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第二章 小麦姫と熊隊長の村作り
3 事務のお仕事
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「俺たち、ステラ棟に移れるかな?」
翌朝、朝食の後、リリアーナとファブリノは木こり組のオルランドとパスクから相談を受けた。二人は先日のステラ棟についてと、恋人としての時間や妊娠についての説明会にも参加している。
誰に言われたわけではないのに、二人に相談に行ったのは、その説明会をしたのが、リリアーナとファブリノだったこともあるのだろう。
「あの女の子たちは、16歳になっているってことね?」
二人は頷いた。ステラ棟は、男女両方が16歳になれば使えることになっている。
「そうだな。すぐってわけにはいかないな。まずは、あの二人が、ここでの生活に慣れることが優先だな。メリナが相談役にぴったりだから、酪農組に入ってもらおう」
「そうね。二人がここでのルールや他の子との交流ができてからがいいわね」
リリアーナもファブリノに賛同した。大人たちにその少女たちのことは任されていたが、まさか翌朝にステラ棟の相談を受けるとは考えていなかった。二人が決めていたのは、酪農組に入れることだけだった。
だが、相談しなくても、二人は似たような価値観なので、指導方針も問題なく決められた。
「今、オルランドとパスクと一緒にステラ棟に行ってしまうと、下の子供たちと話すことが減ってしまうんだ。二人もお前たちに甘えるし、な」
二人は納得はしたが、少し寂しそうだった。リリアーナは少し逡巡して、妙案が浮かんだ。
「そうだわ、日にちを決めましょう。その時に、アルとビアータが大丈夫って言えば、ステラ棟に移れるわ」
ここで、二人でない審査員を入れると事は、子供たちにとっても、公平性を感じさせるものだ。特にここにいる子どもたちにとって、『大人に意地悪をされているわけではない』と思うことは必要なことであった。
オルランドとパスクは、孤児院からチェーザの弟子になった。チェーザのことは今はもう信用しているし頼りにしているが、昔は自分を捨てた大人が嫌いだった。
「いつ?」
オルランドは食いついた。パスクも縋りたそうな目をしていた。
「そうだなぁ。仕事を覚えてもらうことを考えると、半年はかかるかな。1月10日!どうだ?」
「「わかった!」」
日付がわかることは、やる気にも繋がる。そして、大人たちもそれを守っていくことが、彼らが大人を信じることに繋がり、ゆくゆくは、下の子どもたちに嘘をついたり、騙したりすることがなくなる。
「それまでは、なるべく手を貸すなよ」
ファブリノのアドバイスにオルランドは驚いた。
「え?助けろじゃないの?」
「お前たちが助けたら、それだけここに慣れることが遅くなる。半年後、アルとビアータに合格をもらいたいんだろう?」
「「うん」」
「二人には、私からも、どうしてオルランドとパスクが手を貸さないのかを話しておくわ、ね」
女の子二人にも、オルランドとパスクが手を貸さない理由を説明した。そのことをしっかり理解したようで、メリナによく相談しているし、下の子供たちの面倒もよくみてくれるいい子たちであった。きっと半年後は、ステラ棟に移れるだろう。
〰️ 〰️ 〰️
6月下旬、ダリダはすでに狩り組の指導者だった。チェーザもルーデジオも狩り組はダリダに任せた。
フェリダは酪農組の指導者になっており、セリナ(ラニエルの嫁)とも仲がいい。なので、ラニエルは土建を手掛けられるようになった。
土建組は、川を東に伸ばす計画進行中で、デルフィーノとべニートは大活躍だ。牛のプラウも活躍中だ。
畑組は、ジーノ夫妻。人が増えるたびに、畑を広くしていくので、作物育成組と農耕組に分かれて仕事をしている。ここでも、牛のプラウも人用プラウも活躍している。
建築組は、9月の小麦収穫用に、水車小屋を一軒建てた。土建組の川作りに合わせてもう一軒作る予定で、水車の枠組みを始めた。
また、門に近いところの集落の家作りも本格的になった。そこは、木こり小屋とレンガ小屋にも近いので、とりあえず2軒建てて、チェーザたちとコジモたちの家にすることになった。四人は、もちろん、ほぼ無償で働くことに何の不満もなかったので、家は無料で作られる。
〰️ 〰️ 〰️
人が増えるとまとめることが大事になっていく。少人数ならその場でできることも、人数が増えたらそうもいかない。
そのため、事務仕事が自然に増えてきた。
アルフレードとビアータの家にはいつも同じ面々が揃い、それぞれの仕事をしている。テオたちが作った事務机が運び入れられ、部屋の壁は取り除かれて、広くなっていた。奥にはまだ部屋が3つあるので、今のところ問題ない。
ファブリノは、酪農関係の在庫管理をしている。ファブリノが狩り組のところへ行くと、ダリダの顔が引きつる。ファブリノの『た、の、む、よ!』は、狩り組に怖れられていた。狩り組が活躍しないと中から肉を買わねばならない。それは大きな出費だ。ファブリノは肉の生産関係も管理していた。人数が増えていくことを考えると、干し肉はいくらでもほしいのだ。
コルネリオは、土建建築関係の管理だ。木こり組レンガ組は、コルネリオが様子を見に行くと、『ビクッ』とする。コルネリオの笑顔は『もっと頼むよ』、コルネリオの感嘆顔は『いい感じだねぇ』という意味だ。コルネリオは笑顔が多い。ステラ棟(恋人棟)から子供たちを卒業させるためにも、家はたくさん必要なのだ。
サンドラは、品種改良の傍ら、畑関係の管理、これから必要な小麦の量や畑の大きさなど畑に関する事務をしている。畑は種類も多いので、なかなか管理は大変だ。
クレオリアは、3人に管理の仕方や、帳簿のつけ方を丁寧に教えてくれていた。『外にばかりでかけていた元領主デルフィーノ』の妻は、仕事ができる。
リリアーナは、教科書作りや教科材作りをしている。子供一人一人に教科書をあげたいと思っているのだ。サンドラに中等学校用の教科書も作ってもらい、それの複製も頑張っていた。
ルーデジオは、狩り組からジャンを離し、会計など自分の補佐にさせた。
アルフレードとビアータは、住民台帳を作ったり、あちこちの手伝いをしている。住民台帳は、教会も関わるので、シスターモニカにも手伝ってもらっている。
なので、アルフレードとビアータの家の玄関はいつでも開け放たれていた。
〰️ 〰️ 〰️
7月下旬、アルフレードたちの仕事場、近くに馬車が来た音がした。そこに、男の子が入ってきた。
「アルさん、お客さんだよ」
畑仕事をしていた子が、代表で声をかけに来てくれたのだ。その人物は、案内もなく入ってきた。
「よっ!みんな元気かぁ?」
片手を上げて入ってきたのは、美形紳士だった。
「「「ラドさん(にぃ)!」」」
いきなり、サンドラがグラドゥルに抱きついた。コルネリオは慌てて引き離しにいく。
「うんうん、義妹って可愛いなぁ。母さんが娘を欲しがっていた意味がわかるよ」
そう言って、サンドラの頭をナデナデした。その手をコルネリオが叩き落とす。
「コル!私の願いを叶えられるのは、ラドにぃだけなのよっ!邪魔しないでっ!」
サンドラの見たことのない態度に一同はあ然とした。コルネリオは、あまりのショックに動けなくなった。
翌朝、朝食の後、リリアーナとファブリノは木こり組のオルランドとパスクから相談を受けた。二人は先日のステラ棟についてと、恋人としての時間や妊娠についての説明会にも参加している。
誰に言われたわけではないのに、二人に相談に行ったのは、その説明会をしたのが、リリアーナとファブリノだったこともあるのだろう。
「あの女の子たちは、16歳になっているってことね?」
二人は頷いた。ステラ棟は、男女両方が16歳になれば使えることになっている。
「そうだな。すぐってわけにはいかないな。まずは、あの二人が、ここでの生活に慣れることが優先だな。メリナが相談役にぴったりだから、酪農組に入ってもらおう」
「そうね。二人がここでのルールや他の子との交流ができてからがいいわね」
リリアーナもファブリノに賛同した。大人たちにその少女たちのことは任されていたが、まさか翌朝にステラ棟の相談を受けるとは考えていなかった。二人が決めていたのは、酪農組に入れることだけだった。
だが、相談しなくても、二人は似たような価値観なので、指導方針も問題なく決められた。
「今、オルランドとパスクと一緒にステラ棟に行ってしまうと、下の子供たちと話すことが減ってしまうんだ。二人もお前たちに甘えるし、な」
二人は納得はしたが、少し寂しそうだった。リリアーナは少し逡巡して、妙案が浮かんだ。
「そうだわ、日にちを決めましょう。その時に、アルとビアータが大丈夫って言えば、ステラ棟に移れるわ」
ここで、二人でない審査員を入れると事は、子供たちにとっても、公平性を感じさせるものだ。特にここにいる子どもたちにとって、『大人に意地悪をされているわけではない』と思うことは必要なことであった。
オルランドとパスクは、孤児院からチェーザの弟子になった。チェーザのことは今はもう信用しているし頼りにしているが、昔は自分を捨てた大人が嫌いだった。
「いつ?」
オルランドは食いついた。パスクも縋りたそうな目をしていた。
「そうだなぁ。仕事を覚えてもらうことを考えると、半年はかかるかな。1月10日!どうだ?」
「「わかった!」」
日付がわかることは、やる気にも繋がる。そして、大人たちもそれを守っていくことが、彼らが大人を信じることに繋がり、ゆくゆくは、下の子どもたちに嘘をついたり、騙したりすることがなくなる。
「それまでは、なるべく手を貸すなよ」
ファブリノのアドバイスにオルランドは驚いた。
「え?助けろじゃないの?」
「お前たちが助けたら、それだけここに慣れることが遅くなる。半年後、アルとビアータに合格をもらいたいんだろう?」
「「うん」」
「二人には、私からも、どうしてオルランドとパスクが手を貸さないのかを話しておくわ、ね」
女の子二人にも、オルランドとパスクが手を貸さない理由を説明した。そのことをしっかり理解したようで、メリナによく相談しているし、下の子供たちの面倒もよくみてくれるいい子たちであった。きっと半年後は、ステラ棟に移れるだろう。
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6月下旬、ダリダはすでに狩り組の指導者だった。チェーザもルーデジオも狩り組はダリダに任せた。
フェリダは酪農組の指導者になっており、セリナ(ラニエルの嫁)とも仲がいい。なので、ラニエルは土建を手掛けられるようになった。
土建組は、川を東に伸ばす計画進行中で、デルフィーノとべニートは大活躍だ。牛のプラウも活躍中だ。
畑組は、ジーノ夫妻。人が増えるたびに、畑を広くしていくので、作物育成組と農耕組に分かれて仕事をしている。ここでも、牛のプラウも人用プラウも活躍している。
建築組は、9月の小麦収穫用に、水車小屋を一軒建てた。土建組の川作りに合わせてもう一軒作る予定で、水車の枠組みを始めた。
また、門に近いところの集落の家作りも本格的になった。そこは、木こり小屋とレンガ小屋にも近いので、とりあえず2軒建てて、チェーザたちとコジモたちの家にすることになった。四人は、もちろん、ほぼ無償で働くことに何の不満もなかったので、家は無料で作られる。
〰️ 〰️ 〰️
人が増えるとまとめることが大事になっていく。少人数ならその場でできることも、人数が増えたらそうもいかない。
そのため、事務仕事が自然に増えてきた。
アルフレードとビアータの家にはいつも同じ面々が揃い、それぞれの仕事をしている。テオたちが作った事務机が運び入れられ、部屋の壁は取り除かれて、広くなっていた。奥にはまだ部屋が3つあるので、今のところ問題ない。
ファブリノは、酪農関係の在庫管理をしている。ファブリノが狩り組のところへ行くと、ダリダの顔が引きつる。ファブリノの『た、の、む、よ!』は、狩り組に怖れられていた。狩り組が活躍しないと中から肉を買わねばならない。それは大きな出費だ。ファブリノは肉の生産関係も管理していた。人数が増えていくことを考えると、干し肉はいくらでもほしいのだ。
コルネリオは、土建建築関係の管理だ。木こり組レンガ組は、コルネリオが様子を見に行くと、『ビクッ』とする。コルネリオの笑顔は『もっと頼むよ』、コルネリオの感嘆顔は『いい感じだねぇ』という意味だ。コルネリオは笑顔が多い。ステラ棟(恋人棟)から子供たちを卒業させるためにも、家はたくさん必要なのだ。
サンドラは、品種改良の傍ら、畑関係の管理、これから必要な小麦の量や畑の大きさなど畑に関する事務をしている。畑は種類も多いので、なかなか管理は大変だ。
クレオリアは、3人に管理の仕方や、帳簿のつけ方を丁寧に教えてくれていた。『外にばかりでかけていた元領主デルフィーノ』の妻は、仕事ができる。
リリアーナは、教科書作りや教科材作りをしている。子供一人一人に教科書をあげたいと思っているのだ。サンドラに中等学校用の教科書も作ってもらい、それの複製も頑張っていた。
ルーデジオは、狩り組からジャンを離し、会計など自分の補佐にさせた。
アルフレードとビアータは、住民台帳を作ったり、あちこちの手伝いをしている。住民台帳は、教会も関わるので、シスターモニカにも手伝ってもらっている。
なので、アルフレードとビアータの家の玄関はいつでも開け放たれていた。
〰️ 〰️ 〰️
7月下旬、アルフレードたちの仕事場、近くに馬車が来た音がした。そこに、男の子が入ってきた。
「アルさん、お客さんだよ」
畑仕事をしていた子が、代表で声をかけに来てくれたのだ。その人物は、案内もなく入ってきた。
「よっ!みんな元気かぁ?」
片手を上げて入ってきたのは、美形紳士だった。
「「「ラドさん(にぃ)!」」」
いきなり、サンドラがグラドゥルに抱きついた。コルネリオは慌てて引き離しにいく。
「うんうん、義妹って可愛いなぁ。母さんが娘を欲しがっていた意味がわかるよ」
そう言って、サンドラの頭をナデナデした。その手をコルネリオが叩き落とす。
「コル!私の願いを叶えられるのは、ラドにぃだけなのよっ!邪魔しないでっ!」
サンドラの見たことのない態度に一同はあ然とした。コルネリオは、あまりのショックに動けなくなった。
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