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第5章【静かな事件】
第22話「商人の持ち込んだ騒動」
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魔喰花の騒動から三日。村はようやく落ち着きを取り戻していた。朝、いつものように畑に水をやっていると、見覚えのある馬車が村の入口に停まった。派手な装飾の馬車。あれは、グラドのものだ。久しぶりだな、と思いながら作業を続けていると、グラドが大きな声で叫びながら駆けてきた。
「アキト殿!お久しぶりです!」
「ああ、グラドさん。元気そうだね」
「元気もなにも、大変なんですよ!」
グラドは息を切らしながら、俺の肩を掴んだ。その顔は興奮と焦りが混ざったような表情だ。
「王都から、貴族が来ます!」
「貴族?」
「はい!それも、かなりの地位の方が!」
グラドは手を振り回しながら説明した。「あなたの噂を聞いて、どうしても会いたいと。三日後に到着する予定です」
「三日後……」
俺はため息をついた。また面倒なことになった。貴族が来るということは、村も準備をしなきゃいけない。村長も大変だろう。そして何より、俺がまた注目される。めんどくさい。
「ねえ、グラドさん。断れない?」
「無理です!もう出発されてます!」
グラドは慌てた顔をした。「それに、断ったら失礼にあたります。相手は貴族ですから」
「……はぁ」
深いため息をついた。仕方ない。来るものは来る。受け入れるしかない。でも、できれば普通に接したい。特別扱いは勘弁してほしい。
グラドは村長のところに向かっていった。俺は畑仕事を続けながら、頭の中で考えた。貴族、か。どんな人なんだろう。傲慢な人じゃなければいいけど。そう思いながら、人参に水をやっていると、ユイが駆けてきた。
「アキトさん、大変です!貴族が来るって!」
「聞いた。グラドさんから」
「村中、大騒ぎです。みんな、準備に追われてます」
ユイは困った顔をしている。
「私も、料理の準備をしなきゃいけなくて」
「大変だね」
「はい。でも……」
ユイは俺を見た。
「アキトさん、大丈夫ですか?」
「何が?」
「その……また、色々言われるんじゃないかって」
ユイは心配そうだ。そういえば、前に巡礼者が増えた時も、ユイは気遣ってくれた。いつも、俺のことを考えてくれる。
「大丈夫だよ。慣れたから」
「でも……」
「ユイさんがいてくれるから、大丈夫」
俺は笑顔を作った。ユイは少し安心したような顔をして、頷いた。
「分かりました。でも、何かあったらすぐに言ってくださいね」
「うん、ありがとう」
ユイは村の方に戻っていった。俺は畑仕事を続ける。でも、心は落ち着かなかった。三日後、か。あっという間だな。
その日の午後、村長が小屋にやってきた。疲れた顔をしている。
「アキト、少しいいか」
「どうぞ」
村長は椅子に座って、深呼吸した。
「貴族の件だが、村としてもできる限りの準備をする」
「はい」
「ただ、一つ頼みがある」
「何ですか?」
「普通にしていてくれ」
「え?」
村長は真剣な顔をした。
「お前が無理に取り繕う必要はない。いつも通りでいい」
「……いいんですか?」
「ああ。お前はお前のままでいてくれ。それが一番だ」
村長は笑った。「お前が無理すると、かえって変なことになる」
「それは……そうかもしれませんね」
二人で笑った。村長は優しい人だ。いつも、俺のことを考えてくれる。
「分かりました。じゃあ、いつも通りにします」
「頼んだぞ」
村長は満足そうに頷いて、帰っていった。俺は一人、考えた。いつも通り、か。それが一番難しい気もするけど、まあやってみよう。
三日後の朝、貴族が到着した。立派な馬車が三台、村の入口に停まった。護衛の騎士も数人いる。馬車から降りてきたのは、三十代くらいの男性だった。金髪で、整った顔立ち。服装も立派だ。いかにも貴族という感じだ。
村長が出迎えて、丁寧に挨拶している。俺は少し離れたところから見ていた。できれば目立ちたくない。でも、貴族の視線がこっちに向いた。
「あの方が、アキト殿ですか?」
「はい。アキトです」
村長が俺を紹介した。俺は仕方なく前に出て、頭を下げた。
「初めまして。アキトです」
「初めまして。私はエドワードと申します」
貴族、エドワードは丁寧に挨拶した。思ったより、感じがいい。傲慢な感じはしない。
「あなたの噂は、王都でも有名です」
「そうなんですか」
「ええ。奇跡を起こす聖人、と」
エドワードは俺をじっと見た。
「しかし、お会いしてみると……普通の方ですね」
「普通ですよ」
「いえ、それが素晴らしい」
エドワードは微笑んだ。
「普通でありながら、奇跡を起こす。それこそが真の聖人なのでしょう」
また、そのパターンか。何を言っても、結局そうなる。俺は諦めて、苦笑した。
「とにかく、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
エドワードは村を見回した。
「素晴らしい村ですね。緑が豊かで、人々も幸せそうだ」
「はい。いい村です」
「ぜひ、案内していただけますか?」
「分かりました」
俺はエドワードを村の中に案内した。畑、温泉、花畑。エドワードは一つ一つを丁寧に見て、感心していた。
「この畑、本当に一晩で育つのですか?」
「最初はそうでしたけど、今は普通です」
「普通……」
エドワードは人参を触った。
「しかし、この艶。この大きさ。普通ではありませんよ」
「そうですか」
「ええ。王都の市場でも、これほどの野菜は見たことがありません」
エドワードは俺を見た。
「あなたは、本当に何か特別なことをしているのでは?」
「してないです。種蒔いて、水やってるだけです」
「それだけで……」
エドワードは考え込んだ。それから、笑った。
「やはり、あなたは特別な方だ」
次に温泉に案内した。湯気が立ち上っていて、いい匂いがする。エドワードは温泉を見て、目を輝かせた。
「これが、噂の温泉……」
「はい。入りますか?」
「よろしいのですか?」
「もちろん」
エドワードは護衛に指示を出して、温泉に入った。俺も一緒に入る。湯が温かくて、気持ちいい。エドワードは目を閉じて、深呼吸した。
「……素晴らしい」
「そうでしょう」
「これほど気持ちのいい温泉、初めてです」
エドワードは満足そうに笑った。
「心が洗われるようだ」
しばらく、二人で黙って湯に浸かっていた。静かで、穏やかな時間。エドワードは、思ったより普通の人だった。話しやすい。
「アキト殿」
「はい」
「一つ、お聞きしてもよろしいですか」
「どうぞ」
「あなたは、なぜこの村にいるのですか?」
エドワードは真剣な顔をした。
「王都に来れば、もっと良い生活ができるでしょう。地位も、富も、すべて手に入ります」
「いらないです」
「いらない?」
「はい。ここで十分です」
俺は空を見上げた。
「美味しいもの食べて、気持ちよく寝られる。大切な人たちがいる。それだけで、幸せです」
エドワードは黙っていた。それから、小さく笑った。
「なるほど。だから、あなたは特別なのですね」
「特別じゃないですよ」
「いいえ、特別です」
エドワードは真剣な顔をした。
「普通の人は、もっと欲しがります。地位、富、名声。でも、あなたは違う」
「……」
「あなたは、本当に大切なものが何か、分かっている」
エドワードは湯から上がった。
「素晴らしい方だ。会えて良かった」
温泉を出て、村を歩いていると、ユイ、セシル、リズが待っていた。三人とも、少し緊張した顔をしている。
「アキト様」
とセシルが言った。
「師匠」
とリズが続けた。
「アキトさん」
とユイが微笑んだ。
エドワードは三人を見て、納得したような顔をした。
「この方たちが、あなたの大切な人たちですか」
「はい」
「素晴らしい」
エドワードは三人に丁寧に挨拶した。
「アキト殿をよろしくお願いします」
三人は戸惑った顔をしていたけど、頷いた。
昼過ぎ、俺はエドワードを森の昼寝場所に案内した。木々に囲まれた静かな場所。草がふかふかで、風が心地いい。
「ここが、あなたの昼寝場所ですか」
「はい。静かで、気持ちいいんです」
「確かに……」
エドワードは草の上に座った。
「素晴らしい場所ですね」
「でしょう」
俺も隣に座る。風が吹いて、葉っぱが揺れる。鳥が鳴いている。静かで、穏やかだ。
「一緒に昼寝しませんか?」
「え?」
「気持ちいいですよ」
エドワードは少し戸惑った。でも、すぐに笑った。
「分かりました」
二人で草の上に横になった。空が見える。青い空。白い雲。風が吹いて、心地いい。エドワードは目を閉じた。
「……素晴らしい」
小さく呟いた。俺も目を閉じる。静かだ。何も考えなくていい。ただ、ここにいるだけでいい。
しばらくして、エドワードの声が聞こえた。
「アキト殿、ありがとうございます」
「何が?」
「こんな時間をくださって」
エドワードは目を開けた。涙が流れている。
「私、ずっと忙しくて。休む時間もなくて」
「……」
「でも、ここに来て、あなたと過ごして。初めて、心から休めました」
エドワードは笑った。
「これが、幸せなんですね」
「そうですよ」
俺も笑った。エドワードは、いい人だ。疲れてたんだろう。少しでも休めたなら、良かった。
夕方、エドワードは村を出発した。名残惜しそうに、何度も振り返っている。
「また来てもいいですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます」
エドワードは深々と頭を下げた。それから、馬車に乗り込んで去っていった。村は、また静かになった。
その夜、四人で小屋の前に座っていた。星が綺麗だ。エドワードのことを思い出す。いい人だった。疲れてたけど、少し休めたみたいだ。
「今日は、大変でしたね」
とユイが言った。
「ああ。でも、いい人だった」
とリズが頷いた。
「はい。優しい方でした」
とセシルが微笑んだ。
「うん。また来てくれるといいな」
と俺は言った。
三人は笑った。それから、また星を見上げる。静かで、穏やかな時間。こういう時間が、一番好きだ。
「やっと、静かになったね」
と俺は呟いた。
「そうですね」
とユイが微笑んだ。
「また賑やかになりますよ、きっと」
とセシルが笑った。
「だろうな」
とリズが言った。
でも、それでもいい。賑やかでも、静かでも。みんながいてくれれば、それでいい。そう思いながら、俺は星を見続けた。
「アキト殿!お久しぶりです!」
「ああ、グラドさん。元気そうだね」
「元気もなにも、大変なんですよ!」
グラドは息を切らしながら、俺の肩を掴んだ。その顔は興奮と焦りが混ざったような表情だ。
「王都から、貴族が来ます!」
「貴族?」
「はい!それも、かなりの地位の方が!」
グラドは手を振り回しながら説明した。「あなたの噂を聞いて、どうしても会いたいと。三日後に到着する予定です」
「三日後……」
俺はため息をついた。また面倒なことになった。貴族が来るということは、村も準備をしなきゃいけない。村長も大変だろう。そして何より、俺がまた注目される。めんどくさい。
「ねえ、グラドさん。断れない?」
「無理です!もう出発されてます!」
グラドは慌てた顔をした。「それに、断ったら失礼にあたります。相手は貴族ですから」
「……はぁ」
深いため息をついた。仕方ない。来るものは来る。受け入れるしかない。でも、できれば普通に接したい。特別扱いは勘弁してほしい。
グラドは村長のところに向かっていった。俺は畑仕事を続けながら、頭の中で考えた。貴族、か。どんな人なんだろう。傲慢な人じゃなければいいけど。そう思いながら、人参に水をやっていると、ユイが駆けてきた。
「アキトさん、大変です!貴族が来るって!」
「聞いた。グラドさんから」
「村中、大騒ぎです。みんな、準備に追われてます」
ユイは困った顔をしている。
「私も、料理の準備をしなきゃいけなくて」
「大変だね」
「はい。でも……」
ユイは俺を見た。
「アキトさん、大丈夫ですか?」
「何が?」
「その……また、色々言われるんじゃないかって」
ユイは心配そうだ。そういえば、前に巡礼者が増えた時も、ユイは気遣ってくれた。いつも、俺のことを考えてくれる。
「大丈夫だよ。慣れたから」
「でも……」
「ユイさんがいてくれるから、大丈夫」
俺は笑顔を作った。ユイは少し安心したような顔をして、頷いた。
「分かりました。でも、何かあったらすぐに言ってくださいね」
「うん、ありがとう」
ユイは村の方に戻っていった。俺は畑仕事を続ける。でも、心は落ち着かなかった。三日後、か。あっという間だな。
その日の午後、村長が小屋にやってきた。疲れた顔をしている。
「アキト、少しいいか」
「どうぞ」
村長は椅子に座って、深呼吸した。
「貴族の件だが、村としてもできる限りの準備をする」
「はい」
「ただ、一つ頼みがある」
「何ですか?」
「普通にしていてくれ」
「え?」
村長は真剣な顔をした。
「お前が無理に取り繕う必要はない。いつも通りでいい」
「……いいんですか?」
「ああ。お前はお前のままでいてくれ。それが一番だ」
村長は笑った。「お前が無理すると、かえって変なことになる」
「それは……そうかもしれませんね」
二人で笑った。村長は優しい人だ。いつも、俺のことを考えてくれる。
「分かりました。じゃあ、いつも通りにします」
「頼んだぞ」
村長は満足そうに頷いて、帰っていった。俺は一人、考えた。いつも通り、か。それが一番難しい気もするけど、まあやってみよう。
三日後の朝、貴族が到着した。立派な馬車が三台、村の入口に停まった。護衛の騎士も数人いる。馬車から降りてきたのは、三十代くらいの男性だった。金髪で、整った顔立ち。服装も立派だ。いかにも貴族という感じだ。
村長が出迎えて、丁寧に挨拶している。俺は少し離れたところから見ていた。できれば目立ちたくない。でも、貴族の視線がこっちに向いた。
「あの方が、アキト殿ですか?」
「はい。アキトです」
村長が俺を紹介した。俺は仕方なく前に出て、頭を下げた。
「初めまして。アキトです」
「初めまして。私はエドワードと申します」
貴族、エドワードは丁寧に挨拶した。思ったより、感じがいい。傲慢な感じはしない。
「あなたの噂は、王都でも有名です」
「そうなんですか」
「ええ。奇跡を起こす聖人、と」
エドワードは俺をじっと見た。
「しかし、お会いしてみると……普通の方ですね」
「普通ですよ」
「いえ、それが素晴らしい」
エドワードは微笑んだ。
「普通でありながら、奇跡を起こす。それこそが真の聖人なのでしょう」
また、そのパターンか。何を言っても、結局そうなる。俺は諦めて、苦笑した。
「とにかく、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
エドワードは村を見回した。
「素晴らしい村ですね。緑が豊かで、人々も幸せそうだ」
「はい。いい村です」
「ぜひ、案内していただけますか?」
「分かりました」
俺はエドワードを村の中に案内した。畑、温泉、花畑。エドワードは一つ一つを丁寧に見て、感心していた。
「この畑、本当に一晩で育つのですか?」
「最初はそうでしたけど、今は普通です」
「普通……」
エドワードは人参を触った。
「しかし、この艶。この大きさ。普通ではありませんよ」
「そうですか」
「ええ。王都の市場でも、これほどの野菜は見たことがありません」
エドワードは俺を見た。
「あなたは、本当に何か特別なことをしているのでは?」
「してないです。種蒔いて、水やってるだけです」
「それだけで……」
エドワードは考え込んだ。それから、笑った。
「やはり、あなたは特別な方だ」
次に温泉に案内した。湯気が立ち上っていて、いい匂いがする。エドワードは温泉を見て、目を輝かせた。
「これが、噂の温泉……」
「はい。入りますか?」
「よろしいのですか?」
「もちろん」
エドワードは護衛に指示を出して、温泉に入った。俺も一緒に入る。湯が温かくて、気持ちいい。エドワードは目を閉じて、深呼吸した。
「……素晴らしい」
「そうでしょう」
「これほど気持ちのいい温泉、初めてです」
エドワードは満足そうに笑った。
「心が洗われるようだ」
しばらく、二人で黙って湯に浸かっていた。静かで、穏やかな時間。エドワードは、思ったより普通の人だった。話しやすい。
「アキト殿」
「はい」
「一つ、お聞きしてもよろしいですか」
「どうぞ」
「あなたは、なぜこの村にいるのですか?」
エドワードは真剣な顔をした。
「王都に来れば、もっと良い生活ができるでしょう。地位も、富も、すべて手に入ります」
「いらないです」
「いらない?」
「はい。ここで十分です」
俺は空を見上げた。
「美味しいもの食べて、気持ちよく寝られる。大切な人たちがいる。それだけで、幸せです」
エドワードは黙っていた。それから、小さく笑った。
「なるほど。だから、あなたは特別なのですね」
「特別じゃないですよ」
「いいえ、特別です」
エドワードは真剣な顔をした。
「普通の人は、もっと欲しがります。地位、富、名声。でも、あなたは違う」
「……」
「あなたは、本当に大切なものが何か、分かっている」
エドワードは湯から上がった。
「素晴らしい方だ。会えて良かった」
温泉を出て、村を歩いていると、ユイ、セシル、リズが待っていた。三人とも、少し緊張した顔をしている。
「アキト様」
とセシルが言った。
「師匠」
とリズが続けた。
「アキトさん」
とユイが微笑んだ。
エドワードは三人を見て、納得したような顔をした。
「この方たちが、あなたの大切な人たちですか」
「はい」
「素晴らしい」
エドワードは三人に丁寧に挨拶した。
「アキト殿をよろしくお願いします」
三人は戸惑った顔をしていたけど、頷いた。
昼過ぎ、俺はエドワードを森の昼寝場所に案内した。木々に囲まれた静かな場所。草がふかふかで、風が心地いい。
「ここが、あなたの昼寝場所ですか」
「はい。静かで、気持ちいいんです」
「確かに……」
エドワードは草の上に座った。
「素晴らしい場所ですね」
「でしょう」
俺も隣に座る。風が吹いて、葉っぱが揺れる。鳥が鳴いている。静かで、穏やかだ。
「一緒に昼寝しませんか?」
「え?」
「気持ちいいですよ」
エドワードは少し戸惑った。でも、すぐに笑った。
「分かりました」
二人で草の上に横になった。空が見える。青い空。白い雲。風が吹いて、心地いい。エドワードは目を閉じた。
「……素晴らしい」
小さく呟いた。俺も目を閉じる。静かだ。何も考えなくていい。ただ、ここにいるだけでいい。
しばらくして、エドワードの声が聞こえた。
「アキト殿、ありがとうございます」
「何が?」
「こんな時間をくださって」
エドワードは目を開けた。涙が流れている。
「私、ずっと忙しくて。休む時間もなくて」
「……」
「でも、ここに来て、あなたと過ごして。初めて、心から休めました」
エドワードは笑った。
「これが、幸せなんですね」
「そうですよ」
俺も笑った。エドワードは、いい人だ。疲れてたんだろう。少しでも休めたなら、良かった。
夕方、エドワードは村を出発した。名残惜しそうに、何度も振り返っている。
「また来てもいいですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます」
エドワードは深々と頭を下げた。それから、馬車に乗り込んで去っていった。村は、また静かになった。
その夜、四人で小屋の前に座っていた。星が綺麗だ。エドワードのことを思い出す。いい人だった。疲れてたけど、少し休めたみたいだ。
「今日は、大変でしたね」
とユイが言った。
「ああ。でも、いい人だった」
とリズが頷いた。
「はい。優しい方でした」
とセシルが微笑んだ。
「うん。また来てくれるといいな」
と俺は言った。
三人は笑った。それから、また星を見上げる。静かで、穏やかな時間。こういう時間が、一番好きだ。
「やっと、静かになったね」
と俺は呟いた。
「そうですね」
とユイが微笑んだ。
「また賑やかになりますよ、きっと」
とセシルが笑った。
「だろうな」
とリズが言った。
でも、それでもいい。賑やかでも、静かでも。みんながいてくれれば、それでいい。そう思いながら、俺は星を見続けた。
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