一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第十五章 終焉

第五話 余興

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「ハンター。汝、いつ如何なる時も彼女を愛し、慈しみ、生涯を共にすることを誓うか?」

「誓います」

 ハンターは待ってましたと返答する。森王はコクリと頷くとグレースに目を向けた。

「グレース。汝、いつ如何なる時も……」

 エルフの結婚式は国一つのイベントとして行われる。こういった儀式は毎年のように行われるわけではなく、数年に一度、下手すれば十数年に一度のレベルで結婚の話題が浮上する。そういう事情とお国柄だからか、王様がわざわざ立会人として新米夫婦の門出を祝う。

 美しいドレスに身を包んだグレースは、堂々と胸を張って気品と気高さを演出する。普段パッとせず、隅っこの机でちまちま仕事に従事する歴史研究員は、常に最前線で華々しく戦い、戦果を上げる夫に負けないように立ち振る舞う。

「……誓います」

 その返答に周りから熱い羨望の眼差しでグレースは見られる。中には憎悪を孕んだ危険なものもあるが、共に歩いていくことを決めた時から覚悟は出来ている。

「はぇ~……」

 祝うよりむしろ負のオーラを感じる式場において、爛爛と目を光らせるのはミーシャである。自分が式を上げることを想定し、妄想が膨らんでいるのだ。

 退屈だと思う者や、純粋に祝う者、負のオーラを撒き散らしたり、次は自分がと奮起する者。
 様々な感情が入り乱れる式も大詰めという時、森王は「弓をここへ!」と声を張り上げた。僧侶と思しきエルフの男性はおごそかな雰囲気で華美な弓と高価そうな鏑矢かぶらやを持って行き、森王にうやうやしく献上した。

「お?何だ何だ?エルフは結婚式で弓を扱うパフォーマンスをするのか?」

 ラルフは近くのエルフにこっそり尋ねる。聞かれたエルフは迷惑そうな顔をしながらコクリと一つ頷いた。

「へぇ~面白いな。一体何を狙うんだよ」

 どちらかといえば退屈している側だったので、予期していなかった余興に胸をふくらませる。森王は受け取った弓と矢をハンターへと流す。推察するに、新郎新婦のどちらか弓が上手い方に鏑矢を撃たせ、何らか縁起の良い感じに締めるのだろう。
 ハンターは矢を番えると上空に向かって弓を構えた。その視線の先に何があるのかと注意が削がれた瞬間。

 ──ビュンッ

 弦から弓矢が放たれ、空気を切り裂く音が響き渡る。しかし矢は一向に上昇せず、放たれたはずの鏑矢は音を鳴らすことなく姿を消してしまった。

「……おい。何の真似だ」

 横でミーシャが怒気を孕んだ声音を出した。先ほどまでの乙女なミーシャから出たとは信じられないほどの突然の変化にラルフは状況の確認を急ぐ。
 上空に飛んだと思っていた鏑矢はミーシャの手の中にあった。その先端はラルフに向き、正確に心臓を射抜くように放たれていたようだ。

「は?え……ハンター?」

 いや、そんなはずはない。ハンターは心優しく、品行方正に育った完璧なイケメンである。魔族や魔獣、エルフの敵に対しては容赦無く不意を狙うこともあるだろうが、ラルフは敵ではない。朝方話した感じも悪い気はしなかったし、信頼感すらあったと自負している。実は殺そうとしていたということであれば、見習いたいほどに凄まじい演技力だ。

『止めたか……面倒な女よ』

 森王は残念そうに吐き捨てたが、その声には聞き覚えがあった。

「……お前アトムか?」

『気安く呼ぶな。様をつけろ不敬者め』

 埃を払うように手を振って不快感を露わにする。これ以上ないと豪語出来るほどの不意打ちを難なく止められてご立腹といった印象を与えられる。ラルフは息を大きく吸って、座っていた椅子から落ちるのではないかと思う勢いで肩の力を抜きつつ息を吐いた。

「う~わっ良かったぁ……ハンターに密かに殺意を抱かれてたとかになったら、俺死んでも死に切れなかったとこだぜ……」

 ラルフの安堵がミーシャにも伝わり、クスッと笑いながら鏑矢をへし折った。森王の体を乗っ取ったアトムは苦々しく顔を歪める。

「にしても何て卑怯なやり方だ。祝いの席で新郎に罪を着せようなんて趣味が悪い。創造神が聞いて呆れるぜ」

『うるさい、こんなのはまだまだ余興よ。貴様らを奈落の底へと落としてやる』

 アトムは辺りを見渡し、顎をクイッと挙げた。その瞬間、座っていた観客がザッと一斉に立ち上がった。全員虚ろな目でまっすぐ前だけを見ている。

「は?いつの間に操ってたんだよ……何つー手際の良さ。となるとあんなもんで殺そうとしていたのが益々みみっちく感じちゃうけどな」

「違うよラルフ。この人たちみんなさっきまでは普通だったもん。気配が変わったのは矢を撃ってからだよ」

 ミーシャの発言に驚く。

「そんなはずは……だってあいつが命令してたのって弓矢を持って来させるだけだったし、それ以外の方法だと式が始まる前に既に操っていたとしか……」

 懐疑的な意見を口に出したものの、ラルフは周りを見てミーシャの発言こそ正しいと確信した。

「ブレイド、アルル……ベルフィアもか?」

 式が始まる直前まで駄弁っていた仲間たちも軒並み操られた表情をしている。身体強化および弱体化の魔法、精神に干渉する魔法等、肉体に影響を及ぼす系統を無効化する吸血鬼ベルフィアまでも抵抗出来ずに操られている。これが本当のアトムの力だとでも言うのか。

「おいおい嘘だろ?なんかお前パワーアップしてないか?」

『違う。これこそが真なる我が力!我が名は統御とうぎょの神アトム!!エルフェニアが貴様らの墓場だ!ダークビーストと共に埋葬してくれる!!』

 アトムは力が入りすぎているのか、森王の顔に血管を浮かせながら大声を出して興奮している。

「え?ダークビースト?……って古代種エンシェンツの?ちょっと根に持ちすぎじゃない?」

『ふざけるな!!手塩に掛けて創造した私の守護獣ガーディアンだぞ!!貴様らだけは絶対!何が何でも滅ぼしてくれるわ!!』

 喝ぁっと腹の底から溢れ出た憎悪の感情がラルフとミーシャを襲う。しかし、鈍感なのか、はたまた全く気にしないのか。ミーシャとラルフは煽るような顔つきでニヤリと笑った。

「やれるもんならやってみろ」
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