて黒曜騎士団の仲間が作成した防壁へと突撃する。
「まさか私が人殺しになるなんてね……元の世界じゃ考えられなかったけど……」
戦争とは国を守り、家族を守り、自分自身を守る戦い。そこに綺麗事を挟む余地など存在しない。してはいけない。
生きるための戦い。ならば相手が魔族だろうが人間だろうがそこに違いはない。
アンノウンはラルフが異次元に引っ込むや否や召喚術を使用し、そこから現れた召喚獣に度肝を抜かれた。
藍色の毛を纏い、鋭い牙と眼光で相手の敵意を削ぐ。伸びた爪は鉤状になっていて、どんなところでも登れそうだが、そんなことのために使わないことは誰の目にも明らかだ。発達した耳と鼻からは何者も逃れる術はない。
アンノウン曰く、召喚獣”フェンリル”。巨大な体躯は古代種のケルベロスにも比肩しうる。
深緑の鱗は金属の光沢を放つ。街をぐるりと囲むほど巨大な蛇。防壁からぬぅっと鎌首をもたげた姿は夢に出てきそうなほどの恐怖を与える。赤い目に一度睨まれれば、まるで石にでもされたかのように動けなくなってしまう。
召喚獣”ヨルムンガンド”。名前の割に少し小さいが、アンノウンが管理出来る大きさを考えればそれでも巨大だ。
深紅の長髪は風にたな引き、巨大な二本の大剣が両手を塞ぐ。見た目はかなり鍛え上げらえれた女性アスリートのものだが、目を見張るのは彼女が3mの巨人であること。両手に持った大剣も身長と同じ長さであり、尋常でない力だということは想像に難くない。全身を包むタイツのようなアーマーは並みの攻撃ではビクともしない。
召喚獣”ヘル”。こちらも少々小さいが、その力は折り紙つきである。
北峰神話の怪物をアンノウンの想像で補完して生み出した。
この凄まじい怪物たちに猛者たちも歩みを止める。イミーナもゼアルも目を見張る。これには流石の二人も部下を咎めることは出来ない。
「この召喚パーティーを”神々の黄昏”と名付けるのはどうかな?……直球すぎ?」
「ラ、ラグラロク?良ク分カラナイケド、強ケレバ何モ言ウ事無イカナ」
防壁の上でジュリアは防壁の外に躍り出たフェンリルを見る。
「コノ子ノ背中ヲ借リルヨ」
バッと躊躇もなく飛ぶ。アンノウンの答えを聞く間も無く飛んだジュリアの背中を見て肩を竦める。
「どうぞお好きなように」
その様子を黙って観察していた歩が驚きのあまり腰を抜かしそうになっていた。大軍勢に負けることのない大怪物たち。古代種に引けを取らない存在感にポツリと感想を漏らす。
「良いなぁ……」
自分にもあんな力があったらと思う。身体能力の強化、特異能力の覚醒。付与されたボーナスは同じなのに、能力に雲泥の差がある。片や”索敵”で片や”召喚魔法”。歩の持つ”索敵”ではいくら相手の情報を仕入れても相手は倒れない。アンノウンを斜め後ろから恨めしい羨望の眼差しで見つめる。
防壁の外で待機していたベルフィアとデュラハン9シスターズは前を見据えて構える。
「食いごタえがありそうじゃ。最近めっきり食っとらんかっタから楽しみで仕方ない」
舌舐めずりをしながら品定めしているように見えるが、その実誰でも良いと目が爛々と光る。涎を垂らしているベルフィアを無視してデュラハン姉妹の長女メラが真剣な顔つきで語る。
「……個々の実力はそれほどでもありませんわ。しかし束になって来られると面倒ですわね」
メラの言葉に姉妹たちの間で緊張が走る。
「ならば個々の実力が突き抜けている我々が束になれば怖いものはない。そういうことか?」
そこには魔王”鉄”がいつの間にか立っていた。ティアマトも鉄の後ろに付いてきた。
「束になる必要ある?個々の力が強いなら雑魚どもが何体で来ようと知れたこと。問題は蒼玉とイミーナよ」
「ふーん、そっかぁ。じゃぁ、あなたはどっちをやるのぉ?どっちも面倒臭そうだけどねぇ」
さらにエレノアもやってきた。後ろにはブレイドとアルルを引き連れている。
「これから殺し合いだというのに息子とお散歩?いい気なものねエレノア。息子は逃げていた方が良くない?」
「甘く見ないでください。これでも俺は戦えます」
「私も!」
ブレイドもアルルも覚悟完了といったところだ。ティアマトは「ふんっ」と顔を背ける。そんなやり取りを見たメラは二人の妹、イーファとアイリーンを呼んだ。
「……用意してた秘書のウェイブと血の騎士を呼び出す準備を進めなさい。いざという時は盾として使いますわ」
「分かりました」
そそくさと離れる二人を尻目にベルフィアが吠える。
「行くぞ!皆殺しじゃっ!!」
ドンッ
大地を踏みしめ平行に飛ぶ。後に続くデュラハン姉妹。遅れるように飛び出したのはフェンリルとその背中に乗ったジュリア。全てをなぎ倒そうとヘルも続く。
怪物の召喚に虚を突かれ、立ち止まってしまった兵士たちはこのロケットダッシュに慌てふためき、本来の行動が出来ずにいた。そんな不甲斐ない兵士を置いて一つの影が飛び出した。ベルフィアに向かって飛ぶ。
「!……おどれは!?」
後方に陣取っていた魔断のゼアル。イビルスレイヤーのスキル”速度超過”の効果で時間短縮を図った。ベルフィアは咄嗟に魔力の刃を飛ばす。薄く引き伸ばした魔力の板は何者をも切断する。
だが今のゼアルには効かない。神から授かった力を存分に発揮し、全てを見切ったゼアルは魔力の刃を打ち砕く。
「チッ……こ奴は妾がやル!他を潰せ!」
ベルフィアの命令に逆らうことなくデュラハン姉妹はゼアルの攻撃範囲に入らぬよう遠回りしながら背後の部下に攻撃を仕掛ける。もとよりゼアルに興味のなかったフェンリルとジュリア、そしてヘルも接敵した。
「おどれもしつこいノぅ。何度負ければ気が済むノじゃ?」
ベルフィアの問いにゼアルは苦笑する。そして構える。剣を倒した状態で右側に掲げて左手を下から添えるように握り、突きの構えをとる。左足を前に出し右足で踏ん張る。ゼアルの信じる無双の構え。
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