辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜

自ら

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第2章【日常の安定と広がる噂】

第9話「ユイと過ごす午後」

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グラドが去って三日。村は元の静けさを取り戻していた。
朝、いつものように畑仕事を終えて小屋に戻ると、ユイが待っていた。籠を持って、少し嬉しそうな顔をしている。
「アキトさん、今日お時間ありますか?」
「ああ、別に予定はないけど」
「じゃあ、一緒に森に行きませんか?新しい料理を試したくて、香草を探したいんです」
香草か。確かに森の奥にはいろんな植物が生えている。温泉を探してた時にも見かけた気がする。
「いいよ。案内する」
「本当ですか!ありがとうございます!」
ユイは嬉しそうに笑った。その笑顔を見ると、こっちまで嬉しくなる。不思議だな。

昼過ぎ、二人で森に入った。木々の間を抜けて、獣道を進む。日差しが葉っぱの隙間から差し込んで、地面に模様を作っている。風が吹くたびに、その模様が揺れる。
「気持ちいいですね」とユイが言った。「森の中って、涼しくて」
「そうだね。夏でも、ここは過ごしやすい」
俺が時々昼寝してる場所も、この先だ。木々に囲まれて静かで、風が心地いい。ユイと一緒に歩いてると、いつもより森が明るく感じる気がした。
「あ、これです!」
ユイが立ち止まって、小さな植物を指さした。細い葉っぱに、白い小さな花が咲いている。
「これ、ミントの仲間なんです。スープに入れると、すごく爽やかになるんですよ」
「へえ、そうなんだ」
ユイは丁寧に摘み取って、籠に入れた。それから、また歩き出す。俺はその後をついていく。ユイは時々立ち止まって、植物を見つけては嬉しそうに摘んでいく。その様子を見てると、なんだか微笑ましい。
「アキトさんは、料理に使える植物とか、分かりますか?」
「全然。ユイさんに教えてもらわないと」
「じゃあ、これから教えますね」
ユイは別の植物を指さした。「これはタイムです。肉料理に合います。これはローズマリー。香りが強いので、少しだけ使います」
丁寧に説明してくれる。俺は頷きながら聞いていた。ユイの話を聞くのは、不思議と飽きない。声のトーンも、話し方も、なんだか心地いい。

しばらく森を歩いて、開けた場所に出た。俺の昼寝場所だ。草が生い茂っていて、木々に囲まれている。ここなら誰にも邪魔されない。
「わあ、綺麗な場所ですね」
ユイは目を輝かせた。「ここが、アキトさんの秘密の場所ですか?」
「まあ、そんな感じ」
「素敵です。静かで、風が気持ちよくて」
ユイは草の上に座った。スカートを広げて、膝を抱える。その姿が、なんだか絵になる。俺も隣に座った。
風が吹いて、木々が揺れる。葉っぱのさらさらという音。鳥の声。それだけだ。他には何もない。でも、それがいい。
「アキトさん、ここでよく昼寝するんですか?」とユイが聞いた。
「ああ。静かだし、気持ちいいから」
「いいですね。私も、たまにはこういう場所でゆっくりしたいです」
「じゃあ、また一緒に来ればいい」
「本当ですか?」
「本当」
ユイは嬉しそうに笑った。「ありがとうございます。じゃあ、また来ますね」
二人で並んで座って、しばらく黙っていた。でも、沈黙が気まずいとかそういうのはない。むしろ心地いい。ユイも同じように感じてるのか、リラックスした顔をしている。
「アキトさん」
「ん?」
「最近、楽しいですか?」
「楽しい?」
「はい。村での生活」
少し考える。楽しいかどうか、あまり意識したことがなかった。でも、
「まあ、悪くないかな。美味いもん食えるし、気持ちよく寝られるし」
「それだけですか?」
「それだけ」
ユイは少し笑った。「アキトさんらしいです」
「そう?」
「はい。でも、私は思うんです」とユイは空を見上げた。「アキトさんといると、すごく楽しいです」
「……そう?」
「はい」
ユイは俺を見た。「一緒に料理作ったり、畑仕事したり、こうやって森を歩いたり。全部、楽しいんです」
「俺も、ユイさんといると楽しいよ」
本当だ。一人でいるのも好きだけど、ユイと一緒にいる時間も好きだ。それは間違いない。
「本当ですか?」
「本当」
ユイは顔を赤くした。「嬉しいです。そう言ってもらえると」

それから、また森を歩いた。ユイは香草を探しながら、色々な話をしてくれる。村のこと、料理のこと、子どもの頃のこと。俺は聞き役に回ってたけど、それが心地よかった。
「あ、これも採りたいです」
ユイがしゃがんで、また植物を摘んでいる。その後ろ姿を見ながら、ふと思った。
この時間が、好きだ。
誰かと一緒に歩いて、何気ない話をして、笑い合う。そういう時間が、好きだ。
前は一人が一番だと思ってた。誰にも邪魔されず、自分のペースで生きる。それが幸せだと思ってた。でも、今は違う。誰かと一緒にいる時間も、同じくらい大切だと思えるようになった。
「アキトさん、どうかしましたか?」
ユイが振り返って、首を傾げた。
「いや、何でもない」
「そうですか?」
ユイは立ち上がって、俺の隣に来た。「なんだか、考え事してるみたいでしたけど」
「ちょっとね」
「どんなことですか?」
「……ユイさんのこと」
「え?」
ユイは驚いた顔をした。顔が少し赤くなってる。
「わ、私のこと、ですか?」
「ああ。一緒にいると楽しいなって、思ってた」
「……そう、ですか」
ユイは嬉しそうに笑った。「私も、アキトさんと一緒にいると楽しいです。すごく」
二人で顔を見合わせて、笑った。なんだか照れくさいけど、悪い気分じゃない。

森を出る頃には、夕方になっていた。空がオレンジ色に染まり始めている。ユイの籠は、香草でいっぱいだ。
「たくさん採れましたね」
「はい!これで色々な料理が作れます」
「楽しみだな」
「じゃあ、今日の夕ごはんは私が作りますね」
「いいの?」
「もちろんです」
ユイは笑った。「今日のお礼ですから」
小屋に戻って、ユイは早速料理を始めた。鍋に水を入れ、野菜を切り、香草を加えていく。いい匂いが漂ってくる。さっき森で摘んだばかりの香草の、爽やかな香りだ。
「できました」
ユイが器にスープを注ぐ。湯気が立ち上って、香りが広がる。
「いただきます」
一口飲む。温かくて、野菜の甘みと香草の爽やかさが混ざり合ってる。美味い。すごく美味い。
「美味しいですか?」
「めちゃくちゃ美味い」
「よかった」
ユイも自分のスープを飲んで、満足そうに頷いた。「香草の効果ですね。今日採ったばかりだから、香りが強いんです」
二人で並んで、スープを飲む。外では夕焼けが綺麗だ。窓から見える空が、オレンジからピンク、そして紫へと変わっていく。
「アキトさん」
「ん?」
「今日、本当に楽しかったです」
ユイは嬉しそうに笑った。「一緒に森を歩いて、香草を採って、料理して。こういう時間が、私は一番好きです」
「俺も好きだよ。こういう時間」
「……また、一緒に行ってくれますか?」
「もちろん」
「約束ですよ」
「約束」
ユイは嬉しそうに頷いた。それから、また二人でスープを飲んだ。静かで、温かい時間。こういう時間が、ずっと続けばいい。そう思った。

ユイが帰った後、一人で星空を見上げた。満天の星。天の川がくっきり見える。
「いい一日だったな」
呟く。森を歩いて、香草を採って、ユイと話して、一緒に料理を食べた。特別なことは何もない。でも、それが良かった。
一人でいる時間も好きだ。でも、ユイと一緒にいる時間も好きだ。どっちも、自分にとって大切な時間なんだと気づいた。
「また明日も、来てくれるかな」
そんなことを考えながら、小屋に戻る。毛布に包まって、目を閉じる。心が温かい。ユイと過ごした時間の余韻が、まだ残ってる。
こういう日々が、ずっと続けばいい。そう思いながら、眠りについた。
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