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第5章【静かな事件】
第21話「静かな日常の終わり」
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魔物を懐柔してから一週間が経った頃、村に奇妙な静けさが訪れていた。いつもなら朝から巡礼者で賑わっているはずの広場が、妙に人が少ない。村長も首を傾げている様子だったが、俺はむしろホッとしていた。静かな方がいい。ゆっくり過ごせる。
朝、いつものように畑仕事を終えて小屋に戻ると、ユイが心配そうな顔で待っていた。籠を持っているけど、いつもの笑顔がない。
「おはようございます、アキトさん。あの、少しお話しいいですか?」
「おはよう。どうしたの?何か心配事?」
「はい……実は、村人の何人かが体調を崩しているんです」
とユイは眉をひそめた。
「熱が出て、だるそうにしていて。最初は一人だけだったんですけど、今朝になって三人に増えて」
「病気かな」
「かもしれません。でも、原因が分からなくて」
ユイの心配そうな顔を見て、俺も少し不安になった。病気は厄介だ。広がれば、村全体が大変なことになる。村長のところに行って、話を聞いてみることにした。
村長の家に着くと、中では医者のマルクが村長と話し込んでいた。二人とも深刻な顔をしている。俺が入ると、村長が顔を上げた。
「アキト、ちょうどよかった」
「体調不良の人が出てるって聞きました」
「ああ。今朝の時点で五人になった」
と村長は疲れた顔をした。
「マルクに診てもらったが、原因が分からないらしい」
医者のマルクは腕を組んで考え込んでいた。
「症状は熱と倦怠感。魔力の流れも乱れているようだが、毒でも病気でもない。今まで見たことがない症状だ」
「魔力の流れが乱れてる?」
「ああ。まるで、何かに吸い取られているような感じだ」
マルクの言葉に、俺は嫌な予感がした。魔力を吸い取る、か。何かが、村の魔力を奪っているのかもしれない。
「村の畑や温泉は、異常ありませんか?」
と俺は聞いた。
「今のところは大丈夫だ」
と村長が答えた。
「でも、このままでは心配だ」
その時、扉が勢いよく開いた。セシルとリズが駆け込んできた。二人とも息を切らしている。
「アキト様、大変です!」
とセシルが叫んだ。
「師匠、花畑が!」
とリズが続けた。
「花畑?」
「枯れ始めてます。急に」
セシルの言葉に、全員が顔を見合わせた。花畑が枯れる?あの、いつも綺麗に咲いていた花畑が?嫌な予感が確信に変わった。何かが起きている。村に、何かが起きている。
すぐに花畑に向かった。村長、マルク、ユイ、セシル、リズ、そして俺。六人で駆けつけると、本当に花が枯れ始めていた。昨日まで咲き誇っていた白い花が、茶色く変色している。まるで、生気を吸い取られたように。
「これは……」
と村長が呟いた。
「魔力が枯渇している」
とマルクが言った。
「土地の魔力が、急速に失われている」
「なんでこんなことに」
俺は花に触れた。冷たい。生命の温かみがない。まるで、死んでいるみたいだ。
「アキト様、これは一体……」
とセシルが不安そうに聞いた。
「分からない。でも、何かが村の魔力を奪ってる」
その時、村の入口の方から悲鳴が聞こえた。女性の声だ。みんなで駆けつけると、村人が一人倒れていた。気を失っている。顔色が悪い。まるで、生気が抜けたような顔だ。
「また一人……」
と村長が呟いた。
マルクがすぐに診察する。脈を取って、目を見て、それから首を横に振った。
「同じ症状だ。魔力が奪われている」
「どうすればいいんだ」
と村長が俺を見た。
「アキト、お前なら何か分かるか?」
俺は考えた。魔力を奪う何か。村全体から、じわじわと魔力を吸い取っている。それは、どこにいる?何をしている?
「森を調べてみます」
と俺は言った。
「魔力を奪ってるものが、森に隠れてるかもしれない」
「危険じゃないのか?」
「分かりません。でも、このままじゃもっと危険です」
村長は少し考えてから、頷いた。
「分かった。だが、無理はするな」
「俺も行く」
とリズが言った。
「私もです」
とセシルが続けた。
「私も一緒に行きます」
とユイが頷いた。
三人とも、譲らない。俺は少し迷ったけど、結局許可した。一人より、四人の方が安心だ。
「分かった。じゃあ、行こう」
四人で森に向かった。昼過ぎの森は薄暗くて、いつもより静かだった。鳥の声も聞こえない。虫の音もしない。まるで、森全体が息を潜めているみたいだ。
「気味悪いな」
とリズが呟いた。
「魔力の流れが、乱れています」
とセシルが言った。
「まるで、何かに引っ張られているような……」
ユイは俺の袖を掴んでいる。怖いんだろう。俺も正直、怖い。でも、引き返すわけにはいかない。
森の奥に進むと、開けた場所に出た。そこに、見たことのない植物が生えていた。大きな花だ。黒い花びらで、真ん中が赤く光っている。まるで、目玉みたいだ。不気味だ。
「これは……」
とセシルが息を飲んだ。
「魔喰花だ」
とリズが言った。
「魔力を吸い取る植物。冒険者の時、一度だけ見たことがある」
「魔力を吸い取る?」
「ああ。周囲の魔力を全部吸い取って、枯らす。放っておけば、森全体が死ぬ」
リズの言葉に、全員が顔を見合わせた。これが原因か。この花が、村の魔力を奪っていたのか。
「どうすればいいの?」
とユイが聞いた。
「根を断つしかない。でも、近づくと魔力を吸い取られる」
とリズが言った。
「普通の人間なら、近づいただけで倒れる」
「じゃあ、どうやって……」
その時、花が動いた。まるで、俺たちに気づいたように。黒い花びらが揺れて、赤い中心が俺たちを見つめている。
「やばい、気づかれた!」
とリズが叫んだ。
花から、黒い霧が噴き出した。魔力を吸い取る霧だ。あれに触れたら、倒れる。みんな後ろに下がる。でも、霧は追いかけてくる。
「アキト様、危ない!」
とセシルが叫んだ。
俺は咄嗟に手を前に突き出した。何かしなきゃ。でも、何ができる?俺には魔法も使えない。戦う力もない。でも、
「やめろ!」
叫んだ。ただ、それだけ。でも、その瞬間、黒い霧が止まった。まるで、目に見えない壁にぶつかったように。霧は俺たちの手前で停止して、それから消えていった。
「え……」
とユイが呆然としている。
「師匠、今の……」
とリズが驚いた顔をしている。
「奇跡です」
とセシルが呟いた。
俺も驚いていた。何が起きたんだ?俺、何かしたのか?でも、考えている暇はない。花が、また動き始めた。今度はもっと大きな霧を出そうとしている。
「もう一度!」
とリズが叫んだ。
俺は深呼吸した。落ち着け。さっきと同じように。それから、花に向かって手を伸ばした。
「頼むから、静かにしてくれ。村を、みんなを傷つけないでくれ」
その瞬間、花が震えた。黒い霧が消えていく。花びらが閉じていく。まるで、眠りにつくように。やがて、花は完全に動かなくなった。赤い光も消えた。
「……終わった?」
とユイが小声で聞いた。
「みたいだね」
四人で花に近づく。もう、魔力を吸い取る気配はない。ただの植物だ。でも、念のため根を掘り起こして、村から遠くに運ぶことにした。二度と村を脅かさないように。
作業を終えて村に戻ると、すでに夕方になっていた。村長に報告すると、安堵の顔をされた。
「よくやってくれた、アキト」
「いえ、みんなのおかげです」
「それにしても、お前はまた戦わずに解決したな」と村長は笑った。「お前らしい」
倒れていた村人たちも、少しずつ回復し始めていた。顔色が戻ってきている。花畑も、また咲き始めるだろう。村は、また平和になる。
その夜、四人で小屋の前に座っていた。疲れたけど、無事に終わって良かった。星が綺麗だ。いつもの星空。変わらない、静かな夜。
「今日は、大変でしたね」
とユイが言った。
「ああ。でも、師匠がいてくれて助かった」
とリズが笑った。
「アキト様の力は、やはり特別です」
とセシルが言った。
「力なんてないよ。ただ、頼んだだけ」
「でも、花は止まりました」
とセシルが続けた。
「それは、アキト様の力です」
俺は何も言えなかった。本当に、何が起きたのか分からない。ただ、花に頼んだら、止まった。それだけだ。
「まあ、何はともあれ、村は無事だ」
とリズが言った。
「それでいいだろ」
「そうですね」
とユイが微笑んだ。
四人で星を見上げる。静かで、穏やかな時間。でも、どこか不安も残っている。また、何か起きるんじゃないか。この平和は、いつまで続くんだろう。
でも、今はみんながいる。それだけで、十分だ。明日のことは、明日考えればいい。
そう思いながら、俺は星を見続けた。
朝、いつものように畑仕事を終えて小屋に戻ると、ユイが心配そうな顔で待っていた。籠を持っているけど、いつもの笑顔がない。
「おはようございます、アキトさん。あの、少しお話しいいですか?」
「おはよう。どうしたの?何か心配事?」
「はい……実は、村人の何人かが体調を崩しているんです」
とユイは眉をひそめた。
「熱が出て、だるそうにしていて。最初は一人だけだったんですけど、今朝になって三人に増えて」
「病気かな」
「かもしれません。でも、原因が分からなくて」
ユイの心配そうな顔を見て、俺も少し不安になった。病気は厄介だ。広がれば、村全体が大変なことになる。村長のところに行って、話を聞いてみることにした。
村長の家に着くと、中では医者のマルクが村長と話し込んでいた。二人とも深刻な顔をしている。俺が入ると、村長が顔を上げた。
「アキト、ちょうどよかった」
「体調不良の人が出てるって聞きました」
「ああ。今朝の時点で五人になった」
と村長は疲れた顔をした。
「マルクに診てもらったが、原因が分からないらしい」
医者のマルクは腕を組んで考え込んでいた。
「症状は熱と倦怠感。魔力の流れも乱れているようだが、毒でも病気でもない。今まで見たことがない症状だ」
「魔力の流れが乱れてる?」
「ああ。まるで、何かに吸い取られているような感じだ」
マルクの言葉に、俺は嫌な予感がした。魔力を吸い取る、か。何かが、村の魔力を奪っているのかもしれない。
「村の畑や温泉は、異常ありませんか?」
と俺は聞いた。
「今のところは大丈夫だ」
と村長が答えた。
「でも、このままでは心配だ」
その時、扉が勢いよく開いた。セシルとリズが駆け込んできた。二人とも息を切らしている。
「アキト様、大変です!」
とセシルが叫んだ。
「師匠、花畑が!」
とリズが続けた。
「花畑?」
「枯れ始めてます。急に」
セシルの言葉に、全員が顔を見合わせた。花畑が枯れる?あの、いつも綺麗に咲いていた花畑が?嫌な予感が確信に変わった。何かが起きている。村に、何かが起きている。
すぐに花畑に向かった。村長、マルク、ユイ、セシル、リズ、そして俺。六人で駆けつけると、本当に花が枯れ始めていた。昨日まで咲き誇っていた白い花が、茶色く変色している。まるで、生気を吸い取られたように。
「これは……」
と村長が呟いた。
「魔力が枯渇している」
とマルクが言った。
「土地の魔力が、急速に失われている」
「なんでこんなことに」
俺は花に触れた。冷たい。生命の温かみがない。まるで、死んでいるみたいだ。
「アキト様、これは一体……」
とセシルが不安そうに聞いた。
「分からない。でも、何かが村の魔力を奪ってる」
その時、村の入口の方から悲鳴が聞こえた。女性の声だ。みんなで駆けつけると、村人が一人倒れていた。気を失っている。顔色が悪い。まるで、生気が抜けたような顔だ。
「また一人……」
と村長が呟いた。
マルクがすぐに診察する。脈を取って、目を見て、それから首を横に振った。
「同じ症状だ。魔力が奪われている」
「どうすればいいんだ」
と村長が俺を見た。
「アキト、お前なら何か分かるか?」
俺は考えた。魔力を奪う何か。村全体から、じわじわと魔力を吸い取っている。それは、どこにいる?何をしている?
「森を調べてみます」
と俺は言った。
「魔力を奪ってるものが、森に隠れてるかもしれない」
「危険じゃないのか?」
「分かりません。でも、このままじゃもっと危険です」
村長は少し考えてから、頷いた。
「分かった。だが、無理はするな」
「俺も行く」
とリズが言った。
「私もです」
とセシルが続けた。
「私も一緒に行きます」
とユイが頷いた。
三人とも、譲らない。俺は少し迷ったけど、結局許可した。一人より、四人の方が安心だ。
「分かった。じゃあ、行こう」
四人で森に向かった。昼過ぎの森は薄暗くて、いつもより静かだった。鳥の声も聞こえない。虫の音もしない。まるで、森全体が息を潜めているみたいだ。
「気味悪いな」
とリズが呟いた。
「魔力の流れが、乱れています」
とセシルが言った。
「まるで、何かに引っ張られているような……」
ユイは俺の袖を掴んでいる。怖いんだろう。俺も正直、怖い。でも、引き返すわけにはいかない。
森の奥に進むと、開けた場所に出た。そこに、見たことのない植物が生えていた。大きな花だ。黒い花びらで、真ん中が赤く光っている。まるで、目玉みたいだ。不気味だ。
「これは……」
とセシルが息を飲んだ。
「魔喰花だ」
とリズが言った。
「魔力を吸い取る植物。冒険者の時、一度だけ見たことがある」
「魔力を吸い取る?」
「ああ。周囲の魔力を全部吸い取って、枯らす。放っておけば、森全体が死ぬ」
リズの言葉に、全員が顔を見合わせた。これが原因か。この花が、村の魔力を奪っていたのか。
「どうすればいいの?」
とユイが聞いた。
「根を断つしかない。でも、近づくと魔力を吸い取られる」
とリズが言った。
「普通の人間なら、近づいただけで倒れる」
「じゃあ、どうやって……」
その時、花が動いた。まるで、俺たちに気づいたように。黒い花びらが揺れて、赤い中心が俺たちを見つめている。
「やばい、気づかれた!」
とリズが叫んだ。
花から、黒い霧が噴き出した。魔力を吸い取る霧だ。あれに触れたら、倒れる。みんな後ろに下がる。でも、霧は追いかけてくる。
「アキト様、危ない!」
とセシルが叫んだ。
俺は咄嗟に手を前に突き出した。何かしなきゃ。でも、何ができる?俺には魔法も使えない。戦う力もない。でも、
「やめろ!」
叫んだ。ただ、それだけ。でも、その瞬間、黒い霧が止まった。まるで、目に見えない壁にぶつかったように。霧は俺たちの手前で停止して、それから消えていった。
「え……」
とユイが呆然としている。
「師匠、今の……」
とリズが驚いた顔をしている。
「奇跡です」
とセシルが呟いた。
俺も驚いていた。何が起きたんだ?俺、何かしたのか?でも、考えている暇はない。花が、また動き始めた。今度はもっと大きな霧を出そうとしている。
「もう一度!」
とリズが叫んだ。
俺は深呼吸した。落ち着け。さっきと同じように。それから、花に向かって手を伸ばした。
「頼むから、静かにしてくれ。村を、みんなを傷つけないでくれ」
その瞬間、花が震えた。黒い霧が消えていく。花びらが閉じていく。まるで、眠りにつくように。やがて、花は完全に動かなくなった。赤い光も消えた。
「……終わった?」
とユイが小声で聞いた。
「みたいだね」
四人で花に近づく。もう、魔力を吸い取る気配はない。ただの植物だ。でも、念のため根を掘り起こして、村から遠くに運ぶことにした。二度と村を脅かさないように。
作業を終えて村に戻ると、すでに夕方になっていた。村長に報告すると、安堵の顔をされた。
「よくやってくれた、アキト」
「いえ、みんなのおかげです」
「それにしても、お前はまた戦わずに解決したな」と村長は笑った。「お前らしい」
倒れていた村人たちも、少しずつ回復し始めていた。顔色が戻ってきている。花畑も、また咲き始めるだろう。村は、また平和になる。
その夜、四人で小屋の前に座っていた。疲れたけど、無事に終わって良かった。星が綺麗だ。いつもの星空。変わらない、静かな夜。
「今日は、大変でしたね」
とユイが言った。
「ああ。でも、師匠がいてくれて助かった」
とリズが笑った。
「アキト様の力は、やはり特別です」
とセシルが言った。
「力なんてないよ。ただ、頼んだだけ」
「でも、花は止まりました」
とセシルが続けた。
「それは、アキト様の力です」
俺は何も言えなかった。本当に、何が起きたのか分からない。ただ、花に頼んだら、止まった。それだけだ。
「まあ、何はともあれ、村は無事だ」
とリズが言った。
「それでいいだろ」
「そうですね」
とユイが微笑んだ。
四人で星を見上げる。静かで、穏やかな時間。でも、どこか不安も残っている。また、何か起きるんじゃないか。この平和は、いつまで続くんだろう。
でも、今はみんながいる。それだけで、十分だ。明日のことは、明日考えればいい。
そう思いながら、俺は星を見続けた。
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◇
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