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3.「vsヴィシャススコーピオン(四天王)」
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「お姉ちゃん、女王さまになるんだよね! 格好良いなぁ!」
「くすっ。ありがとう」
ダンジョンから脱出した僕たちは、一時間ほど歩いて、オースバーグ王国の王都ロマノシリングへと戻り、まずは冒険者ギルドに向かった。もう日が落ちかけているけど、ギリギリまだ開いていると思う。
冒険者ギルドに行く目的は、僕がシュウキさんたちに殺され掛けたことを伝えるためだ。
やっぱり悪いことをする人がいたら、ちゃんと言わないといけないよね!
「お姉ちゃんも言う?」と聞くと、「私は色々質問されて王女だということがバレるとマズいから、報告しないでおくわ」と答えた。
「いい、ルド君? 私はメアリーという偽名で冒険者登録してあるから。マリアっていう名前で呼んだりしちゃダメよ? ここでは、王女じゃなくて、一般市民だからね?」
「うん、分かった!」
受付で事情を話すと、ギルド長さんの部屋に案内された。
「なるほど。それはさぞ辛かっただろう」
「うん。でも、お姉ちゃんと会えたから、大丈夫!」
ギルド長さんは、「勇者たちには改めて話を聞き、何らかの処罰を与えることとしよう。教えてくれて感謝する」と言ってくれた。
「あと、お姉ちゃんは、マリアじゃなくてメアリーっていう名前だから! 王女じゃなくて、一般市民だから!」
「ルド君!?」
僕がお姉ちゃんに言われた通りにして、えっへん、と胸を張っていると、ギルド長さんが、お姉ちゃんをじっと見詰めた。
「……そちらの女性の方。失礼だが、顔を見せてもらっても良いか?」
「い、いえ、その……私は、〝他人に顔を見られると死んでしまう〟という病気でして……」
「なんと。それは大変だな」
マントのフードで顔を隠したお姉ちゃんが、顔を背ける。
「お姉ちゃん、病気なの? 大丈夫?」
「平気よ。あと十分くらいしたら治るから」
「本当? 良かった!」
心配になって胸がキュッとしたけど、お姉ちゃんは僕の耳元でそう囁いてくれた。
※―※―※
冒険者ギルドを出た後。
「ルドく~ん? 私の素性を隠そうとしてくれてありがとうね~。でも~、今度からは、余計なことは言わないでくれるかな~?」
「うん、分かった!」
お姉ちゃんが、笑顔で『ありがとう』って言ってくれた!
これからもこの調子で頑張ろう!
※―※―※
「ここ、初めて乗った!」
「くすっ。御者台って言うのよ」
夕べはもう遅かったので、お姉ちゃんと一緒に宿に泊まって、お姉ちゃんと一緒にベッドで寝た。
そして今朝、僕たちは二頭立ての馬車を買って、二人で街道を通って、南へと向かっている。
オースバーグ王国は東西南北に一ヶ国ずつ別の国と接しているんだけど、南にあるのがヴァウスデラリア帝国で、帝都マルグストンが最初の目的地だ。
もう泣かないって、強くなるんだって決めた僕は、色々挑戦してるんだ。
夕べも今朝も筋トレをしたし、今はこうして御者台にも乗ってる!
お姉ちゃんの膝の上に乗った僕は、お姉ちゃんと一緒に手綱を握って、ワクワクしていた。今僕は、お馬さんに走ってもらって、旅をしてるんだ!
※―※―※
数日掛かるとのことで、僕たちは途中で何回か野営した。
「でね、神さまが言うには、神さまは、『極悪人轢き殺しウィーク』、通称〝Gウィーク〟に、無人トラックを操ってガンガン犯罪者たちを殺していたら、勢い余ってたまたま近くにいた僕も間違って轢いてしまったんだって。だから、『お詫びに特別な転生をプレゼントしよう』って言われて、転生したんだ」
「あなたの世界、なんかとんでもないことになってるわね……。っていうか、『間違って轢いた』て……」
お姉ちゃんは、他の異世界転生者から〝自動車〟の話を聞いたことがあるから、トラックのことも分かるみたいだ。
※―※―※
「やあああああああああ!」
「「「「「ギャアアアアアアアア!」」」」」
お姉ちゃんは、すごく強い!
途中でゴブリンが六匹出て来て、道を通せんぼしていたんだけど、「大丈夫よ。そのままで良いから。手綱をしっかり握っててね」って言って僕を膝から下ろした彼女は、跳躍して馬車前に着地。
と同時に、再び跳躍。抜剣したかと思うと、次の瞬間には、ゴブリンは全て一刀両断されていた。しかも、馬車が通りやすいように、死体は道の左右に吹っ飛んでいった。
ブン、と振って剣についた血を落としたお姉ちゃんは、剣をしまいつつもう一度跳躍すると、御者台に戻ってきた。
「ただいま」
「すごーい! カッコいー!」
「くすっ。ありがとう」
※―※―※
「着いたー!」
「やっとね」
オースバーグ王国を出てから六日後。
僕たちは、ヴァウスデラリア帝国の帝都マルグストンに到着した。
見た目は、オースバーグ王国と違って、アラビアンな感じ!
ここまではヴァウスデラリア帝国の北部だったから、結構緑豊かな感じだったけど、ここから南にいくと、どんどん砂漠っぽくなっていくみたいだ。
「ルドです! はい、どうぞ!」
「ありがとうな、坊主」
城門前にいた二人の衛兵さんに、身分証として冒険者カードを提示。
「ん? これは……?」
「あ、私のもどうぞ。あと、通行料も」
「おお! S級! なら良いか!」
僕の冒険者カードは、ステータス画面と同じように、LV以外の部分が読めなくなっているから、衛兵さんが怪訝な表情を浮かべたけど、お姉ちゃんがS級の冒険者カードを見せながら通行料を払ったら、中に入れてもらえた。
「南部へ続く街道で、また盗賊団が出たらしいぞ」
「モンスターの被害もあるってのに、勘弁して欲しいよな」
まずは馬車を停めておける宿を確保した僕たちは、そんな道行く人たちの会話を聞きつつ、歩いて冒険者ギルドへと向かう。
「旅をするにはお金が要るわ。まずは、クエストや依頼をこなして、お金を貯めましょう」
「うん、分かった!」
ということで、お金を稼ぐために来たのだ。
「え、S級!? どうぞ、こちらへ!」
お姉ちゃんの冒険者カードを見た受付嬢さんは、目を見開くと、ギルド長さんの部屋へと案内してくれた。
そして、ギルド長さんは、「まさかS級の方に来て頂けるとは! どうぞ、こちらへ」と言って、何故か外に案内してくれた。
そこには馬車があり、理由も分からず乗せられた僕たちは。
「よくぞ来てくれた、旅の冒険者たちよ!」
気付くと、頭にターバンを巻いた皇帝さまと謁見していた。
「な、なんでこんなことに!? 目立ちたくないのに……しかも、一度お会いしたことがある方だし……」
さすがに皇帝さまの前だと、フードを被ったままという訳にはいかないお姉ちゃんは、顔を青くする。
よ~し!
ここは、僕の出番だ!
「皇帝さま! お姉ちゃんは、マリアじゃなくてメアリーっていう名前だから! あと、王女じゃなくて、一般市民だから!」
「ルド君!?」
思わず立ち上がって胸を張ってしまった僕は、「あ」と気付いて、再び片膝をついた。
「ん? その顔……どこかで会ったことがあるだろうか?」
「い、いえ。一度もございません……」
「そうか」
皇帝さまがお姉ちゃんをじっと見つめたけど、バレなかったみたい!
良かった!
「まぁ良い。それよりも、お前たちに頼みがあるのだ。魔王軍四天王の一人、ヴィシャススコーピオンを倒して欲しいのだ」
なんか、強そう……!
確か四天王って、二年前に復活した魔王の部下の中で、一番強い人たちだよね?
怖いな……大丈夫かな……?
心配になっちゃったけど、お姉ちゃんが、
「勿論です。喜んで引き受けさせて頂きます」
と自信満々に言ったので、ちょっとだけ安心した。
そうだ、お姉ちゃんはすごく強いから!
きっと大丈夫だ!
でも、僕も出来るだけ頑張ろう!
※―※―※
僕たちは、今度は自分たちの馬車に乗って、帝都の南へと向かった。
砂漠地帯にエルニコスという村があって、その近くでヴィシャススコーピオンは活動しているみたいだ。
「ヒャッハー!」
「持ち物全部置いていけ!」
「勿論馬車もだ!」
「服も脱げよ!」
途中で、盗賊団が現れた。
十人くらいいる。
カラフルな髪の毛がみんな逆立っていて、真っ黒な服で、筋肉がすごくて。
すごく怖そうな見た目をしている。
僕が震えていると、お姉ちゃんが「大丈夫」と言って跳躍。
盗賊団の目の前に着地した。
「お? 姉ちゃん、俺たちの前でストリップショーしてくれんのか?」
「ギャハハハハ! 良いね! 色っぽく踊ってくれよ! そしたら命だけは勘弁してやるからよお!」
お姉ちゃんが、抜剣すると。
「悪いけど、ストリップショーするのはあなた達の方よ」
「あ? 何言って――」
盗賊団全員の服が細切れになり、全員裸になった。
「「「「「きゃあああああああ!」」」」」
「「「「「いやああああああん!」」」」」
汚い悲鳴を上げながら、男たちは逃げていった。
「全く。困った奴らね」
「お姉ちゃん、顔が真っ赤だよ? 大丈夫?」
「ふぇ!? だ、大丈夫よ。別にあの男たちの裸を見て、恥ずかしくなったわけじゃないから!」
「大丈夫なら良かった!」
※―※―※
「馬車はここまでね。あとは歩きましょう」
「うん! お馬さんたち、待っててね」
「「ブルルル!」」
野営を挟みながら二日間移動した後、たくさん水を飲まないと走れないお馬さんたちは、川が近くにある草原に生えている木に紐をくくりつけて、待っていてもらうことにした。
数時間歩くと、景色は一気に砂漠へと変わった。
「暑い……」
「こればっかりは仕方がないわね……」
生まれて初めて感じる凄まじい熱気。
「神さま! お願いします! 涼しくして下さい!」
僕が〝お祈り〟すると。
「涼しい~!」
「……めっちゃ便利よね、〝お祈り〟……」
僕たちの身体は、冷気に包まれた。
ちなみに、「お水を下さい!」って〝お祈り〟すると、僕の指先から水が出てくるんだ!
神さま、ありがとうございます!
※―※―※
夜になり、野営して、更にそれをもう一回繰り返して。
合計二日間歩いた後。
「あ! 見えた!」
「あれね」
エルニコス村に到着した。
元々お姉ちゃんと、「四天王の居場所のヒントは特にないから、まずは村に行く」という話をしていたのだ。
※―※―※
「ようこそ、おいで下さった」
ニコニコと出迎えてくれた村の人たちは、何故かほぼ全員が、お爺ちゃんかお婆ちゃんだった。
「は、はじめまして。わ、私は、リンジー」
「はじめまして! 僕はルドだよ!」
多分僕と同い年くらいの女の子が、一人だけいた。
黒髪セミロングヘアで褐色の、大人しそうな可愛い子だ。
「砂漠は暑いし、雨が降らないし、大変だよね?」
「だ、大丈夫。さ、〝砂漠神さま〟がいるから」
リンジーちゃんがはにかむ。
彼女が言うには、砂漠神さまが時々雨を降らせてくれるおかげで、砂漠でも何とか生活していけるらしい。
「し、四天王? ヴィ、ヴィシャススコーピオン? し、知らない。ご、ごめんなさい、ル、ルドくん」
「儂らも知らんのう。お力になれず、すまんのう」
リンジーちゃんも他の村の人たちも、首を振った。
※―※―※
「どこにいるんだろう?」
「見つからないわね……」
村を後にした僕たちは、二時間ほど周囲を歩いてみたものの、何の手掛かりも得られなかった。
「一度村に戻ってみましょう。もう一度話を聞いたら、何か分かるかもしれないわ」
「うん、分かった!」
再び訪れた村には。
「あれ? リンジーちゃんは?」
少女の姿がなかった。
首を傾げる僕に、村の人たちが答える。
「あの子は、砂漠神さまのもとに行ったのじゃ。雨を降らせてもらうために」
「え?」
良く分からないけど、なんだかすごく嫌な予感がする。
「その砂漠神さまの見た目を教えてもらっても良いかしら?」
「………………」
お姉ちゃんの問いに、村人たちは答えず、俯く。
「若い人ばかりがどんどんいなくなる村……〝生贄〟として捧げてきたってことかしら?」
「!」
村人たちの表情が変わった。
「し、仕方が無かったのじゃ! そうでもしないと、儂ら全員が殺されてしまう!」
「そ、そうじゃ! それに、雨が降らなければ、生きていくことすら出来ないのじゃから!」
僕は、叫んだ。
「リンジーちゃんはどこに行ったの? 教えて!」
「………………」
でも、誰も教えてくれない。
「もういい! 自分たちで探すから!」
僕たちは、村の外に出た。
「神さま! お願いします! リンジーちゃんの居場所を教えてください!」
僕の視界に、光のルートが示される。
「見えた! あっち!」
「分かったわ! 急ぐわよ!」
歩くのが遅い僕をお姉ちゃんが荷物ごと抱っこして、すごいスピードで走っていった。
※―※―※
「リンジーちゃん!」
「!」
いくつか大きな岩がある場所。
そこに、祭壇みたいな岩があって、リンジーちゃんがその上に横たわっていた。
「ル、ルドくん……」
彼女の瞳から、大粒の涙が流れる。
「スココココ!」
「「!」」
背後にある一番大きな岩のかげから現れたのは、巨大な蠍だった。
「国軍でも来たかと思ったら、拍子抜けスコ。あんたら誰スコ?」
お、大きい……! こ、怖い……!
な、涙が出て来ちゃう……!
で、でも……!
「ぼ、僕はルド! 冒険者だ! ……ぐすっ……四天王だな? そ、その子を離せ!」
「スココココ! 恐怖で泣いてるスコ! 無理するなスコ!」
ううっ……
「おいらはヴィシャススコーピオン! あんたが言うように、四天王が一人スコ!」
「な、なんでこんなことするんだ!」
「なんで? 楽しいからスコ! 人間どもに神さま扱いさせるのも! 生贄を生きたまま喰うのも! 最高スコ!」
お姉ちゃんが、「外道ね!」と、怒りで顔を歪める。
「ああ、あんたら全員殺す前に、良いこと教えておいてやるスコ」
「良いこと?」
「雨が降らないようにしてるのも、全部おいらの仕業スコ!」
「「!?」」
「そんなことも知らずに、人間どもは、『砂漠神さまのおかげで~』とか、『ありがたや~』とか言って、感謝しながら生贄を捧げるスコ! 滑稽過ぎて大爆笑スコ! スココココ!」
リンジーちゃんが「そ、そんな……ひ、ひどい……! そ、それじゃあ、お、お父さんと、お、お母さんは、い、一体何のために!?」と唇を噛む。
「酷い? まだまだ酷くないスコ。だって、あんたにとって本当に〝酷い〟っていうのは、今からこうやって生きたまま喰われることスコから!」
ヴィシャススコーピオンの巨大な鋏が、リンジーちゃんに迫る。
「やめろ!」
必死に走るけど、僕の足じゃ間に合わない。
「リンジーちゃん!」
僕の叫び声が響いた直後。
「スコ!?」
ヴィシャススコーピオンの鋏が、空を切った。
見ると、一瞬で距離を詰めたお姉ちゃんが、リンジーちゃんを救出、距離を取っていた。
「なかなかやるスコ」
そうつぶやいたヴィシャススコーピオンの尻尾が、反り返ったまま頭上で不気味に揺れる。
「でも、おいらの尻尾は、鋏よりもずっと速いスコ!」
「!」
高速で尻尾が伸びて、お姉ちゃんたちに襲い掛かる。
「しまっ――」
「スココココ! 死ねスコ!」
毒針が刺さる寸前。
キン
「スコ!?」
何とか駆け付けた僕は、彼女たちを庇うことに成功した。
「え? なんであんた、毒針が刺さらないスコ?」
「〝お祈り〟したから! 君と違って、本物の神さまに!」
「何訳分からないことほざいてるスコ!? 〝目ん玉〟に毒針が刺さらないって、意味分からないスコ! 岩でも貫く毒針なのに!」
「〝お祈り〟のおかげで、当たらなかったから!」
「いやいや、当たってるスコ! 何なら今この瞬間も当たってるスコ! ほら、キンキンキンって! いや、キンキンキンって何スコ!? 目ん玉が出して良い音じゃないスコ!」
「当たり所が良かったから!」
「目ん玉の〝良い当たり所〟って、どこスコ!?」
「ここからが本番だ! 行くよ!」
「行くよじゃないスコ! 無視するなスコ!」
こうして、僕らと四天王ヴィシャススコーピオンの戦いが始まった。
「くすっ。ありがとう」
ダンジョンから脱出した僕たちは、一時間ほど歩いて、オースバーグ王国の王都ロマノシリングへと戻り、まずは冒険者ギルドに向かった。もう日が落ちかけているけど、ギリギリまだ開いていると思う。
冒険者ギルドに行く目的は、僕がシュウキさんたちに殺され掛けたことを伝えるためだ。
やっぱり悪いことをする人がいたら、ちゃんと言わないといけないよね!
「お姉ちゃんも言う?」と聞くと、「私は色々質問されて王女だということがバレるとマズいから、報告しないでおくわ」と答えた。
「いい、ルド君? 私はメアリーという偽名で冒険者登録してあるから。マリアっていう名前で呼んだりしちゃダメよ? ここでは、王女じゃなくて、一般市民だからね?」
「うん、分かった!」
受付で事情を話すと、ギルド長さんの部屋に案内された。
「なるほど。それはさぞ辛かっただろう」
「うん。でも、お姉ちゃんと会えたから、大丈夫!」
ギルド長さんは、「勇者たちには改めて話を聞き、何らかの処罰を与えることとしよう。教えてくれて感謝する」と言ってくれた。
「あと、お姉ちゃんは、マリアじゃなくてメアリーっていう名前だから! 王女じゃなくて、一般市民だから!」
「ルド君!?」
僕がお姉ちゃんに言われた通りにして、えっへん、と胸を張っていると、ギルド長さんが、お姉ちゃんをじっと見詰めた。
「……そちらの女性の方。失礼だが、顔を見せてもらっても良いか?」
「い、いえ、その……私は、〝他人に顔を見られると死んでしまう〟という病気でして……」
「なんと。それは大変だな」
マントのフードで顔を隠したお姉ちゃんが、顔を背ける。
「お姉ちゃん、病気なの? 大丈夫?」
「平気よ。あと十分くらいしたら治るから」
「本当? 良かった!」
心配になって胸がキュッとしたけど、お姉ちゃんは僕の耳元でそう囁いてくれた。
※―※―※
冒険者ギルドを出た後。
「ルドく~ん? 私の素性を隠そうとしてくれてありがとうね~。でも~、今度からは、余計なことは言わないでくれるかな~?」
「うん、分かった!」
お姉ちゃんが、笑顔で『ありがとう』って言ってくれた!
これからもこの調子で頑張ろう!
※―※―※
「ここ、初めて乗った!」
「くすっ。御者台って言うのよ」
夕べはもう遅かったので、お姉ちゃんと一緒に宿に泊まって、お姉ちゃんと一緒にベッドで寝た。
そして今朝、僕たちは二頭立ての馬車を買って、二人で街道を通って、南へと向かっている。
オースバーグ王国は東西南北に一ヶ国ずつ別の国と接しているんだけど、南にあるのがヴァウスデラリア帝国で、帝都マルグストンが最初の目的地だ。
もう泣かないって、強くなるんだって決めた僕は、色々挑戦してるんだ。
夕べも今朝も筋トレをしたし、今はこうして御者台にも乗ってる!
お姉ちゃんの膝の上に乗った僕は、お姉ちゃんと一緒に手綱を握って、ワクワクしていた。今僕は、お馬さんに走ってもらって、旅をしてるんだ!
※―※―※
数日掛かるとのことで、僕たちは途中で何回か野営した。
「でね、神さまが言うには、神さまは、『極悪人轢き殺しウィーク』、通称〝Gウィーク〟に、無人トラックを操ってガンガン犯罪者たちを殺していたら、勢い余ってたまたま近くにいた僕も間違って轢いてしまったんだって。だから、『お詫びに特別な転生をプレゼントしよう』って言われて、転生したんだ」
「あなたの世界、なんかとんでもないことになってるわね……。っていうか、『間違って轢いた』て……」
お姉ちゃんは、他の異世界転生者から〝自動車〟の話を聞いたことがあるから、トラックのことも分かるみたいだ。
※―※―※
「やあああああああああ!」
「「「「「ギャアアアアアアアア!」」」」」
お姉ちゃんは、すごく強い!
途中でゴブリンが六匹出て来て、道を通せんぼしていたんだけど、「大丈夫よ。そのままで良いから。手綱をしっかり握っててね」って言って僕を膝から下ろした彼女は、跳躍して馬車前に着地。
と同時に、再び跳躍。抜剣したかと思うと、次の瞬間には、ゴブリンは全て一刀両断されていた。しかも、馬車が通りやすいように、死体は道の左右に吹っ飛んでいった。
ブン、と振って剣についた血を落としたお姉ちゃんは、剣をしまいつつもう一度跳躍すると、御者台に戻ってきた。
「ただいま」
「すごーい! カッコいー!」
「くすっ。ありがとう」
※―※―※
「着いたー!」
「やっとね」
オースバーグ王国を出てから六日後。
僕たちは、ヴァウスデラリア帝国の帝都マルグストンに到着した。
見た目は、オースバーグ王国と違って、アラビアンな感じ!
ここまではヴァウスデラリア帝国の北部だったから、結構緑豊かな感じだったけど、ここから南にいくと、どんどん砂漠っぽくなっていくみたいだ。
「ルドです! はい、どうぞ!」
「ありがとうな、坊主」
城門前にいた二人の衛兵さんに、身分証として冒険者カードを提示。
「ん? これは……?」
「あ、私のもどうぞ。あと、通行料も」
「おお! S級! なら良いか!」
僕の冒険者カードは、ステータス画面と同じように、LV以外の部分が読めなくなっているから、衛兵さんが怪訝な表情を浮かべたけど、お姉ちゃんがS級の冒険者カードを見せながら通行料を払ったら、中に入れてもらえた。
「南部へ続く街道で、また盗賊団が出たらしいぞ」
「モンスターの被害もあるってのに、勘弁して欲しいよな」
まずは馬車を停めておける宿を確保した僕たちは、そんな道行く人たちの会話を聞きつつ、歩いて冒険者ギルドへと向かう。
「旅をするにはお金が要るわ。まずは、クエストや依頼をこなして、お金を貯めましょう」
「うん、分かった!」
ということで、お金を稼ぐために来たのだ。
「え、S級!? どうぞ、こちらへ!」
お姉ちゃんの冒険者カードを見た受付嬢さんは、目を見開くと、ギルド長さんの部屋へと案内してくれた。
そして、ギルド長さんは、「まさかS級の方に来て頂けるとは! どうぞ、こちらへ」と言って、何故か外に案内してくれた。
そこには馬車があり、理由も分からず乗せられた僕たちは。
「よくぞ来てくれた、旅の冒険者たちよ!」
気付くと、頭にターバンを巻いた皇帝さまと謁見していた。
「な、なんでこんなことに!? 目立ちたくないのに……しかも、一度お会いしたことがある方だし……」
さすがに皇帝さまの前だと、フードを被ったままという訳にはいかないお姉ちゃんは、顔を青くする。
よ~し!
ここは、僕の出番だ!
「皇帝さま! お姉ちゃんは、マリアじゃなくてメアリーっていう名前だから! あと、王女じゃなくて、一般市民だから!」
「ルド君!?」
思わず立ち上がって胸を張ってしまった僕は、「あ」と気付いて、再び片膝をついた。
「ん? その顔……どこかで会ったことがあるだろうか?」
「い、いえ。一度もございません……」
「そうか」
皇帝さまがお姉ちゃんをじっと見つめたけど、バレなかったみたい!
良かった!
「まぁ良い。それよりも、お前たちに頼みがあるのだ。魔王軍四天王の一人、ヴィシャススコーピオンを倒して欲しいのだ」
なんか、強そう……!
確か四天王って、二年前に復活した魔王の部下の中で、一番強い人たちだよね?
怖いな……大丈夫かな……?
心配になっちゃったけど、お姉ちゃんが、
「勿論です。喜んで引き受けさせて頂きます」
と自信満々に言ったので、ちょっとだけ安心した。
そうだ、お姉ちゃんはすごく強いから!
きっと大丈夫だ!
でも、僕も出来るだけ頑張ろう!
※―※―※
僕たちは、今度は自分たちの馬車に乗って、帝都の南へと向かった。
砂漠地帯にエルニコスという村があって、その近くでヴィシャススコーピオンは活動しているみたいだ。
「ヒャッハー!」
「持ち物全部置いていけ!」
「勿論馬車もだ!」
「服も脱げよ!」
途中で、盗賊団が現れた。
十人くらいいる。
カラフルな髪の毛がみんな逆立っていて、真っ黒な服で、筋肉がすごくて。
すごく怖そうな見た目をしている。
僕が震えていると、お姉ちゃんが「大丈夫」と言って跳躍。
盗賊団の目の前に着地した。
「お? 姉ちゃん、俺たちの前でストリップショーしてくれんのか?」
「ギャハハハハ! 良いね! 色っぽく踊ってくれよ! そしたら命だけは勘弁してやるからよお!」
お姉ちゃんが、抜剣すると。
「悪いけど、ストリップショーするのはあなた達の方よ」
「あ? 何言って――」
盗賊団全員の服が細切れになり、全員裸になった。
「「「「「きゃあああああああ!」」」」」
「「「「「いやああああああん!」」」」」
汚い悲鳴を上げながら、男たちは逃げていった。
「全く。困った奴らね」
「お姉ちゃん、顔が真っ赤だよ? 大丈夫?」
「ふぇ!? だ、大丈夫よ。別にあの男たちの裸を見て、恥ずかしくなったわけじゃないから!」
「大丈夫なら良かった!」
※―※―※
「馬車はここまでね。あとは歩きましょう」
「うん! お馬さんたち、待っててね」
「「ブルルル!」」
野営を挟みながら二日間移動した後、たくさん水を飲まないと走れないお馬さんたちは、川が近くにある草原に生えている木に紐をくくりつけて、待っていてもらうことにした。
数時間歩くと、景色は一気に砂漠へと変わった。
「暑い……」
「こればっかりは仕方がないわね……」
生まれて初めて感じる凄まじい熱気。
「神さま! お願いします! 涼しくして下さい!」
僕が〝お祈り〟すると。
「涼しい~!」
「……めっちゃ便利よね、〝お祈り〟……」
僕たちの身体は、冷気に包まれた。
ちなみに、「お水を下さい!」って〝お祈り〟すると、僕の指先から水が出てくるんだ!
神さま、ありがとうございます!
※―※―※
夜になり、野営して、更にそれをもう一回繰り返して。
合計二日間歩いた後。
「あ! 見えた!」
「あれね」
エルニコス村に到着した。
元々お姉ちゃんと、「四天王の居場所のヒントは特にないから、まずは村に行く」という話をしていたのだ。
※―※―※
「ようこそ、おいで下さった」
ニコニコと出迎えてくれた村の人たちは、何故かほぼ全員が、お爺ちゃんかお婆ちゃんだった。
「は、はじめまして。わ、私は、リンジー」
「はじめまして! 僕はルドだよ!」
多分僕と同い年くらいの女の子が、一人だけいた。
黒髪セミロングヘアで褐色の、大人しそうな可愛い子だ。
「砂漠は暑いし、雨が降らないし、大変だよね?」
「だ、大丈夫。さ、〝砂漠神さま〟がいるから」
リンジーちゃんがはにかむ。
彼女が言うには、砂漠神さまが時々雨を降らせてくれるおかげで、砂漠でも何とか生活していけるらしい。
「し、四天王? ヴィ、ヴィシャススコーピオン? し、知らない。ご、ごめんなさい、ル、ルドくん」
「儂らも知らんのう。お力になれず、すまんのう」
リンジーちゃんも他の村の人たちも、首を振った。
※―※―※
「どこにいるんだろう?」
「見つからないわね……」
村を後にした僕たちは、二時間ほど周囲を歩いてみたものの、何の手掛かりも得られなかった。
「一度村に戻ってみましょう。もう一度話を聞いたら、何か分かるかもしれないわ」
「うん、分かった!」
再び訪れた村には。
「あれ? リンジーちゃんは?」
少女の姿がなかった。
首を傾げる僕に、村の人たちが答える。
「あの子は、砂漠神さまのもとに行ったのじゃ。雨を降らせてもらうために」
「え?」
良く分からないけど、なんだかすごく嫌な予感がする。
「その砂漠神さまの見た目を教えてもらっても良いかしら?」
「………………」
お姉ちゃんの問いに、村人たちは答えず、俯く。
「若い人ばかりがどんどんいなくなる村……〝生贄〟として捧げてきたってことかしら?」
「!」
村人たちの表情が変わった。
「し、仕方が無かったのじゃ! そうでもしないと、儂ら全員が殺されてしまう!」
「そ、そうじゃ! それに、雨が降らなければ、生きていくことすら出来ないのじゃから!」
僕は、叫んだ。
「リンジーちゃんはどこに行ったの? 教えて!」
「………………」
でも、誰も教えてくれない。
「もういい! 自分たちで探すから!」
僕たちは、村の外に出た。
「神さま! お願いします! リンジーちゃんの居場所を教えてください!」
僕の視界に、光のルートが示される。
「見えた! あっち!」
「分かったわ! 急ぐわよ!」
歩くのが遅い僕をお姉ちゃんが荷物ごと抱っこして、すごいスピードで走っていった。
※―※―※
「リンジーちゃん!」
「!」
いくつか大きな岩がある場所。
そこに、祭壇みたいな岩があって、リンジーちゃんがその上に横たわっていた。
「ル、ルドくん……」
彼女の瞳から、大粒の涙が流れる。
「スココココ!」
「「!」」
背後にある一番大きな岩のかげから現れたのは、巨大な蠍だった。
「国軍でも来たかと思ったら、拍子抜けスコ。あんたら誰スコ?」
お、大きい……! こ、怖い……!
な、涙が出て来ちゃう……!
で、でも……!
「ぼ、僕はルド! 冒険者だ! ……ぐすっ……四天王だな? そ、その子を離せ!」
「スココココ! 恐怖で泣いてるスコ! 無理するなスコ!」
ううっ……
「おいらはヴィシャススコーピオン! あんたが言うように、四天王が一人スコ!」
「な、なんでこんなことするんだ!」
「なんで? 楽しいからスコ! 人間どもに神さま扱いさせるのも! 生贄を生きたまま喰うのも! 最高スコ!」
お姉ちゃんが、「外道ね!」と、怒りで顔を歪める。
「ああ、あんたら全員殺す前に、良いこと教えておいてやるスコ」
「良いこと?」
「雨が降らないようにしてるのも、全部おいらの仕業スコ!」
「「!?」」
「そんなことも知らずに、人間どもは、『砂漠神さまのおかげで~』とか、『ありがたや~』とか言って、感謝しながら生贄を捧げるスコ! 滑稽過ぎて大爆笑スコ! スココココ!」
リンジーちゃんが「そ、そんな……ひ、ひどい……! そ、それじゃあ、お、お父さんと、お、お母さんは、い、一体何のために!?」と唇を噛む。
「酷い? まだまだ酷くないスコ。だって、あんたにとって本当に〝酷い〟っていうのは、今からこうやって生きたまま喰われることスコから!」
ヴィシャススコーピオンの巨大な鋏が、リンジーちゃんに迫る。
「やめろ!」
必死に走るけど、僕の足じゃ間に合わない。
「リンジーちゃん!」
僕の叫び声が響いた直後。
「スコ!?」
ヴィシャススコーピオンの鋏が、空を切った。
見ると、一瞬で距離を詰めたお姉ちゃんが、リンジーちゃんを救出、距離を取っていた。
「なかなかやるスコ」
そうつぶやいたヴィシャススコーピオンの尻尾が、反り返ったまま頭上で不気味に揺れる。
「でも、おいらの尻尾は、鋏よりもずっと速いスコ!」
「!」
高速で尻尾が伸びて、お姉ちゃんたちに襲い掛かる。
「しまっ――」
「スココココ! 死ねスコ!」
毒針が刺さる寸前。
キン
「スコ!?」
何とか駆け付けた僕は、彼女たちを庇うことに成功した。
「え? なんであんた、毒針が刺さらないスコ?」
「〝お祈り〟したから! 君と違って、本物の神さまに!」
「何訳分からないことほざいてるスコ!? 〝目ん玉〟に毒針が刺さらないって、意味分からないスコ! 岩でも貫く毒針なのに!」
「〝お祈り〟のおかげで、当たらなかったから!」
「いやいや、当たってるスコ! 何なら今この瞬間も当たってるスコ! ほら、キンキンキンって! いや、キンキンキンって何スコ!? 目ん玉が出して良い音じゃないスコ!」
「当たり所が良かったから!」
「目ん玉の〝良い当たり所〟って、どこスコ!?」
「ここからが本番だ! 行くよ!」
「行くよじゃないスコ! 無視するなスコ!」
こうして、僕らと四天王ヴィシャススコーピオンの戦いが始まった。
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