一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
695 / 718
最終章

第二十九話 複合型

しおりを挟む
 ミーシャはラルフのお願いを快く受け入れた。

『えぇ……君はそれで良いの?』

 アシュタロトはミーシャの寛大な心に困惑する。史上最強の力にあるまじき寛容さ。ラルフに対して甘すぎる。

「?……これが私よ」

 ミーシャは一瞬首を傾げたが、堂々と言い放った。魔族と人族の惜しみ無い庇い合い。

『……なるほど。純愛だねぇ』

 うんうんと頷きながら自分を無理やり納得させる。アシュタロトの中の常識に見合わない面倒な存在だ。
 こういう理不尽且つ枠にはまらない奴を何人か見てきたが、外で見ている分には『こう言うのもいるんだなぁ』と他人事で済ませることが出来た。だがいざこうして触れてみるとこんなにもムカつくものなのかと実感させられた。
 どんなものであれ愛の前では一見変な事をしていてもまかり通る。一途であれば一途であるほどそれは顕著だ。

『ま、限度はあるだろうけどね……』

 一頻ひとしきり自分に言い聞かせたアシュタロトはミーシャとラルフを交互に見た。

『それでどうする?やる?』

 アシュタロトはここでようやく戦闘態勢に入る。体を慣らすかのようにその場でリズミカルに跳ね、その最中に関節の動きを確認する。肩を回し、肘を軽く曲げ、手首を揺らす。首を左右に倒し、腰、足の付け根、膝、足首を跳ねる事で火を灯す。さらに羽の付け根も軽く動かし、全身隈無くまなく試運転を終わらせた。

「やる」

 ミーシャは簡潔に答える。アシュタロトの忙しない動きに対して、こちらはほとんど動きがない。ソフィーとの戦いで既に体は動かしていたし、その際特に体に不調はなかった。
 というよりもあるわけがない。魔力を常日頃から体に充満させ、いついかなる状況でも尋常ならざるパフォーマンスを身につけた無敵の存在だ。ソフィーと戦っていなかったとしても、たとえ寝起きであっても戦える。

 神との戦いはこれで何度目か。
 単なる力押しではどうにもならなかった神もいた。アシュタロトはイリヤやエレクトラのような異能タイプか。それともアトムやアルテミス、そしてユピテルのような脳筋タイプか。
 体の動かし方を見るに後者であることが考えられるが、どちらのタイプも持った複合型の可能性も捨てきれない。
 どんなことにも対処出来ると自信はあるが、異能タイプは下手をすると触れることすらままならない。イリヤの時のようにあっさり捕縛されたら、ラルフのせっかくの期待に応えて上げられなくなる。

「先ずは小手調べ」

 ──ドンッ

 ミーシャは西部劇のガンマンのように目にも止まらぬ速さで手をかざし、同時に魔力砲を放った。

『もーらい!』

 アシュタロトは魔力砲を包み込むように手の中に捕縛すると、ミーシャを見てニヤリと笑った。

『ほら、返してあげる♪』

 魔力をこねくり回していたアシュタロトは、前方にかざす様に手を離す。ブワッと先の魔力砲が10本になってミーシャに放たれた。反発し合うかのように上下左右に分かれ、最後は狙った対象に吸い込まれるように放物線を描いて飛んでくる。

(異能の方か?)

 ミーシャはアシュタロトの力を垣間見て推測する。放った魔力砲をただ返すだけではなく、複数本増やして返してきたのだ。十中八九”増幅”とかの能力だろう。
 ミーシャは迫る魔力砲を全て別々の方向に弾く。万が一にもアシュタロトに打ち返せばいくらでも増やされることを懸念してのことだ。

『へぇ、見抜かれちゃったかな?』

 ミーシャが魔力砲全てを弾き、明後日の方向に飛んでいくのを確認してアシュタロトはミーシャの洞察眼に素直に感心した。
 アシュタロトはミーシャに向かって突進する。その速度には眼を見張るものがあった。拳を振り上げ迫ってくる。

 ガキィッ

 受け止めたは良いものの、攻撃力は計り知れない。

「……複合型かっ!?」

 かなり面倒なパターンだ。単なる脳筋なら遊ぶことも出来たかもしれないが、異能を考慮すると途端に攻撃方法が制限される。
 力の神エレクトラのように力のベクトルを逆方向に変えられたら一切の攻撃手段がないし、闇の神イリヤのように攻撃の度に闇に包まれていたら何も出来なくなる。
 この二つに比べたらアシュタロトには触れられる分、それほど苦もなく勝てそうな気もするが現実は思った通りに動いてくれない。
 アシュタロトの能力がハッキリ分からない以上、どうやれば勝てるのかは未知数だ。
 両者譲らない接近戦の中、アシュタロトは口を開いた。

『えっと……今僕を複合型って言ったよね?何と何の複合なの?そういうところハッキリしたい性格なんだよねぇ』

 ミーシャは力を緩めることなく返答する。

「ふんっ……しっかり物理か、異能頼りかって分類よ。どう?スッキリした?」

『あ、そういうこと?ありがとうスッキリしたよ。でもすぐにモヤっともしたよ』

 アシュタロトはミーシャに顔を近づける。

『僕たち神を細分類しようなんて不届きにも程があるでしょ?許せないなぁ』

「あっそ、じゃ矯正してみれば?出来るものならね」

 ミーシャ対アシュタロト。
 どちらも譲れぬ戦いはさらに白熱する。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...