暴虐の果て

第３話

　ポケットを探ると、財布はなくなっていたが携帯はそのまま入っていた。携帯の電源を入れる。

　まず、この場所の位置を確認したい。しかし、電波が全く入らない。地下深くか、それとも電波が遮断されるような特殊な建物なのだろうか。

　―そのときだった。通風口の上からピアノの物悲しい旋律が流れてくる。

　目の前に一瞬ノイズが走り、―目の前には、白い装束の女性がおり、切羽詰まった様子で彼女は、「早く逃げるの！何も考えてはダメ！解った？」「早く、早く！ここから外へ逃げるの！」と私を急かす。

　落ち葉の積もった地面には金属製の赤茶けた格子状のフタ。その下には鉄製のはしごが続いており、中は真っ暗で何も見えない。

　私は女性に手を引かれ、地下へと続く梯子を降り始める。真っ暗で何も見えないが、どうやら私の手を引いている女性にはすっかり道がわかっているようだ。

 ……しばらく走ると、正面の方から一筋光が差してきたものの、今度は暗闇の代わりに、霧に視界を覆われて見辛くなってきた。
　
　「ここから逃げるの！何も考えてはダメ！いいわね？」カタカタ。カタカタカタ。何処からか機械のような駆動音がする。
　
　「アイツが来る！走りなさい！決して後ろを振り向かないこと！！」女性の言う通り、私は脱兎の如く走る。走る。…走る。
　
　後ろからは最前の女性だろうか？女が絶叫する声が闇に響く。しばらく走ると、視界が開けて――。

　目の前には赤色灯が回転するパトカーが視界一杯に並んでいる。無線で連絡をしている警官逹。そのうちの一人が私に気づく。

　「君、大丈夫か？もう、大丈夫だ！」一人の警官が屈んで私の肩を抱く。無線で別の警官が、「本部へ連絡。連れ去られた子供を発見。もう一人については依然行方不明。」などと、どこかへ連絡しているようだ。

　新聞のアップが視界に広がる。"ミンチ事件、犯人の異常性！！警察は犯人の所持していた動画ファイルと現場の状況から、被害者松本真来さん(26)は殺害された後、精肉用のミキサーでミンチにされ、犯人に食べられた、との見解を発表し……"

　"犯人は意味不明の遺書を残しており、自ら家畜用の飼料作成に使われていたミキサーに飛び込んだ、とのことで……"

　"なぜ犯人の犯行は発覚したのかー犯人は何度かに分けて動画サイトに動画を撮影・投稿しており、本当に殺人を犯した証拠として、自宅アパートーー市ーー区ーーーーーーーアパートーー号室(この部分のみかすれていてよく判読できない)に凶器、遺書、動画の保存してあるパソコンなどを残した状態で、自ら警察に通報、そこで警察もようやく重い腰を上げ、家宅捜索に踏み切り一本の動画を発見。その内容から犯人の居場所を特定し……"

　…そこで私の意識は闇へ沈んでいった。