1 / 19
1
しおりを挟む
綺羅びやかな衣装を纏った若者たちが今か今かとパーティーが始まるのを待っていた。
ここはボンディッド王国の王都にある貴族学園の大広間。午前中に卒業式を終え、昼過ぎからは卒業パーティーが始まるのだ。
パーティーには卒業生だけでなく在校生も参加するため人数の関係で、保護者の参加は侯爵家公爵家に限られている。なぜ侯爵家公爵家は許されるのかというと、まあ、寄付金、つまりは金だ。男爵家でも寄付金が多ければ保護者も参加できるが、そのようなことはこれまで一度もない。
学園なのでエスコートなどは必要なく、準備のできた者から集まり始め、雑談や食事を楽しみながら待っている。
ダンダンダン
ドタドタドタ
壇上で靴音がした。教師たちが入場しやっとパーティーが始まるのだとそれぞれにしていたことを止めて壇上に向いた一同。
壇上にいる者たちを見て唖然とする。
そこには開会の言葉を述べるべき学園長ではなく、一際美男子揃いの男子生徒四人と可愛らしい容姿の女子生徒だった。
「マリリアンヌ・シュケーナ! 前へ来いっ!」
金髪碧眼の美男子が会場に向けて叫ぶ。
「ここにおります」
呼ばれた女子生徒は呼ばれることがわかっていたかのように最前列の真ん中近くにいた。
美しい新緑の髪を緩やかに波打たせ、たんぽぽの瞳を真っ直ぐに壇上へ向けている。
壇上に誰もが注目している状況なので、令嬢のか弱き声でも会場のほとんどの者に聞こえた。
「フンッ! 図々しくもこのパーティーに来ていたかっ!」
鼻で嘲るように曰うと後ろにいた美男子たちまでも意地悪そうに笑った。
マリリアンヌはそんな者たちの様子に動揺することなく涼し気な様子で立っている。
「ノイタール殿下が必ず来いと仰ったではありませんか?」
マリリアンヌは顎に扇を当てて小首を傾げた。髪がフワリと動き、まるで森の妖精のようだ。
殿下と呼ばれているだけあって、ノイタールはこの国の王子である。
「うっ、うるさいっ! この恥知らずがっ!
貴様の悪行はわかっているっ! 今日この場で婚約破棄を言い渡す!
俺はこのヒリナーシェ・ロンダルと婚姻するっ!」
「ノイタールさまぁ~」
ヒリナーシェと呼ばれた女子生徒が甘ったるい声を出して腕に絡みついた。亜麻色の髪と水色の瞳の少女が男爵令嬢であることはこの学園の生徒なら誰でも知っている。
「わか……」
「承知いたしましたっ!」
マリリアンヌが返事をしようとすると後方からの渋めの美声が被る。
その声の方からマリリアンヌまでの道が開き、美オヤジが歩いてくる。
「っ! シュケーナ公爵!」
「お父様……」
ノイタールは隠すつもりもなく眉間にシワを寄せている。
美オヤジシュケーナ公爵は爽やかな顔でマリリアンヌの肩に手を置いてにっこりと笑った。
「お父様。もっとお顔を引き締めてくださいませ」
マリリアンヌの小さな小さな声はシュケーナ公爵にしか聞こえない。
「どう? 僕、かっこいい?」
「まだです」
「そっかぁ。ならマリちゃんにかっこいいパパだって見せちゃおう」
マリリアンヌはため息を扇の奥で飲み込んだ。
「ノイタール殿下。婚約破棄、シュケーナ公爵家が承知いたしました。それから、マリリアンヌがしたという悪行の数々も全て認めましょう」
「「「「えっ!!」」」」
舞台上の面々だけでなく会場中が驚いた。
「全て認めますので、それはそちらの男爵令嬢殿への慰謝料です」
執事服を着た男が舞台下から大きなバッグを舞台に置いた。
「残りは馬車に積んであります。ご令嬢の男爵家九年分の収益相当の金額となります。
護衛もつけて男爵家へ運びますのでご安心くださいね、お嬢さん。
娘が失礼しました」
シュケーナ公爵は胸に手を当て頭を下げる。とても優美でキラキラとエフェクトが見えてしまうほどだ。
しかし、そのキラキラも周りにいる他人だからこそ見える物だ。公爵家ご当主に頭を下げられてヒリナーシェはたじろいだ。
ここはボンディッド王国の王都にある貴族学園の大広間。午前中に卒業式を終え、昼過ぎからは卒業パーティーが始まるのだ。
パーティーには卒業生だけでなく在校生も参加するため人数の関係で、保護者の参加は侯爵家公爵家に限られている。なぜ侯爵家公爵家は許されるのかというと、まあ、寄付金、つまりは金だ。男爵家でも寄付金が多ければ保護者も参加できるが、そのようなことはこれまで一度もない。
学園なのでエスコートなどは必要なく、準備のできた者から集まり始め、雑談や食事を楽しみながら待っている。
ダンダンダン
ドタドタドタ
壇上で靴音がした。教師たちが入場しやっとパーティーが始まるのだとそれぞれにしていたことを止めて壇上に向いた一同。
壇上にいる者たちを見て唖然とする。
そこには開会の言葉を述べるべき学園長ではなく、一際美男子揃いの男子生徒四人と可愛らしい容姿の女子生徒だった。
「マリリアンヌ・シュケーナ! 前へ来いっ!」
金髪碧眼の美男子が会場に向けて叫ぶ。
「ここにおります」
呼ばれた女子生徒は呼ばれることがわかっていたかのように最前列の真ん中近くにいた。
美しい新緑の髪を緩やかに波打たせ、たんぽぽの瞳を真っ直ぐに壇上へ向けている。
壇上に誰もが注目している状況なので、令嬢のか弱き声でも会場のほとんどの者に聞こえた。
「フンッ! 図々しくもこのパーティーに来ていたかっ!」
鼻で嘲るように曰うと後ろにいた美男子たちまでも意地悪そうに笑った。
マリリアンヌはそんな者たちの様子に動揺することなく涼し気な様子で立っている。
「ノイタール殿下が必ず来いと仰ったではありませんか?」
マリリアンヌは顎に扇を当てて小首を傾げた。髪がフワリと動き、まるで森の妖精のようだ。
殿下と呼ばれているだけあって、ノイタールはこの国の王子である。
「うっ、うるさいっ! この恥知らずがっ!
貴様の悪行はわかっているっ! 今日この場で婚約破棄を言い渡す!
俺はこのヒリナーシェ・ロンダルと婚姻するっ!」
「ノイタールさまぁ~」
ヒリナーシェと呼ばれた女子生徒が甘ったるい声を出して腕に絡みついた。亜麻色の髪と水色の瞳の少女が男爵令嬢であることはこの学園の生徒なら誰でも知っている。
「わか……」
「承知いたしましたっ!」
マリリアンヌが返事をしようとすると後方からの渋めの美声が被る。
その声の方からマリリアンヌまでの道が開き、美オヤジが歩いてくる。
「っ! シュケーナ公爵!」
「お父様……」
ノイタールは隠すつもりもなく眉間にシワを寄せている。
美オヤジシュケーナ公爵は爽やかな顔でマリリアンヌの肩に手を置いてにっこりと笑った。
「お父様。もっとお顔を引き締めてくださいませ」
マリリアンヌの小さな小さな声はシュケーナ公爵にしか聞こえない。
「どう? 僕、かっこいい?」
「まだです」
「そっかぁ。ならマリちゃんにかっこいいパパだって見せちゃおう」
マリリアンヌはため息を扇の奥で飲み込んだ。
「ノイタール殿下。婚約破棄、シュケーナ公爵家が承知いたしました。それから、マリリアンヌがしたという悪行の数々も全て認めましょう」
「「「「えっ!!」」」」
舞台上の面々だけでなく会場中が驚いた。
「全て認めますので、それはそちらの男爵令嬢殿への慰謝料です」
執事服を着た男が舞台下から大きなバッグを舞台に置いた。
「残りは馬車に積んであります。ご令嬢の男爵家九年分の収益相当の金額となります。
護衛もつけて男爵家へ運びますのでご安心くださいね、お嬢さん。
娘が失礼しました」
シュケーナ公爵は胸に手を当て頭を下げる。とても優美でキラキラとエフェクトが見えてしまうほどだ。
しかし、そのキラキラも周りにいる他人だからこそ見える物だ。公爵家ご当主に頭を下げられてヒリナーシェはたじろいだ。
91
あなたにおすすめの小説
辺境伯令嬢は婚約破棄されたようです
くまのこ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、王子から婚約破棄された辺境伯令嬢は……
※息抜きに書いてみたものです※
※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています※
アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。
絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間
夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。
卒業パーティーまで、残り時間は24時間!!
果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
幼馴染の勇者パーティーから「無能で役立たず」と言われて追放された女性は特別な能力を持っている世界最強。
佐藤 美奈
ファンタジー
田舎の貧しい村で育った6人の幼馴染は、都会に出て冒険者になってパーティーを組んだ。国王陛下にも多大な功績を認められ、勇者と呼ばれるにふさわしいと称えられた。
華やかな光を浴び、6人の人生は輝かしい未来だけが約束されたに思われた。そんなある日、パーティーメンバーのレベッカという女性だけが、「無能で役立たず」と言われて一方的に不当にクビを宣告されてしまう。恋愛感情は、ほんの少しあったかも。
リーダーのアルスや仲間だと思って信頼していた幼馴染たちに裏切られて、レベッカは怒りや悔しさよりもやり切れない気持ちで、胸が苦しく悲しみの声をあげて泣いた――
婚約破棄追放された公爵令嬢、前世は浪速のおばちゃんやった。 ―やかましい?知らんがな!飴ちゃん配って正義を粉もんにした結果―
ふわふわ
恋愛
公爵令嬢にして聖女――
そう呼ばれていたステラ・ダンクルは、
「聖女の資格に欠ける」という曖昧な理由で婚約破棄、そして追放される。
さらに何者かに階段から突き落とされ、意識を失ったその瞬間――
彼女は思い出してしまった。
前世が、
こてこての浪速のおばちゃんだったことを。
「ステラ?
うちが?
えらいハイカラな名前やな!
クッキーは売っとらんへんで?」
目を覚ました公爵令嬢の中身は、
ずけずけ物言い、歯に衣着せぬマシンガントーク、
懐から飴ちゃんが無限に出てくる“やかましいおばちゃん”。
静かなざまぁ?
上品な復讐?
――そんなもん、性に合いません。
正義を振りかざす教会、
数字と規定で人を裁く偽聖女、
声の大きい「正しさ」に潰される現場。
ステラが選んだのは、
聖女に戻ることでも、正義を叫ぶことでもなく――
腹が減った人に、飯を出すこと。
粉もん焼いて、
飴ちゃん配って、
やかましく笑って。
正義が壊れ、
人がつながり、
気づけば「聖女」も「正義」も要らなくなっていた。
これは、
静かなざまぁができない浪速のおばちゃんが、
正義を粉もんにして焼き上げる物語。
最後に残るのは、
奇跡でも裁きでもなく――
「ほな、食べていき」の一言だけ。
持参金が用意できない貧乏士族令嬢は、幼馴染に婚約解消を申し込み、家族のために冒険者になる。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
セントフェアファクス皇国徒士家、レイ家の長女ラナはどうしても持参金を用意できなかった。だから幼馴染のニコラに自分から婚約破棄を申し出た。しかし自分はともかく妹たちは幸せにしたたい。だから得意の槍術を生かして冒険者として生きていく決断をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる