絶望の魔王

たじ

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 ラボスという髭の男について、夜はキャンプをしつつ歩くこと二日で周囲を高い塀に囲まれた大きな都市に着いた。

 …ガーマインに到着するまでに、ラボスには説明が面倒なので自分は記憶喪失でありどこの誰かすら思い出せない、という作り話をしていた。

 気の毒そうな顔で、「……それは大変だな…。…もし良かったらでいいんだけど、丁度荷物持ちを探してたんだ。荷物持ちとしてしばらくの間僕の手伝いをしてくれないか?記憶が戻るまでってことでさ。」
 と、ラボスの方から提案された。 

 この人なら親切そうだし、まだ異世界に来たばかりの俺にとって世話になるのに格好の人物だ。
 …一も二もなくその提案に俺は乗ることにした。

 「これからよろしくお願いします。ラボスさん。」
 「こちらこそよろしくね。ハルト。」
 俺達はがっちりと握手を交わした…。 


 要塞都市ガーマイン。魔王軍側の人間国家に対する侵略を食い止める最前線の基地として、それは存在していた。
 …およそ百年ほど前、それまでは統一した意思を持たなかったモンスター達が突如として群れをなし、次々と人間達の居住区を襲い出した。
 
 そのモンスター達の猛攻を防ぐべく、各都市で以前にはなかった堅牢な石造りの防壁が築かれ、そしてモンスター達を撃退すべく、指導者である魔王の居城、その近くに人類の最後の砦となるガーマインが建造されたのだった。

 「うわぁ!!ありゃあ凄い!!」
 30mはあろうかという、巨大な門をくぐり抜けまず目に映ったのは遥かに離れた大広場、その脇に停泊している巨大な飛行船だった。

 「…世界にただ一つだけ存在する飛空挺ホワイト・ラグーンさ。要塞都市ガーマインの切り札って奴だね。」

 「…船の側面からは魔導騎士団お得意のマジックバレットが敵に向かって炸裂する。…最も精度はまだ今一つみたいだけどね。」
 なんとなく眉をひそめた感じで、ラボスが俺に説明してくれる。  

ラボスと魔導騎士団とは何か因縁があるのだろうか?…出会ったばかりで立ち入った話を聞くわけにも行かないな。

 巨大な門をくぐった入口の辺りから大広場のその先まで、ずらーっと露店から独立した店舗まで色々な物品を売る店が軒を連ねている。

 「…ちょっとここで待ってて貰えるかい?手配するマジックアイテムがあってね。その手続きをしなきゃ。」
 そう言ってラボスが傍らの二階建ての石造りのくりの建物に入って行く。

 俺はその場で手持ち無沙汰に立ち尽くしていた。するとラボスが入った建物からラボスと誰かが言い合うような声が聞こえる。

 「……だから、違うって………それは……お前はまだそんな………………」

 「だから貴様は甘い……そんな体たらくで……我ら魔導騎士団の面汚しが……」

 木製のドアに阻まれ声が不明瞭で良く聞こえない。

 ……しばらくしてラボスが不機嫌な様子で、バタンっと乱暴にドアを閉めて出てきた。

 「……何かあったんですか?誰かとやりあっていたみたいだけど。」俺が尋ねると、

 「…あぁいやいや、ちょっと昔の知り合いに出くわしちゃってね。大丈夫、別にいつもの事っていうか。」歯切れ悪く苦笑いを浮かべるラボス。

 そのすぐ後から白いローブ姿にキラキラと光る宝石作りのネックレスをはめ、金の癖っけのある髪に鋭角的なちょび髭を蓄えた、ラボスと同年代位の男が周囲を威圧するようにギョロリとした目で左右を伺いながら出てきた。

 「…まだいたのか。この人殺しが!!」
束の間、ラボスと白ローブの男が鋭く睨み合う。…しかし、すぐにラボスは視線を逸らせ
俺に、「…行こうか。」と言ってさっさと歩き去ってゆく。慌てて俺はその後を追った。
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