一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第十三章 再生

第二十一話 戦争-1

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 ゴバッ

 召喚獣ヘルは両手それぞれで握った大剣を人にも魔族にも等しく振るう。この剣にそれほどの切れ味はなく、当たったものは砕け散る。見た目通りの重量を持つ剣圧を受け止められるものはこの場に数体。それに該当しないものたちは死ぬしかない。

 ギィンッ

 ヘルの目が見開かれる。雑魚を薙ぎ殺そうとした次の瞬間に現れた屈強な男。ヘルの半分ほどの体にしか満たない男、ガノンは自慢の大剣と筋力で彼女の膂力に対抗した。足が地面にめり込み、骨の軋む音が体内で木霊する。

「……チッ……なんつー腕力ちからだ。オラァ!!」

 バギィンッ

 さらに剣を押し返す。ヘルの体幹がブレることはないが、相手方の軍勢の三分の一も食い込めず止められたことに少しの驚きがあった。言葉を持ち合わせてはいないが、強者に対する敬意がその目にあった。

「……オーク並みにデケェ女に出会ったのは初めてだぜ。しかも俺より強ぇ……もう世界を見切った気になってたが、俺はまだまだ小せぇ領域の中にいたわけだ」

 ガノンはヘルに声を掛けながら頭の中で戦力を整理する。

(……勝ち目は贅沢に見積もっても一割、今の一撃で俺の剣がぶっ壊れる一歩手前。次に打ち合える可能性は……考えるまでも無ぇな。化け物がよぉ……)

 剣の打ち合いで初めて腕が痺れる感覚を味わう。戦ってきたどんな強い奴でも筋肉量で負けたことがなかったガノンは、初めて純粋な力で負けることを確信した。一対一では二分保たない。

「バカ!一人で突っ走らないで!」

 その時、後ろからアリーチェの声が聞こえた。

「全くだぜ。俺は手は出さないとか何とか言ってた癖に結局これだよ……」

 正孝も追いついた。となればルカもいる。四対一だが、戦えるのはガノンと正孝。残り二人は身体強化と遠距離からの攻撃、つまり援護に回る。ドゴールやアウルヴァングが生きていたらと思う。今更如何しようも無いことにリソースを割くのは心の底で諦めている証拠。全てを投げ出して逃げるのが賢い選択だ。

「……おい手前ぇら!俺とマサタカにありったけの強化魔法を付与しろ!!あと俺の剣には防御魔法を使え!こいつが折れたら戦えんからな!!」

「かしこまりましたガノン様!」

 ルカは即座に剣の強化を図った。身体能力を向上させている最中に攻撃されては目も当てられないとの判断だろう。これはガノンにとってもありがたかった。アリーチェも「人使いが荒い!」と文句こそ垂れたが、望むように強化を付与し始める。
 そうして強化されていく二人の姿を静観するヘル。単なる殺戮の権化というわけではなく、考える知能を与えられ、生み出された。戦いに妥協ない女戦士は少しでも自分を倒そうとする健気な姿に待機を選んだ。準備が完了すれば当然のように動き出すことだろう。

「……その余裕、絶対ぇ崩す」

 ガノンの意気込みは正孝にも伝わる。炎を体に纏わせながら戦いを意識する。この炎が通用するのかは疑問が残るが、彼にはこれしかない。信じて突き進む。万が一にも信じきれなくなったら、そこが彼の最期となるだろう。気を引き締めることは命を守ること。流石の正孝も緊張せざるを得ない。
 次に白の騎士団の面子が飛び出したのはフェンリルの方だ。好き勝手暴れまわる獣に矢を射て怯ませる。こちらには静観を決め込んでいたハンターと部下たち、そして美咲が加勢する。しかし正直弓矢では決定打に欠ける。アロンツォがいれば多少は戦力となったはずだが、国に帰ったのでこれまた考えるのは無駄なことだ。

「無為に動いては良い餌になりそうだね……でもやるしかないか」

 ハンターは目で部下に合図を送ると、すぐに動き出す。部下も散開してフェンリルを混乱させようと考える。しかしそれは叶わない。フェンリルの背中に乗ったジュリアがハンター目掛けてジャンプした。ハンターは早くにジュリアの存在に気付き、視認し撃ち落そうとしたが、すぐさま弓を下に下ろした。

「あなたはまさかラルフさんの……」

 ハンターに敵意が感じられなかったジュリアは、爪を引っ込めて普通に着地した。

「ラルフノ知リ合イカ?ナラ帰レ。今全テヲ放棄スルナラ見逃ス」

「随分と寛大な処置だけど、そういう訳にはいかないよ。戦地を選んで来た以上、逃げることは戦士の恥。僕にだって意地があるからね」

 ハンターの意思は変わらない。それに美咲も追従する。

「ああ、格好良い……もういいでしょ?狼人間。帰るのはそっちよ。私たちは止められないわ」

「フンッ、命知ラズネ。ダッタラ容赦シナイカラ」

 ハンターと美咲、エルフたち弓兵。ジュリアとフェンリルに戦いを挑む。冗談でしか考えられないような戦力差を前に圧倒されてしまうものの、これは戦争。命の取り合いに背を向けてはそれは死を意味する。撤退戦でもない限り、味方にとっても敵にとっても容認しがたい存在となり得る。自分の命は何より大事だが、エルフの誇りはこんな時でも自分を奮い立たせる。

「圧倒的な力でねじ伏せて自分は高みの見物を決め込んでいたというのに、僕に対して命知らずと?命の価値や重みを理解していないあなたに言われるのは心外というものですよ?」

「……ソノ者次第ジャナイ?感ジ方ニモ寄ルシ……戦争ニ綺麗事ヲ持チ込ムナンテ、エルフハ素人集団ノ集マリカ何カナノ?」

「減らず口もこの辺りで暇を出しましょう。戦いには無用の長物ですから」

 体力差、威力、魔力。どれを取っても勝ち目はない。全員死ぬか、運良く数人が生き残るか。二つに一つ。
 勝てば官軍、負ければ賊軍。血で血を洗う決戦の舞台。
 最早言葉は用をなさない。
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