一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
578 / 718
第十四章 驚天動地

第二十八話 ゼアルの憂鬱

しおりを挟む
 どんより滲んだ朧月夜。突き出た岬に翻す黒いケープ。漆黒の鎧は夜に溶け、胸元に白く塗られた紋章も儚く消える。後方に撫で付けた髪をカチューシャで止め、それでも反発する前髪がまるで触覚のように二束垂れている。
 黒曜騎士団の団長で、人類最強の剣「白の騎士団」に所属する”魔断”のゼアルその人である。
 じっと水平線を見つめるその目に映るのは黒い黒い闇。全てが吸い込まれそうな深淵はゼアルの行く末を描いているように感じた。

(光の無い道……私が成るしかあるまい。一筋の光明に……)

 輝ける世界に変えるには、誰かが闇を照らさなければならないのだ。皆の光になり、平和をもたらす。たとえ一瞬で燃え尽きる松明であろうと、行くべき道を指し示せる。これがゼアルが考える自らの存在理由。

 スラッ……

 ゼアルが世界で最も信頼を置く剣”イビルスレイヤー”。スッと前方に翳し、まだ見えぬ敵に切っ先を向ける。姿勢を変えて、柄を両手で持ち、虚空に向かって剣を構える。
 その瞬間、全ての時が止まったかのように無音が支配する。風が止み、虫も魔獣も一切の物音を殺す。ゼアルの放つ殺気が強烈すぎて自然が息を潜めたのだ。しばらくの静寂が続く。
 次の瞬間──

 ……ピュンッ

 音が遅れてやってくる。雷の如き閃きがゼアルの前方を切り裂く。何もなかった虚空に暫く残る光の残像。肉体を極限まで強化させることで生み出される、人力の”空間断”。アシュタロトの強化を遥かに超える力。ゼアルはもはや人間ではなくなっていた。

 生き物を超えた先にある脅威。魔族や魔王を超えた神人。遂にゼアルは救世主となった。

 しかし欠点もある。それは全てが終わった後の立ち位置にある。一線を退くか、神として君臨するかというもの。一線を退き、戦いに介入しないとなれば、田舎で仙人のように暮らすことが出来るやもしれないが、そう甘いものでは無い。確実に国力の強化を図る人族の政治の道具にされるだろう。

 ならば最初から国民を導く立場になれば良い。イルレアンのために働くのであれば、今まで通りマクマインと二人三脚でやって行けるだろう。いや、やはりそう甘いものでは無い。魔族を駆逐し、人族のみの世界になるとして、その後は人族同士の戦争になる。これはブルータイガーの亡き頭目であるキジョウも同じ考えを持っていた。
 守ってきた人族を今度はこの手で殺す。本末転倒であろう。悪を裁くのがゼアルの役目であって、善悪の区別なく殺すのはゼアルのすべきことでは無い。

(この戦いが私の人生の終着点となろう……)

 ミーシャを殺し、ラルフを殺し、やるべきことを終えた後、神に力を取り上げてもらおうと考えている。マクマインはこの勝手な選択を許しはしないだろう。きっと何らかの罪を着せて処刑に持ち込む。先代の黒曜騎士団団長ブレイブを殺した時のように……。
 いや、ブレイブは本当に魔族と子を為したので「罪を着せる」とするのは厳密には違うかもしれないが、結果は同じことだ。

「ふっ……数奇な運命だな」

 その短い言葉に全てが詰まっていた。最近ラルフに言い放ったセリフ。ラルフはそれを宝物だと豪語した。
 ならば自分はどうか?身体能力に恵まれ、剣の才能を開花させ、マクマイン公爵に見初められ、黒曜騎士団団長として栄華を誇った。白の騎士団にも選抜されて、”魔断”の異名をも欲しいままにした。全てが完璧で、且つ神にも期待されるゼアルは、完璧すぎるが故に未熟な精神に嫌気がさしていた。
 たった一つの失敗が全ての尾を引き、ゼアルを苦しめ、自暴自棄に追いやっている。

 ラルフ。全ての綻びの元凶。
 あの男がいなければ、ゼアルの心は完璧だった。あの男がいなければ、ミーシャは死に、今のような混乱の世界は訪れなかった。きっとマクマインが裏で全てを制御する世界になっていただろう。善悪の概念はもっと複雑になっていたかもしれないが、人族同士の戦争にも繋がらず、ある種の均衡が保たれていたと予想出来る。
 全ては推測の域を出ないが、少なくともゼアルの汚点は存在し得なかった。

(……自己中心的と笑うが良い。身勝手で救いようの無い私を……)

 剣を鞘に収納し、姿勢を正して水平線を眺める。海の先の闇を見つめ、自己陶酔に浸る。風や虫の声が戻ってくる。自然は安堵し、息を吹き返した。目を瞑り、自然と一体となった時、ゼアルは心の安寧を感じる。

「……少し、考え過ぎたようだ……」

 鼻で笑う。
 全ては明日決まるのだ。何を考えることがあるのか。ゼアルは踵を返して岬を後にしようとする。体を休めよう。それが今出来る全てだ。

 ビキッ

 その時の音はゼアルの障害で忘れることは出来ないだろう。

 ジジジジ……ゾバァッ

 おおよそ聞いたことのない音は、ゼアルを振り返らせるのに何の躊躇いも感じさせなかった。

「……いや、だからチラッと光ったんだって。あれは魔力でも松明でも……」

 空間の裂け目。深淵を割いて現れた強烈な光に目が眩んだのは、暗闇に目が慣れていたからだろう。
 だが、そのシルエットだけは隠せない。影絵のように切り取られた、草臥れたハットを被った男のシルエットだけは……。

「ラルフ……貴様か?」

「あら?ゼアル団長だ。じゃさっきの光はあんただったのか……って、こんなとこで何してんの?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...