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50 新男爵「見た目は大事」
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三人が旅をしている頃王都でも変化があった。
ラオルドが王都から出た後、エーティルはラオルドのためにムーガが立てた作戦でラオルドが王位継承権を放棄することになったことは伏せたうえで、ラオルドが現公爵ノンバルダから受けていたプレッシャーについて王妃陛下に打ち明けた。キリアをはじめとした側妃の息子の三人の王子が狙われ万が一にも亡くなるということになれば、どんなに中央から離れていてもラオルドを呼び寄せられるとノンバルダが考えるかもしれないと思ったからだ。さらにラオルドが心配していたように王妃陛下の実家を窮地に立たせるわけにはいかないとも考えた。その結果、王妃陛下に直々に相談するべきだと判断したのだった。
王妃陛下はエーティルからノンバルダの裏の顔を知らされた時真っ青な顔でソファに沈み込んだ。エーティルを退室させた後に王妃陛下がどれほど悩み苦しんでいたのかを知る者はいない。
ノンバルダがそれからすぐに病で亡くなったのは故意か偶然か。
エーティルは王妃陛下に確認はしなかった。
そして、王妃陛下もそれに関しては誰にも何も言わなかった。ムーガの後を継いだただ一人を除いては……。
『もっと早くに王妃陛下にご相談申し上げていたらラオルド殿下が王太子になられたのかしら?
駄目ね……。ラオルド殿下が王宮にいらっしゃる間に公爵が亡くなっていたら、お優しいラオルド殿下は責任を感じて何もできなくなってしまうわ。
ここにラオルド殿下がいらっしゃらない状況でお亡くなりになったからこそご病気だと信じてくださるのよ。きっとそれもご自分に無理矢理言い聞かせるのよね。
とはいえ、わたくしは公爵の死の真相は存じませんが』
エーティルは遠い空を見つめた。
まだ婚姻をしていなかったノンバルダに代わり新たに公爵となった公爵家の次男は十九歳。大変穏やかで勤勉で公爵領を栄えさせることで国を支え続けた。公爵位を受け継いだことで良い縁談も来ているらしい。キリアとも良い関係を築けており精神的にもキリアを支えていった。
その次男はラオルドと王妃陛下それから王妃陛下の弟先々代公爵と同じ銀髪であった。
『銀……。あの子が必死に自慢していたものだわ……』
ノンバルダが亡くなったとの報告の後、王妃陛下は弟である故先々代公爵の幼き頃を思い出していた。
『そんなものに拘ってそれを息子に押し付けるなど……』
王妃陛下は誰にも汲み取られないため息を零した。
〰️ 〰️ 〰️
三ヶ月の旅を終え辿り着いた男爵邸はあの隠れ家を大きくしたような落ち着いた雰囲気の建物だった。
男爵邸は木造二階建てだが一階がとても広い作りになっており真新しいとは言えないが手入れは行き届いている。
三人が馬から降りる頃使用人たちが慌てて出てきた。厩舎係と思われる中年男性と少年、メイドが三人、そして執事。男爵家にしては多い使用人であろう。
「先触れを出すより来てしまう方が早かったのでな。手数をかけるがゆっくりでかまわん」
「かしこまりました。今湯の支度をさせます」
王宮から付いてきたもの好きな壮年執事ビジールはテキパキと指示を出す。
「なるほど。彼がいることを踏まえた旅でしたか」
馬の口を厩舎係に預けたムーガがビジールの背中を目線で追ってからラオルドを見た。
『全く……。執務に隙のないお方だ』
「まあな。急変革は領民にも負担をかける。まずはビジールに『男爵は領民を安心させる当主である』と流布してもらっていたのだ。
俺のような体格のものがいきなり来ては領民を怖がらせるだけだからな」
「そんなことありませんっ! ラオはとても優しい当主様になりますっ!」
「ヴィエナ、ありがとう。だが見た目の印象とはそういうものなのだ。
そなたもピンク頭でそれを実感しただろう?」
「……そうですね。ピンクさんだった時は良く言えば天真爛漫、悪く言えばおバカさんって見られてました。
天真爛漫だけで生きていけるわけないのに」
メイドに促されて屋敷内へと赴く。
ラオルドが王都から出た後、エーティルはラオルドのためにムーガが立てた作戦でラオルドが王位継承権を放棄することになったことは伏せたうえで、ラオルドが現公爵ノンバルダから受けていたプレッシャーについて王妃陛下に打ち明けた。キリアをはじめとした側妃の息子の三人の王子が狙われ万が一にも亡くなるということになれば、どんなに中央から離れていてもラオルドを呼び寄せられるとノンバルダが考えるかもしれないと思ったからだ。さらにラオルドが心配していたように王妃陛下の実家を窮地に立たせるわけにはいかないとも考えた。その結果、王妃陛下に直々に相談するべきだと判断したのだった。
王妃陛下はエーティルからノンバルダの裏の顔を知らされた時真っ青な顔でソファに沈み込んだ。エーティルを退室させた後に王妃陛下がどれほど悩み苦しんでいたのかを知る者はいない。
ノンバルダがそれからすぐに病で亡くなったのは故意か偶然か。
エーティルは王妃陛下に確認はしなかった。
そして、王妃陛下もそれに関しては誰にも何も言わなかった。ムーガの後を継いだただ一人を除いては……。
『もっと早くに王妃陛下にご相談申し上げていたらラオルド殿下が王太子になられたのかしら?
駄目ね……。ラオルド殿下が王宮にいらっしゃる間に公爵が亡くなっていたら、お優しいラオルド殿下は責任を感じて何もできなくなってしまうわ。
ここにラオルド殿下がいらっしゃらない状況でお亡くなりになったからこそご病気だと信じてくださるのよ。きっとそれもご自分に無理矢理言い聞かせるのよね。
とはいえ、わたくしは公爵の死の真相は存じませんが』
エーティルは遠い空を見つめた。
まだ婚姻をしていなかったノンバルダに代わり新たに公爵となった公爵家の次男は十九歳。大変穏やかで勤勉で公爵領を栄えさせることで国を支え続けた。公爵位を受け継いだことで良い縁談も来ているらしい。キリアとも良い関係を築けており精神的にもキリアを支えていった。
その次男はラオルドと王妃陛下それから王妃陛下の弟先々代公爵と同じ銀髪であった。
『銀……。あの子が必死に自慢していたものだわ……』
ノンバルダが亡くなったとの報告の後、王妃陛下は弟である故先々代公爵の幼き頃を思い出していた。
『そんなものに拘ってそれを息子に押し付けるなど……』
王妃陛下は誰にも汲み取られないため息を零した。
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三ヶ月の旅を終え辿り着いた男爵邸はあの隠れ家を大きくしたような落ち着いた雰囲気の建物だった。
男爵邸は木造二階建てだが一階がとても広い作りになっており真新しいとは言えないが手入れは行き届いている。
三人が馬から降りる頃使用人たちが慌てて出てきた。厩舎係と思われる中年男性と少年、メイドが三人、そして執事。男爵家にしては多い使用人であろう。
「先触れを出すより来てしまう方が早かったのでな。手数をかけるがゆっくりでかまわん」
「かしこまりました。今湯の支度をさせます」
王宮から付いてきたもの好きな壮年執事ビジールはテキパキと指示を出す。
「なるほど。彼がいることを踏まえた旅でしたか」
馬の口を厩舎係に預けたムーガがビジールの背中を目線で追ってからラオルドを見た。
『全く……。執務に隙のないお方だ』
「まあな。急変革は領民にも負担をかける。まずはビジールに『男爵は領民を安心させる当主である』と流布してもらっていたのだ。
俺のような体格のものがいきなり来ては領民を怖がらせるだけだからな」
「そんなことありませんっ! ラオはとても優しい当主様になりますっ!」
「ヴィエナ、ありがとう。だが見た目の印象とはそういうものなのだ。
そなたもピンク頭でそれを実感しただろう?」
「……そうですね。ピンクさんだった時は良く言えば天真爛漫、悪く言えばおバカさんって見られてました。
天真爛漫だけで生きていけるわけないのに」
メイドに促されて屋敷内へと赴く。
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