断罪するならご一緒に

宇水涼麻

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【短編】断罪するならご一緒に

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「バーバラ! 前へ出てこいっ!」

 わたくしは一瞬ポカンとして、舞台に立ち自分に酔っているアトラリアム第1王子殿下を見ました。ポカンとしたのは心の中だけですわよ。お顔は淑女の微笑を貼り付けておりますわ。前に立ち並ぶ方々にはそれもお気に召さないようですけど。

 本日は我が国の高等学園の卒業式及び卒業パーティーでございます。
 卒業式を滞りなく終え、お昼過ぎのパーティーの時間に合わせて、着飾った卒業生やその関係者が学園の大ホールに集いました。
 大ホールは派手に飾り付けがされ、楽団により優しげな曲が流されています。そんな優雅な時を惜別の思いとともに三年間苦楽を共にした友人たちと過ごしておりました。

 生徒会会長様のお言葉とともに卒業パーティーが始まって、わたくしも類にもれず友人たちと思い出の語らいをしていましたところに不躾な呼び出しをされました。
 あら、舞台から逃げ遅れた生徒会会長様が慌てておりますわ。お可哀そうに。

 ともかくこの騒ぎは放っておけません。わたくしは友人たちに一礼しますと、前へと進み出ました。

「アトラリアム殿下。何かご用でございますか?」

 わたくしはバカにしている視線がバレないように扇で顔を隠すようにして立っております。淑女の微笑を貼り付けてもそれが壊れてしまいそうなほど呆れております。

 舞台の上には、アトラリアム殿下とともに、宰相ご子息ザハルト様、騎士団団長ご子息ノアギル様、筆頭公爵家ご子息ヨジュール様がご一緒に並ばれております。

「バーバラ・チェリコット! 貴様との婚約は今日限り破棄だ!」

 ああそういえば、わたくしはアトラリアム殿下と婚約しておりましたわ。すっかり忘れておりましたけど。

「そうですか。(ご理解いただけたようですわね)かしこまりました」

 わたくしがアトラリアム様ではなくアトラリアム殿下とお呼びしていることに、気がついていらっしゃらないのかしら? まあ、婚約はなしと聞けたのでいいでしょう。
 わたくしは一礼して下がろうと思いました。公爵令嬢らしい笑顔を振りまき後ろを向きました。

「待て!」

 わたくしは再び舞台へと目を向けます。

「お前の罪を詫びろ!」

 はしたなくツバを飛ばし怒鳴り散らす『殿下』です。王族教育でそのような振る舞いは良くないと習っているはずなのですが。

「何をおっしゃっているのかわかりませんが?」

 わたくしはいたって冷静に答えました。

「ルル。こちらへ」

 ルルと呼ばれた女子生徒はそれはそれは豪華な衣装で出て参りました。確か彼女は平民のはず。そのドレスは平民への無料貸し出し衣装ではありませんわね。

 この学園は2年制です。平民でも騎士科や文官科なら実力次第で入学できます。

 入学してすぐに、この状態になり果て、もはやルルさんとアトラリウム殿下………いえ、ルルさんと高位王侯貴族令息のみなさまのことは、この学園で知らぬ者はおりません。

 ルルさんはアトラリウム殿下の元まで来ると、腕に絡みつくように寄り添い頬を染めてアトラリウム殿下を見ています。

 アトラリウム殿下はだらしない顔をさらにだらしなくさせてルルさんの胸元を覗こうとしています。

「で、殿下………」

 ザハルト様に注意されたアトラリウム殿下は『コホン』と咳払いをして誤魔化しました。誰も誤魔化されず軽侮の視線が注がれておりますが。

 そんな視線はものともせずわたくしを指差します。

「バーバラ、お前は身分をかさにきて、このルルをイジメたな。それに耐え抜いた我慢強いルルなら私と一緒に歩んでいける! 私はこのルルと結婚する!」

 アトラリアム殿下はそう言って、そのルルさんの腰を引き寄せます。ルルさんはうっとりとした目でアトラリアム殿下を見ています。

「ご結婚は勝手にしてください。でも、わたくしはイジメなどいたしておりませんが?」

「はんっ! しらばっくれるなら、1つ1つ顕にしてやろう!
おいっ!」

 アトラリウム殿下に指示されて一番体が大きくそれだけで威圧感のある、つまりは、体だけのノアギル様が前に出ました。

「バーバラ嬢!」

 やたらとデカイ体に見合うやたらとデカイ声が響きます。わたくしはここにおりますのにそんなに大声で呼ぶ必要はあるのでしょうか?

「お待ちになって」

 わたくしはノアギル様がお話を始められる前に、手をかざしてそれを止めました。

「なんだ! こちらが罪状を言わなくても罪を認めるのか?」

 アトラリアム殿下が片方の口角を上げてひしゃげた笑顔でアホなことを言います。

「いえ、来月より王城の文官に採用されました優秀な速記者がいらっしゃいますのよ。その方にこれからの発言を残して頂こうと思いますの」

 わたくしはにっこりと笑いました。あちらは自信があるのでしょう。すぐに了承しました。
 彼女のために、机と椅子と筆記用具がすぐさま用意されました。
 わたくしはその間に違う友人に学園長室へと行ってもらいました。

「貴様はルルに向かって『平民が王子殿下に近づくな』と言ったそうだな。学園では身分は関係ない。それを見下したような言い方をしたな。この学園で平民を見下した発言は罪だ」

「それは、いつのことでございますか?」

「5月頃、昼休みに毎日のようにルルは泣いていた!」

 鼻息荒く言い募るノアギル様。

「つまり、5月の昼休みですわね?」

「そうだ!」

 ノアギル様は目をクワッと見開いた。脅しているつもりなのかもしれない。

「それで? 次は?」

「なっ! なっ!」

 わたくしがノアギル様の発言について一言も話さなかったので、ノアギル様は大変動揺しております。両手の拳を握りしめワナワナと震えるノアギル様をヨジュール様が抑えました。
 ヨジュール様は軽薄で遊び好きなタイプの方ですわ。

「罪を一回に認めるつもりなんだよね。なら、僕からもあるよ」

 ヨジュール様は人の悪そうな笑顔をわたくしに向けました。笑顔だけで人を不快にさせることができるなんて……すごい方です。

「君は公爵令嬢としてのお茶会に一度もルルを誘っていないよね? そういうのを差別っていうんじゃないのかい?」

「お茶会でございますね」

 わたくしが速記者に視線を送りますと、大丈夫ですと頷いてくれました。お仕事をキッチリとされる方で安心できますわね。

「これで、終わりですの?」

 ヨジュール様が眉をピクリとさせますが、無視です。すると、ザハルト様が前に出ました。
 ザハルト様はいかにも融通が聞かなそうで自分が一番だと誤解なさっているタイプの方です。

「ルルの教科書を破り捨てましたね。そんなことをする人と同じ学園にいることが恥ずかしい!」

「それは、いつですの?」

「10月の一週間目に盗まれて、二週目には破られた教科書が焼却炉で見つかりましたよ。証拠隠滅に失敗したようですね。
平民の私物を破るなど最低です」

 ザハルト様は片方の口角をあげて、勝利を確信したかのように目を細めて笑っております。

「以上でよろしいかしら?」

 わたくしに無視をされたザハルト様は、眉間を寄せました。
 そこにアトラリウム殿下が割って入りました。

「まだ重要なものが残っているぞ! 殺人罪未遂だっ!」

 アトラリアム殿下の言葉にさすがに会場がざわめきました。

「先週だ! お前はルルを階段から突き落としたなっ! たまたま我らが下にいたから助かったものの、打ちどころが悪ければ死んでいたぞ!」

「ああ、そういえば、そういう騒ぎもありましたわね」

「人殺しをしようとして、その態度かっ! お前の罪は重い! 国外追放だっ!」

 アトラリアム殿下が顔を赤くして怒鳴りました。

「お待ちください。それは王族としての公平な判断の元におっしゃったお言葉ですのね?」

 我が国は公平な社会になりつつあるも、重要な裁判などはまだ国王陛下または王族が裁判長になっているのです。王族の仕事は多忙なのですわ。

「当たり前だ! 私は第1王子だ! 後の国王だぞ!」

 アトラリアム殿下がさらに興奮なされております。王族なら判決は冷静に行うことが常識ですのに。

「わかりましたわ。速記者の方、ご苦労かけますが読み上げ係も兼任していただいてもよろしくて?」

「大丈夫です!」

 速記者の方は快諾してくださいました。速記文字は勉強していない者には読めないのです。

「では、1つ1つに罰を決めてくださいませ。1つ目は?」

 速記者が最初の方の紙を見てくださいます。

「えっと、『平民を見下した発言』です」

 わたくしは速記者に一礼して、アトラリアム殿下に向き合います。

「それだけで済んでいればよかったのにな。ハッハッハ。
そうだな、それだけなら、王都追放くらいだな」

 一言で王都追放……。ムチャクチャな判決に会場はどよめきます。それがまかり通ったら、王都には、貴族がいなくなってしまいます。

「次はなんだったかしら?」

「『お茶会に誘わない』です」

「おお! それについては、長期間のイジメだな。ルルもそれはそれは寂しそうにしていた。修道院送りというとこだろう」

 アトラリアム殿下の無知な判決に、会場は呆れすぎてざわめく者も減りました。

「それから?」

 わたくしは笑いを隠すため、扇を目の前まで広げております。あちらからは悲しんでいるように見えたかもしれませんわね。

「『私物を破いた』です」

「それはな、ルルは平民で、母親が苦労して用意した教科書だそうだ。ルルが泣いていて可哀想であったな。ルルの母親を愚弄したも同然だ。
お前も家族と離れ、身分剥奪で市井落ちだ」

「では、『階段から落とされた』が国外追放でよろしいですわね?」

 わたくしは一応確認した。

「当然だ! 殺人未遂事件なのだからな!」

「ふぅ」

 わたくしは扇を外し呆れた顔を堂々と見せました。

 そこへ舞台の奥から学園長と宰相様が現れました。会場がシンと静まります。

 宰相様が舞台から降りてきて、速記者の紙をパラパラと見ました。

「ほぉ! 学園を卒業したばかりだというのに確実な仕事のようだ」

 速記者の方は平民です。宰相様とお話などしたことはありません。なので震えておりました。

「宰相様。わたくしの友人をイジメないでくださいませ。緊張してこの後のお仕事に差し障りますわ」

 わたくしは親しみのある口調で宰相様にお願いいたしました。その様子に、宰相様のご子息ザハルト様が口をパカンと開けておられます。情けないやら呆れ返るやら、とにかく見たくもないお顔なので隠してほしいですわ。他人事なので言いませんけど。

「すまん、すまん。わっはっは。
後ろで聞いていた内容に相違がないか確かめたかったのだ」

 宰相様がにっこりとなさりました。宰相様もわたくしに親しげに答えてくださります。ザハルト様はさらに大きく口を開けました。

「それで? いかがでしたか?」

 わたくしは満面の笑顔でお聞きしました。友人のことながら、大変優秀な方ですので自信を持って確認できます。

「完璧だったよ。もう少し腕を磨けばもっと読みやすくなるだろう。これからも鍛錬するといい」

「は、はいっ!」

 速記者は宰相様のお褒めの言葉に泣きそうになっております。嬉し泣きだとは思います。

「ごめんなさいね。この後も速記と読み上げをお願いできますか?」

「大丈夫です!」

 彼女はわたくしに腕を前に曲げてガッツポーズで頷いてくださいます。自信がついたようで何よりですわ。

 速記者の脇に椅子が用意され、学園長様と宰相様がお座りになりました。

「私は最後まで口は出さない。自由にやってみたまえ」

 宰相様のお許しで続行となりました。ザハルト様はわたくしとお父上の宰相様を交互に見ながら戸惑いを隠せないご様子です。

 ザハルト様の慌てた様子など見て見ぬ振り。わたくしは速記者に声をかけ、話を進めることにいたしました。

「では、1つ目の罪と罰を教えてくださる?」

「『平民を見下した発言』で、王都追放です」

「わかりました」

 わたくしは速記者に大きく頷き、ノアギル様に向き合いました。

「ノアギル様、あなた様が『お前等のような平民は騎士団へ入っても、まずは見習いの見習いだ! オレのような血筋ならはじめから騎士だがな!』との発言を覚えていらっしゃいますわよね? 2年前に入学して以来、ノアギル様がずっとお使いになってらっしゃるお言葉ですわ。殿方ならほとんどの者が聞いていらっしゃるのではないかしら?」

 ノアギル様はサッと青くなりました。ノアギル様は体も声もデカイので、鍛錬していた者だけでなく、外で花壇の手入れをしていた者たちにも聞かれています。

「そのおかげで、騎士団の入団希望者が激減したと伺っておりますわ」

 わたくしは悲しげに見えるように振る舞います。

「失礼ながら!」

 警護のはずの衛兵が手を挙げられました。

「なんでしょうか?」

 勇気を持った方に敬意を払い発言を赦しました。

「私は去年こちらを卒業しました平民です。
学園にいる間は、ノアギル様に毎日のようにそれを言われ、平民である私は見習いの見習いでは妹たちを食べさせてはいけないので、騎士を諦めようとしておりました……」

 衛兵は悲しげな間を置きました。

「しかしっ! 鍛錬場の先輩にそんなことはないと言われ、思い切って騎士団へ入団をしましたっ!
今ではこうして、遠征衛兵として各地に赴き、給与もしっかりといただいておりますっ!」

 男子生徒の歓喜の声があちらこちらから聞こえました。騎士科は平民が半数ほどいるのです。遠征衛兵は普段は鍛錬をし、こうして大きなパーティーであるとか、パレードなどの際には衛兵としてお仕事をしてくださいます。

「まあ! ご発言ありがとうございますわ。それを聞いて騎士団を希望する男子生徒が増えますでしょう。ノアギル様のお言葉で騎士団も大変な状況になられていると聞いておりましたので、団員さまが増えてくださるのは嬉しいですわ」

 わたくしはノアギル様に向き合います。実際、去年の入団希望者が少なく、『どうしたことか』と騎士団団長様から聞かれておりましたの。騎士団団長様もご子息のノアギル様にお聞きになればよろしいのに。
 あ、ノアギル様はそんなみなさんのお心もおわかりにならないから、ずっと言い続けておりましたのね。

「どのくらいの人数がそのノアギル様のお言葉を聞いたことがあるのか……。きっと、証人だらけでございますわねぇ。
ということですので、王族の判決によりノアギル様は王都追放ですわね。
あら? 騎士団本部は王都にありますのにどうしましょう?」

 ノアギル様が震えた視線をわたくしに向けました。今更です。

「それについては是非、お父様とお話になってくださいませね」

 わたくしが笑顔でお伝えしますと、生徒の間から『ガタリ』と音がしました。なんと、騎士団団長様が立ち上がりました。
 あら?ずっと聞いてらしたのかしら?
 生徒の間から椅子を持って出てまいりました。

 騎士団団長様はわたくしに一礼し、ノアギル様を一睨みします。ノアギル様が尻もちをつき膝が震わせておりますわ。
 お二人は同じような大きなお体でも、迫力と申しますか、威圧感が違いますわね。

 先程の衛兵の発言は団長様の手回しのようですわね。平民の方が進んで発言するなど、おかしいと思いましたわ。これだけの面前で公開発言すれば、きっと宣伝効果は抜群でしょう。よかったですわ。

 騎士団団長様は自分で椅子を持って宰相様たちと並ばれてお座りになりました。騎士団団長様のご指示で、椅子があと1つ用意されました。
 すると間もなく、舞台近くのドアが1つ開きました。

「間に合ったかな?」

 現れたのはヨジュール様のお父上の公爵様でした。騎士団団長様が手招きでお呼びになり、団長様のお隣へとお座りになりました。

「悪いね。進めてください」

 公爵様は優しげに言ってくださいました。わたくしは改めて一礼します。

「では。2つ目をお願いします」

「『お茶会に誘わなかった』ので、修道院送りです」

 後ろからは、女子生徒の女子生徒らしからぬ、怒りの声が聞こえました。ヨジュール様に向けた批判なのか、ルルさんに向けた批判なのか、それとも両方か。
 とにかく、女子生徒から良く思われていないことは確定ですわね。

 それはさておき。

「お茶会は、男子生徒にとってはゲーム会ですわね?」

 ゲーム会とは、ボードゲームやカードゲーム、または乗馬などで交流を図るものです。もちろん女子生徒も参加できますが、今のところ誰も積極的に参加しておりません。

「ヨジュール様はゲーム会を開くことがお好きでいらっしゃいましたわね? それに参加できなかった平民がたくさんいらっしゃるようですが?」

「あ、当たり前だ! ゲームのルールも知らない、乗馬もできない者を誘っても恥をかかせるだけじゃないかっ!」

 ヨジュール様が興奮して話します。

「コホン!」

 公爵様がヨジュール様を牽制なさいました。怒鳴り散らすなど、紳士らしくありませんものね。ヨジュール様は肩を小さくなさります。

「では、そのルールを学ぶための会はお開きになりましたか? 乗馬でしたらできる平民もいらっしゃいますよ?」

「ど、どうして? どうしてルールを教えなければならないのですか?」

 ヨジュール様は本当にわからないというお顔です。

「もちろん、平民を受け入れる努力ですわ。それもせずにゲーム会を幾度も開催なさいましたのね。やってみたかった平民はきっといらっしゃいましたわよ」 

 ヨジュール様はわたくしへのご自分のお言葉に重なるものを感じたのでしょう。首を左右にフルフルと振って、何かを否定しようとなさっています。通じませんけど。

「平民をお誘いにならなかったヨジュール様は、王族の判決により、女子なら修道院でしたら、男子なら辺境流刑ですわね」

 公爵様がウンウンと頷いてらっしゃるのを見たヨジュール様は膝を折られてました。

「『私物を破る』と、なんでございましたか?」

 わたくしは再び速記者に聞きました。

「身分剥奪で市井落ちが、王族の判決です」

 ザハルト様は、すでに顔を青くしておりますが、逃げられないことをわかっているのかできないのか?
 わたくしが一人の女子生徒を前に導きました。

「ザハルト様。この子を覚えていらっしゃいますか?」

「は? い、いや……」

 ザハルト様はわたくしに何か言われるとわかっていて声は震えております。
 それにしても、この子を覚えていないことにため息が出ますわね。

 私が頷き、その子は話し始めました。

「私は兄からのプレゼントの羽根ペンをザハルト様に踏まれて折られてしまいました……」

 その子は悲しげに眦を下げ、ジッとザハルト様を見つめました。
 ザハルト様はどうやら思い出されたようですね。顔は白く唇は紫色になっております。

「私は身内の中から初めて学園に合格できたのです。それを祝って兄が入学祝いにくださった羽根ペンでした。
 お踏みになったザハルト様は『悪い悪い、買って返すよ』とおっしゃっておりました。しかし、それがされることはありませんでした。
…………今までお忘れになっていたみたいですね……」

 その子は目を伏せました。会場からは鼻を啜り、泣きそうになる声も聞こえます。

「で、でもっ! それを見ていたバーバラ様が、翌日に新しいものをプレゼントしてくださったのですっ! インク瓶もたくさんつけてくださいましたっ!」

 ワッと拍手が鳴ります。少し照れますね。

 その事件は大講堂での共通授業で起こりました。ザハルト様がちょうどわたくしの前に座っていた女子生徒の羽根ペンを踏んで折ってしまったのです。ザハルト様の軽口の謝罪も弁償の約束をしていたことも、わたくしはしっかりと聞いておりました。翌日に『一応』のつもりで羽ペンを用意したのですが、ザハルト様が弁償する様子がなかったので、わたくしがその子にプレゼントしたのです。

「私、バーバラ様のお陰で頑張れて……。
私、私っ! メイド試験も受かったのです。平民の私が貴族様の家にメイドで就職できました!
バーバラ様のおかげてすっ!」

 わたくしは彼女に拍手を贈りました。会場からも拍手が聞こえます。
 メイド科も平民が半数ほどです。あと半数は子爵家男爵家のご令嬢ですね。高位貴族だと、メイドは子爵家男爵家の方が多いのです。
 
「あらら? ザハルト様は市井落ちですのね。お気の毒に」

 ザハルト様が父親の宰相様に助けの視線を送りますが、宰相様は先程から腕を組み目を瞑っておられます。ザハルト様は口を開けて立ちすくんでおられます。

「お、お前は国外追放だぞ! ザハルトたちは、後で助けてやる!」

 アトラリウム殿下が震えた声ながら、わたくしに言い募ります。
 あら? 王族が、判決をコロコロと変えるつもりのようですわ。
 ご自分の罪には気がついていらっしゃらないようですわ。

「アトラリアム殿下。覚えておられませんの? 年の暮れですわね。アトラリアム殿下が階段をかけて降りていらして、学園長様にぶつかりましたわ。その時、学園長様が2段ほど階段を落ちましたよね? 学園長様は腰をぶつけられ、しばらくは足を引いて歩いてらっしゃいました。大変痛々しい様子であったことは、みんなが見ておりますわよ」

 アトラリウム殿下は顎を出されて唖然としております。そして、震えた声のまま言い訳をなさいました。

「そ、そんなもの! わ、わざとではないっ! あの時は、ルルが泣いていると聞いたからっ! そ、それにたったの2段であろうが!」

「先程の王族の判決には、故意かどうかと段数については明言されておりません」

 速記者がすぐに返答します。わたくしはその即答に一礼いたしました。

「つまり、アトラリアム殿下は学園長様を階段から突き落としたので殺人未遂罪。
まあ!殿下ですのに、国外追放ですわねぇ」

 わたくしは最後ですので、小首を傾げて可愛らしく見せてみました。どう聞いてもわたくしの友人だろうと思われる女子生徒から、『おいおい』とツッコミが入りましたが、無視いたしましたわっ!

「ふ、ふざけたことを申すな!」

 アトラリアム殿下が怒鳴りました。そのタイミングで、公爵様が入ってこられたドアが再び開きました。

「ふざけたことを申しておるのはお前だ。アトラリアム」

 静かですが重さのある声に、全員が頭を下げました。宰相様たちは立ち上がって頭を下げております。
 それは国王陛下でありました。

「よい。面を上げよ。お前たちも座れ」

 国王陛下の一言で、前の体制に戻りました。わたくしの隣に国王陛下が立っている以外は、です。

「判決というのは前例や再犯の可能性を考えて決めるのだ。感情でコロコロ変えて良い訳があるまい?
さらに、成人した王族が判決を出したなら、普通なら変えられぬのは当たり前だ」

 といいところで、女性の喚く声が響きました。

「離しなさいよっ!」

 国王陛下の登場の混乱で逃げようとしたルルさんが、衛兵に捕まって後ろ手に押さえつけられております。それに抵抗するように後ろを睨みながらヨロヨロと歩いてきました。そして、国王陛下の前に座らされました。

 国王陛下はそんなものは目に入らぬと、わたくしををご覧になります。

「バーバラ。いろいろとすまぬな……」

「陛下、とんでもございませんわ」

 わたくしは恭しく頭を下げました。

「ち、父上! 私の出した判決が覆らないのなら、バーバラは国外追放です! そんな者の話に耳を傾けたことがそもそも間違いだったんです!」

 アトラリアム殿下の後ろの衛兵が剣を持ちました。わたくしはヒヤヒヤしてしまいます。

「チッ! 外では陛下と呼ぶようにと教育されておるはずなのにのぉ」

 国王陛下がアトラリウム殿下を憎々しげにご覧になります。騎士団団長様とは違う気質の迫力です。隣にいるわたくしは、わたくしへの視線ではないのに震えました。

「バーバラ。お前自身の話をまだしておらんのか?」

 片眉をあげてわたくしをご覧になります。先程のアトラリウム殿下への視線と異なり、わたくしには親愛を込めてくださっているのを感じます。お顔は厳ついのは変わりません。

「すみません。順番間違えましたか?」

 わたくしが困り顔を陛下に向けますと、陛下は口角を上げて、楽しそうなお顔で小さくため息を漏らしました。

「はぁ。ほら、はやくしろ」

 国王陛下は呆れてはいますが、認めてくれるような発言をしてくださいました。

「はいっ!
えっと、わたくしはルルさんをイジメてなどしておりません。
まずは……」

 速記者の顔を見ます。

「5月頃、昼休みに毎日です」

「4月5月は、わたくしは特別授業のため、教師棟で勉強していたのです。昼食も、担当の先生といただいておりました。特別講師の先生なので、今はこちらにはいらっしゃいませんが、学園長様が証人です。
教師棟なので他の先生方も証人ですわ。ルルさんをイジメに行く暇なんてありませんわね」

 ルルさんが震えております。それを無視して次のお話をいたしました。

「お茶会につきましては、わたくし主催のお茶会は自由参加ですのよ。
うふふ。ただし、マナー講師のデリジー先生よりマナーの合格をもらえた方のみなんですの」

 わたくしが壁際に立っているデリジー先生に笑顔で視線を投げます。みなさんがそちらへ注目なさいますと、デリジー先生は大きく頷いてくださいました。

「デリジー先生は淑女の鑑でいらっしゃいますのよ。ですので、デリジー先生から合格をいただくのはとても大変ですの。
特に平民の方はそれまで経験したことがないことですもの。それはそれは難しいことなのですわ」

 会場内の女子生徒たちはウンウンと首を縦に振っている。

「ほ、ほらっ! 平民では参加できなくて当然の会じゃないか……」

 ヨジュール様は腰を抜かしているか、座ったまま抑揚のないか細い声で反論してまいりました。

「平民の方だけでなく、貴族であっても合格の難しいものですよ。
そのため、わたくしたち高位貴族令嬢で、放課後にマナー教室も行っておりますの。そちらはお茶会ではありませんが、そちらは自由参加ですし、そちらには規制はありませんの。ですから、平民の方でも学ぶ意思のある方はお教室によく参加してくださっておりましたのよ」

 会場中から賛同の声をいただおております。嬉しいですわね。

「侯爵家のご令嬢様ですと、一年生でもお茶会に参加してくださる方もいらっしゃいます。平民の方ですと、二年生の二学期にやっとデリジー先生から合格が出たのだと、喜んでお茶会の方に参加してくださった方がいらっしゃるくらいですのよ。うふふ」

 後ろで褒めたり拍手したりする音が小さくしました。その平民の女子生徒が頑張っていたのは、女子生徒のみんなが知っています。
 男兄弟で育ったというその子は、言葉使いからのレッスンだったので本当に大変でした。でも、2年生になってもマナー学を専攻され、とても努力なさっておりましたわ。そして、晴れて、わたくしのお茶会への参加となったのです。その子もメイド科ですのよ。メイドとしての働き口が決まったそうですわ。

 わたくしのお茶会は、それほど、平民にとってもよい目標であり勉強の場となっていたのです。だって、主人がお茶会を開くときに、どういうものかを知っておくことは必要でございましょう? ふふふ。

「ですので、『ルルさんだけお誘いしない』ということはありません。さらに、平民の方でも参加していただけるようサポートもいたしましたわ」

 ヨジュール様はもう反論するつもりは無いようで、ノアギル様の隣でぺたんと座りこんで、床をジッと見ておられます。
 ノアギル様とヨジュール様のあられもないお姿に失笑も出始めました。

「10月の一週間目に盗まれて、二週目には焼却炉で見つかった教科書です」

 速記者が次の指針をしてくださいます。

「わたくし、実は所用で10月は隣国へ行っておりましたの。なので、わたくしが教科書を破るなどできるわけがありません」

 ザハルト様は一歩退きました。

「それに、ザハルト様が折った羽根ペンは個人の持ち物、所謂私物です。
しかし、教科書は平民の方ならいくらでも無料配布ですわよ? それを『お母様が買ってくださった』とは、どういうことでしょうか?
税金で用意されたものですので、平民の皆様は大切に使ってくださっておりますが、私物とは申しませんわねぇ?」

「む、無料??」

 ザハルト様が驚いておられます。

「ええ、平民の皆様にとってはこの学園の入学は大変狭き門なのですよ。騎士科は体力テストなどがありますし、メイド科や文官科は筆記テストがありますのよ。
テストがなく入れるのは貴族だけの特権ですの。ご存知ありませんでしたの?
ここにいらっしゃる皆さんは、その狭き門を潜った有望なみなさんです。お金がないからと埋もれさせるわけには参りません。ですから、平民のみなさんは、基本的にはすべて無料ですの」

 誰からも反論は起きません。本当のことですもの。ザハルト様がこのようなことも知らないことがびっくりですわ。

「さらには、普段から、お掃除や施設管理、道具管理などのお仕事をすれば、お給与も出ますよ。平民のみなさんは、そのお金で筆記用具などをご用意なさっているのですよ」

 多くの方がウンウンと頷いております。
 平民で16歳から18歳くらいとなると、働き盛りの年頃です。その者を学園にやるのですから家庭も大変でしょう。それを補うために、学園内でできるお仕事も用意されております。もちろん、裕福な平民の方は学園のお仕事などはされません。

 ちなみに、貴族は爵位によって授業料が変わります。わたくしは公爵家なので……かなりお高いと予想できますわね

「ザハルト様。無料の教科書が破かれたからなんだというのでしょう? またもらいに事務室へ行けばよいだけですよ?」

 ザハルト様はまたしてもチラリとお父上をご覧になりました。しかし、宰相様はあのまま目を瞑っておられ、ピクリとも動きません。『助け舟はなし』と判断されたザハルト様は叫び声を上げて逃げ出しました。

「うわぁーー!!!」

 アトラリアム殿下の隣にいた衛兵に足をかけられ、逃亡は2秒で終了しました。

「残るは、階段落としでしたわね。
あの時は、廊下の方が騒がしくなったと思ったら、生徒会長様が慌ててわたくしの元へいらっしゃいましたの。そして、『王子殿下が、王子殿下が』とだけおっしゃるのです。アトラリアム殿下に苦言を言えるのはわたくししかいないと、思ってらっしゃるのは、存じあげておりました。またかと思いましたわ」

「なんだとっ!」

 アトラリアム殿下の言葉に、陛下がギロリと睨まれ、アトラリアム殿下は俯かれました。

「とにかく、生徒会長様に連れられて階段までまいりましたの。すると、階下でアトラリアム殿下とルルさんが抱き合っており、まわりにはそちらの皆様がいらっしゃいましたわ。ねぇ?」

 わたくしは舞台の端に立ち、本来パーティーの司会をするはずだった生徒会長様に確認しました。

「はいっ!その通りですっ!
僕の勘違いで、王子殿下が落ちてしまったと思ったので、バーバラ様にどうするべきかを聞きにいきました」

「ですので、わたくしが皆様を見たのは完全に事後ですわね」

 わたくしは説明が終わったと、ホッとしてしまいました。自分ではわからぬうちに緊張していたようでついついホッとしたことを顔に出してしまいました。
 そのせいで、アトラリアム殿下に反撃の間を与えてしまったのです。

 反撃といっても、驚くようなことではなく、ただ、面倒くさいというだけですけど。

「嘘だ嘘だ嘘だ! バーバラはオレの事が好きで嫉妬したんだっ!」

 あまりのことにびっくりしてしまいました。あ、そういえば、最初に婚約破棄がどうのとおっしゃっておりましたわね。

「アトラリアム殿下。わたくしたちの婚約は、1年半以上前に、白紙になっておりますよ。何度もご説明したはずですわよ?」

 アトラリアム殿下はありえないほどお口を開けました。

「おわかりいただけましたね」

 わたくしがにっこりとして〆ようとしますと、アトラリアム殿下の後ろにいた衛兵が動きました。先程ルルさんを捕まえ、ザハルト様を転ばせた者です。
 他の衛兵は軽装警備なのに、その方だけ重装備で、仮面まで付けていました。

「一番大事なことを言ってないぞ!」

 仮面なのでゴモゴモとよく聞こえません。近くにいかにも側近と思われる方がいらして、その重装備仮面を取りました。

 やはり、ロッキルム王太子殿下でした。

 それを見た陛下が大笑いを始めました。宰相様が立ち上がりました。

「こちらは隣国のロッキルム王太子殿下です。みなさん、礼を」

 宰相の言葉でみなが頭を下げました。

「面を上げてください」

 ロッキルム王太子殿下にそう言われて、みなも頭を上げましたが、陛下はまだ笑っておりました。それを軽く睨むと、泣きそうな顔をわたくしに向けました。

「バーバラ。君のエスコートに間に合わなくてごめんね。でも、びっくりさせようと思ったら、こんなことになっていて……。僕がびっくりだよ」

「わざわざ来てくださってありがとうございます」

 わたくしはカーテシーで挨拶しました。

「私から説明します」

 宰相様は先程の続きでお話を変わってくれるようです。

「バーバラ嬢とアトラリアム殿下とのご婚約は、アトラリアム殿下の不誠実な行為、つまり浮気により、去年の夏休み直後に白紙になりました」

 1年生の夏休み、ルルさんは2週間に渡り王宮のアトラリアム殿下のお部屋にお泊りになったそうですの。外交大臣であるわたくしのお父様も噂を聞きつけて、ご覧になりに行ったそうですわ。
 我が国は一夫一妻制です。いくら王家でも、浮気することが確定の男に嫁がせるほど、我が家は困っておりません。

 王家の場合、王妃様が5年たっても懐妊なさらないときは、乳母という名の妾が子を産み、乳母は子供が1歳になると王家領の離宮へ行くのだそうです。さらには、その場合、王様がお一人に固執なさらないために、3人の乳母が用意され、長くとも3年で離宮行きになるそうです。そして、子供たちは王妃殿下の子供として育てられるのです。
 わたくしは王妃教育で習いましたの。わたくしがアトラリアム殿下としなくていいなら、それもいいなと思ったことはナイショですわ。

「ついでだが、他の3名も各々の婚約は白紙となっている」

 これには、ザハルト様、ノアギル様、ヨジュール様が反応され、ザハルト様が代表で口を開きました。

「な、なぜですか?」

 父親である宰相様は冷たい視線を向けました。ザハルト様が震えあがります。まさか、婚約者がどこまでもついてきてくれると思ったわけではありませんよね?

「そちらのお嬢さんは、各家を2週間ずつ泊まり歩いたそうだ。それを浮気ではないと言えるのか?」

 アトラリアム殿下を含めた4人がルルさんの顔を見ました。『いやいや、あんたたちには、婚約者がいたでしょうよ、ルルさんを責めるな』と言いたくなりました。……けれども、言えませんわね……。

「お前たち3人は婿養子の婚約だ。浮気をすることが確定している婿など、誰が養子にするのだ。
ご令嬢方はすでにお心を切り替え、よい縁談がきいているそうだ」

 3人のご令嬢方はすでに新たな婚約者を決め仲睦まじいご様子ですわ。自分の婚約者と思っていた者が誰と入場してきたのかも見ていないなど、目が節穴としか思えませんわね。

「とはいえ、王家を含め我々は多額の賠償金を払ったがね。
という説明は各家でしたはずだ。私もお前にしたぞ、ザハルト。お前は喜んでいたじゃないか」

 騎士団団長様の突き刺さる視線と公爵様の優しげなはずの視線が怖いです。かなりの金額の賠償金であったと伺っております。
もちろん、うちも王家からいただいておりますわ。オホホ

 こちらの3人は各家の次男です。なので、婿養子の婚約が成り立っていたのです。まあ、次男なら、彼らがはっちゃけてしまっても、とりあえず各家は大丈夫でしょう。

 去年の夏休みにそんなことがあり、全員が婚約白紙になったので、今年は各家ともガンとしてルルさんのお泊りは拒否したと聞いております。遅いですけど。

「バーバラ嬢とアトラリアム殿下との婚約白紙から1年以上たつので、この1月に隣国のロッキルム王太子殿下とバーバラ嬢との婚約が成立したのです」

 わたくしはこの浮気発覚&婚約白紙事件&隣国王太子との婚約によって、こちらの重鎮のみなさまと親しくお話することを許されたのです。

 会場中から拍手をいただきました。照れてしまいます。ガチャガチャと言わせながら、ロッキルム様がわたくしの隣へまいりました。

「ですので、心情としましても、ルルさんをイジメるなどありえませんの」

 わたくしは丁寧に説明いたしました。

「そ、それは……出会いから短すぎるだろう! バーバラも浮気をしていたということではないのかっ!」

 一瞬の間にアトラリアム殿下の首筋に剣が向けられておりました。衛兵は動けておりません。国王陛下はまた笑い始めました。

「ひっ!!」

 アトラリアム殿下は腰を抜かしました。剣を抜いたのはロッキルム様です。重い甲冑なのにすごいです。さらに寸止めとは。

「我が妻を侮辱するとはいい度胸だ。いつでも受けて立つ!」

「ロッキルム様……」

 わたくしがお名前を呼びますと、態度を変えてこちらに来られます。それを見たら、『妻ではありません』と言えませんでしたわ。

「やっと名前を言ってくれた!」

 すごいニコニコです。眩しいです。

「我々が出会ったのは、1年以上前の新年パーティーだ。僕が我が国代表としてこちらのパーティーに招待いただいたのだ。その時の通訳がバーバラだったんだよ。
短くて当たり前だよ! 一目惚れなんだからねっ! だって、僕は彼女に一瞬で恋に落ちたんだから」

 ロッキルム様はそういうと、わたくしの手を取り口づけをなさいました。きゃあとあちらこちらで声が聞こえて恥ずかしいです。

「春の特別講師は我が国のマナー講師だ。バーバラは優秀だったので、2ヶ月で終了した。
秋の所用で隣国とは、我が国で私の父と母に挨拶に来てくれたんだ」

 ロッキルム様はわたくしを見つめたまま、先程のわたくしの説明を補足してくださいました。

「し、新年パーティーの通訳?」

「ああ、僕が同年代の方をと頼んだのだよ。友人にもなりたかったしね。
王子殿下が通訳かと思いきや……。
アトラリアム王子殿下は語学は苦手だそうだね」

 ロッキルム様はチラリとアトラリウム殿下を見ました。
 ロッキルム様……その笑顔はバカになさっておりますねわよね……。マウント取られてますよ、アトラリウム殿下……。

「それで、バーバラがその役を担っていくれた。それが、私達の運命の出会いになったんだ」
 
 ロッキルム様と目が合いました。ロッキルム様のうっとりとした瞳に、女子生徒がまた黄色い声を上げております。

 そう、同年代で隣国の言葉を話せるのはわたくしだけだったのです。わたくしはお父様が外交大臣ですので、幼き時から語学は学ばされておりますの。

「バーバラ。私のこの国の言葉はどうだい?」

「何をおっしゃいますの。本当はあのパーティーの際も、通訳など必要なかったのでございましょう?」

 わたくしは呆れた顔をいたしました。ロッキルム様は舌をペロっと出し、間接的にそれを認めました。
 ロッキルム様は、あの日、こちらの国の実力を測っていたのでしょう。外交とはそういうものだと、お父様に教えていただきました。

〰️ 

「コホン!」

 陛下の咳払いでみなの姿勢が正されます。

「みなのもの、今日は騒がせて悪かったの。この後、王宮より食事が届く。時間は短くなってしまったが楽しんでほしい。
おいっ! その者たちを王城へ連れてまいれ!」

 アトラリアム殿下、ザハルト様、ノアギル様、ヨジュール様、そして、ルルさんが衛兵にまるで罪人のように連れていかれました。

 生徒会長様の指示で音楽が始まりました。タイミングを見ていたかのように、豪華な食事が運ばれてきました。これだけあれば少しくらい時間が押しても、みなさんの空腹は免れそうですわね。

 壁際には、ガチャガチャといわせて甲冑を脱いでいるロッキルム様がいました。
 側近の力を借りて脱ぎ終わると、走っていないはずなのにものすごい速さでこちらに参ります。

「我が奥様、一曲踊ってください」

 甲冑を脱いだロッキルム様は、わたくしに恭しく頭を下げてダンスにお誘いくださいました。それはそれはステキな紳士の様相で、思わず頬が熱くなります。

「まだ、奥様ではありませんわ」

 わたくしは、照れ隠しに冷たく言ってしまいました。うふふ、当然、ロッキルム様の手は取りましたわよ。

 わたくしは来週には隣国へ行き、1年後に婚姻です。

〰️ 〰️ 〰️

 あの日、宰相様は陛下の代理として卒業式で祝辞を述べてくださったので、式の後は学園長室にいらっしゃいました。わたくしは友人に学園長様と宰相様を呼んで来ていただくようとお願いしたのです。
 さすがに宰相様です。即座に、公爵様さらには、国王陛下までお呼びしてくださったのです。
 みなさまはあのメンバーの卒業式なので、警戒態勢で出陣準備万端だったそうです。なるほど、お揃いが早いわけですわ。
 騎士団団長様は初めからパーティー会場へ潜伏ですもの。余程彼らを信頼していなかったのでしょう。
 ある意味、彼らは期待に答えたということになりますわね。

 4人はルルさんに騙されたのだと主張したそうです。『だから、なんだ?』と扱われたそうですわ。ルルさんの浮気とご自身の浮気に違いがあると勘違いなさっているのかしら?本当に不思議ですわ。

 元々婚約が白紙にされた時点で、誰も彼らには期待をしておりません。だからこそ説明はほどほどにされてしまい、自分の婚約白紙もあまり理解せずにいたのかもしれませんわね。

 王家については、アトラリアム殿下が王位継承権を失いました。隣国留学している第2王子が、来年お戻りなりましたら王太子になるそうです。第2王子の婚約者様は以前からのお友達ですの。これまでは第2王子の婚約者として、わたくしの半分ほどの王族勉強でしたのに、急に増えてしまい大変そうです。『王妃勉強辛いわ』と嘆いておりました。
 でも、彼女ならきっと大丈夫です。この国の王太子妃が彼女になるのですもの。わたくしとしても、隣国同士としても、仲良くできそうで嬉しいですわ。


 4人は各父親より鞭打ち5回の後、西の辺境伯軍に10年勤めることになりました。まあ、恥をかかされましたものねぇ。団長様のお家は、奥様まで参加なされお二人が5回ずつなさったと聞いておりますわ。さすがですわね。

 そして、裁判官制度の充実を図ることで、アトラリアム殿下いえ、アトラリアム様たちの減刑をしたようです。これからはいくら王族といえど、法学を学んでいない者は刑を決めることはできなくなったそうですわ。

 ルルさんは国家乗っ取り転覆罪で国外追放。それも、北の国境で置き去りにされたそうです。
 わたくしが隣国の次期王妃になることになりそうですものね。意図しなかったとはいえ隣国の次期王妃の名誉を毀損し、冤罪を着せ、侮辱したとなると、外交としても厳しくしておく必要がありますね。

 クワバラクワバラ。


〰️ 

 というのも、すでにわたくしには隣国のお話ですわね。
 
 ロッキルム様の甘々攻撃を躱しながら、王太子妃の勉強を頑張っております。
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