絶望の魔王

たじ

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 ……その日俺は深夜のアルバイトを終えうっすら明るくなってきた街並みに目を細めながら、(……もうこんなクソみたいな人生辞めてやる…。)……そう、決意した。


 俺の住んでいる二階建てのアパートに戻り一服した後、俺は淡々と玄関のドアノブに工事用のロープを巻き付ける。
 「……これでやっとお前とも再会できるな、百合江……。」決してほどける事の無いよう、慎重に力強く自分の首にもロープを巻き付ける。

 ………そうして俺はこの世界からようやく解き放たれたのだ……ーーー。


 

……………………。暗い。全くなにも見えない。一体ここはどこなんだ。ひょっとしなくても、ここが死後の世界なのか?

 ……なんだか、頭が妙にズキズキする。死んだ筈なのになぜ頭痛が………?ゆっくりと身を起こす。

 真っ暗闇だった世界が少しずつ白い光に包まれてゆく。ーーーーーーーっっっ!!!

 …………………。何という事だろう……。
嘘だろ……。目の前にはだだっ広い荒野が広がっており、見たことのない生物が蠢いている。

 ……ちょうどファンタジー小説やゲームなんかで出てくるスライムに似ているが、尾の方に凶悪な鋭いトゲのようなものが生えており、その体はスライムとは違って毒々しい黄色に染まっている。

 「▽▲◎◆★☆#└」何やら超音波のような音を発したか、と思ったとたんそれは俺目掛けて凄い勢いでポンポン走ってきた。

 (…やられる…!!)覚悟して目を瞑ったその時、
 「アァル・リ・ガイゼム!」人の声がして目を開けると、四本足の狼に似た黒い生物が先程俺に襲いかかってきたスライムのような化け物を食べている。スライムを食べ終わると満足げに「……アォーン!!」と一声鳴き、狼はフッとその場から姿を消した。

 「……大丈夫だったかい?お兄さん。」そう俺に声をかけてきたのは、皮の鎧を着込み茶色い髭をボーボーに生やした中年の男だった。
 
   「…ダメだよ。こんな所で一人でいるなんて。この辺りはモンスターも手強い奴が多いんだからさ。」髭の男が俺に続ける。

 ……先程スライムのような生物を召喚したモンスターで倒したのはこの男なのか?

 「……すみません……。」俺は突然こんなファンタジーな世界に来てしまった為、どう答えて良いのか良くわからない。

 「……取り敢えずこの辺は危険だから街まで僕が送っていこう。僕はラボス。えぇと、君名前は?」

 「……あ、楠春人って言います。」

 髭の男はちょっと考えたかと思うと、「ふぅ~ん。君かなり変わった名前なんだね。わかった。ハルトって呼ぶことにするよ。」とにっこり微笑みかけた。

 俺は取り敢えずこの辺りの地理には疎いよそ者だということを男に告げた。すると男は顎をさすりながら、

 「……じゃあ君はこの辺りの出身じゃないんだね?ふぅ~ん、だからか……。」と得心したといった顔で一つ頷いた。

 「……この辺りはそんなに危険な場所なんですか?」と俺が尋ねると、

 「うん、まぁね。このすぐ近くにある滅びの森って場所から少し行くと凶悪なモンスター達の親玉の居城があるんだよ。」

 「……それって魔王ですか?」何て事だ。本当に馬鹿げているけど俺はどうやら異世界に転生してしまったのか……?元の姿のままで?

 髭の中年は目を丸くして、
 「よく知っているじゃないか。その割にはこの辺が魔王の城の近くと気づかないなんて……。
……まぁ、いいや。とにかくここから徒歩で2日程の所にガーマインというそこそこ大きな街があるからそこまで僕が送っていってあげるよ。さあ、じゃあ南西を目指すことにしよう。そちらに街があるからね。」
 そう言うと前方の街の方向を指差してから歩きだした。俺もその後に遅れて付いて行った……。




 
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