11 / 42
第一章 小麦姫と熊隊長の青春
10 兄の結婚
しおりを挟む
サンドラがあることを思い出して、ロマーナに報告する。
「そういえば!ロマーナさんは、『小麦姫と熊隊長の恋』ってお話、知っていますか?」
「えー!知らないわ、何それ?」
ビアータがサンドラの口を塞いだが、ファブリノとコルネリオも交代で話すので、結局全てをべニートとロマーナに知られることになった。
「熊隊長さん、噂通り、しっかりね!ふふ」
ロマーナは、アルフレードにエールを送った。噂が錯綜しすぎて、どの噂をしっかりすればいいのかわからず、アルフレードは、苦笑いするしかできなかった。
「そうだ、今日は、ビアータちゃんとサンドラちゃんに渡すものがあってさっ!」
元気になったべニートがロマーナに目配せする。ロマーナが、ビアータとサンドラとコルネリオに手紙を渡す。
「再来週、私達の結婚披露宴をやるの。結婚式は、来年、べニートのご実家でやる予定なのだけど、今回は王都の知り合いだけの小さなものよ。」
「教会に宣誓は、昨日してきたんだ。今、家を探しているところさ」
つまり、教会への登録は済ませたということだ。昨日から、二人は実の夫婦だ。
「それは、おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
「僕たちも行っていいんですか?」
「もちろんよ。アル君のお友達じゃないの。是非、楽しんでほしいわ!」
「お金は気にするなよ。手ぶらで来てくれれば充分だ。あっと!クラバットやドレスはやめてくれよ。今日みたいな服でオッケーだからさっ!」
べニートがワハハと笑いながら説明した。
「クスクス、わかりました」
「早くお家が見つかるといいですね」
「そうなんだよぉ。ロマーナの手料理が食べたくさぁ」
べニートが、ロマーナの肩に手をまわした。
「やぁね、普通のものしかできないわよ」
「いや、この前のサンドイッチには、ハーブが聞いてて美味かった!その前のクッキーも美味かったなぁ」
「兄さん、惚気は聞きたくないよ」
アルフレードが止めに入ったが、べニートにはどこ吹く風だ。
「お前のビアータちゃんとの惚気もいつか聞いてやるから、今は俺の惚気を聞いてくれっ!」
そう言って、べニートはアルフレードの肩に手を回し、抱き寄せた。アルフレードは、べニートを押し返すことに必死になっていて、ビアータが可愛らしく頬を染めていることに気が付かない。
「あらあら、ねぇ?」
ロマーナはサンドラを見る。サンドラは大きく頷いた。
「はい…」
女二人だけにわかる会話をしていた。
あんなに並んでいた料理は、ほぼなくなっていた。ビアータとサンドラはとっくにお腹いっぱいであった。
〰️ 〰️ 〰️
べニートとロマーナの披露宴は、小さな食堂を昼から貸し切るアットホームなものだった。ビアータとサンドラとコルネリオは、学園の畑で育てたハーブの寄植えを用意していた。
「わぁ!ステキ!新しいお家のキッチンはとっても明るいの!そこに飾るわね。美味しいスープが作れそうだわ!」
ロマーナは、大変喜んでいた。どうやら、本当に料理上手なようだ。
「そうかなって思って、これは、僕とファブリノからだよ」
アルフレードが渡したのは、真っ白なスープボールが5枚。
「赤ちゃんの離乳食にも使えるでしょう?ハハハ」
ファブリノの冗談に、べニートは大喜びだ。
「おっ!みんな、気が利くなぁ!今日はたくさん食べていけよっ!」
ビアータたちは、アルフレードとファブリノの鍛錬場の友人たちに紹介される。中にはビアータがアルフレードに去年の1学期にプロポーズしていたことを知っている者もいたし、『小麦姫と熊隊長の恋』の噂を知っている者もいた。アルフレードは、からかわれたり、祝福されたりしていた。
小さな空きスペースで、交互にダンスも始まり、食事もお酒も進んでくる。音楽は陽気なものが多く、貴族の舞踏会とは曲もノリも違う。しばらくすれば、5人もすぐに慣れ、ダンスに入るまではできずとも、手拍子や足拍子、拍手などで、充分に楽しい雰囲気を味わえた。
しばらくして、ビアータは、サンドラに一言伝えて、レストルームへ行った。
ビアータがレストルームから出たところで、ビアータは確実に酔っている男性たちにいきなり左右から肩を抱かれた。ビアータは、なんやかんや言っても令嬢なのだ。そのような状況に対応できない。男性が何かビアータに言っているが、ビアータは、青くなるだけで、反応できない。ビアータの顔スレスレで話をしてくる。吐く息は酒臭く、肩に回された手は、やらしい。ビアータはただただ震えていた。サンドラたちの方へと足も進まない。
「僕の連れなんだ!離してくれよっ!」
頭の上から降った声に、ビアータは、泣きたくなった。
アルフレードは、強引に男たちを引き離し、ビアータの手をとってそのまま裏口から外へ出た。昼から始まったパーティーなので、まだ外は明るい。
ビアータの手をとったまま歩くと、そこは小さな公園だった。ベンチと花壇と広場だけの公園。そのベンチに座るが、ビアータが震えていることに気がついたアルフレードは、手を離さずにジッと待った。
ビアータは、震えが止まった頃、アルフレードにお礼を言った。
「席を離れていた僕も悪いんだけど、ああいう場所では、レストルームに一人で行ってはダメだよ。兄さんの知り合いだからって、安心しすぎるのは良くない」
「そうなのね。私ったら何も知らなくて、ごめんなさい」
貴族なのだから知らなくて当然だが、ビアータは、「貴族」を言い訳にしたくはなかった。男爵家なのだ。平民と同じだと言う者もいる。ビアータが好きなロマーナも平民だ。だからこそ、『知らない自分が悪い』と思った。
「謝らなくていいんだ。それに、今回は僕が間に合ったし。ビアータに何もなくてよかったよ。知ればいいだけだ。気にしすぎないでね」
ビアータは、アルフレードの優しい言葉と先程の恐怖が重なって、涙が出てきてしまった。二人で手を繋いだまま、静かに時間は過ぎていった。
ビアータが泣き止んだのを見て、アルフレードが声をかける。
「きっとサンドラが心配しているよ。戻ろうか?」
ビアータは頷き、二人は店に戻る道を歩き出した。二人の手は離れようとしなかった。
アルフレードの心配通り、サンドラたちは、店の入口で待っていた。
「ビアータ!!」
サンドラが走ってきて、ビアータを抱きしめた。アルフレードは、そのタイミングで、ビアータの手を離した。
「兄さんたちに挨拶をしてくるよ」
アルフレードは、店に入るとすぐに戻ってきたが、ロマーナが一緒だった。
「酔っ払いに絡まれたのね!ごめんね、ビアータちゃん!」
ロマーナもビアータを抱きしめる。ビアータはロマーナのお祝いの席で、ロマーナに心配かけたくなかった。
「いえ、大丈夫です。私が何も知らない子供だったから、お祝いの席なのにごめんなさい」
ビアータは、ロマーナに、きちんと謝ってから、笑って見せた。
「そんなこと気にしないで。来てくれてありがとう。またランチしましょうね!」
「「はい!今日はおめでとうございます!」」
ビアータとサンドラは、ロマーナに笑顔を、見せた。
その日の夜、ビアータはアルフレードの暖かくて逞しい手を、アルフレードはビアータの柔らかくて小麦色の働いている手を思い出し、それぞれが、人知れず、眠れない夜となったのだった。
「そういえば!ロマーナさんは、『小麦姫と熊隊長の恋』ってお話、知っていますか?」
「えー!知らないわ、何それ?」
ビアータがサンドラの口を塞いだが、ファブリノとコルネリオも交代で話すので、結局全てをべニートとロマーナに知られることになった。
「熊隊長さん、噂通り、しっかりね!ふふ」
ロマーナは、アルフレードにエールを送った。噂が錯綜しすぎて、どの噂をしっかりすればいいのかわからず、アルフレードは、苦笑いするしかできなかった。
「そうだ、今日は、ビアータちゃんとサンドラちゃんに渡すものがあってさっ!」
元気になったべニートがロマーナに目配せする。ロマーナが、ビアータとサンドラとコルネリオに手紙を渡す。
「再来週、私達の結婚披露宴をやるの。結婚式は、来年、べニートのご実家でやる予定なのだけど、今回は王都の知り合いだけの小さなものよ。」
「教会に宣誓は、昨日してきたんだ。今、家を探しているところさ」
つまり、教会への登録は済ませたということだ。昨日から、二人は実の夫婦だ。
「それは、おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
「僕たちも行っていいんですか?」
「もちろんよ。アル君のお友達じゃないの。是非、楽しんでほしいわ!」
「お金は気にするなよ。手ぶらで来てくれれば充分だ。あっと!クラバットやドレスはやめてくれよ。今日みたいな服でオッケーだからさっ!」
べニートがワハハと笑いながら説明した。
「クスクス、わかりました」
「早くお家が見つかるといいですね」
「そうなんだよぉ。ロマーナの手料理が食べたくさぁ」
べニートが、ロマーナの肩に手をまわした。
「やぁね、普通のものしかできないわよ」
「いや、この前のサンドイッチには、ハーブが聞いてて美味かった!その前のクッキーも美味かったなぁ」
「兄さん、惚気は聞きたくないよ」
アルフレードが止めに入ったが、べニートにはどこ吹く風だ。
「お前のビアータちゃんとの惚気もいつか聞いてやるから、今は俺の惚気を聞いてくれっ!」
そう言って、べニートはアルフレードの肩に手を回し、抱き寄せた。アルフレードは、べニートを押し返すことに必死になっていて、ビアータが可愛らしく頬を染めていることに気が付かない。
「あらあら、ねぇ?」
ロマーナはサンドラを見る。サンドラは大きく頷いた。
「はい…」
女二人だけにわかる会話をしていた。
あんなに並んでいた料理は、ほぼなくなっていた。ビアータとサンドラはとっくにお腹いっぱいであった。
〰️ 〰️ 〰️
べニートとロマーナの披露宴は、小さな食堂を昼から貸し切るアットホームなものだった。ビアータとサンドラとコルネリオは、学園の畑で育てたハーブの寄植えを用意していた。
「わぁ!ステキ!新しいお家のキッチンはとっても明るいの!そこに飾るわね。美味しいスープが作れそうだわ!」
ロマーナは、大変喜んでいた。どうやら、本当に料理上手なようだ。
「そうかなって思って、これは、僕とファブリノからだよ」
アルフレードが渡したのは、真っ白なスープボールが5枚。
「赤ちゃんの離乳食にも使えるでしょう?ハハハ」
ファブリノの冗談に、べニートは大喜びだ。
「おっ!みんな、気が利くなぁ!今日はたくさん食べていけよっ!」
ビアータたちは、アルフレードとファブリノの鍛錬場の友人たちに紹介される。中にはビアータがアルフレードに去年の1学期にプロポーズしていたことを知っている者もいたし、『小麦姫と熊隊長の恋』の噂を知っている者もいた。アルフレードは、からかわれたり、祝福されたりしていた。
小さな空きスペースで、交互にダンスも始まり、食事もお酒も進んでくる。音楽は陽気なものが多く、貴族の舞踏会とは曲もノリも違う。しばらくすれば、5人もすぐに慣れ、ダンスに入るまではできずとも、手拍子や足拍子、拍手などで、充分に楽しい雰囲気を味わえた。
しばらくして、ビアータは、サンドラに一言伝えて、レストルームへ行った。
ビアータがレストルームから出たところで、ビアータは確実に酔っている男性たちにいきなり左右から肩を抱かれた。ビアータは、なんやかんや言っても令嬢なのだ。そのような状況に対応できない。男性が何かビアータに言っているが、ビアータは、青くなるだけで、反応できない。ビアータの顔スレスレで話をしてくる。吐く息は酒臭く、肩に回された手は、やらしい。ビアータはただただ震えていた。サンドラたちの方へと足も進まない。
「僕の連れなんだ!離してくれよっ!」
頭の上から降った声に、ビアータは、泣きたくなった。
アルフレードは、強引に男たちを引き離し、ビアータの手をとってそのまま裏口から外へ出た。昼から始まったパーティーなので、まだ外は明るい。
ビアータの手をとったまま歩くと、そこは小さな公園だった。ベンチと花壇と広場だけの公園。そのベンチに座るが、ビアータが震えていることに気がついたアルフレードは、手を離さずにジッと待った。
ビアータは、震えが止まった頃、アルフレードにお礼を言った。
「席を離れていた僕も悪いんだけど、ああいう場所では、レストルームに一人で行ってはダメだよ。兄さんの知り合いだからって、安心しすぎるのは良くない」
「そうなのね。私ったら何も知らなくて、ごめんなさい」
貴族なのだから知らなくて当然だが、ビアータは、「貴族」を言い訳にしたくはなかった。男爵家なのだ。平民と同じだと言う者もいる。ビアータが好きなロマーナも平民だ。だからこそ、『知らない自分が悪い』と思った。
「謝らなくていいんだ。それに、今回は僕が間に合ったし。ビアータに何もなくてよかったよ。知ればいいだけだ。気にしすぎないでね」
ビアータは、アルフレードの優しい言葉と先程の恐怖が重なって、涙が出てきてしまった。二人で手を繋いだまま、静かに時間は過ぎていった。
ビアータが泣き止んだのを見て、アルフレードが声をかける。
「きっとサンドラが心配しているよ。戻ろうか?」
ビアータは頷き、二人は店に戻る道を歩き出した。二人の手は離れようとしなかった。
アルフレードの心配通り、サンドラたちは、店の入口で待っていた。
「ビアータ!!」
サンドラが走ってきて、ビアータを抱きしめた。アルフレードは、そのタイミングで、ビアータの手を離した。
「兄さんたちに挨拶をしてくるよ」
アルフレードは、店に入るとすぐに戻ってきたが、ロマーナが一緒だった。
「酔っ払いに絡まれたのね!ごめんね、ビアータちゃん!」
ロマーナもビアータを抱きしめる。ビアータはロマーナのお祝いの席で、ロマーナに心配かけたくなかった。
「いえ、大丈夫です。私が何も知らない子供だったから、お祝いの席なのにごめんなさい」
ビアータは、ロマーナに、きちんと謝ってから、笑って見せた。
「そんなこと気にしないで。来てくれてありがとう。またランチしましょうね!」
「「はい!今日はおめでとうございます!」」
ビアータとサンドラは、ロマーナに笑顔を、見せた。
その日の夜、ビアータはアルフレードの暖かくて逞しい手を、アルフレードはビアータの柔らかくて小麦色の働いている手を思い出し、それぞれが、人知れず、眠れない夜となったのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
168
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる