追放された貴族は《再構築》の力で世界を直す

自ら

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第5章 王国との激突

第45話「絶望の陣」

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ルークとマルコが捕らわれた翌朝、リコンストラクト自由国は重苦しい空気に包まれていた。城壁の上を歩く兵士たちの足取りは重く、表情には疲労と不安が刻まれている。夜通し警戒していた者も多く、誰もが限界に近づいていた。町の通りも、いつもの活気がない。人々は小声で話し、子どもたちも静かだった。

レオンは、一睡もできなかった。執務室で夜を過ごし、何度も作戦を考え直した。だが、どう考えても、勝ち筋が見えない。王国軍の戦力は圧倒的だ。そして、ルークとマルコが人質になっている。降伏すれば、すべてが終わる。戦えば、二人が処刑されるかもしれない。

「俺の判断が、二人を危険に晒した」

レオンは、窓の外を見ながら呟いた。マルコを許すと決めたのは、自分だ。救出作戦を承認したのも、自分だ。すべて、自分の責任だ。

ノックの音がして、カイルが入ってきた。彼も、一晩中起きていたようだ。目の下に隈ができている。

「レオン、王国軍が動き始めた」

カイルの声は、重かった。

「どのくらいの規模だ」
「全軍だ。そして、増援も到着している」

カイルは、報告書を机に置いた。

「総勢五千。我々の十倍近い」

レオンは、報告書を手に取った。そこには、詳細な敵の配置が記されている。北、東、西の三方向から歩兵が、南から魔法部隊が攻めてくる。完璧な包囲陣だ。

「内通者からの情報で、我々の弱点を把握しているな」
「ああ。防護壁が不完全なことも、城壁の脆い部分も、すべて知っている」

カイルは、地図を広げた。

「これは、完璧に計算された攻撃だ」

レオンは、深く息をついた。グレイソン将軍は、容赦ない。感情に流されず、冷徹に勝利を追求する。その姿勢は、ある意味で尊敬に値する。だが、今は敵だ。

「みんなを集めてくれ。最後の作戦会議をする」

レオンが言うと、カイルは頷いた。

幹部たちが執務室に集まった。セリア、ルリア、ミーナ、リナ、村長、そして連合軍の代表たち。全員が、疲れた表情をしている。だが、その目には、まだ諦めの色はない。

「王国軍が、総攻撃を仕掛けてくる」

レオンが口を開いた。

「規模は五千。三方向からの同時攻撃だ」

部屋が、重い沈黙に包まれた。

「我々の戦力は、五百五十。防護壁は不完全。そして、主力のルークがいない」

レオンは、一人一人の顔を見た。

「正直に言う。これは、勝てる戦いではない」

ミーナが、小さく息を呑んだ。リナは、唇を噛んでいる。

「だが、戦うしかない」

レオンは、拳を握りしめた。

「ここで降伏すれば、すべてが終わる。この町も、この自由も、すべて失われる」
「我々は、最後まで戦う」

村長が、力強く言った。

「たとえ、勝ち目がなくても」
「ありがとうございます」

レオンは、村長に頭を下げた。

「では、配置につく。各自、持ち場を守ってくれ」

全員が立ち上がった。それぞれの役割を果たすために、散っていく。



夜明けと共に、王国軍が動き始めた。太鼓の音が、地を揺るがす。五千の兵士が、整然と行進を始める。その隊列は、三方向から町を包囲するように広がっていく。まるで、黒い津波のようだった。

城壁の上で、レオンは敵軍を見つめていた。その数は、予想以上だ。地平線の端まで、兵士で埋め尽くされている。

「来るぞ」

レオンが叫ぶと、兵士たちが武器を構えた。弓兵は矢を番え、槍兵は槍を構える。だが、その手は震えている。恐怖が、城壁全体を覆っていた。

「防護壁、展開!」

セリアが叫んだ。彼女と魔法使いたちが、呪文を唱える。城壁の前に、透明な障壁が現れた。だが、それは以前より薄い。魔石がないため、不完全なのだ。

王国軍の魔法部隊が、呪文を唱え始めた。七十名の魔法使いが、一斉に魔法を放つ。火球、雷撃、氷槍。様々な魔法が、空を覆った。

それらは、防護壁に激突した。轟音が響き、防護壁が激しく揺れる。だが、魔法の数が多すぎる。防護壁が、あちこちで亀裂を生じ始めた。

「持ちません!」

セリアが叫んだ。額に汗が浮かび、呼吸が荒い。

「ルリア、援護を!」

ルリアが、追加の魔法陣を展開した。氷の壁が、防護壁の前に出現する。だが、それも敵の魔法で次々と溶けていく。

そして、一発の火球が、防護壁を突破した。それは、城壁の石に激突し、爆発する。石が砕け、破片が飛び散った。兵士たちが、悲鳴を上げる。

「城壁が崩れる!」

レオンは、すぐに再構築の力を発動した。崩れた部分に手を当て、修復する。だが、その隙に、別の場所が攻撃される。いたちごっこだ。

「カイル、手を貸してくれ!」

カイルも、再構築の力で城壁を補強した。だが、二人とも既に疲労困憊だ。魔力が、底をついている。

その時、北側の城壁が大きく崩落した。集中攻撃を受けた部分が、完全に崩れたのだ。大きな穴が開き、そこから王国軍の兵士たちが侵入し始めた。

「敵が侵入してくる!」

兵士たちの悲鳴が上がった。防衛隊が、必死に応戦する。だが、敵の数が多すぎる。押し込まれていく。

町の中でも、火災が発生していた。防護壁を越えた魔法が、建物に着弾したのだ。木造の家が、次々と燃え上がる。炎が、風に煽られて広がっていく。

「避難所に延焼する!」

ミーナが叫んだ。彼女とリナ、そして住民たちが、必死に消火活動をしている。だが、火の勢いは強い。

レオンは、城壁と町の両方を守らなければならない。だが、魔力がもう残っていない。意識が、朦朧としてくる。

「レオン、無理するな」

カイルが、レオンを支えた。カイルも、既に立っているのがやっとだ。

「でも、このままでは」
「俺が、城壁を守る。お前は、町を守れ」

カイルは、レオンを押した。

「行け」

レオンは、町へ駆け下りた。燃えている建物を見て、再構築の力を使おうとする。だが、魔力が出ない。体が、もう動かない。

「くそっ」

レオンは、その場に膝をついた。視界が、霞んでいる。



その時、城壁の前に、二人の人影が引き出された。ルークとマルコだ。二人とも、縄で縛られ、傷だらけだった。顔は腫れ、服は血で汚れている。

「レオン、見ろ」

グレイソン将軍が、馬上から叫んだ。

「お前の仲間だ」

レオンは、城壁に戻って、二人を見た。胸が、締め付けられる。

「降伏しなければ、この二人を処刑する」

グレイソンは、冷たく宣言した。

「お前の選択だ。仲間の命か、町の自由か」

レオンは、拳を握りしめた。究極の選択だ。どちらを選んでも、何かを失う。

「レオン、気にするな!」

ルークが、叫んだ。その声は、かすれているが、力強い。

「俺は、この町のために死ねる!」
「降伏するな!戦い続けろ!」

ルークの目には、揺るぎない決意がある。

「レオン様」

マルコも、声を絞り出した。

「私は、構いません。これが、私の償いです」
「家族を、守ってください」

マルコの顔には、涙が流れている。だが、その表情は穏やかだった。

レオンは、何も答えられなかった。ただ、二人を見つめることしかできない。

「返答はないようだな」

グレイソンは、手を上げた。

「では、処刑を」
「待て!」

レオンが叫んだ。だが、その時、城壁の別の場所から悲鳴が上がった。東側の城壁も、崩れ始めたのだ。

「もう、無理だ」

若い兵士が、剣を落とした。

「勝てるわけがない」

その声が、周囲に広がっていく。兵士たちの戦意が、急速に失われていく。一部の連合軍兵士が、城壁から降り始めた。

「逃げるな!持ち場を守れ!」

カイルが叫んだ。だが、もう誰も聞いていない。恐怖が、理性を麻痺させている。

その時、町の中から、別の声が聞こえてきた。

「我々も戦う!」

それは、村長の声だった。避難所から、住民たちが出てきた。老人も、女性も、子どもたちさえも。手に手に、バケツや道具を持っている。

「この町は、俺たちの町だ!」

村長が叫んだ。

「レオン様一人に、すべてを背負わせるな!」

住民たちが、火災現場へ駆けた。バケツリレーで水を運び、必死に消火する。女性たちが、負傷者の手当てをする。子どもたちが、石や矢を城壁へ運ぶ。

「みんなで作った町だ!みんなで守るんだ!」

村長の言葉に、住民たちが応えた。

「おおっ!」

その声を聞いて、城壁の兵士たちが我に返った。住民たちが、命懸けで町を守ろうとしている。自分たちだけが、逃げるわけにはいかない。

「俺たちも、戦うぞ!」

一人の兵士が、剣を拾った。

「この町を、守るんだ!」

士気が、再び上がり始めた。兵士たちが、再び持ち場についた。

レオンは、住民たちの姿を見て、涙を流した。こんなにも、この町の人々は強いのか。こんなにも、自由を愛しているのか。

「みんな......」

レオンは、立ち上がった。まだ、諦めない。この人々のために、戦い続ける。

「カイル、セリア、ルリア」

レオンは、三人を呼んだ。

「世界の断片を使う」

「レオン、それは」

カイルが言いかけたが、レオンは首を振った。

「今回は、俺一人じゃない」

レオンは、周囲を見渡した。

「みんなで、力を合わせる」
「セリア、世界の断片の力を、分散できるか」
「理論上は......可能です」

セリアは、眼鏡を直した。

「複数の人間が、同時に断片に触れれば、負担を分散できます」
「では、やろう」

レオンは、世界の断片を取り出した。それは、青白く光り、脈動している。

「再構築の素質がある者、全員集まってくれ」

レオンの呼びかけに、約二十名が集まった。カイル、セリア、ルリア、そして防衛隊や連合軍の中から、わずかながら再構築の力を持つ者たち。

「これから、みんなで世界の断片の力を使う」

レオンは、真剣な表情で言った。

「危険だ。命を失うかもしれない」
「それでも、やります」

カイルが、最初に答えた。

「俺たちは、仲間だ」
「私も」

ルリアが続いた。

「あなたを、一人にはしません」

他の者たちも、次々と頷いた。誰も、逃げようとはしない。

「では、手を繋いでくれ」

全員が、円陣を組んだ。手を繋ぎ、中央に世界の断片を置く。レオンが、断片に手を当てた。

「始める」

瞬間、強烈な光が全員を包んだ。膨大な魔力が、体内に流れ込んでくる。それは、まるで電流のようだった。痛い。苦しい。だが、一人ではない。隣にいる仲間が、同じ痛みを共有している。

「みんな、耐えろ!」

レオンが叫んだ。全員が、歯を食いしばる。手を離さない。痛みも、負担も、みんなで分かち合う。

青白い光が、町全体を包んだ。地面が揺れ、空気が震える。そして、奇跡が起きた。

北側の崩落した城壁が、再生し始めた。石が集まり、元の形を取り戻していく。それだけではない。城壁が、さらに巨大化した。高さが二倍になり、厚みも増す。

崩落部分から、巨大な石の壁が隆起した。侵入してきた敵兵が、その壁に閉じ込められる。

「何だ、これは!」

王国軍の兵士たちが、パニックに陥った。

地面が波打ち、敵の隊列が崩れた。王国軍の兵士たちが、次々と転倒する。

「ひるむな!前進しろ!」

グレイソンが叫んだが、兵士たちは恐怖に駆られている。

城壁の上では、防衛隊の兵士たちが歓声を上げた。

「すごい!城壁が!」
「レオン様が、奇跡を!」

だが、レオンたちは限界だった。全員が、地面に倒れ込んだ。意識を失う者もいる。レオンも、膝をついた。視界が、真っ白になる。

「まだ、敵は......」

レオンは、かすれた声で言った。奇跡は起きた。だが、敵の数はまだ圧倒的だ。

「将軍、これ以上は」

副官が、グレイソンに進言した。

「損害が大きすぎます」

グレイソンは、城壁を見上げた。あれは、人間の力ではない。神の力だ。あんなものと戦っても、勝ち目はない。

「一時撤退だ」

グレイソンは、苦渋の決断を下した。

「だが、これは負けではない。戦術的撤退だ」

グレイソンは、ルークとマルコを見た。

「この二人は、連れていく。次の交渉材料だ」

王国軍が、撤退を始めた。兵士たちが、慌てて後退していく。ルークとマルコも、引きずられていく。

「待て!」

レオンが叫んだが、もう声が出ない。ただ、二人の姿を見送ることしかできなかった。



戦いが終わった後、町は荒廃していた。城壁は守られたが、町の一部が焼失している。建物の約三割が、灰になっていた。負傷者も多い。約八十名が、重軽傷を負っている。

レオンは、医療所を回った。一人一人の負傷者を見舞う。

「すまない。俺の力不足で」

レオンが謝ると、一人の兵士が首を振った。

「レオン様のせいじゃありません」
「むしろ、ここまで守ってくださった」

別の兵士が続けた。

「ありがとうございます」

レオンは、彼らの言葉に、涙が溢れそうになった。こんなにも、自分を信じてくれている。

村長が、レオンの元へ来た。

「レオン様、我々は、まだ諦めていません」

村長の声は、力強かった。

「また立ち上がります」
「そうだ!」

住民たちの声が、医療所に響いた。焼け跡を見て、絶望している者もいる。だが、多くの者は、既に復興を考えている。

その夜、レオンは執務室でカイルから報告を受けた。

「被害状況をまとめました」

カイルは、書類を渡した。

「負傷者八十名、建物被害三十パーセント、食料残存六十パーセント」
「厳しいな」

レオンは、書類を見て呟いた。

「ですが、まだ戦えます」

カイルは、真剣な目でレオンを見た。

「俺たちは、まだ負けていない」
「ああ」

レオンは頷いた。ルリアが、温かいお茶を持ってきた。

「レオン、少し休んでください」
「ありがとう」

レオンは、お茶を受け取った。一口飲むと、体が少し楽になる。

「あなたは、よく頑張りました」

ルリアは、レオンの隣に座った。

「でも、まだ終わりじゃありません」
「ああ、まだ終わらせない」

レオンは、窓の外を見た。北の方角に、王国軍の陣営がある。ルークとマルコが、そこにいる。

「次の攻撃までに、体制を立て直す。そして、ルークとマルコを必ず救出する」
「どうやって?」

セリアが聞いた。

「守るだけでは、勝てない」

レオンは、立ち上がった。

「攻めに転じる」
「王都への進軍ですか?」
「いや、まだその時ではない」

レオンは、地図を広げた。

「だが、次は、こちらから仕掛ける」

カイルが、地図を見た。

「具体的には?」
「王国軍の本陣を、直接叩く」

レオンの目には、決意の光が宿っていた。

「世界の断片の力を、極限まで使う」
「危険です」

セリアが警告した。

「今日だけで、全員が限界まで使いました。これ以上は」
「わかっている」

レオンは頷いた。

「だが、他に道はない」

その時、町の外から、奇妙な音が聞こえてきた。低く、唸るような音。地面が、わずかに震えている。

「何だ、これは」

カイルが、窓の外を見た。北の方角で、異様な光が上がっている。それは、青白く、不気味に輝いている。

「まさか」

セリアが、顔色を変えた。

「あれは、古代兵器の光です」

「古代兵器?」
「はい。王国も、世界の断片を持っていたんです」

セリアの声が、震えた。

「そして、それを兵器として使おうとしている」

レオンは、その光を見つめた。これが、次の戦いの相手か。再構築対再構築。世界の断片対世界の断片。

「なら、俺たちも、本気を出すしかない」

レオンは、拳を握りしめた。

「次の戦いで、決着をつける」

運命の最終決戦が、近づいていた。

リコンストラクト自由国は、傷つきながらも、まだ立っている。人々は、まだ希望を失っていない。そして、レオンは、まだ諦めていない。

絶望の陣を乗り越えて、次は、極限の戦いへ。世界の断片の力が、すべてを決める。
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