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第二章 王子の葛藤
1 嫉妬
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ラビオナは初めから完璧な淑女だった。
婚約者だと紹介されたのは、俺が九歳になってすぐだ。完璧な微笑みをたたえて、何をしても何を言っても表情を変えない。
「ラピュオナ!」
初めて紹介された日である。二人で王宮の庭園を探索している時に、俺は思いっきり噛んだ。それでもラビオナの表情は何一つ変わらない。俺はついそれにカッとした。
「言いにくい名前だなっ! お前は今日からラニィだっ! わかったなっ!」
「かしこまりました。メーデル王子殿下」
ラビオナは自分と同じ年のはずなのに、完璧なカーテシーで完璧に答えた。俺はその姿に狼狽え、その先何を話していいかわからなくなった。
それからは定期的な二人でのお茶会でも会話はほとんどなく、すぐに解散。
そう。俺たちは完璧な政略結婚相手だ。
〰️ 〰️ 〰️
学園に入学した。
ラビオナは完璧な成績で首席だ。俺は二位だった。それなのに王族ということで俺が新入生代表挨拶をした。
もし、俺が二十位あたりなら、気にしなかったのかもしれない。
ラビオナは目の上の……。
嫉妬なのだろうな……。
だが、気持ちは消すことはできなかった。
〰️ 〰️ 〰️
シエラとはダンスの授業で出会った。王立学園は成績順でAクラスからFクラスまであるのだが、勉学の成績だけでなくダンスもそのクラス分けに沿っていることが多いそうだ。
Aクラスには高位貴族が多い。高位貴族の方がダンスの家庭教師をつけたり、パーティーを多く催すから、Aクラスにはダンスが得意な者が多くなるのかもしれない。
そういう訳で、ダンスの授業は、AクラスとFクラスが合同で、Aクラスの男子はFクラスの女子を相手にすることになっていた。上手いヤツと組んだ方が上手くなるらしい。
偶然に俺とシエラはパートナーになった。
ピンクの髪をフワフワさせて、青い瞳でジッと見つめてきた。そして、俺と目が合った瞬間、真っ赤になる。目を潤ませてシエラは呟いた。
「なんてステキなの……」
俺は確かに容姿には自信がある。パーティーに行けば男女問わず褒めてくるし、頬を染めるご令嬢など腐るほど見てきた。
だが、こんなに感動してくれるのは新鮮だ。
しかし、レッスンが始まると一転。シエラは足元をずっと見て、必死にステップを踏んでいた。
「ブルゾリド嬢。足元を見なくていい。私の顔を見るんだ」
「む、無理です! 殿下のお顔を見たらステップ全部ふっとんじゃいます!」
「プッ!」
あまりの可愛らしい言葉についつい笑顔になってしまう。
「それなら、顔も足も見れなくしてやろう」
俺はかなり密接するようにホールドした。
「キャッ!」
「ほら。私の胸元を見るしかなくなっただろう?」
俺もシエラの頭頂部しか見えないのだが、シエラが少しムッとしたのを感じた。
「殿下のお顔を見ることはできます!」
そういうとシエラは俺の顔を見上げる。この距離で顔を上げられると顔がものすごく接近するのだ。俺は慌ててホールドを元に戻した。
「うふふ。私の勝ちですね!」
シエラの笑顔はとても自然で眩しかった。
Aクラス女子とFクラス男子は隣のレッスン室だ。ダンスで慌てるなんて完璧とは言えないことだから、ラビオナに見られていなくてホッとする。
〰️ 〰️ 〰️
それからシエラとの距離はすぐに近くなった。ダンスの自主練習に付き合ってあげたからだ。
何も完璧にできないシエラといることは俺の心の安らぎになった。
何度か自主練習に付き合った後、俺は下心ありで、学園の近くの小さな屋敷を借りた。
「日曜日にダンスのレッスンをしてやるよ」
シエラは俺の誘いにのった。その日のうちに俺とシエラはそういう関係になった。シエラは初めてではなかった。俺にはラビオナという婚約者がいるから、シエラが初めてでなかったことが罪悪感を弱らせた。
性的快楽は十六歳の俺には刺激的で官能的で魅惑的で……。手離すことができなくなっていった。
〰️ 〰️ 〰️
学園に入学してからは、クラスが同じラビオナとはどうせ毎日会うのだからとさらに接触が減った。
そうすると、ついつい誕生日プレゼントを忘れた。悪循環で、ラビオナから届いた誕生日プレゼントを開けることをためらい、開けないのでお礼の手紙も書けなかった。
小言を言われたくないので、茶会も開かなくなったし、行かなくなった。
それでも、俺は政略結婚としてラビオナと婚姻するものだと思っていた。シエラとは学生時代だけのものなのだと。
何一つ完璧にできないシエラが王妃になれるわけがないことはわかっている。
婚約者だと紹介されたのは、俺が九歳になってすぐだ。完璧な微笑みをたたえて、何をしても何を言っても表情を変えない。
「ラピュオナ!」
初めて紹介された日である。二人で王宮の庭園を探索している時に、俺は思いっきり噛んだ。それでもラビオナの表情は何一つ変わらない。俺はついそれにカッとした。
「言いにくい名前だなっ! お前は今日からラニィだっ! わかったなっ!」
「かしこまりました。メーデル王子殿下」
ラビオナは自分と同じ年のはずなのに、完璧なカーテシーで完璧に答えた。俺はその姿に狼狽え、その先何を話していいかわからなくなった。
それからは定期的な二人でのお茶会でも会話はほとんどなく、すぐに解散。
そう。俺たちは完璧な政略結婚相手だ。
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学園に入学した。
ラビオナは完璧な成績で首席だ。俺は二位だった。それなのに王族ということで俺が新入生代表挨拶をした。
もし、俺が二十位あたりなら、気にしなかったのかもしれない。
ラビオナは目の上の……。
嫉妬なのだろうな……。
だが、気持ちは消すことはできなかった。
〰️ 〰️ 〰️
シエラとはダンスの授業で出会った。王立学園は成績順でAクラスからFクラスまであるのだが、勉学の成績だけでなくダンスもそのクラス分けに沿っていることが多いそうだ。
Aクラスには高位貴族が多い。高位貴族の方がダンスの家庭教師をつけたり、パーティーを多く催すから、Aクラスにはダンスが得意な者が多くなるのかもしれない。
そういう訳で、ダンスの授業は、AクラスとFクラスが合同で、Aクラスの男子はFクラスの女子を相手にすることになっていた。上手いヤツと組んだ方が上手くなるらしい。
偶然に俺とシエラはパートナーになった。
ピンクの髪をフワフワさせて、青い瞳でジッと見つめてきた。そして、俺と目が合った瞬間、真っ赤になる。目を潤ませてシエラは呟いた。
「なんてステキなの……」
俺は確かに容姿には自信がある。パーティーに行けば男女問わず褒めてくるし、頬を染めるご令嬢など腐るほど見てきた。
だが、こんなに感動してくれるのは新鮮だ。
しかし、レッスンが始まると一転。シエラは足元をずっと見て、必死にステップを踏んでいた。
「ブルゾリド嬢。足元を見なくていい。私の顔を見るんだ」
「む、無理です! 殿下のお顔を見たらステップ全部ふっとんじゃいます!」
「プッ!」
あまりの可愛らしい言葉についつい笑顔になってしまう。
「それなら、顔も足も見れなくしてやろう」
俺はかなり密接するようにホールドした。
「キャッ!」
「ほら。私の胸元を見るしかなくなっただろう?」
俺もシエラの頭頂部しか見えないのだが、シエラが少しムッとしたのを感じた。
「殿下のお顔を見ることはできます!」
そういうとシエラは俺の顔を見上げる。この距離で顔を上げられると顔がものすごく接近するのだ。俺は慌ててホールドを元に戻した。
「うふふ。私の勝ちですね!」
シエラの笑顔はとても自然で眩しかった。
Aクラス女子とFクラス男子は隣のレッスン室だ。ダンスで慌てるなんて完璧とは言えないことだから、ラビオナに見られていなくてホッとする。
〰️ 〰️ 〰️
それからシエラとの距離はすぐに近くなった。ダンスの自主練習に付き合ってあげたからだ。
何も完璧にできないシエラといることは俺の心の安らぎになった。
何度か自主練習に付き合った後、俺は下心ありで、学園の近くの小さな屋敷を借りた。
「日曜日にダンスのレッスンをしてやるよ」
シエラは俺の誘いにのった。その日のうちに俺とシエラはそういう関係になった。シエラは初めてではなかった。俺にはラビオナという婚約者がいるから、シエラが初めてでなかったことが罪悪感を弱らせた。
性的快楽は十六歳の俺には刺激的で官能的で魅惑的で……。手離すことができなくなっていった。
〰️ 〰️ 〰️
学園に入学してからは、クラスが同じラビオナとはどうせ毎日会うのだからとさらに接触が減った。
そうすると、ついつい誕生日プレゼントを忘れた。悪循環で、ラビオナから届いた誕生日プレゼントを開けることをためらい、開けないのでお礼の手紙も書けなかった。
小言を言われたくないので、茶会も開かなくなったし、行かなくなった。
それでも、俺は政略結婚としてラビオナと婚姻するものだと思っていた。シエラとは学生時代だけのものなのだと。
何一つ完璧にできないシエラが王妃になれるわけがないことはわかっている。
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