辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜

自ら

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第1章【欲求のままに生きる】

第3話「気持ちいい場所で寝たい」

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村での生活が始まって一週間。
畑は順調だ。
野菜は毎日育ち、村人は喜んでる。
俺の生活も落ち着いてきた。
朝は畑仕事。昼は休憩。夕方まで働いて、夜は早めに寝る。
規則正しい。
悪くない。
でも、一つだけ問題がある。
「……暑い」
小屋の中が、暑い。
昼間は日差しが強くて、小屋の中は蒸し風呂みたいになる。
夜も、熱がこもって寝苦しい。
薄い毛布をかけてても、汗が出る。
壁の隙間から風は入るけど、足りない。
「もっと涼しい場所ないかな」
ぼんやり考える。
気持ちよく寝たい。
それだけだ。

翌日。
畑仕事が一段落ついた午後、村長に聞いてみた。
「村の近くに、涼しい場所とかありませんか?」
「涼しい場所?」
「はい。小屋が暑くて、寝にくいんです」
村長は腕を組んで考えた。
「森の奥なら、木陰で涼しいぞ」
「森ですか」
「ああ。ただし、あまり奥に行くなよ。魔物が出る」
「分かりました。気をつけます」
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫です。ちょっと見てくるだけなんで」
村長は心配そうな顔をしたけど、結局許してくれた。
「無理はするなよ」
「ありがとうございます」

森に入った。
木々が太陽を遮って、確かに涼しい。
風が吹くと、葉っぱがさらさらと揺れる。
鳥の声。虫の音。
静かだ。
村は賑やかになってきた。
子どもの声、笑い声、話し声。
悪くない。
でも、たまには静かな場所がいい。
一人で、ゆっくりしたい。
獣道を進む。
足元には草が生えてる。苔もある。
土が柔らかい。
気持ちいい。
さらに奥へ。
どれくらい歩いただろう。
ふと、足を止めた。
「……ん?」
空気が、変わった。
温かい。
湿ってる。
何かの匂いがする。硫黄の匂いだ。
「まさか」
足を早める。
木々の間を抜けると、
開けた場所に出た。
そこには、
「温泉……?」
湯気が立ち上っている。
地面から、湯が湧いてる。
小さな池みたいになってる。
透明な湯。
底まで見える。
「マジか」
近づいて、手を入れてみる。
温かい。
ちょうどいい温度だ。
熱すぎず、ぬるすぎず。
「最高じゃん」
周りを見渡す。
木々に囲まれてる。人目につかない。
静かで、涼しくて、温泉まである。
「ここだ」
ここで寝たい。
いや、ここに温泉を引きたい。
村まで。

村に戻って、村長に報告した。
「温泉を見つけました」
「温泉?」
「はい。森の奥に」
「本当か?」
村長は驚いた顔をした。
「この辺りに温泉なんて聞いたことないぞ」
「でも、ありました。湯気が出てて、湯も透明で」
「……案内してくれ」

村長と一緒に、森に向かった。
途中、若い男が二人ついてきた。
「俺たちも行きます」
「温泉、見てみたい」
村長は許可した。
「いいだろう。ただし、魔物には気をつけろ」
四人で森を進む。
村長は剣を持ってる。若い男たちも、槍を持ってる。
俺は丸腰だけど、まあいいか。
昨日と同じ道を進む。
「この奥です」
木々を抜けると、
温泉が現れた。
湯気が立ち上ってる。
「これは……」
村長が呟いた。
「本物だ」
若い男たちも、目を丸くしてる。
「すげえ」
「温泉なんて、初めて見た」
村長は湯に手を入れた。
「温かい。しかも、いい湯だ」
「これ、村まで引けませんか?」
「引く?」
「はい。井戸みたいに」
村長は考え込んだ。
「できないことはないが……距離があるな」
「掘ればいいんじゃないですか」
「掘る、か」
村長は周りを見渡した。
「村まで、どれくらいだ?」
「たぶん、一キロくらいです」
「一キロ……」
若い男の一人が言った。
「みんなで掘れば、できるかもしれません」
「そうだな」
村長は頷いた。
「やってみるか」

翌日から、村総出で作業が始まった。
森から村まで、溝を掘る。
男たちは鍬やスコップを持って、土を掘り返す。
女たちは水や食料を運ぶ。
子どもたちも、小さな石を運んでる。
「頑張れー!」
「もうすぐだ!」
みんな、楽しそうだ。
俺も鍬を振るう。
汗が出る。
でも、悪くない。
温泉が村に来る。
そう思うと、やる気が出る。

三日かかった。
溝が、村まで繋がった。
最後の土を掘り終えた瞬間、
湯が流れ始めた。
溝を伝って、ゆっくりと。
湯気が立ち上る。
「来た!」
「温泉だ!」
村人が歓声を上げた。
子どもたちは溝に手を入れて、はしゃいでる。
「温かい!」
「気持ちいい!」
村長は俺の肩を叩いた。
「やったな、アキト」
「みんなのおかげです」
「いや、お前が見つけてくれたんだ」
村長は笑った。
「これで、村に温泉ができた。信じられん」

その日の夜。
村の中央に、簡易の浴場ができた。
溝から引いた湯を、大きな木の桶に溜める。
屋根もつけた。
「さあ、入ってくれ」
村長が言った。
「アキトが最初だ」
「え、俺ですか」
「当然だ。お前が見つけたんだから」
村人が拍手してる。
「どうぞ!」
「ゆっくり入ってください!」
断れる雰囲気じゃない。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
服を脱いで、湯に浸かる。
「あー……」
極楽だ。
温かい。
体中の疲れが溶けていく。
筋肉が緩む。
湯気が顔を包む。
気持ちいい。
「最高……」
目を閉じる。
静かだ。
村人の声も遠くなって。
ただ、湯の音だけが聞こえる。
ちゃぷん、ちゃぷん、と。

しばらくして、湯から上がった。
体がぽかぽかしてる。
村長が笑ってる。
「いい顔してるな」
「最高でした」
「そうか。じゃあ、次は俺たちの番だ」
村長たちが次々と湯に入る。
「うおお、温かい!」
「気持ちいい!」
「こんな幸せ、初めてだ!」
みんな、嬉しそうだ。
俺は小屋に戻った。
体が軽い。
さっぱりしてる。
毛布に包まって、横になる。
「……これだよ、これ」
気持ちよく寝られる。
それだけで、幸せだ。
目を閉じる。
すぐに、眠りが訪れた。

翌朝。
村長が慌てた様子で小屋に来た。
「アキト!大変だ!」
「どうしたんですか?」
「井戸だ。井戸の水が増えてる」
「え?」
外に出る。
村の井戸に向かった。
村人が集まってる。
井戸を覗くと、
水が溢れんばかりに満ちていた。
「こんなに水が出たの、初めてだ」
「昨日までカラカラだったのに」
「奇跡だ」
村長が俺を見た。
「お前が温泉を引いてから、地下水脈が活性化したんだろう」
「そんなことあるんですか?」
「分からん。だが、現実だ」
村人たちは喜んでる。
「これで水不足も解消だ!」
「畑にも水をやれる!」
「神様のおかげだ!」
俺は何も言えなかった。
ただ温泉を引いただけなのに。
「……まあ、結果オーライか」
村長が笑った。
「お前のおかげだ、アキト」
「いえ、俺は気持ちよく寝たかっただけで……」
「それでいいんだ」
村長は空を見上げた。
「お前は自分の欲望に従って生きてる。それが、村を救ってる」
「そんな大げさな……」
「いや、事実だ」
村長は俺の肩を叩いた。
「ありがとう」

その夜。
温泉に浸かった。
一人で。
静かだ。
星が見える。
湯気の向こうに、天の川が広がってる。
「……幸せだな」
呟く。
温かい湯。
満ちた水。
豊かな畑。
すべてが満たされてる。
俺は何もしてない。
ただ、気持ちよく過ごしたかっただけ。
でも、結果的に村が豊かになった。
「不思議なもんだ」
湯から上がって、小屋に戻る。
体が軽い。
心も軽い。
毛布に包まって、目を閉じる。
今日も、いい一日だった。
明日も、きっと。

村は変わり続けていた。
温泉ができ、水が満ち、人々は笑顔を取り戻した。
子どもたちは元気に遊び、畑は緑に輝いてる。
でも、俺は変わらない。
ただ、気持ちよく寝たいだけ。
それだけだ。
これからも、きっと。
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