終わらせるための魔法使い――魔物パンデミックと、壊れた世界の正しさ――

自ら

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1章-崩壊

第4話「亀裂」

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集落で暮らし始めて、数日が経った。

最初は居心地の悪さを感じていたが、今では少し慣れてきた。人々は俺に話しかけてくるし、子供たちは俺の周りを走り回る。俺は相変わらず無愛想だが、それでも皆は気にしていないようだった。

朝、目が覚めると、校舎の廊下から人々の声が聞こえる。食事の準備をしている音だ。俺はベッドから起きて、窓の外を見た。校庭では、高橋が見張りの配置を確認している。

俺は部屋を出て、廊下を歩いた。美咲が食事の準備をしている。

「おはよう、柊さん」

美咲が笑顔で言う。俺は頷いて、配給された缶詰を受け取った。

食事を終えて、俺は校庭に出た。バリケードの修理を手伝うためだ。高橋が木材を運んでいて、俺も手伝った。

「助かる。お前がいると心強い」

高橋が言う。俺は何も答えなかった。

作業をしていると、美咲が近づいてきた。

「柊さん、慣れましたか」

「…まあ」

「良かった。最初は不安でしたけど、皆あなたのこと受け入れてますよ」

美咲がそう言って笑う。俺は黙って作業を続けた。

美咲が隣で木材を運びながら、話し続ける。

「私も、家族を失ってから、ずっと一人でした。でも、ここに来て、皆と一緒にいると、少しだけ楽になった気がします」

俺は美咲を見た。美咲は笑っているが、その目には悲しみが見える。美咲も、俺と同じだ。家族を失って、それでも生きている。

「柊さんは、どうですか。一人で生きてきたんですよね」

「…ああ」

「辛かったでしょう」

美咲がそう言う。俺は何も答えなかった。辛かったかどうか、もう分からない。ただ、生き延びてきた。それだけだ。

作業を終えて、俺は校舎の屋上に上がった。ここからは、街全体が見渡せる。崩壊したビル、錆びた車、草が生えた道路。まるで文明が滅びた後の世界で、実際にそうなのだろう。

左腕が呟く。

『人間と暮らすのは、どうだ』

「悪くない」

『珍しいな。貴様が他人を認めるとは』

「認めてるわけじゃない。ただ、ここにいるだけだ」

『強がるな』

俺は左腕を見た。黒い左腕。この腕が、俺を変えたのかもしれない。一人ではなくなったから、人と一緒にいることを受け入れられるようになった。

その日の午後、高橋が俺を呼んだ。

「柊、話がある」

高橋が真剣な顔をしている。何かあったのか。

「見張りが報告してきた。魔物の動きがおかしい」

「どういうことだ」

「魔物が、ある方向へ移動している。まるで何かに引き寄せられているかのように」

高橋が地図を広げる。魔物が向かっているのは、北の方角だ。

「調査が必要だ。お前と佐藤、それに俺と数名で行く」

「分かった」

俺は頷いた。

翌朝、調査隊が出発した。高橋、美咲、俺、それに護衛が二人。合計五人だ。

街を進む。崩壊したビルの間を、慎重に歩く。魔物の姿は見えない。いつもなら、この辺りには小型の魔物がいるはずなのに、今日は一匹もいない。

不気味なほど静かだ。

美咲が俺の隣を歩きながら、小声で言う。

「静かすぎますね」

「…ああ」

「何かが起きている気がします」

俺も同じことを感じていた。この静寂は、嵐の前の静けさだ。

左腕が呟く。

『嫌な予感がする』

「何だ」

『分からない。だが、何かがおかしい』

俺は警戒を強めた。

調査隊が進むと、やがて広場のような場所に辿り着いた。元々は公園だったのだろう。今は草が生い茂っていて、遊具は錆びている。

そして、そこに「それ」があった。

巨大な亀裂。

空間が裂けていて、黒い裂け目が浮かんでいる。まるでガラスにヒビが入ったように、空間そのものが歪んでいる。

第1話で見た、あの亀裂と同じだ。だが、もっと大きい。高さは10メートルほどあって、幅も5メートルはある。

高橋が息を呑む。

「これは…新しい亀裂か…」

護衛の一人が後ずさる。

「やばい…また魔物が出てくるんじゃ…」

美咲が俺を見る。不安そうな顔だ。

俺は亀裂を見た。亀裂からは、何も出てきていない。だが、亀裂の向こうから、何かが覗いている気がする。

左腕が呟く。

『これは…まずい』

「何だ」

『新しい魔物が出てくる。それも、強い魔物だ』

「どうして分かる」

『感じる。我は魔王の欠片だからな』

その瞬間、亀裂が光った。

眩しい光が放たれて、俺たちは目を覆った。

そして、亀裂から何かが出てきた。

巨大な魔物だ。

体長は15メートルほどあって、まるで竜のような姿をしている。黒い鱗に覆われていて、目は赤く光っている。翼があって、尻尾が長い。

A級魔物だ。

護衛の一人が叫ぶ。

「逃げろ!」

だが、遅かった。

魔物が咆哮した。耳を劈くような轟音が響いて、俺たちは耳を塞いだ。まるで頭の中で爆発が起きたかのような衝撃で、視界が揺れる。

魔物が俺たちを見た。赤い目が、俺たちを捉える。

そして、魔物が動いた。

速い。

魔物が護衛の一人に爪を振る。護衛が避けようとしたが、間に合わなかった。爪が護衛の体を引き裂いて、血が飛び散る。護衛が倒れる。

「逃げろ!」

高橋が叫ぶ。

美咲が防御魔法を張る。光の壁が現れて、俺たちを守る。だが、魔物の次の攻撃で、壁が砕け散った。美咲が吹き飛ばされる。

俺は前に出た。

左腕の力を使う。黒い炎が生まれて、魔物に向かって放たれる。

炎が魔物を包む。だが、魔物は燃えない。鱗が炎を弾いている。

『この魔物は強い。通常の攻撃では効かない』

左腕が言う。

「どうすればいい」

『力を解放しろ』

「何」

『我の力を、全て解放しろ。そうすれば、倒せる』

だが、力を解放すれば、何が起きる。左腕は、以前も暴走しそうになった。

『心配するな。制御する』

本当か。

魔物が再び攻撃してくる。爪が俺に迫る。

俺は避けた。だが、避けきれず、肩に爪が当たった。痛い。血が流れる。

美咲が叫ぶ。

「柊さん!」

美咲が治療魔法を使おうとするが、魔物が美咲を狙う。

高橋が銃を撃つ。だが、効かない。弾が鱗に弾かれる。

魔物が高橋に向かう。

「高橋さん!」

俺は叫んだ。

左腕が疼く。

『力を解放しろ!』

左腕が叫ぶ。

だが、俺は躊躇した。力を解放すれば、皆を巻き込むかもしれない。

『信じろ!我を信じろ!』

左腕が言う。

俺は、決断できなかった。

魔物が高橋に爪を振り下ろす。

高橋が避ける。だが、間に合わない。

その瞬間、美咲が高橋の前に立った。

防御魔法を張る。だが、魔物の爪が壁を砕いて、美咲の体を貫いた。

「美咲さん!」

俺は叫んだ。

美咲が倒れる。血が流れる。

高橋が美咲を抱き起こす。

「佐藤!しっかりしろ!」

美咲が目を開ける。弱く笑う。

「大丈夫…です…」

だが、大丈夫じゃない。傷が深い。

俺は魔物を見た。

怒りが湧き上がる。

だが、力を解放すれば、皆を巻き込む。

俺は、どうすればいい。

左腕が呟く。

『逃げろ』

「何」

『今は、逃げろ。この魔物は、今の貴様では倒せない』

俺は歯を食いしばった。

「高橋さん、逃げるぞ」

「だが…」

「今は逃げるしかない」

俺は美咲を抱き上げた。高橋と残った護衛が、俺について来る。

魔物が追ってくる。

俺たちは走った。ビルの間を、崩れた道路を、ひたすら走った。

だが、魔物は追ってこなかった。途中で、追跡をやめたようだ。

俺たちは集落に戻った。

美咲を治療室に運ぶ。傷は深いが、命に別状はないようだ。

高橋が俺に言う。

「集落を移動させる。ここは危険だ」

「…分かった」

俺は美咲の傍に座った。美咲は眠っている。

左腕が呟く。

『すまない。力を、抑えきれなかった』

「お前のせいじゃない」

『だが…』

「俺が、決断できなかっただけだ」

俺は左腕を見た。黒い左腕。この力を、まだ完全には制御できていない。

窓の外を見る。空は暗い。

新しい亀裂。新しい魔物。

この世界は、まだ終わっていない。
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