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第二章 小麦姫と熊隊長の村作り

1 自立のために

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 『ビアータの家』での披露宴の翌朝、デルフィーノとクレオリア、ファーゴ子爵夫妻を除いた家族たちは、笑顔で帰っていった。

 デルフィーノとクレオリアは旧棟の夫婦恋人部屋を、べニートとロマーナはアルフレードたちの家の一室を使うことになった。
 シスターモニカは、教会の裏の家で、ファブリノとリリアーナとともに暮らすことになった。

〰️ 〰️

 ビアータたち6人は、ルーデジオからの課題のためアルフレードの家の談話室に集まっていた。

「ここの新しい名前なんだけど、これは、アルと二人で考えていたことなの。もしよかったら…」

 満場一致で決まったので、その日の昼食、アルフレードからみんなに発表された。

「この地域の新しい名前を決めたよ。ソベルデスバー自治区だ。太陽と緑の大地って意味だよ」

「これからは、本館をソル棟、新棟をベルデ棟、旧棟をステラ棟と呼ぶことにするわ。それと、この仲間をソベルと呼びましょう」

 アルフレードとビアータの発表に、みんなのワクワクが伝わる。
 本館(ソル棟)は、子どもたちの食堂と小さな子どもたちが四人部屋で使っている。
 新棟(ベルデ棟)は、個室で子どもたちの一人部屋だ。一階に男の子、二階に女の子が住んでいる。14歳になると入るか決めることができる。
 旧棟(ステラ棟)は、恋人棟だ。男女とも16歳になると使える。ただし、2年間しか使えない。それまでに、お別れしてベルデ棟に住むか、家を建てるか、お別れはしないが別々にベルデ棟に住むか、二人で中(スピラリニ王国内)へ行くかを決めなくてはならない。
 現在、恋人棟を使っているのは、ジャンとメリナ、ノーリスとケイトだ。来月には、テオとバレリアが引っ越すことになっている。

「これからも一緒に頑張っていこう!よろしくな!」

「「「はーい!」」」

 名前がキマるとみんなのやる気もさらに上がる。いつか、自分たちの国(領地)となると希望をもつ。そして、『そのときには、アルさんが、領主様だ!』とみんなが期待した。

〰️ 〰️ 〰️

 昼食後、ノーリスとケイトが二人の元にやってきた。残っていたのは、アルフレードとビアータと調理組だけだ。

「あのアルさん、ちょっと相談が…」

 ノーリスがアルフレードに声をかけた。

「二人とも座って」

 テーブルを挟んで正面に座った。長いテーブルの端には、セルジョロとグレタが見守っていた。
 女の子二人は食器洗いに行ったようだ。

「僕たち、一度ここを出たいと思います」

「どうして??!何かあったの?」

 ビアータは目を見開いて、悲しそうな顔で、ノーリスとケイトの顔を交互に見た。

「違います!ここはいいところです!ずっといたいです!」

 ケイトは誤解されたくないと、必死に縋った。

「でも、下の子供たちのためにも、僕たちは自立したいんです」

 ノーリスの目は真剣だった。

「将来の予定を聞かせて」

 アルフレードは、ニコニコして、ノーリスを見つめて、そう聞いた。

「え?」

 ビアータはびっくりした顔をアルフレードに向けた。

「ん?ノーリスは『一度出たい』と言った。帰ってくるんでしょう?」

 アルフレードは微笑で答える。大きな男を感じさせる。

「はい!あの僕たち、町のパン屋で勉強してきて、ここにパン屋を開きたいんです!」

 ノーリスは目をキラキラさせて訴えた。ケイトも、うんうんと頷いていた。

 アルフレードとビアータは、セルジョロたちを見た。二人は頷いた。そこに、ルーデジオが入ってきた。ビアータの隣に座る。

「二人が、戻ってきたら、ここから小麦を買って、パンを焼き、それをソベルで買取れば、二人の生活費になりますよ」

 ルーデジオは、完全に二人の応援団だった。

「それと、パンをたくさん焼いて、馬車で中に売りに行きたいの。関所の町にはパン屋がないでしょう」

 ノーリスとケイトは何度も話し合ったのだろう。具体案まで出てきた。
 関所の町からガレアッド男爵領都までは馬車で一時間。そこまで行かないとパン屋はない。関所の町では、家庭で薄いパンを焼いて食べているのだ。馬車での出店でも、近くで買えることに喜ぶ人は多いだろう。

「ほぉ!それは素晴らしい考えですねぇ」

 ルーデジオは、ケイトを引き取った時からずっとケイトの夢に賛同し応援してきた。

「本当ね。ケイトは、ここに来る前から、お菓子屋さんがやりたかったのだものね。夢に近くなったわね」

 ケイトが頬を染めて頷いた。

「ふふふ、それはノーリスが料理好きだったのを知ってたからだろう?」

 グレタが笑顔でからかった。ケイトはすぐに赤くなった。

「そうなのか?ノーリス!ケイトを大事にしろよぉ!」

 セルジョロはノーリスに喝を入れた。

「は、はい」

 ノーリスは、ケイトより真っ赤だ。

「セルさん、パン屋の修行はどれくらいですか?」

 アルフレードは今後の予定を詰めていく。

「ちゃんと教えてくれるところで、1年半から2年だな」

「できれば、遠くで勉強したいです。近くだとお店を出す時に困るかもしれないので」

 ノーリスの考えにビアータはまたまたびっくりした。自分たちが知らないうちに子供ではなくなっていたようだ。

「すごいわ、二人とも。いろいろと考えたのね」

「それでしたら、ファーゴ子爵様にお願いしてはいかがですか?いつも、とても協力していただいておりますし」

 ルーデジオの意見に、ノーリスも乗り気だった。


〰️ 〰️ 〰️

 夜になり、旧棟で、会議が開かれた。会議はだいたい、アルフレードたち6人の他、ルーデジオ(金庫番)、ジーノ(畑)、ラニエル(酪農)、セルジョロ(調理)、デルフィーノ(ご意見番)、チェーザ(狩り)、レリオ(建築)が主なメンバーで、他の人は会議の内容次第で呼んでいる。

 今日は、コジモが呼ばれ、クレオリアとファーゴ子爵も参加した。

「ノーリスが、自立のため、ファーゴ子爵領のパン屋へ修行に行くことになりました。明日には、子どもたちにも発表します」

 アルフレードの発表にみんなが喜んだ。ファーゴ子爵がみなに一言挨拶した。そして、ルーデジオが本題に入る。

「ノーリスとケイトは、2年ほどで帰ってきて、こちらでパン屋を開き、ソベルに売るだけでなく、中に売りに行く予定です。そこで、それまでに、窯のある家を建ててやりたいのです」

 反対する者はいなかった。リリアーナが手を上げた。

「2年後だと、今、ステラ棟(恋人棟)に住む子たちも自立を考えるときだわ」

「ええ、なので、若者たちの集落をそれまでに作るのはどうでしょうか?」

 アルフレードの意見にみなも頷いた。デルフィーノが手を上げた。

「でも、金はどうする?」

「ゆっくりでも、建てていって、そちらに住むならステラ棟も2年以上いていいことにするか?」

 ファブリノは、リリアーナと、子どもたちの自立を考えて、2年と決めたが、建築の都合なら2年に拘る必要はない。

「いや、自立させるなら、お金はとった方がいいわね」

 クレオリアの意見はもっともだった。しかし、今は、お小遣いを少しあげられる程度だ。

「それなら、貸すことにしたら?子どもたちにあげられるお小遣いから、少しだけ貰うの」

 サンドラの意見にレリオが賛成した。

「そうだな。一軒家だけど、アパートのように考えたらいいさ。2年後、急に作れと言われても無理だからな。今から少しずつ作っていって、2年後、希望者に移ってもらえばいい。その頃には、給料も変わってるかもしれないだろう?」

「そうだな。来年には豚も売れる。そうなれば、やれる金も増えるだろう?牛も増やすか?」

 酪農のラニエルがやる気だ。

「今は、ルーさんが小麦とパンの交換に行っているけど、それをノーリスがやれるなら、ノーリスたちは生活には困らないだろう。そうなってから払ってもらえばいいんじゃないか?」

 セルジョロも調理で手一杯で、ルーデジオが3日に一度、領都にパンを買いに行っている。

「そうですね。今は金額などは決めず、だけど、自立のためには、いつか貰うことを考えていきましょう」

 金庫番のルーデジオが賛成した。ファブリノが手を上げた。

「あの、なら、俺たちも!」

 6人は頷いたが、他のメンバーは、大笑いした。

「みなさんには、これからもほぼ無償で働いてもらうので、問題ありませんよ」

 ルーデジオが笑顔でそう言った。6人はもちろんそのつもりなので、文句はなかった。

 こうして、急ぎの仕事ではないが、現在の建物より、もっと門に近い方に、数件の家を建てていくことが決まった。
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