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「キャビ。そろそろ渡すもの渡して帰ろう」
シュケーナ公爵は涙をハンカチで拭くような仕草をした。
「はい。旦那様」
キャビは舞台下に控えていた執事二号から封書を三枚受け取る。
「こちらをどうぞ」
ティスナーとヨルスレードとエリドに渡された。
「中身をご確認ください」
三人は封を開いた。
「なっ! なんだこれはっ!?」
「き、き、金額が……」
「そ、そもそもなぜ請求書なのですかっ!?」
「旦那様は初めに仰られました。『同じようなことがあったら、みなさんも認めてください』と。そして、皆様はご了承なされた」
三人の手は震えが止まらない。
「冤罪であっても被害者であるシュケーナ公爵閣下が訴えれば、訴えられた者は犯罪者となる、ということです」
「ティスナー君に突き落とされたぁ!
ヨルスレード君に大事な封書を破られたぁ!
エリド君に悪口を言われたぁ!」
「と、我が主は訴えておりますので、その慰謝料の請求書です」
主従のあうんの呼吸である。
「我が主はロンダル男爵家に九年分の収益金額をお支払いになりました。
ですから、皆様のお手元のそれはシュケーナ公爵家の三年分の収益金額です」
舞台下が騒がしくなった。三組の夫婦がどけどけと言いながら前に出てきた。
「シュケーナ公爵閣下! どういうことですか?!」
ティスナーの父親イエット公爵が叫んだ。
「みなさん。私がノイタール殿下に手紙を渡すまで出て来ないと約束したではありませんか?」
シュケーナ公爵はわざとらしいほどの呆れ顔だ。
「だがっ! シュケーナ公爵家の収益三年分の請求書など! 聞いておりませんでしたぞ!」
顔を赤くしたイエット公爵が怒りに任せて叫ぶ。
「それ相当な慰謝料をいただくと、ご説明したはずですが?」
「俺は公爵閣下を突き落としたりしていないっ!」
ティスナーが叫ぶ。
「僕は招待状を破いてなどいない」
ヨルスレードが手で顔を覆い泣く。
「ぼ、僕は何も言っていませんよね?」
エリドは悲しげに笑った。
「馬鹿者ですねっ! なぜ理解できないのですかっ!」
ヨルスレードの父親ボイド公爵が眼鏡を外して睨む。
「シュケーナ公爵閣下は君たちが揃えた『マリリアンヌ嬢の悪行』の証拠などその程度のものだとお示しなさっているのですよ!」
エリドの父親キオタス侯爵はアタフタしていた。
「エリド」
キオタス侯爵夫人がノートと封書を抱えて立ちすくむ息子に声をかける。
「お前のそのノートには、シュケーナ公爵が示したもの以上のことは書かれているのですか?」
エリドはふるふると小刻みに首を横に振る。
「ティスナー! 貴様! 証人ぐらい見つけてあるんだろうなっ!?」
イエット公爵は騎士団所属らしい大きな声で聞いた。
「ヒリナーシェがっ!」
「それは仮被害者だっ! それ以外の証人だよっ!」
ティスナーは俯く。
「ヨルスレード。お前は何か目撃したのかい?」
「ヒリナーシェが泣いておりました……」
「つまり、マリリアンヌ嬢を見てはいないのだな?」
座り込んで立ち上がることもできないヨルスレードがコクリと首肯する。
「そういうことですので……。
あ! ノイタール殿下にもあったのだ」
シュケーナ公爵はキャビから封書を受け取り、ノイタールの元へ行く。手を出そうともしないノイタールの手をグッと引き握らせた。
「殿下。ご安心ください。請求書ではありません。本当に感謝の言葉だけです」
ノイタールは訝しむが渋々封書を開いた。
『ノイタール殿下の愚行に感謝いたします』
本当に感謝の言葉だけだった。
「本来は私がノイタール殿下にこの手紙を渡すまでは三家の皆様は出ていらっしゃらないお約束でしたが………」
シュケーナ公爵は下に立ち竦む人たちを見ると皆狼狽している。シュケーナ公爵は仕方なしと鼻で息を吐いた。
「こうして無事に渡せましたので、それについては不問にいたします」
シュケーナ公爵は舞台上で優美に笑った。
シュケーナ公爵は涙をハンカチで拭くような仕草をした。
「はい。旦那様」
キャビは舞台下に控えていた執事二号から封書を三枚受け取る。
「こちらをどうぞ」
ティスナーとヨルスレードとエリドに渡された。
「中身をご確認ください」
三人は封を開いた。
「なっ! なんだこれはっ!?」
「き、き、金額が……」
「そ、そもそもなぜ請求書なのですかっ!?」
「旦那様は初めに仰られました。『同じようなことがあったら、みなさんも認めてください』と。そして、皆様はご了承なされた」
三人の手は震えが止まらない。
「冤罪であっても被害者であるシュケーナ公爵閣下が訴えれば、訴えられた者は犯罪者となる、ということです」
「ティスナー君に突き落とされたぁ!
ヨルスレード君に大事な封書を破られたぁ!
エリド君に悪口を言われたぁ!」
「と、我が主は訴えておりますので、その慰謝料の請求書です」
主従のあうんの呼吸である。
「我が主はロンダル男爵家に九年分の収益金額をお支払いになりました。
ですから、皆様のお手元のそれはシュケーナ公爵家の三年分の収益金額です」
舞台下が騒がしくなった。三組の夫婦がどけどけと言いながら前に出てきた。
「シュケーナ公爵閣下! どういうことですか?!」
ティスナーの父親イエット公爵が叫んだ。
「みなさん。私がノイタール殿下に手紙を渡すまで出て来ないと約束したではありませんか?」
シュケーナ公爵はわざとらしいほどの呆れ顔だ。
「だがっ! シュケーナ公爵家の収益三年分の請求書など! 聞いておりませんでしたぞ!」
顔を赤くしたイエット公爵が怒りに任せて叫ぶ。
「それ相当な慰謝料をいただくと、ご説明したはずですが?」
「俺は公爵閣下を突き落としたりしていないっ!」
ティスナーが叫ぶ。
「僕は招待状を破いてなどいない」
ヨルスレードが手で顔を覆い泣く。
「ぼ、僕は何も言っていませんよね?」
エリドは悲しげに笑った。
「馬鹿者ですねっ! なぜ理解できないのですかっ!」
ヨルスレードの父親ボイド公爵が眼鏡を外して睨む。
「シュケーナ公爵閣下は君たちが揃えた『マリリアンヌ嬢の悪行』の証拠などその程度のものだとお示しなさっているのですよ!」
エリドの父親キオタス侯爵はアタフタしていた。
「エリド」
キオタス侯爵夫人がノートと封書を抱えて立ちすくむ息子に声をかける。
「お前のそのノートには、シュケーナ公爵が示したもの以上のことは書かれているのですか?」
エリドはふるふると小刻みに首を横に振る。
「ティスナー! 貴様! 証人ぐらい見つけてあるんだろうなっ!?」
イエット公爵は騎士団所属らしい大きな声で聞いた。
「ヒリナーシェがっ!」
「それは仮被害者だっ! それ以外の証人だよっ!」
ティスナーは俯く。
「ヨルスレード。お前は何か目撃したのかい?」
「ヒリナーシェが泣いておりました……」
「つまり、マリリアンヌ嬢を見てはいないのだな?」
座り込んで立ち上がることもできないヨルスレードがコクリと首肯する。
「そういうことですので……。
あ! ノイタール殿下にもあったのだ」
シュケーナ公爵はキャビから封書を受け取り、ノイタールの元へ行く。手を出そうともしないノイタールの手をグッと引き握らせた。
「殿下。ご安心ください。請求書ではありません。本当に感謝の言葉だけです」
ノイタールは訝しむが渋々封書を開いた。
『ノイタール殿下の愚行に感謝いたします』
本当に感謝の言葉だけだった。
「本来は私がノイタール殿下にこの手紙を渡すまでは三家の皆様は出ていらっしゃらないお約束でしたが………」
シュケーナ公爵は下に立ち竦む人たちを見ると皆狼狽している。シュケーナ公爵は仕方なしと鼻で息を吐いた。
「こうして無事に渡せましたので、それについては不問にいたします」
シュケーナ公爵は舞台上で優美に笑った。
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