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一章
5:バトルはターン制らしい
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「では、次は我のターンだな」
あ、この世界の戦闘ってターン制なんだ。もしかして一ターン無駄にした感じ? うわっ、勿体ないことしたな。ということは次のターンで負け確定の大ダメージを食らって死ぬやつじゃん。
俺の短い転生人生もここで終わりか……死ぬならもっと華々しく死にたかった……。
なんて思っていたら、見えない得体の知れない何かが胴の辺りに巻き付いてきた。え、と声が漏れ出る。言葉を発するよりも前に、体をぐいっと引き寄せられる。瞬きをした次の瞬間には、俺は魔王の目と鼻の先にいた。比喩ではない。本当に目と鼻の先なのだ。
「あ、っぶな……!」
冑がなければ危うく事故が起こるところだった。ヒタヒタと鎧を這いずっていた何かは、魔王が「もう良い」と一言発した瞬間その気配を消した。そうすると俺は魔王の膝の上にストン、と腰を下ろす格好となるわけだが、体格の差があり過ぎて子どもが親の膝の上に座っているような何とも間抜けた絵面になる。
「これは一体どのような状況で……?」
思わず聞いてしまった。魔王は聞いているのか、いないのか、ふむ、と自身の顎を撫で何やら考える仕草を見せたが、すぐにその手を俺が被っている冑に伸ばしてきた。上に引っ張られ、冑が容易く引っこ抜ける。サイズが合っていなかったのだ。そりゃそうだ、武器屋で雑に誂えられたものなのだから。動くたびにガシャガシャと音を立てる原因の一つが排除され、おまけに視界が開けて助かった。俺が魔王の膝の上に座っていること以外は。
「想像以上に凡夫だな」
「面と向かってすげーディスってくるじゃん」
魔王は冑を放り投げると、再び考え込むように顎に手を宛てた。云いたいことがあるなら遠慮せずに云ってくれ。こんな凡夫が勇者な訳ないだろ、とか。仲間が居ない勇者なんて居るわけないだろ、とか。そんでこの城から追い出してくれないだろうか。しかし、そんな俺の願望虚しく、魔王は鎧に手をかけた。
「初期装備にしてはお粗末過ぎる」
あ、そうなんだ。結構高かったんだけどな。魔王が指先で肩当ての部分をピンッと弾く。たったそれだけの所作で、ライフル銃から放たれた弾丸ばりの勢いで肩当てがすっ飛び、物凄い轟音とともに壁にめり込んだ。
あ、死ぬな、これ。てか俺の肩まだある? 繋がってる?
悲鳴など上げる間もない。一瞬で実力差を見せつけられた。どう戦えっていうんだよ、こんなバケモノと。
これなら穴に落ちて死んだほうがまだマシでは。
鎧をひん剥かれた、否、ふっ飛ばされた俺は丸腰も丸腰で、文字通り防御力ゼロになった。鎧がなければただの平凡な男である。せいぜい村人Aが良いところだろう。そんな男を面白くもないのに見下ろして、何やら思案しているらしい魔王は恐らくクセなのだろう、再び「ふむ」と顎を撫でる。囲碁でも将棋でもカードゲームでも、長考する奴ほど嫌われるぞ。殺すならさっさと殺してくれ。
「……まあ、悪くはない」
長らく無言だった魔王が発した一言に、俺は首を傾げた。悪くないとはどういう意味なのか。食べるにしたって社畜をしていた男の体はきっと肉は硬いだろうし、味も悪かろう。最悪食べられたとして腹を下すに決まっている。
魔王の視線に居た堪れなくなり、俺はじりじりと後退った。仮にも勇者が魔王の膝の上なんて格好がつかないにも程があるし、なんか魔王の目がギラギラしてて怖い。ザ・捕食者みたいな目をしている。いや、ある意味ではそうなのだろうけど、俺はただ今絶賛生贄の羊の気分だから余計に恐ろしく感じる。負け確イベントだとしても、もう少しまともな格好で敗北したい。
「あっれぇ……?」
なんか動けなくない? てか腰に手みたいなのが回されてない?
恐る恐る背後、正確には自分の腰の辺りに目を向けるとがっつり回されていた、魔王の手が。そのせいで膝から降りることは叶わなかった。
ちくしょう、逃げるコマンドがないせいか。こうなっては素直に諦めよう。このターンが終わるまで魔王の行動を見届けるか……、と俺は居住まいを正した。すると何を血迷ったのか、魔王は腰に回していない方の手で俺のインナーを捲くり上げ、あろうことか舌を胸のあわいに這わせてきた。驚きのあまり体が跳ねる。
「ええと……そのぉ……魔王さまってソッチの趣味の方……?」
「ソッチがどういう意味かは知らぬが、魔族にとって男女の区別は些末なことだ」
へえ、そうなんだ。初めて知った。また一つ賢くなったしまったな。必要ない知識が増えても嬉しくないが、魔王って案外いい奴なのかも知れない。聞けば答えてくれるし、いきなり上から落ちてきて武器を向けたにも関わらず俺を邪険にしないし。そういえば、この世界に来てまともに会話したの魔王が初めてのような気がする。俺の胸に舌を這わせていることをスルーすれば、唯一会話が成立している。……いや、感動している場合ではない。この状況は非常に危機的状況をどうにかしなければ。
俺はせめてもの抵抗に腕を突っぱねた。嫌だ、と発した声は思ったよりも震えていて、魔王がフッと笑った気配がする。笑うな、こっちは本当に怖いんだよ。
インナーが邪魔になったのか、魔王はまるでさけるチーズでも裂くような感覚で捲り上げたインナーを左右に引き裂いた。ぶちぶちと繊維が裂かれる悲鳴が仰々しい大広間に響く。俺は貧相な体を魔王に晒すことになった。
マジかよ。帰るときどうしよう。ああ、でも確か、こういうのって負けたら目の前が真っ暗になって宿屋か教会で目覚めるのがセオリーなんだっけ? なら良いか。良くないけど。
「ヒィ……っ」
晒された胸を魔王がベロリと舐め上げられ、俺は情けない悲鳴を上げた。
「何してんの!? えっ、何してんの!?」
「味見だ」
「味見にしたってもう少し遠慮というものがあったっていいだろ!」
腕を突っぱねて距離を取るが、悲しいことに腕が短い。距離が取れても魔王が少しでも前傾になれば意味を成さない微々たる距離だ。力、体格、能力、そのどれもが及ばない。これはもう抵抗しても無駄だろう。飽きるまで放っておくか……。
何事も諦めが肝心である。胸をベロベロと舐め回す魔王と、虚ろな目で天井を見上げる勇者とかどんな絵面だよ。転生ものの勇者ってこういうモンだっけ。
あまりにも無反応だったのが気に食わなかったのだろう、ムッとした表情で魔王の顔が胸から離れていく。
「……ここは次の機会に取っておこう」
え、次があるの? 魔王を対峙したとき毎回こんなことにならないといけないのか……? そりゃ魔王討伐する勇者なんて出てこないわ。
あ、この世界の戦闘ってターン制なんだ。もしかして一ターン無駄にした感じ? うわっ、勿体ないことしたな。ということは次のターンで負け確定の大ダメージを食らって死ぬやつじゃん。
俺の短い転生人生もここで終わりか……死ぬならもっと華々しく死にたかった……。
なんて思っていたら、見えない得体の知れない何かが胴の辺りに巻き付いてきた。え、と声が漏れ出る。言葉を発するよりも前に、体をぐいっと引き寄せられる。瞬きをした次の瞬間には、俺は魔王の目と鼻の先にいた。比喩ではない。本当に目と鼻の先なのだ。
「あ、っぶな……!」
冑がなければ危うく事故が起こるところだった。ヒタヒタと鎧を這いずっていた何かは、魔王が「もう良い」と一言発した瞬間その気配を消した。そうすると俺は魔王の膝の上にストン、と腰を下ろす格好となるわけだが、体格の差があり過ぎて子どもが親の膝の上に座っているような何とも間抜けた絵面になる。
「これは一体どのような状況で……?」
思わず聞いてしまった。魔王は聞いているのか、いないのか、ふむ、と自身の顎を撫で何やら考える仕草を見せたが、すぐにその手を俺が被っている冑に伸ばしてきた。上に引っ張られ、冑が容易く引っこ抜ける。サイズが合っていなかったのだ。そりゃそうだ、武器屋で雑に誂えられたものなのだから。動くたびにガシャガシャと音を立てる原因の一つが排除され、おまけに視界が開けて助かった。俺が魔王の膝の上に座っていること以外は。
「想像以上に凡夫だな」
「面と向かってすげーディスってくるじゃん」
魔王は冑を放り投げると、再び考え込むように顎に手を宛てた。云いたいことがあるなら遠慮せずに云ってくれ。こんな凡夫が勇者な訳ないだろ、とか。仲間が居ない勇者なんて居るわけないだろ、とか。そんでこの城から追い出してくれないだろうか。しかし、そんな俺の願望虚しく、魔王は鎧に手をかけた。
「初期装備にしてはお粗末過ぎる」
あ、そうなんだ。結構高かったんだけどな。魔王が指先で肩当ての部分をピンッと弾く。たったそれだけの所作で、ライフル銃から放たれた弾丸ばりの勢いで肩当てがすっ飛び、物凄い轟音とともに壁にめり込んだ。
あ、死ぬな、これ。てか俺の肩まだある? 繋がってる?
悲鳴など上げる間もない。一瞬で実力差を見せつけられた。どう戦えっていうんだよ、こんなバケモノと。
これなら穴に落ちて死んだほうがまだマシでは。
鎧をひん剥かれた、否、ふっ飛ばされた俺は丸腰も丸腰で、文字通り防御力ゼロになった。鎧がなければただの平凡な男である。せいぜい村人Aが良いところだろう。そんな男を面白くもないのに見下ろして、何やら思案しているらしい魔王は恐らくクセなのだろう、再び「ふむ」と顎を撫でる。囲碁でも将棋でもカードゲームでも、長考する奴ほど嫌われるぞ。殺すならさっさと殺してくれ。
「……まあ、悪くはない」
長らく無言だった魔王が発した一言に、俺は首を傾げた。悪くないとはどういう意味なのか。食べるにしたって社畜をしていた男の体はきっと肉は硬いだろうし、味も悪かろう。最悪食べられたとして腹を下すに決まっている。
魔王の視線に居た堪れなくなり、俺はじりじりと後退った。仮にも勇者が魔王の膝の上なんて格好がつかないにも程があるし、なんか魔王の目がギラギラしてて怖い。ザ・捕食者みたいな目をしている。いや、ある意味ではそうなのだろうけど、俺はただ今絶賛生贄の羊の気分だから余計に恐ろしく感じる。負け確イベントだとしても、もう少しまともな格好で敗北したい。
「あっれぇ……?」
なんか動けなくない? てか腰に手みたいなのが回されてない?
恐る恐る背後、正確には自分の腰の辺りに目を向けるとがっつり回されていた、魔王の手が。そのせいで膝から降りることは叶わなかった。
ちくしょう、逃げるコマンドがないせいか。こうなっては素直に諦めよう。このターンが終わるまで魔王の行動を見届けるか……、と俺は居住まいを正した。すると何を血迷ったのか、魔王は腰に回していない方の手で俺のインナーを捲くり上げ、あろうことか舌を胸のあわいに這わせてきた。驚きのあまり体が跳ねる。
「ええと……そのぉ……魔王さまってソッチの趣味の方……?」
「ソッチがどういう意味かは知らぬが、魔族にとって男女の区別は些末なことだ」
へえ、そうなんだ。初めて知った。また一つ賢くなったしまったな。必要ない知識が増えても嬉しくないが、魔王って案外いい奴なのかも知れない。聞けば答えてくれるし、いきなり上から落ちてきて武器を向けたにも関わらず俺を邪険にしないし。そういえば、この世界に来てまともに会話したの魔王が初めてのような気がする。俺の胸に舌を這わせていることをスルーすれば、唯一会話が成立している。……いや、感動している場合ではない。この状況は非常に危機的状況をどうにかしなければ。
俺はせめてもの抵抗に腕を突っぱねた。嫌だ、と発した声は思ったよりも震えていて、魔王がフッと笑った気配がする。笑うな、こっちは本当に怖いんだよ。
インナーが邪魔になったのか、魔王はまるでさけるチーズでも裂くような感覚で捲り上げたインナーを左右に引き裂いた。ぶちぶちと繊維が裂かれる悲鳴が仰々しい大広間に響く。俺は貧相な体を魔王に晒すことになった。
マジかよ。帰るときどうしよう。ああ、でも確か、こういうのって負けたら目の前が真っ暗になって宿屋か教会で目覚めるのがセオリーなんだっけ? なら良いか。良くないけど。
「ヒィ……っ」
晒された胸を魔王がベロリと舐め上げられ、俺は情けない悲鳴を上げた。
「何してんの!? えっ、何してんの!?」
「味見だ」
「味見にしたってもう少し遠慮というものがあったっていいだろ!」
腕を突っぱねて距離を取るが、悲しいことに腕が短い。距離が取れても魔王が少しでも前傾になれば意味を成さない微々たる距離だ。力、体格、能力、そのどれもが及ばない。これはもう抵抗しても無駄だろう。飽きるまで放っておくか……。
何事も諦めが肝心である。胸をベロベロと舐め回す魔王と、虚ろな目で天井を見上げる勇者とかどんな絵面だよ。転生ものの勇者ってこういうモンだっけ。
あまりにも無反応だったのが気に食わなかったのだろう、ムッとした表情で魔王の顔が胸から離れていく。
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え、次があるの? 魔王を対峙したとき毎回こんなことにならないといけないのか……? そりゃ魔王討伐する勇者なんて出てこないわ。
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